福田昭のセミコン業界最前線

Intelとソニーは躍進、NVIDIAは激減した半導体企業の明暗。Intelがトップに返り咲く

Samsungは売上高を3分の2に減らして2位に後退

2019年上半期の半導体ベンダー売上高ランキング。半導体市場調査会社のIC Insightsとハイテク市場調査会社IHS Markitの発表データから筆者がまとめたもの

 市場調査会社がまとめた、今年(2019年)上半期(1月~6月期)の半導体ベンダー売上高ランキングがでそろった。半導体市場調査会社のIC Insightsが2019年8月20日に半導体売上高トップ15社を発表したのに続き、ハイテク市場調査会社のIHS Markitが同年9月3日に半導体売上高トップ10社を発表した。

 両社が発表したランキングはともに、首位がIntel、2位がSamsung Electronics(以降はSamsungと表記)である。前年(2018年)の上半期におけるランキングは両社の発表とも首位がSamsung、2位がIntelであり、トップと2位が入れ替わった。

 トップ交代のおもな原因は、Samsungが前年に比べて売上高を大幅に減らしたことにある。IC Insightsの推定ではマイナス33%、IHS Markitの推定ではマイナス33.4%と、Samsungは売上高を前年の3分の2に下げている。Intelの売上高は伸びていない。IC Insightsの推定ではマイナス2%、IHS Markitの推定ではマイナス1.7%である。

 3位以降の顔ぶれはどうなったか。ランキングの3位はSK Hynix、4位はMicron Technology(以降は「Micron」と表記)、5位はBroadcom、6位はQualcommである(半導体ファウンドリのTSMCを除いたもの)。これら3位~6位のベンダーは、両社の発表ともに前年(2018年)上半期の順位と変わっていない。なおTSMCを加えているIC Insightsの売上高ランキングでは、TSMCは2018年上半期に4位だったのが、2019年上半期は3位と順位を1つ上げた。代わりに2018年上半期に3位だったSK Hynixが、2019年上半期は4位へと順位を1つ下げている。

 ランキングの7位(TSMCを除いた順位)は両社ともにTexas Instrumentsである。2018年上半期は、IC Insightsのランキングでは8位(TSMCを除いた順位)、IHS Markitのランキングでは7位だった。

 1位から7位までの売上高を見ていくと、ほとんどのベンダーが前年の上半期に比べて売上高を減らしていることがわかる。半導体メモリのベンダーはとくに厳しく、3割前後のマイナス成長となった。非メモリのベンダーはおおよそ1割以下のマイナスにとどまっている。この違いが、一部で順位の変動を招いた。

非メモリではNVIDIAの成長率がマイナス78ポイントと激減

 主要な半導体ベンダーの成長率を前年上半期と今年上半期で比べると、軒並みプラスからマイナスへと様変わりしていることがわかる。IC Insightsの発表値から、主要な半導体ベンダーの成長率がどのように変化したかを紹介しよう。対象のベンダーは、Intel、Samsung、SK Hynix、Micron、Broadcom、Qualcomm、Texas Instruments、NVIDIAの8社である。

 まず重要なのは、8社すべてが2桁のポイント数で成長率を下げていることだ。もっとも下げ幅が大きいのはメモリ大手のSK Hynixで、成長率を2018年上半期のプラス56%から2019年上半期のマイナス35%へと激減させている。マイナス幅は91ポイントときわめて大きい。次に下げ幅が大きいのは、これもメモリ大手のMicronである。成長率をプラス45%からマイナス34%へと下げた。マイナス幅は79ポイントに達する。

 3番目に下げ幅が大きいのは、メモリ大手の残る1社でマイナス幅が69ポイントのSamsungと言いたいところだが、じつは違う。マイナス幅が78ポイントのNVIDIAである。成長率はプラス53%からマイナス25%へと激減した。NVIDIAはメモリベンダーではなく、グラフィックスプロセッサの最大手ベンダーである。暗号通貨の価格急落によってマイニング向けの需要が減少したことと、機械学習向け市場の競争が強まったことが、おもなマイナス要因だとみられる。

主要な半導体ベンダーにおける売上高成長率の比較。IC Insightsの発表値を筆者がまとめたもの

2018年第4四半期からメモリベンダーの売り上げが急降下

 IHS Markitは、四半期ごとに半導体売上高トップ10社とその売上高を公表してきた。前年の第1四半期から今年の第2四半期まで、売上高の推移を見てみよう。

 大手メモリベンダー3社(Samsung、SK Hynix、Micron)は2018年第3四半期をピークに、同年第4四半期以降は売上高を急速に低下させてきた。ピークの2018年第3四半期と直近の2019年第2四半期で売上高を比較すると、Samsungは38%減、SK Hynixは46%減、Micronは41%減といずれも大幅に低下した。

 一方、非メモリの大手ベンダーの四半期売上高を同じように2018年第3四半期と2019年第2四半期で比較すると、Intelが14%減、Broadcommが0.2%増、Qualcommが24%減、Texas Instrumentsが14%減となった。横ばいからマイナスではあるものの、メモリ大手に比べると傷は浅い。

半導体売上高トップ10社の四半期売上高推移。IHS Markitの発表値を筆者がまとめたもの

ソニーが大手では唯一2桁成長してトップ15社入り

 半導体市場調査会社IC Insightsとハイテク調査会社IHS Markitの分析を、もう少し詳しく見ていこう。

 IC Insightsが8月20日に発表した上半期のランキングによると、上位15社の地域別内訳は、米国が6社(前年上半期は7社)、欧州が3社(同3社)、韓国が2社(同2社)、台湾が2社(同2社)、日本が2社(同1社)である。米国企業が4割を占める。

 成長率(対前年同期比の増加率)では、2桁の成長率を示した企業は1社(前年上半期は11社)だけである。この1社はソニーで、前年上半期の19位から順位を5つ上げて14位にランクインした。成長率は13%で、CMOSイメージセンサーの売り上げ増が成長に寄与したとみられる。ソニーを除く14社の成長率はすべてマイナスである。

 上位15社全体の成長率はマイナス18%で、かなり低い。半導体市場全体の成長率はマイナス14%なので、全体よりも上位15社が悪くなっている。

 なお、仮にファウンドリであるTSMCを除くと、上位15社の15位には中国のHiSilicon Technology(以降はHiSiliconと表記)がランクインする。売上高は約35億ドルで、前年上半期からは25%増と大きく伸ばした。HiSiliconの半導体製品は基本的に親会社の中国Huawei Technologies(以降はHuaweiと表記)向けである。通信機器メーカーであるHuaweiに対する米国政府の輸入規制が強まっているため、今年の下半期にはHiSiloconの成長率は鈍化するとIC Insightsは予測している。

市場調査会社IC Insightsが2019年8月20日に発表した、2019年上半期の半導体ベンダー売上高ランキング。2019年第1四半期と同年第2四半期の売上高を、集積回路(IC)と個別半導体(オプトとセンサー、ディスクリート(O-S-D))に分けて推定している

DRAM市場はマイナス36%、NANDフラッシュ市場はマイナス30%

 続いては、IHS Markitによる分析結果である。同社は9月3日に上半期のランキング上位10社を公表するとともに、半導体市場全体に関する分析結果を発表した。

 この発表によると、2019年上半期の世界半導体市場は前年同期比13.9%減の2,037億4,600万ドルへと落ち込んだ。この落ち込みは、前年同期比26.5%減を記録した2009年上半期以降では、最大のマイナス幅だとする。

 製品分野別では、メモリ製品のマイナスがもっとも大きい。DRAMが前年同期比35.7%減、NANDフラッシュメモリが同29.6%減である。

 非メモリ製品も良くない。マイクロコンポーネント(マイクロプロセッサとマイクロコントローラ)が前年同期比4.2%減、ロジック(ASSPとFPGA、ASIC)が同4.8%減、アナログが同6.1%減、個別半導体(ディスクリート)が同1.9%減、センサーとアクチュエータが同2%減である。光半導体(LEDやイメージセンサーなど)だけはプラスであるものの、成長率は1%に満たない。

 用途別の市場も、すべてマイナス成長である。データプロセッシング向け半導体が前年同期比21.9%減でもっとも悪い。ついで無線通信用半導体が同15.6%減、民生用半導体が同14.7%減と続く。産業用半導体は前年同期比8.6%減、自動車用半導体は同4.4%減、有線通信用半導体は同0.3%減である。

 地域別の市場は、いずれも2桁のマイナスである。米州(北米と南米)が前年同期比20%減ともっとも良くない。そのほかは、アジア太平洋が同14.4%減、日本が同13.3%減、欧州が12.6%減である。

ハイテク調査会社IHS Markitが2019年9月3日に発表した、2019年上半期の半導体ベンダー売上高上位10社ランキング

2018年第4四半期から売上高でIntelが再びトップに

 ここからはIHS Markitの発表データから、IntelとSamsungの四半期ごとの半導体売上高を見ていこう。年間売上高で25年連続のトップを維持してきたIntelが、Samungにトップを譲ったのは2017年のことだ。四半期ごとの売上高では、2017年第3四半期と同年第4四半期でSamsungがIntelを上回った。同年第1四半期まではIntelがSamsungを上回っており、同年第2四半期はほぼ同じ売上高となっていた。

SamsungとIntelの四半期ごとの半導体売上高推移。IHS Markitが発表したデータをもとに筆者がまとめた

 その後、2018年第1四半期から同年第3四半期までは、SamsungがトップのままでIntelとの差を着実なものにしていく。ところが同年第4四半期になるとSamsungの売上高が急激に低下し、Intelが再びトップに就く。第1四半期から第3四半期までのリードがあったので、Samsungは2018年も年間売上高ではトップを維持した。

 2019年第1四半期と同年第2四半期は、逆にIntelがトップを維持しつつ、Samsungとの差を着実なものにしている。2019年の年間売上高でIntelがトップになるとの予測(2019年の半導体ランキング、Intelが3年ぶりに首位を奪還へ参照)は、現在も揺らいでいない。