福田昭のセミコン業界最前線

「高転び」しつつある半導体市場

世界半導体販売額(月次、過去3カ月の移動平均)の前月比と前年同月比の推移(2017年11月~2019年1月)。WSTSの発表値を筆者がまとめたもの

昨年(2018年)の秋から市場が急激に縮小

 半導体市場の成長が「高転び」しつつある。2010年以来の20%成長超えとなった一昨年(2017年)の極めて高い成長に続き、昨年(2018年)も勢いこそ弱まったものの、15%前後の高成長が続くとみなされていた。昨年の初秋までは、半導体業界ではこのように考えられていた。

 しかし2018年の晩秋以降、半導体市場の成長は停滞し、縮小へと進みつつある。具体的に見てみよう。半導体業界では市場規模の実績と予測については、半導体メーカーの業界団体であるWSTS(世界市場統計)が算出した数字を使うことが定番となっている。このWSTSは毎月、半導体の販売金額を過去3カ月の移動平均値として発表してきた。

 WSTSが発表してきた毎月の販売額は、直近では昨年10月にピークを迎えた後、前月比ではマイナスを続けてきた。最新の統計値は2019年1月のものだが、昨年11月以降は3カ月連続で前月比がマイナスとなっている。それもかなり急激なマイナスだ。同年11月は前月比1.1%減とまだ緩やかだったが、同年12月は同7.0%減と急坂を転げ落ちるように減少した。そして2019年1月は同7.2%減と、落ち込みがさらにひどくなっている。

 この結果、前年同月との比較でも成長率は急速に低下した。昨年10月には前年同月比12.7%増だったのが、今年(2019年)1月には同5.7%減とマイナス成長に反転した。

世界半導体販売額(月次、過去3カ月の移動平均)と前年同月比の推移。出典:WSTSおよびSIA(米国半導体工業会)

昨年秋の予測に対して実績が軒並みマイナスに

 WSTS(世界市場統計)は毎年春と秋に、半導体市場の予測値を発表している。昨年秋の予測は11月27日に発表された。秋の予測では、発表年の値は例年、実績とあまり違わない。なぜならば、秋の予測とは1月~9月までの実績を踏まえ、10月~12月の3カ月を予測したものだからだ。答えの4分の3は出ており、残りの4分の1についても、WSTSの会員企業である大手半導体メーカーは、感触を掴んでいる。予測というよりも、「見込み」に近い。

 しかし昨年は、秋の予測と実績に、かなりの開きが生じた。それもマイナスの方向にずれた。10月~12月の実績が、当初の見込みを超えて悪化したからだ。

 世界半導体市場の成長率だと、秋の予測(2018年11月27日時点)では15.9%の成長率を見込んでいた。しかし実績(2019年2月4日の発表値)は、13.7%成長にとどまった。2.2ポイントのマイナスである。また半導体業界を代表する市場調査会社であるGartnerが2018年10月20日に発表した予測では、2018年の成長率は14.4%だった。しかし2019年1月7日に同社が発表した実績速報は、13.4%成長となっていた。1.0ポイントのマイナスである。予測と実績の間に、1ポイントから2ポイント程度のずれが生じたことになる。

2018年の世界半導体市場の成長率予測と実績。日付は発表日。GartnerとIC Insightsは市場調査会社

地域別では米国、製品別ではメモリが予想を超えて悪化

 WSTSは2018年の半導体市場について、地域別と製品分野別の実績を2019年2月20日に発表した。これらの実績を2018年秋の予測と比較すると、ほとんどの項目で実績は予測に対してマイナス方向にずれた。

 地域別とは、米国、欧州、日本、アジア太平洋の4つの地域である。すべての地域で成長率は2018年秋の予測値よりも2019年2月発表の実績値が低くなった。とくに米国地域のずれが大きい。予測値が19.6%成長であったのに対し、実績値は16.4%成長となった。3.2ポイントのマイナスである。次いでアジア太平洋地域のずれが大きかった。予測値が16.0%成長であったのに対し、実績値は13.7%成長となった。2.3ポイントのマイナスである。

 製品分野別では主力の集積回路だと、アナログ(アナログとミックスドシグナル)、マイクロ(マイクロプロセッサとマイクロコントローラ)、ロジック(ASICと特定用途向けロジック)、メモリ(DRAMやNANDフラッシュメモリなど)に分かれる。これら4つの製品分野の中では、メモリの実績値が秋の予測値から大幅にずれた。

 2018年秋の予測では、メモリの成長率は33.2%だった。これが2019年2月の発表の実績値だと、成長率は27.4%と大きく下がっていた。5.8ポイントものずれである。そのほかのアナログ、ロジック、マイクロは成長率の予測値と実績値のずれが0ポイント~マイナス1.2%にとどまっている。メモリ市場の急激な減速が目立つ。

WSTSによる2018年の世界半導体市場の成長率予測と実績。地域別と製品分野別の内訳。なおWSTSが2019年2月4日に発表したリリースによると、2018年のDRAM市場は36.4%成長、NANDフラッシュメモリ市場は14.8%成長だった

2019年の半導体市場は5%前後のマイナス成長に

 昨年11月以降の急激な減速を受け、2019年の半導体市場に対する見通しは急速に悪化しつつある。昨年年秋の段階では5%未満の1桁成長を予測していたのが、今年3月の時点では大きく下方修正された。マイナス3%~マイナス7%と、5%前後のマイナス成長を予測するようになっている。しかもこの予測は今後、さらに下方修正される恐れが少なくない。

2019年の世界半導体市場に対する予測値の変化。日付は発表日

 WSTSは2019年2月20日の発表で、2018年の実績を報告するとともに、2019年の市場予測を下方修正した。すなわち2018年秋の予測で発表した地域別および製品分野別の予測値を、2018年の実績と現時点の先行きを踏まえて調整してきた。地域別と製品分野別の予測値はほとんどが、下方修正された。

 地域別の予測では、日本を除く米国、欧州、アジア太平洋の成長率が、プラス成長からマイナス成長へと成長のベクトルが逆転した。とくに米国市場は下方修正の幅が大きい。2018年秋の予測では2019年に1.4%成長となっていたのが、2019年2月の修正予測ではマイナス5.8%成長へと、7.2ポイントもの下方修正が加わった。アジア太平洋市場も下方修正の幅がかなり大きい。3.1%成長を予測していたのが、マイナス3.0%成長へと下方修正された。

 なお欧州市場は1.9%成長からマイナス0.3%成長への修正、日本市場は2.5%成長から1.5%成長への修正だった。

 製品分野別の予測では、アナログ、マイクロ、ロジック、メモリの中でメモリの予測値だけが大幅に下方修正された。2018年秋の予測では、メモリの成長率はマイナス0.3%と微減にとどまっていた。それが2019年2月の予測では、マイナス14.2%と下方修正された。13.9ポイントもの大きな修正である。

 なおアナログは3.8%成長から3.9%成長へとわずかに上方修正された。マイクロは3.0%成長から1.9%成長への修正、ロジックは3.8%成長から2.6%成長への修正である。メモリを除いた集積回路の製品市場は、わずかながらもプラスの成長を維持すると予測している。

WSTSによる2019年の世界半導体市場成長率の予測値と修正予測値。地域別と製品分野別の内訳を示した
2017年~2019年の半導体市場の推移。WSTSが2019年2月20日に発表したリリースから

2018年冬以降の景気後退はどこで底を打つか

 はじめに述べたように、半導体市場は2018年10月に天井(ピーク)を迎えた後、急な坂道を転げ落ちるように縮小しつつある。とはいうものの、前月比7%減が2カ月続くというのは、異常事態である。前月比で7%という異常な急降下は、それほど長く続くとは思われない。

 仮に7%減が10カ月続くと仮定すると、半導体の市場規模は10カ月目には元の48%に縮小してしまう。この仮定は明らかに異常だ。実際には、前月比の減少幅は緩やかになり、いずれは底(ボトム)を打つだろう。問題は底を打つのがいつになるかだ。

 最も楽観的なシナリオは、2019年の前半(上半期)は厳しい状況が続くが、2019年の後半(下半期)は回復が期待できる、というものである。ただし今回の景気後退にはNANDフラッシュメモリとDRAMの需給緩和だけでなく、米国と中国の貿易摩擦が絡む。すでに中国は、単一の政体としては米国を超え、最大規模の半導体市場となっている。米中貿易摩擦の行方が半導体市場の行方を左右しかねない。状況は複雑だ。