福田昭のセミコン業界最前線

開発が本格化する次世代EUV露光技術、3nm以降の微細化を主導

EUV露光が微細化を10年先まで牽引する

最先端半導体の高密度化トレンドと将来予測。左のグラフはDRAMの記憶密度。2020年代も年率5%~10%の割合で高密度化が続く。右のグラフは半導体ロジックのトランジスタ密度。2020年代も年率10%~28%の割合で高密度化が続く。EUV露光装置メーカーのASMLが2018年11月にアナリスト向け説明会で公表したスライドから

 最先端の半導体ロジックやDRAMなどの微細化と高密度化を牽引する、次世代のEUV(Extreme Ultra-Violet : 極端紫外線)露光技術の開発が本格化つつある。開発が順調に進めば、2020年代後半には最先端の半導体で量産を担うことになる。

 本コラムでご報告したように、EUV露光技術は7nm世代の半導体ロジックから、量産への導入がはじまった(EUV露光による先端ロジックと先端DRAMの量産がついにはじまる参照)。そして将来の5nm世代と3nm世代の半導体ロジックまでは、7nm世代で量産適用された「現行世代」のEUV露光技術を改良することによって、微細化を継続する見通しが立ちつつある(見えてきた7nm以降の量産用EUV露光技術参照)。

 一方、「現行世代」のEUV露光技術では3nm世代の半導体ロジックが、微細化の限界になると見られている。3nm世代から2nm世代、さらにはその先の1.4nm世代は、「次世代」のEUV露光技術が牽引することになる。

最先端半導体の製造を支えるリソグラフィ(露光)技術のトレンドと将来予測。左のグラフは主要な半導体製品とそのリソグラフィ(露光)技術のトレンド。マイクロプロセッサ(グラフ内の「MPU」、以下同じ)とロジック(Foundry)、DRAMは2020年以降も微細化を継続する。これまではArF液浸(ArFi)露光とマルチパターニングの組み合わせ(青色の実線による囲み)によって微細化を進めてきた。今後は、EUV露光(橙色の実線による囲み)が微細化を牽引する。EUV露光でもマルチパターニングを組み合わせる。そして2020年代後半には、次世代のEUV露光(HiNA、黄色の実線による囲み)を導入する。右のグラフはロジックとDRAMの量産における重ね合わせ誤差のトレンド。7nm世代では重ね合わせ誤差が3.5nmだったのを、5nm世代では2.5nm、3nm世代では2.0nmと減らしていく。今後はDRAMよりもロジックのほうが、重ね合わせ誤差に対する要求が厳しくなる。ASMLが2018年11月にアナリスト向け説明会で公表したスライドから
主要な半導体製品におけるスケーリング(記憶容量あるいはトランジスタの高密度化)のロードマップ。ASMLが2018年11月にアナリスト向け説明会で公表したスライドから

次世代EUV露光では開口率を1.67倍に高める

 「現行世代」のEUV露光技術と「次世代」のEUV露光技術では、光学系の開口率(NA)が大きく違う。現行世代のNAは0.33である。これに対して次世代のNAは0.55と高い。このため次世代のEUV露光技術は、「High-NA(高NA)」あるいは「HiNA」などと呼ばれることが多い。

 半導体露光技術における解像度(ハーフピッチ)(R)は、露光の波長(λ)に比例し、光学系のNAに反比例する。NAを高くすると、ハーフピッチが短くなる。すなわち微細化が進む。「High-NA」の0.55という開口数は、現行世代の0.33に比べて1.67倍と高い。言い換えると、ハーフピッチは0.6倍に短くなる。この違いはきわめて大きい。

 この違いがどれほどのものなのか。少し細かく見ていこう。たとえば5nm/3nmの技術ノードに対応する12nmのハーフピッチを解像するためには、現行世代のEUV露光技術だとマルチパターニング(多重露光)技術、具体的にはトリプル露光(LELELE)技術が必要になる。トリプル露光はシングル露光に比べると、スループットが著しく低い。このため、パターンの加工に必要なコストがシングル露光に比べると大きく増大する。

 これに対して次世代の「High-NA」EUV露光技術では、シングル露光でハーフピッチが12nmのパターンを解像できる。両者のスループットには、4倍の開きが生じる。1層のパターン加工に必要な製造コストで比べるとNAが0.55のシングル露光では、NAが0.33のトリプル露光に比べてコストが2.5分の1前後に下がる。

EUV露光とマルチパターニング(多重露光)の組み合わせによる解像度(ハーフピッチ)とスループット(1時間当たりのウェハ処理枚数)の変化。ハーフピッチが12nmのパターンの場合、開口数(NA)を0.55に高めるとシングル露光が適用できるのでスループットが大幅に向上する。ASMLの公表資料から筆者がまとめたもの
開口数(NA)が0.55のEUV露光とNAが0.33のEUV露光におけるハーフピッチとスループットの関係。SEはシングル露光、LE2はダブル露光(LELE : リソグラフィ-エッチング-リソグラフィ-エッチング)、LE3はトリプル露光(LELELE)である。ASMLが2018年11月にアナリスト向け説明会で公表したスライドから
露光技術とマルチパターニング(多重露光)の組み合わせによる、1層のパターン加工に必要な製造コストの違い(相対値)。ArF液浸(ArFi)のトリプル露光(LE3)と、NAが0.33のEUVのシングル露光(LE)がほぼ近い水準にある。EUV露光の基本的なコストが、ArF液浸露光に比べると高いためだ。同じEUVで比較すると、NAが0.33のEUVのダブル露光(LE2)よりも、NAが0.55のEUVのシングル露光(LE)はコストがかなり低くなる。ASMLが2018年11月にアナリスト向け説明会で公表したスライドから

次世代EUV露光装置の試作機は2021年末までに出荷へ

 次世代の「高NA」EUV露光を実現する露光装置(スキャナ)の開発を主導しているのは、唯一のEUV露光装置メーカーでもある、ASMLである。そのASMLによると、NAが0.55のEUV露光装置の最初の試作システムは、2021年末までに出荷を予定する。

 この研究開発用試作システムは、昨年(2018年)第1四半期の段階で3者の顧客から、4台の受注を得ている。顧客の3者には研究開発機関のimecと、最大手シリコンファウンダリのTSMCが含まれると見られる。なおimecはASMLとは次世代EUV露光技術の開発でパートナーの関係にある。imecが、実際のパターニングにおける評価を担う。

 また量産用システムの出荷は、2024年にはじめる計画である。この量産用システムについても、昨年(2018年)第1四半期の段階で8台分の予約が入っている。量産初期の技術ノードは、3nm世代となる見込みだ。

EUV露光装置(EUVスキャナ)の受注状況。ASMLが2018年6月に国際学会「2018 EUVL Workshop」で公表したスライドから

高NA化で光学系が大きく、重くなる

 EUV露光装置でNAを0.33から0.55に高めようとすると、最初に大きく変更しなければならないのは、光学系である。光学系は、光源からマスク(レチクル)にいたるまでの前半部分に相当する「照明光学系」と、マスクで反射したパターンをウェハに転写するまでの後半部分に相当する「投影光学系」に分かれる。

 マスクのパターンは縮小してウェハに投影されるので、マスクのNAは「ウェハのNA/縮小率(4倍)」となり、もともと非常に小さい。このため、照明光学系はそれほど大きくは変更されないとみられる(光源の出力向上による対応は考慮していない)。

 これに対して投影光学系は、非常に大掛かりな変更が必要となる。粗くまとめてしまうと、光学系の寸法が高く、広くなり、反射レンズが巨大になる。もっとも巨大な反射レンズはウェハに対面する対物レンズで、レンズ本体の重量は数100kg、枠組みを含めると総重量は1tに達するとされる。

 なお光学系は従来から、半導体製造用精密光学部品メーカーのCarl Zeiss SMTがEUVスキャナの共同開発パートナーとして開発を担ってきた。NAが0.55の光学系も、同社が開発を担当している。

EUV露光装置の光学系(模式図)。左端にある光源から出たEUV光は、照明光学系(illuminator)を経て中央上のマスクにいたる。マスクで反射されたパターンは、投影光学系(projection optics)を経て右下のウェハに転写される。Carl Zeiss SMTが2018年6月に国際学会「2018 EUVL Workshop」で公表したスライドから
投影光学系の寸法模式図。左はNAが0.25の投影光学系、中央はNAが0.33の投影光学系、右はNAが0.55の光学系である。いずれも反射鏡の枚数は6枚で変わらない。NAを高めるにしたがって反射鏡の外形寸法が大きくなるとともに、光路長が延びる。光学系全体の寸法は長く、広く、そして重くなる。Carl Zeiss SMTが2018年6月に国際学会「2018 EUVL Workshop」で公表したスライドから

 投影光学系は大きく、重くなるにも関わらず、光学系に要求される精度は緩和されない。むしろ厳しくなる。そもそも、NAの大きな対物レンズを製造することが自体が難しい。なおかつ、波面収差はNAが0.33の光学系に比べて小さく抑える必要がある。そして投影光学系における光の散乱はより小さく、コントラストはより高くしなければならない。

NAが0.55の投影光学系を実現するためのおもな課題。技術面でも製造面でも課題がある。ただし「本質的な限界は存在しない」とする。Carl Zeiss SMTが2018年6月に国際学会「2018 EUVL Workshop」で公表したスライドから
EUVスキャナの投影光学系で許容される波面収差のイメージ。NAが0.33の量産用スキャナである「NXE:3300B」に比べると、NAが0.55の「High-NA」光学系では許容可能な波面収差は半分以下になっている。Carl Zeiss SMTが2018年6月に国際学会「2018 EUVL Workshop」で公表したスライドから

縮小率を高めてパターンのコントラストを維持

 NAが0.55の投影光学系ではもう1つ、大きな変更がある。縮小率が変わる。

 NAが0.33のEUVスキャナでは、縮小率が4倍だった。これはマスク(レチクル)の露光領域の寸法が、ウェハの露光領域の寸法の4倍になるという意味だ。ウェハ表面で1回のスキャンによって露光する領域(フルフィールド)は幅26mm×長さ(スキャン方向)33mmであり、面積では858平方mmとなる。対応するマスクの露光領域は幅104mm×長さ(スキャン)132mmである。

 これらの露光領域はArF露光装置(ArFスキャナ)と同じ寸法であり、EUV露光装置とArF露光装置を適切に組み合わせることが前提の半導体製造プロセスでは、都合が良い。言い換えると、ArFスキャナで設計されている露光工程の一部にEUVスキャナを容易に組み込むために、同じ寸法のフルフィールドにしてある。

 しかしNAを0.55に高めた次世代のEUVスキャナでは、重大な不都合が生じた。マスクで入反射する光ビームの角度が広がるために、パターンのコントラストが許容できない水準にまで、低下する。単純な対策としてはマスクの材料や構造などの見直しが挙げられるものの、現状では見通しが立たない。

 そこで考え出されたのが、縮小率の拡大である。たとえば縮小率を8倍にすると、マスクにおける光ビームの角度が小さくなる。マスクで反射されるパターンのコントラストが向上する。ただし、マスクが同じ寸法のままで縮小率を8倍(従来の2倍)にすると、ウェハにおける露光領域の面積が従来の4分の1と大幅に小さくなってしまう。

 露光領域の面積を従来どおりに維持するためにはマスクの面積を従来の4倍に拡大しなければならないが、マスクそのものはもちろんのこと、照明光学系も大幅な変更、すなわち基本からの技術開発が必要となる。これは現実的ではない。

 折衷案となったのが、スキャンの幅方向の縮小率は従来と同じ、4倍のままとすることである。スキャンの幅方向は寸法が短いので、コントラストの低下が許容できる水準に収まっていた。一方、スキャン方向(スキャンの長さ)は寸法が長く、コントラストの低下が許容しにくい。そこでスキャン方向だけ、縮小率を8倍としてコントラストの低下を防いだ。

 この結果、ウェハにおける露光領域の面積は従来に比べ、半分(ハーフフィールド)となった。寸法は幅方向が26mm、スキャン方向(長さ方向)が16.5mmである。現在はこのハーフフィールドを採用して実用化を進めている。

EUVスキャナにおける縮小率の変更。左は投影光学系の模式図。中央は従来(NAが0.25および0.33)の露光領域。マスクとウェハの縮小率は縦横ともに4倍である。右はNAを0.55に高めた光学系の露光領域。横方向の縮小率は4倍、縦方向(スキャン方向)の縮小率は8倍である。2015年9月にASMLが国際学会「International Symposium on Extreme Ultraviolet Lithography(EUVL Symposium)」で公表したスライドから

スループットを大幅に高めた次世代EUVスキャナの野心的な仕様

 露光領域の面積が従来のハーフフィールドになるということは、ウェハ当たりのショット数(露光回数)が2倍に増えるということを意味する。すなわち、スループット(単位時間あたりのウェハ処理枚数)が低下する。

 スループットを維持するために、高NAのEUVスキャナではマスクステージの速度を従来の4倍に、ウェハステージの速度を従来の2倍に高める。さらに、光源の出力を向上させることで、スループットを1時間当たりで185枚(目標仕様)と、NAが0.33の現行機種「NXE:3400」の145枚~155枚(目標仕様)よりも大幅に向上させようとしている。

NAを0.55の高めた次世代EUVスキャナの概要。重ね合わせ誤差の低減、マスクステージの高速化、投影光学系のNA向上と透過率向上、新しいフレーム(躯体)の導入、ウェハステージの高速化、光源の出力向上といった改良が施される。なお、手前の装置写真は現行機種「NXE : 3400」であり、左側の人物と比較することで大きさを把握できるようにしている。後方のイラストが開発中の次世代スキャナのイメージ。長さと高さがともに現行機種から拡大していることがわかる。2018年6月にASMLが国際学会「2018 EUVL Workshop」で公表したスライドから
EUV光源の出力実験結果。実験室レベルでは、410Wと現状の250W(量産水準)に比べて約1.6倍と高い出力を得ている。ASMLが2018年12月に国際学会「IEDM」のショートコースで公表したスライドから

半分の露光領域でも高いスループットを維持するオプション

 ASMLは、この185枚/hという高いスループットを前提にすれば、ハーフフィールド(26mm×16.5mm、あるいは429平方mm)を超えないシリコンダイを扱うかぎり、現行世代の目標仕様である145枚/hよりも高いスループットを実現できるとしている。

 たとえばフルフィールド(26mm×33mm)に9枚のシリコンダイを収容する場合を想定しよう。シリコンダイの寸法は11.0mm×8.66mm(95.26平方mm)である。単純にハーフフィールドで分割すると2枚のマスクが必要となり、スループットは25%ほど下がる。すなわち138枚/hとなり、現行世代の目標仕様である145枚/hよりも低くなってしまう。

 そこでマスク1枚でフルフィールドのスキャンを完了させることを考える。たとえば、3分の1のフィールドを3回スキャンする。この場合はスループットの低下は15%に抑えられる。すなわち157枚/hとなり、現行世代を上回る。

 さらに、シリコンダイの寸法を微調整してハーフフィールドに最適化することを考える。たとえばシリコンダイの寸法を11.55mm×8.25mm(95.29平方mm)に変更する。するとハーフフィールドに4枚のシリコンダイが、かなりきれいに収まる。スループットの低下はわずか5%で済む。175枚/hのスループットを得られる。

185枚/hのスループットとハーフフィールド(26mm×16.5mm)を前提にした、実際のスループットの変化。フルフィールドに9枚のシリコンダイを収容する場合を想定したもの。2018年9月にASMLが国際学会「EUVL Symposium」で公表したスライドから

心臓部である光学系から開発が本格化

 最後に、次世代の「高NA」EUV露光を実現する露光装置(スキャナ)の開発拠点をご紹介しよう。露光装置全体の開発を担うASMLの拠点と、光学系の開発を担うCarl Zeiss SMTの拠点がある。

 ASMLの開発拠点はおもに3つ。米国コネチカット州のウィルトン(Wilton)工場(トップモジュールの担当)と、オランダのフェルドホーヘン(Veldhoven)工場(最終組み立ての担当)、それから米国カリフォルニア州のサンディエゴ(San Diego)工場(光源の担当)である。Carl Zeiss SMTの開発拠点はおもに1つ。ドイツのオーバーコッヘン(Oberkochen)工場(光学系の担当)である。いずれも新しい建屋を建設したり、既存の建屋を拡張したりといった対応を進めている。

次世代EUV露光装置の開発拠点。左からASMLのウィルトン(Wilton)工場、フェルドホーヘン(Veldhoven)工場、サンディエゴ(San Diego)工場。右端はCarl Zeiss SMTのオーバーコッヘン(Oberkochen)工場。ASMLが2018年12月に国際学会「IEDM」のショートコースで公表したスライドから

 これら4つの開発拠点のなかでも目立った動きをしているのが、Carl Zeiss SMTのオーバーコッヘン工場だろう。一昨年(2017年)から昨年(2018年)にかけての活動実績が公表されている。建設中の新しい建屋や、EUVの光学系を開発するための巨大な真空容器(ベッセル)、重量が数100kgに達するレンズを扱うためのロボットクレーンなどの画像である。

NAが0.55のEUV光学系を開発するプラットフォームの模式図。2個の巨大な円筒形の真空容器(図面の中央)や反射鏡を扱うロボットクレーン(図面の右端にあるオレンジ色の機械)などで構成される。2018年9月にASMLが国際学会「EUVL Symposium」で公表したスライドから
Carl Zeiss SMTのオーバーコッヘン工場に新しく建設された開発棟に、EUV光学系開発用の真空容器が納品されたときの様子。左は納品された真空容器をクレーンで吊り上げているところ。右は真空容器の外観。人物と比べると、その大きさがわかる。2018年9月にASMLが国際学会「EUVL Symposium」で公表したスライドから
真空容器の扉を開けて作業している様子(左)と、反射鏡を扱うロボットクレーン(右)。2018年6月にASMLが国際学会「2018 EUVL Workshop」で公表したスライドから
Carl Zeiss SMTのオーバーコッヘン工場に新しく建設している高NA光学系開発棟の計画図。3つの建屋を建築することがわかる。2018年6月に同社が国際学会「2018 EUVL Workshop」で公表したスライドから
Carl Zeiss SMTのオーバーコッヘン工場で建設中の高NA光学系開発棟の様子。2017年10月に撮影したもの。3つの建屋がかなり出来上がっているのが確認できる。2018年6月に同社が国際学会「2018 EUVL Workshop」で公表したスライドから

 NAが0.55の次世代EUV露光技術の開発は、「10年先」を見据えた技術開発である。最初の量産対応機種の出荷が5年後。改良した機種の出荷はさらに先になる。今後の開発の進展を、見守っていきたい。