■西川和久の不定期コラム■
日本時間の10月13日未明、iOS 5.0とそれに関連するソフトウェアが一斉にアップデートされた。iOSは言うまでもなく、iPhoneやiPadなどで使われているOSだ。去年のメジャーバージョンアップ、iOS 4ではマルチタスク対応が主な強化ポイントだったが、今回のiOS 5.0はどこが強化されたか? 早速セットアップしながらの試用レポートをお届けする。
●PCフリーになったiOS 5.0
今回、iOSが5.0になるに当たって、いろいろなソフトウェアのアップデートが行なわれたが、iOSデバイスを5.0にするだけであれば、iTunes 10.5のみ用意すれば取り合えずOKだ。現在、アクセスが集中して、同社のサーバーが重くなっていることもあり、他に関しては後回しにしても問題は無い。
iOS 5.0に対応しているデバイスは、iPhone 3GS/4/4S、iPad/iPad 2、第3/4世代iPod touchと、多くの現行機種で利用可能。残念ながらiPhone 3Gは対象外だ。
iTunes 10.5の対応している環境は、Windowsが、Windows XP Service Pack 2以降、32bit版Windows Vista/Windows 7。64ビット版Windows Vista/Windows 7。64bit版Windowsに関してはiTunes 64bit版インストーラが必要となる。Mac OS Xに関しては、Mac OS X バージョン 10.5以降、Safari 4.0.3以降となっている。ご覧のように最近の環境以外にも対応しハードルは低い。
アップデートの手順は従来通り、USBでPCまたはMacへiOSデバイスを接続すると、アップデートがあるので更新するかと聞かれるので、後はメッセージに従い作業をするだけ。ここまではiOS 4.xと同じなのだが、デバイスが再起動すると様子は一変する。掲載したのは初代iPadの初期起動画面。iPad 2やiPhoneなどに関しても、スクリーンサイズなどが異なる程度で内容的には変わらない。これまでは再起動するとまず、PCまたはMacへUSBで接続し、iTunesを使いアクティベーションを行なう儀式があったが、それが無くなり、一般的なOSセットアップの簡略化されたような画面表示になっている。
まず使用言語の設定。デフォルトで日本語にチェックが入っている。国または地域もデフォルトは日本。位置情報サービスはマップなどを使うのであればオン。そしてWi-Fiの設定を行なう。ここだけ初心者が戸惑いそうな部分だ。
ネットワークに接続できたところで、iPadの設定。新しいiPadとして設定/iCloudバックアップからの復元/iTunesバックアップからの復元……と、3択になる。初めて購入した場合、もしくは以前の設定を引き継ぎたく無い場合は、新しいiPadとして、バックアップから復元するのであれば、iTunesバックアップからの復元を選択する。iCloudバックアップからの復元は少なくともOSをアップデートしている今回に限ってはもともとバックアップを取っていないため、選択しても意味が無い。
iTunesバックアップからの復元を選択すると、はじめてUSBを使ってPCまたはMacで動いているiTunesに接続するように指示が出て、接続後、復元が始まる。手持ちのiPad 2とiPhone 4はこの方法で環境を戻したものの結構時間がかかった。iPadに関しては新規のつもりで復元は行なわず、そのまま先に進んでいる。
設定開始画面 | 使用言語の設定 | 国または地域の設定 |
位置情報サービス | Wi-Fiネットワークの選択 | iPadを設定 |
Apple IDを設定 | 利用規約 | iCloudを設定 |
iCloudバックアップ | iPadを探す | 診断/使用状況の送信 |
設定完了 | iPadが起動した |
次はApple IDの設定だ。このIDは非常に重要な唯一のキーであり、iCloud、App Store、iTunes Store、そしてHomeシェリングなどの作動に影響する。もし新規ユーザーでApple IDを持っていない場合は、「無料のApple IDを作成」で作ればいい。
仕上げは利用規約の同意、iCloudを使用/使用しないのいずれかをチェック、バックアップはiCloudかコンピュータ(iTunes)かを選択、iPadを探すを使用/使用しない、品質向上のための診断・使用状況の自動送信/非送信……これらをセットして、「iPadを使う」をタップすると、見慣れたホーム画面が現れる。文字で書くと面倒そうだが、実際の作業はあっという間に終わってしまうほど簡単なものだ。
さて、ここまでの流れを見ると一目瞭然。新しいiPadとして設定(もしくはiCloudバックアップからの復元)→Apple IDを設定→iCloudを使用→iCloudにバックアップを作成……と進んだ場合、一切PCまたはMacへ接続する必要は無く、完全に独立して動くOSに仕上がってることが分かる。
PCからフリーになると、これまで「PCを持っていないから」とiPhoneやiPadを敬遠していたユーザーまでも振り向かすことができ、非常に大きな意味を持つ。加えて後述するiCloudを使えば、データの同期やバックアップをパソコン無しでしかも意識せず、自動的に扱えるようになる。初心者はもちろんパワーユーザーでさえも嬉しい強化ポイントと言えよう。
●iOS 5.0の新機能iOS 5.0の新機能は大小さまざまでその数は200を超える。全ては紹介しきれないので、日頃よく使う部分を中心に画面キャプチャを掲載した。
まず便利になったのが「Notification Center」。通知システムの改善だ。これまでもメールやSMS/MMSなど、Notificationに対応したアプリは、標準搭載のアプリに限らず数多くあったが、とにかく何をしていても画面中央にバッと表示され非常に邪魔になった。また複数あった場合は一番最新のもののみが有効で見落とすケースもしばしば。
iOS 5.0ではこれを改善し、ロック画面ではリスト表示、ホーム画面やアプリケーション起動中は、画面最上部から指で下にスライドさせると、一覧表示が出るように。またロック画面以外でのリアルタイムな通知は、上部ステータスバーの位置でお知らせを表示し、クルっと回って元に戻る。邪魔にならず、見落とさずと、かなり使い勝手は向上した。
アプリケーション毎の通知設定は設定/通知/通知センターで行なう。設定出来る項目は、通知センターON/OFF、表示:最新1件/5件/10件、通知のスタイル:なし/バナー/ダイアログ、Appアイコンバッジ表示ON/OFF、プレビューを表示ON/OFF、通知を繰り返す:1回~10回、ロック中の画面に表示ON/OFFと、細かく調整が可能だ。
また「お天気ウィジェット」や「株価ウィジェット」は、他の通知とは別の扱いで通知センター上でウィジェット的に表示される。加えて「緊急地震速報」がシステムに標準装備。ただiOS 5.0を使い出してからまだこの機能は動いていないので、どのような表示なのかは分からない。
次にOSへのTwitter統合があげられる。設定/Twitterの項目が追加され、アプリのインストールを行ない、ユーザー名とパスワードをセットすれば、対応しているアプリケーションから即つぶやくことが可能になった。標準のアプリだと「写真」で写真を選び直接ツイート、「Safari」で表示中のURLでツイートなど、これまでより格段に使いやすい。他にも「マップ」、「YouTube」なども対応している。また「連絡先」にTwitterのプロフィール写真とユーザー名を登録することもできる。
PCフリーになったことで、OTAによるアップデート、そしてWi-Fiを使ったiTunes同期が可能となった。Wi-Fi同期に関しては、少し注意事項があり、1つはiOSデバイスが電源とWi-Fiに接続していること。2つ目は、母艦となるPCまたはMacへ1度だけUSB経由でiTunesへ接続し、「Wi-Fi経由でのxxxと同期」へチェックを入れなければならない。3つ目はその母艦は有線LANではなく、無線LANでネットワークにつながっている必要がある。これらの条件が揃った後に、設定/一般/iTunes Wi-Fi同期/今すぐ同期をタップすれば同期作業が開始される。母艦より離れたUSB経由のACアダプタやDockポートのあるAV機器からでも同期が可能となり非常に便利になった。転送速度もなかなか速い。
【お詫びと訂正】初出時、電源を接続しないとWi-Fi同期が機能しないと記載しておりましたが、Mac OS X 10.7.2へアップデート後はバッテリ駆動でも機能します。お詫びして訂正いたします。
そのほか細かい部分としては、SMS/MMSと統合しApple IDでやり取りできるiMessage、BluetoothキーボードのJIS配列に対応、Safariのタブ表示、雑誌などの購読用「Newsstand」アプリの追加など、いろいろ改善されている。iPad 2では4本または5本の指でピンチするとホーム画面に移動/上にスワイプでマルチタスクバー表示/左または右にスワイプでアプリ切替なども可能になった(なぜかiPadでは機能しない)。
標準アプリで大幅に機能強化されたのが、「カメラ」と「写真」アプリだ。カメラは、オプションでグリッド表示が可能となり、加えて[音量+]ボタンでシャッターが切れるように。更にロック画面からホームボタンをダブルタップ、カメラアイコンをタップすると即カメラアプリが起動できるショートカットを追加。いちいちロックを解除、カメラアプリを起動する必要が無くなり、よりカメラっぽく扱える。
注意点としてはパスコードロック使用時、撮影後確認できるのは、その時点で撮った写真のみ。これはセキュリティ上仕方ない部分だ。もちろんパスコードロックを設定していなければ、普通に写真アプリが起動し、全ての写真を表示できる。
次に「写真」アプリが編集に対応。回転/自動補正/赤目補正/トリミングが可能になった。トリミングに関してはフリーな縦横比はもちろん、4:3などプリセットされている一般的な比率でも切り出しができる。自動補正に関しては少し使っただけなので、ロジックがイマイチ分からないものの、オリジナルと比較して効果があったりなかったり。試してより良い方を選べばいいだろう。
カメラアプリ、オプションのグリッド表示 | 写真アプリの編集。回転、自動補正、赤目補正、トリミングが可能に | トリミングの範囲設定 |
トリミングする時、いろいろな縦横比を選べる | ロック時にホームボタンをダブルクリックするとカメラのアイコンが現れる | パスコードロックしている時は撮影した写真しか表示できない |
新しく追加されたアプリとして「リマインダー」も見逃せないポイントだ。繰り返し設定、時間になったら通知はもちろん、場所をONにすると、その場所を出発する時通知か、到着した時に通知かも設定することができる。標準アプリとしては無かった機能だけに待ち望んでいた人も多いだろう。
リマインダー/リスト | リマインダー/日付 | リマインダー/日付(カレンダー表示) |
リマインダー/詳細 | リマインダー/後で通知 | リマインダー/ロック画面での通知 |
そのほか実際にiOS 5.0を使って気がついた点は、少なくともiPad 2とiPhone 4に関しては、Safariのレンダリングが速くなった。特にiPad 2は倍速に近いほどの向上で、PC WatchやFacebookなどがパッ! と表示される感じだ。よりA5にチューニングが施されたのではないだろうか。
●ケーブルレスでApple TVへミラーリング表示もう1つ、iOS 5.0になって追加された機能として「AirPlay Mirroring」が挙げられる。これはWi-Fiを使って、iPad 2もしくはiPhone 4Sの画面をそのままApple TVでミラー表示できる機能だ。従来のAir Playは、対応したアプリケーションのみ画面の出力がApple TVに切り替わったが、このAirPlay Mirroringは常時画面がミラーリングされる。作動条件は、Apple TV 4.4へアップデート、A5を搭載したiPad 2とiPhone 4Sのみ対応となる。残念ながら初代iPad、iPhone 3GS/4、iPod touchなどは未対応だ。
これまでもApple Digital AVアダプタなどを使えば、HDMIを使って大型液晶ディスプレイへミラーリング出力が可能であったが、ワイヤードなので使い勝手はあまり良いものではなかった。しかしこのAirPlay Mirroringを使えばワイヤレスで画面出力が可能となり、一気に使い勝手は向上する。プレゼンテーションやゲームなどで活用されるだろう。
ただ残念なのは画面情報を圧縮しつつ送っているのだろうか。HDMI接続時より画質が劣る。エッジなどが弱くなり、若干発色も変わる傾向にある。
Apple TV 4.4の新機能 | フォトストリームが追加されている | iPad2でAirPlayを設定 |
出力をApple TVへ切り替えミラーリングON | ケーブルレスでミラーリング表示ができる |
●強力なのに簡単なiCloud
さて最後になったが「iCloud」を紹介したい。この機能は、iOS 5.0のPCフリーに並ぶ最大のポイントとなる。簡単に説明するとクラウド(同社が用意するサーバー上のストレージへネット経由でアクセス)へデバイス内のデータを自動的に転送し、何時でも何処でも同じApple IDを設定している機器からアクセスできる仕掛けだ。
まずPCを使わずiOSデバイス単独使用時の機能としては、メール/連絡先/カレンダー/リマインダー/ブックマーク/メモ/書類とデータ/iPhoneを探す、加えてiCloudバックアップがその対象となる。これらのデータ全て合わせて5GBまでなら無料。容量が不足する場合は、年間使用料10GB/1,700円、20GB/3,400円、50GB/8,500円のアップグレードも用意されている。筆者のケースでは、iPhone 4が987.7MB、iPad 2が546.1MB、iPadが20.8MB(iCloudバックアップしていない)の計1.5GBでまだ3.4GBも余裕がある。ただし日本では、音楽データは転送できず含まれない。
書類とデータに関しては現在iWork(Keynote、Pages、Numbers)アプリのみの対応だが、アクセスするAPIが公開されているので、今後対応するアプリは増えるだろう。
筆者の場合は、メールとカレンダー、メモに関してはGoogle Apps for Your Domainを使っている関係でOFFにしているが、全てONにしても併用はできる。
もう1つ忘れてはならないのは「フォトストリーム」。この機能はカメラで撮影した写真を即iCloudへアップロード、「写真」や「iPhoto」など対応アプリで表示できる仕掛けだ。またこの部分だけは、先の5GBの容量には含まれず、サイズ無制限、30日間のデータ保存期間となる。
これら全てが同じApple IDを設定した機器で行き来できるため、iPhoneとiPad間はもちろん、iPhone 4からiPhone 4Sへ乗り換える時も何も考えずに簡単に同じデータを扱え、しかも難しい設定は不要、初心者が容易に扱える素晴らしいシステムと言えよう。
iCloudの各設定 | iCloudバックアップ実行中 | ストレージとバックアップ/ストレージを管理 |
ストレージ購入。5GBまでは無料 | アルバムにフォトストリームが追加された | iPhoneやiPadの画面キャプチャが自動的にiPhotoへ届く |
MacやWindowsからこのiCloudを扱うには、各種アップデートが必要となる。Lionの場合は「OS X 10.7.2」、「iPhoto 9.2」(もしくはAperture 3.2)。Windowsの場合は「iCloud コントロールパネル」をダウンロードする。Windows Vista(Service Pack 2)またはWindows 7対応でWindows XPは非対応。iCloudでメール、連絡先、カレンダーにアクセスするためには、Outlook 2007もしくはOutlook 2010が必要となる。Safariはいずれも最新版の5.1.1の対応だ。
LionではOSアップデート後、システム環境設定に「iCloud」が追加され、そこで同期するアプリケーションなどが選択できる。
余談になるが先に触れたフォトストリーム、実はiOSデバイスの画面キャプチャをMacから扱うのに非常に便利で、これまでであればUSBケーブルを使って接続、写真を選択してコピーと言う作業を行なっていたが、フォトストリームを使うと、画面キャプチャを撮影(ロックボタンとホームボタンを同時に押す)した数秒後には、iPhotoのフォトストリームへ自動的にダウンロードが終わっている。後は必要な写真を選択し、JPEGで書出せばOKと、作業が楽になった。
注意点としてはフォトストリームをONにする以前にカメラロールに保存されている写真は、転送の対象にならないこと。フォトストリームをONにした以降カメラロールに保存した写真のみがその対象となる。
iCloudへログイン(Mac OS X側) | 使用するデータを指定 | 設定完了 |
システム設定にiCloudが追加されている | 同期する項目を選択 | Web版iCloud |
ログイン後の画面。メール、コンタクト、カレンダーなどが見える | iPhoneを探す。Wi-Fi版のiPadも大雑把になるが探すことができる | iOSアプリのKeynote、Pages、Numbersにも対応 |
このiCloud、Webからもアクセスが可能だ。URLは www.icloud.com 。現在利用可能なアプリはメール/コンタクト(連絡先)/iWork/iPhoneを探すのみと、機能は限定されているものの、リッチなUIでなかなか面白い。今後の機能強化が楽しみだ。
以上のように「iOS 5.0」は、PCフリーの完全に独立したOSになっただけでなく、Wi-Fiを使ったiTunes同期、iCloudによるデータやバックアップのクラウド化と言った、Mac OS Xまで巻き込む大胆な改良。そして通知機能の改善、Twitter統合、写真・編集機能の強化、iMessage、リマインダー……などなど、これまでのバージョンアップとは比較にならない程パワーアップしている。
同時にPCやMacと併用する場合は、アップデートしなければならないソフトウェアが多く、また現在サーバーが混んでいるため、システムが安定していないなど、少し面倒な部分があるものの、対応機種であれば絶対にお勧め。ぜひアップデートして快適に活用して欲しい。