西川和久の不定期コラム

NEC「Lui PCリモーターサーバーボード」を試す



 これまでNECの「Lui (ルイ)」は専用サーバー、そして専用ハードウェアの「Lui RN」、「Lui RP」をクライアントとしたリモートソリューションであった。だが、ここにきて、Windows上で動くLuiクライアントソフトを搭載した「LaVie Light Luiモデル」と、Luiサーバーを構築できるサーバーボードが登場した。編集部から一式届いたので早速そのレポートをお届けする。

●Luiとは

 Luiは2007年年末にNECが発表したデジタルライフ・ソリューション。当時、携帯電話やPDAでは、PC向けサイトの完全な表示や動画を扱うのが難しかった。一方、ノートPCは高価な上、デスクトップPCも所有するとデータ同期が面倒など、別の問題があった。それを解決する手段として登場したのがこのLuiだ。

 大雑把に言うとサーバーとなっているPCの画面や音など全ての出力をネットワーク経由でクライアントに転送し利用する技術となる。これを使えば家庭内だけでなく、ネットに接続できる屋外からも、いつも同じアプリケーションやデジタルコンテンツを利用できる。ストリーミング的な利用なので、データの同期も必要無い。

 これだけだと、Windowsのリモートデスクトップと何が違うのと言う話になると思う。一番の違いはサーバー側に特別なハードウェアを搭載し、HD動画をもそのまま音声込みで転送再生可能なことだ。Windowsのリモートデスクトップではご存知のように、HDどころか動画は基本的にパラパラ漫画もしくは止まってしまうし、音も出たところで遅延している。

 加えてクライアントは専用アプリで単に転送されたデータを再生するだけなので、高いパフォーマンスを必要としない。実際、専用機として登場したLui RNやLui RPは非Intel CPUを搭載したWindows CE機だった。

 2008年頃から、ネットブックやiPhoneが登場し、当時の想定が段々崩れてきたものの、iPhoneや動画支援機能が無いネットブックではHD動画の再生は無理であり、Luiによるソリューションにはまだまだ存在意義がある。

1,280×768ドット表示対応の10.6型ワイド液晶を搭載したノートPCタイプのLui RN800×480ドット表示対応の4.1型タッチパネルとQWERTYキーボードを搭載したスライド式端末Lui RP

●PCリモーターサーバーボードの設定

 PCリモーターサーバーボードには標準サイズの「LU-AC-RB003」とロープロファイルの「LU-AC-RB004」の2種類がある。どちらもPCIバスを1本使うが、後者は高さが低い代わりに2スロット分の幅を占有する。今回借用したのは標準サイズのLU-AC-RB003だ。

 まず、ボードを組み込む前に、Lui PCリモーターサーバーとしてPCが適しているかの環境チェックプログラムを同社のサイトからダウンロードし、チェックする。1つはOSなどPCの基本環境チェック、もう1つはルーターなど通信環境のチェックとなる。

システム環境表示ツールPCオンデマンド環境チェックプログラム

 対応OSはWindows XP/Vista。ハードウェアは「Pentium 4 2GHz相当以上」、「メモリ512MB以上」、グラフィックは「主要GeForce系、Radeon系、Intel G965/G3x/Q3x/G4x/Q4x」なので、よほど古いPCでない限り大丈夫だろう。

PCリモーターサーバーボード「LU-AC-RB003」ボードLU-AC-RB003のコネクタ付属ケーブル類
検証に組み合わせて使ったGeForce 9400 GTPCにLU-AC-RB003を組み込んだところケーブルの接続はこんな感じ

 ハードウェアを組み込んだ後は、付属のCD-ROMからソフトウェアのインストールそして、環境設定となる。このハードウェアの特徴として、写真からも解るように、PCからの音声出力と、DVI出力を取り込んでいる。そして、ディスプレイやスピーカーへはスルー端子から接続する。

PCリモーターサーバー統合インストーラインストール中インストール後のデバイスマネージャ

 もう1つの特徴としてEthernetも1ポート搭載している。デバイスマネージャをみると「SafeConnect VPN Adapter」となっている。ハードウェア的なVPNアダプタなのかは不明であるが、PCリモーターサーバーを設定するには、これとPC本体側のEthernetの両方をルーターに接続する必要がある。

 PCリモーターサーバーの具体的な設定は、後述する「LaVie Light Luiモデル」のクライアント側の設定と合わせて書いた方が解り易いので、ここではドライバの組み込みまでとする。しかし今時販売するサーバー用のハードウェアが64bitに非対応とは、ちょっと面食らってしまった。この点は、追加サポートを望む。

●「LaVie Light Luiモデル」と実際の運用

 「LaVie Light Luiモデル」は、従来のWindows CEを使ったLui専用機ではなく、ネットブック、つまりWindows XPをベースにしており、新たにLui用のクライアントソフトをプリインストールしたモデルだ。「LaVie Light」の詳細を書くのは、この記事の趣旨と合わないので省略するが、10.1型の液晶パネル(1,024×600ドット)、CPUはAtom N280など、先月リニューアルしたLaVie Lightの夏モデルと同等だ。

 Luiの設定はサーバー側とクライアント側で分かれているが、まずクライアント側のPCリモーターソフトを“あるところまで”設定し待機。その後、サーバー側の設定に入る。

 あるところまでとは「ホームネットワーク接続設定完了」画面まで。ここでクライアントを待機させ、サーバー側の設定に移る。各設定はご覧のように特に難しいところはない。「リモートデスクトップ設定」はOSの持つ機能。単にOS側の設定パネルが開く。また、ここでは設定しないが「共有フォルダ」もOSの機能を使うため、別途共有するフォルダを公開する必要がある。

LaVie Light Luiモデル接続サーバーの新規設定(クライアント側)ホームネットワーク接続設定を完了したら待機する(クライアント側)
続いてサーバーの設定開始自動ログインアカウントのパスワードを入力セーフコネクト接続用電子メールを設定
リモートデスクトップの設定接続用パスワードを設定(この時、クライアントは「ホームネットワーク接続設定完了」の状態)サーバーPCの設定完了

 無事、サーバーとクライアントの設定が終われば、後はパネルから「リモートスクリーン接続」や「リモートデスクトップ接続」など、使いたい機能をクリックすれば接続を開始、サーバー側の画面でフルスクリーンに切り替わる(リモートスクリーンの画面キャプチャは、解り易いよう、窓表示にしている)。先の解説から解るように、Luiオリジナルの機能は「リモートスクリーン接続」。「リモートデスクトップ接続」と「共有フォルダ」に関してはもともとOSが持つ機能だ。どちらもVPN経由での接続となる。1台のクライアントから最大8台のサーバーをコントロールできる。

 「リモートスクリーン接続」は、接続している回線の速度や用途によって、「PC操作優先」か「動画優先」か、「見かけの画面解像度をクライアントに合わす」か、「1:1に大きく表示する」かなど、再コネクト無しでダイナミックに変更できる。

PCリモーターソフトの起動画面リモートスクリーン接続中リモートスクリーン(画面キャプチャではスクリーンの内容が取得できなかったので黒くなっている)
リモートスクリーン設定リモートデスクトップ共有フォルダ

 さて実際に使った感想であるが、リモートデスクトップの画面キャプチャ中にある「熊の動画」は、Windows Vistaに標準で入っているオマケだが、両方の環境で試したところ、リモートスクリーンでは見事に再生、リモートデスクトップではカクカク動いて真ん中辺りで止まってしまった。この差は歴然だ。

 サーバーがVistaなら、リモートデスクトップでは非対応のAeroもそのまま表示され、動きもスムーズ。ある程度の帯域幅があるとストレス無くいろいろな操作が普通に行なえる。もちろんアプリケーションの起動やデータの演算速度はサーバー側の速度/性能に依存する。

 画面が1,024×600ドットなので、画面解像度こそ違うものの、気分は自宅のPCがそのままネットブック端末で動いている錯覚さえ覚える。クライアント機の外部モニタにデスクトップPCと同等の解像度のものを接続すれば、ほとんど違いが解らないのではないだろうか。これならデータは全てサーバー側に置き、どうしても手元に必要な時だけ共有フォルダ経由でローカルに持ってくると言う運用も十分実用的に考えられる。ネットへの接続はVPNなのでセキュアだ。

 企業の場合セキュリティ上、このシステム自体を社内ネットワークに置くのは難しいと思うが、趣味だけでなく個人もしくはそれに近い状態で仕事をしている場合などは、サーバーとなるPCで、PCファクスや画像、動画、ドキュメントなど全て集中管理し、出先ではLui端末で操作ができる。

 例えば、写真やデザインの修正などもサーバー側で高速に処理し、結果を共有フォルダへ置き、ローカルにダウンロード、USBメモリで相手に渡すオペレーションも考えられる。また最近ではほぼ全てのメッセージはメールで済むものの、どうしてもファクスしなければならないケースもあり、PDF化や送信も含め、物理的に電話回線がつながっているサーバーPCで行なえば全てが出先でも完了できる。

 このように非常にスムーズに操作できるのは、ビデオ出力をサーバーボードに取り込んで、圧縮して出力しているため。当たり前と言えば、それまでなのだが、これはなかなか優秀だ。

 欠点があるとすれば、「ローカルとリモート間でのカットペーストが出来ない」ことが挙げられる。この点については、リモートデスクトップの方がよりシームレスに扱える。画面データ転送とリモート側とローカル側のAPIとが非同期で動いているので、技術的に可能かどうか解らないが、できれば対応して欲しい部分だ。

 ある意味強引とも言えるビデオ信号とオーディオ出力をそのままハードウェアで取り込み圧縮しての転送は、アイディアそして技術的になかなか面白い。過去操作したリモート環境の中では最もスムーズに全てを描画している。

 気になる点は2つ。1つは、サーバー側は今回のボードで汎用PCが使えるようになったものの、クライアント側は相変わらず同社のLui対応機に限定される点。これではさすがにユーザーとしては扱いづらい。例えば、サーバーボードに3クライアントライセンスを付けるとか、欲を言えばクライアントは無料にするなど、使う側の環境をもっと拡大できた方がより広がりが出ると思われる。

 もう1つはかなり厳しい意見になるが、「もう時代が先を越してしまった」感がある。このソリューションが立ち上がった2007年年末と、2009年初夏とでは随分環境が変わってしまった。当時高価だったノートPCは、ネットブックなら3万円程度からで購入できる。デスクトップでも以前記事にしたHP 6120だとOS込みで29,800円だ。またiPhoneなど不自由なくフルブラウズ可能な小型端末もある。

 もちろんこれらの機器でフルHDは再生できないが、無理にそのまま再生する必要もなく、DMS(DNLAサーバー)やWindows 7のトランスコード機能などを使ってエンコードしても十分綺麗に見られる。

 VPNに関しては「BUFFALO WZR-HP-G300NH」など、最近ではルーター側でVPNサーバー機能を持つ物まで登場し、しかも 1万円前後と安価。これにOSの持つVPN機能で接続すればそれなりにセキュアだ。データの同期もメールなどはウェブ上のサービスを使えば何処で見ても同じ。そうなるとリモートデスクトップとの違いが「Aero」の有無だけとなってしまう。

 またサーバーのベースがWindowsなので、複数のユーザーが同時にアクセスする可能性があるホームサーバーとしては扱いづらい。従って動画の再生が有利と言う点よりも、個人が何処でもメインPCにストレス無くアクセスできる点を前面に出した方が時代にはマッチするだろう。

 Luiは技術的に高度で面白いだけに、例えばクライアントはWindowsに限らずMacやiPhone、Android、Linuxなど多くのOSをカバーすると言った何かもう一捻り、そして抜本的な改善が欲しいところだ。