実は“賢くはない”スマートフォンの海外利用で損をしないための情報



 昨今、3Gネットワークの整備が進み、HSDPA対応エリアも世界的に拡がってきたからだろうか。それともスマートフォンの流行でトラフィックの制御もままならず、諦めの境地に入っているのだろうか(これはなさそうだ)。このところ端末の種類を問わずデータ通信を定額、あるいは安価に利用できるオプションが、かなり多くの国で提供されるようになってきた。

 今後、SIMフリー化を表明しているNTTドコモの端末や、もともとSIMフリーで販売される端末、あるいは3G無線ルーターなどで、これらを利用したいという方もいるだろう。NTTドコモとソフトバンクが海外データローミングの定額利用をアナウンスしたとはいえ、毎日使っているとバカにできない料金になる。

 ここは1つ海外のプリペイド携帯電話を使って、定額データ通信サービスの利用に挑戦してみようということで、香港で入手してあったAndroid端末のGalaxy Sを使い、米国とドイツで現地のSIMカードを購入し、利用してみた。

 いやいや、さすがにSIMフリー端末は最高! 自由だ! と叫びたいところだが、実は結構、大きな落とし穴がある。たまたま落とし穴にはまらずに済む人もいるだろうが、筆者の場合は、見事、両国ともに罠にはまってしまった。

●20ドルで100MBのAT&T Wilrelessデータパッケージ

 米国でW-CDMAのデータ通信サービスをプリペイドで行なっている会社はいくつもあるが、筆者はAT&T Wirelessを選択した。AT&TはiPhoneを独占販売している会社でもあるので、データ通信回線は混み気味(というより破綻気味)で、VerizonやSprint(Virgin Mobile含)に比べると遅いよ、とは聞いていたが、プリペイドプランでデータパッケージを用意している事をあらかじめ知っていたので、ここにした。

 なお、筆者は普段、Virgin Mobileのデータ通信サービスを利用しており、こちらは40ドルを払うと1カ月間定額で利用できる。ただしEV-DO(cdma2000)なのでSIMカードはなく、当然ながらW-CDMA対応のSIMカードを用いる端末では利用できない。

 これに対してAT&T Wilrelessのプランは決して安いものではない。100MBで20ドルなのだ。ボリュームディスカウトもない。筆者の場合、スマートフォンを2日も使っていれば軽く100MBを超えるので、1週間もしないうちに40ドルのVirgin Mobileの方がお得ということになる(しかもおおむね速度はVirgin Mobileの方が高速!)。

 従って純粋にデータ通信サービスだけであれば、Virgin MobileのMiFiデバイス(後藤弘茂氏のレポートを参照)をPCとスマートフォンの両方で共有する方がいい。バッテリの充電管理は面倒になるが、通信費用の差額でUSB出力機能付きバッテリが購入できるだろう。しかし音声サービスとデータ通信サービスが一緒になったものとなると、やはりこちらとなる。

 AT&T Wirelessのプリペイドサービスは「Pay as you go」というサービスだ。1分あたり25セントで通話ができる。このサービスには追加機能パッケージがあり、そこに100MBのデータパッケージがある。定額ではないがここは致し方ない。

 いったん、通話料金のクレジット残金を20ドル以上までチャージしておきデータパッケージを購入するのだが、AT&Tのお店(たいていの主要都市にはある)で店員に「Pay as you goをスマートフォンで使いたいからデータパック付きでちょうだい!」と伝えれば、あらかじめデータパックの契約をした状態でSIMカードを購入できる。筆者の場合、15ドルの通話クレジット+20ドルのデータパック、合計35ドルで入手した。SIMカード自身のコストはゼロである。

●データパックの罠

 前述したようにスマートフォンで利用しているだけでも、せっせとメール受信していれば2~3日で100MBぐらいは使ってしまう。ここで注意したいのが、突然、データパックのリミットを超えた段階でパケットの料金が激増することだ。

 スマートフォンの場合、寝ているときでもパケットを大量に消費し続けている。筆者の場合、新聞のニュースサイトを巡回し、すべてのコンテンツをオフラインのデータベースに登録するアプリケーションを入れていたので、夜中に寝ている間にデータパックを使い切った後、あっという間に13ドルほどあった残りクレジットを使い切った。

 通常、データローミング設定はオフにしている人が多いと思うが、データパケットの割引契約の有無でデータ通信の可否を設定する項目は、AndroidにもiPhoneにもない。この問題を回避するには、データパックの残り通信可能容量を常にチェックし、なくなりそうならばデータ通信をオフにするか、あるいは追加購入をする必要がある。

 ちなみにデータ通信パックの残り容量は、ダイヤラーで「*777**3#」にダイヤルするとメッセージとして画面上に表示される。末尾を2#にすればSMS、1#なら通話料金の残量だ(これはAT&T Wirelessのコードなので、他社のネットワークでは使えない)。

 一応、データ通信料金が通常料金になりましたよ、というSMSは届くのだが、SMSを見ている間にもガンガン通信でパケットを消費するので、気付いた頃には大抵は残りのクレジットを使い果たしている。

 と、朝起きた時点で気付けば良かったのだが、あいにく早朝にそのような事に気が回らず、カンファレンス会場近くのコーヒーショップでお茶をしつつ、端末の電源をOFFにしてから、PCを使ってアカウントに100ドルをチャージ(100ドルをチャージすると電話番号が1年間キープされる)した。さらに、その中から20ドルを使ってデータパックを買おうとしたのだが、なぜか購入できない。

 あとから気付いたのだが、AT&T Wirelessのトップページからログオンした際と、Googleで“Pay as you go online”を検索して入ったページでは、微妙に機能が違っていて、後者ではデータパックの購入がオンラインからはできなかった、というのがその理由だった(現在は統一されているようだ)。が、その時点ではそんなことはわからないので、致し方なく端末をONにし、データパックの購入を電話で行なった。

 電源をONにしてから購入までは、わずか2分足らずなので一気に100ドルを消費してしまうなんてことはない……ハズだ。ところが、それから10分ほどすると、なんとクレジットがゼロになってしまったのである。これが2番目の罠だ。

 Webページで利用履歴を見ると100ドルをチャージ後、80ドルきっかりをGPRS(データ通信)で使い、その後、20ドルのデータパックを購入したことになっている。おかしい。そんなにキッカリ80ドル分のデータ通信を、わずか1分半の間にするだろうか?

 AT&T Wirelessのショップで話しても原因は分からなかったが、おそらく電話の電源をONにした段階でGPRSのセッションが張られ、まだクレジットが残っているタイミングでデータパックを購入。そのまま端末の電源をOFFにしなかったため、データ通信のセッションは継続し、高額パケット請求が行なわれてあっという間に80ドル分のプリペイドを使い尽くした。おそらくこんなところだろう。

 ここで得た教訓は2つ。夜寝る時はデータ通信をOFFとし(あるいはフライトモードにする)、常に残り通信量に気を遣うこと。そしてデータ通信パックを購入後は、いったん、接続を切る。AT&T Wirelessの店員が「スマートフォンはユーザーの事なんかおかまいなしに通信しまくるから、よくクレームになるんだよ」と言うので「スマートフォンはスマートじゃないって事だね」と言ったら笑っていた。

 ヤレヤレとはいえ、これでノウハウも得たので次からは失敗しないと思っていたら、翌週はドイツで別のパターンの罠にはまってしまった。

●フラットレートなのに通信クレジットがゼロに?

 米国で上記の体験を経たあと、同じ端末を持って今度はドイツ・ケルンの地にいた。ドイツではドイツテレコムが展開するT-mobileが、SIM/MicroSIM両用の定額データ通信専用SIMを販売しているというので、まずはT-mobileに直行した。ところが、データ専用、通話兼用ともに売り切れだという。

 仕方がないので、その隣にあったスペイン・テレフォニカグループで元々は英国の携帯電話会社であるO2の店に入った。そこでスマートフォンに向いた定額通信サービスが利用できるプリペイドSIMが欲しいと言うと、15ユーロがチャージされた通話用プリペイドSIMに、1カ月20ユーロの定額通信パックを入れるのがいいよと教えてくれた。

 ゆったりした欧州のお店らしく「1カ月バカンスに出て戻ったら、システムが全部変わっていたのよ!」と、担当してくれた女性は言いながら、すべての手続きに1時間(!)近くかけて、やっと手元の端末で動き始めた。

 プリペイドSIMカードを有効化(と、その直前にデータ通信はOFFに設定しておく)し、コマンドと定額データ通信の購入IDを入力。するとSMSが届き、データ定額のコードが有効だった事を教えてくれる。担当の女性は「これで大丈夫よ。データ定額が受理されたってSMSが戻ってきてるから」と言われたので、安心して使い始めた。(なお戻ってきたSMSはドイツ語なので、それが受理されたものか、受理されていないものなのか全く筆者にはわからない)。

 ところがGoogleマップを使いながら、メーカーの発表会場である目的地を探して歩いていると、突然、地図が更新されなくなってしまった。単にデータ通信が混んでいるだけだろうか? と思いながら、今度はTwitterのクライアントを使ってみるがサーバが応答しない。が、これも良くあること(Twitterのサーバーはよく止まっているため)だと思っていたが、メールも着信しない。これはおかしいと思ったら、クレジットがゼロになっていた。それからというもの、当然ながらデータ通信はできない。またもやプリペイドの15ユーロをスッてしまったのである。

 定額契約なのになぜ? 果たして今回の原因は?

●定額契約は遅れてやってくる

 店員は「SMSが戻ってきたわ。今から大丈夫よ!」と言っていたものの、どうやらデータ定額契約が受理されたとの連絡が来ても、すぐには定額にはならないらしい。諦めて再びO2の店に行くか……と思っていた矢先、メール着信のバイブレータが動いた。

 おや? と思いつつGoogleマップを開くと、ちゃんと地図が表示される。

 どうやらこの時点(データ定額受理のSMS受信後、およそ30~40分後)で、やっと通信が可能になったようだ。これまたドイツ語なので読めないのだが、何らかのSMSがその直前に入っている。コードを受理したというSMSの後に、データ定額が始まった事を知らせるSMSが届いて、初めてサービスが開始されたのである。分かってしまえば何のことはない。ドイツに行く予定のある方はご注意を。

 なお、このO2のプリペイドSIMは、あらかじめ国際電話を使う事を申告しておかないと国際通話が行なえないとのことだった。こちらも契約時にお忘れなく。

 こうして米国、ドイツと続けてトラブルが続くと、スマートフォンが実はスマートじゃないのが悪いのだと冗談も言っていられなくなる。もし短期の(たとえば3~4日)利用ならば、日本で契約している携帯電話会社が提供している日割りのデータ定額プランを使う方がSIMカードを手配する手間を考えてもお得だろう。一方、長期滞在ならば使い方次第で現地SIMカードの方が有利になってくる。

 もっとも、あえて難にぶち当たりたいと思うのでなければ、少々の出費には目をつむって1週間ぐらいなら定額のデータ通信ローミングサービスを使う方が楽とは言えそうだ。筆者は今回の事でノウハウを得たと思っているが、次に現地に行ったときには、すでに事情が変化しているかもしれないのだから。

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(2010年 10月 6日)

[Text by本田 雅一]