PS VitaとKindle Fireで終わったモバイルラッシュの2011年



品名PlayStation Vita Wi-Fiモデル (PCH-1000 ZA01)
購入価格24,980円
品名Kindle Fire
購入価格
199ドル

「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです。

●モバイルデバイスラッシュだった2011年

 昨年(2011年)12月に買ったのは「PS Vita」と7型タブレットの「Kindle Fire」。2011年は、モバイルデバイスばかりが増えた。タブレットが3台にスマートフォンが2台、そしてポータブルゲーム機が2台(諸事情からPS Vitaが2台)が新たに加わった。タブレットはXOOMとGalaxy Tab 10.1、海外用のKindle Fire、スマートフォンはiPhone 4Sと海外用のNexus S。カネが回りきらないので春のiPad 2は見送り、年末のAndroidスマートフォンラッシュは様子見のままだが、それでも多い。

左からiPhone 4S、PS Vita、Kindle Fire、Galaxy Tab 10.1、これが現在のモバイルデバイスのメインラインナップ

 ゴトウは、テクニカルライターにしてはあまりモノを増やさない方(レビューをやらないため)なので、この増え方は異例だ。犠牲になったのはPCで、ウチ全体でも1年で増えたのはデスクトップが1台だけ。ここまでPCを買わなかった年は、これまでなかった。モバイルへと急傾倒する世相と軌を一にした、ウチのモバイルデバイスラッシュの、その締めくくりがPS VitaとKindle Fireだった。

 そして、PS VitaとKindle Fire、この2機種のインパクトも大きかった。モバイルデバイスは入れる度に、家でのコンピュータの使い方に変化が起きて行くのだが、今回もそうだった。


●PS Vitaでライトゲーマーの長女がアンチャーテッドに走る

 PS Vitaでは、ぜんぜん予想していなかった変化がゴトウ家に起きた。これまで、アクション系ゲームは一切やらなかった長女(小学校6年)が、突然、アクションゲームにはまった。「アンチャーテッド 地図なき冒険の始まり」を覗き込んでいて、「面白そう、やってみたい」と言い出して、プレイし始めたのだ。それまで、PlayStation 3(PS3)版のアンチャーテッドシリーズ3作はプレイを見てても、決して自分でやろうとは言い出さなかった。それなのに、PS Vitaでは、まったく薦めてもいないのに、自分からやり始めて、初級モードとはいえクリアした。「(ゲームの面白さは)10点満点なら9点」(10点はガールズモードとぼくのなつやすみ)と言っていた。

 なぜ、突然アンチャーテッドをやり始めたの? と聞いてみたら「PS Vitaだと、すごくやりやすそうだったから」と言う。じゃあ、PS3のアンチャーテッドもやってみる? と聞くと「ブンブン(首を横に振る音)、難しいから、とてもとても」と言う。えっ、そこまで違いがあるか? と思うのだが、長女には、心理的にそう感じられるようだ。

 理由は明確で、PS Vitaがゲーム機とスマートフォンの両方のインターフェイスを備えているからだ。PS Vitaは、従来の据え置きゲーム機と同様の操作系とともに、タッチパネルやマイク、加速度センサ、ジャイロスコープを備え、さらに背面にもタッチパネルを持つ。

背面タッチパネルは、子どもの指だと難しいかと思ったら、意外と大丈夫だった
セットアップは面倒なので、次男に丸投げ

 ゲームコントローラで育った長男と次男に対して、長女はゲームコントローラに対する拒否感があり、操作が難しいゲームは一切手を出して来なかった。これまで熱中したゲームを挙げると、「トモダチコレクション」「わがままファッションガールズモード」「どうぶつの森」シリーズ、「ぼくのなつやすみ」シリーズ、「レイトン教授」シリーズなど。ゲームをちょっと知ってる人なら、なるほどと納得する、小学生女子のライトゲームユーザーの典型だった。ニンテンドーDSが掘り起こした、“DSキッズ”世代だ。

 ところが、PS Vitaでは、いきなり、いわゆる“通向けタイトル”のアンチャーテッドに手を出す。受け身の映像コンテンツなら「プリキュア」大好きな女の子が「インディ・ジョーンズ」にはまってもおかしくないが、プレイしなければならないゲームの場合は違う。言ってみれば、街乗りドライバがいきなりサーキットに出るようなもので、かなり心理的なハードルが高い。

●インターフェイスが変わるとゲームへのハードルが下がる

 ここに見えるのは、PS Vitaのインターフェイスのおかげで、突然、長女のようなライトなゲーマーにとって、アクションゲームが簡単に感じられるようになったという話だ。PS Vita版アンチャーテッドだと、コントローラだけでなく、画面タッチや背面タッチでもキャラクタを操作できる場面が多い。というか、タッチでなければ操作できない部分も、かなり多い。武器操作でも、リロードやグレネードの投擲はタッチで操作できる。それが、タブレットユーザーの長女にとっては、馴染みやすかったのだと思う。

謎解きパズルや遺跡の図版の汚れ落としなどタッチだけの操作も多いグレネードの投擲は指でタッチ操作できる格闘戦でもタッチ操作が入る。このあたりが既存ゲーマーには嫌われるところ

 逆に、彼女にとって慣れた操作ができないと苦しむ。長女が苦戦したのはガンシューティングのシーンで、最初は狙いをつけるだけでも苦労していた。画面をタッチしてターゲットしようと試みて、その操作ができないとわかると、助けを求めてきた。銃のターゲットは筐体をチルトしてジャイロで操作できるのだが、これが、なかなかうまく行かない。トロトロしているとやられてしまうので、コントローラで操作しようとするのが、慣れない長女はオタオタしてしまう。

この銃の狙いをつける操作が最初はできなくて、なきついてきた

 面白いのは、長女が気に入ったアンチャーテッドの非ゲーム機的インターフェイスは、コアゲーマーであればあるほど嫌う傾向が強いこと。知り合いに聞くと、タッチ操作などにネガティブな返事が返ってくる。「コントローラから指を離さないとならないなんて」、「画面を指で遮るのは受け容れられない」、「ゲームの集中が妨げられてイライラする」……。自分でやっても、まあ、その気持ちはわかるのだが、そのおかげでユーザーが一人増えるところを目の当たりにすると、否定的にはなれない。

 長女にとっては全てゲームコントローラで操作するPS3版アンチャーテッドは、手を出す気になれないくらい難しく見える。それが、PS Vitaでの体感操作になると、いきなり簡単に感じられるようになる。いったんゲームコントローラに慣れてしまったゲーマーには、そのギャップの深さは想像がつかない。そして、そのバリアが取れれば、ちゃんとアンチャーテッドみたいなタイトルだって、人はプレイするわけだ。

●アナログスティックが次男とゴトウにとって最大の魅力

 次男とゴトウ自身にとってPS Vitaの魅力はというと、長女とはまったく逆で、“まともなアナログスティック”がついた、という点が大きい。PSPでは、あの使いにくい“アナログパッド(としか言いようがない)”しかなかったことで、アクションゲームでは泣かされた。戦国無双で指がつった時に、ついにPSPでアクションゲームをやることを諦めた。というわけで、ポータブル機で、まともなアナログスティックを切望していたので、PS Vitaに感激した。

 こうして見ると、PS Vitaの利点は、少なくともウチに関しては、ゲーム機とスマートフォン&タブレットの両世界のインターフェイスの“いいとこ取り”という点に集約される。そのインターフェイスの結果、次男と長女のどちらの側にもアピールした。例えば、ニンテンドー3DSの時は、長女にはアピールしたが、操作系が変わらなかったために、次男にはあまり受けなかった。とはいえ、PS Vitaのインターフェイスの利点が生きるかどうかは、タイトルに依存する。

 例えば、今回、PS Vita版の「塊魂 ノ・ビ~タ 」を買ったのはリベンジで、PSP版の塊魂のやっかいな操作に苦しみ、iPhone版「塊魂モバイル」のジャイロ操作でいらついたからだった。その点で、PS3版の操作系を拡張したPS Vita版塊魂の操作系は、自分や次男にとっては、文句なしだった。ところが、PS Vita版の塊魂は、iPhone版で導入されたジャイロでの筐体を傾ける操作はなしで、そうすると、長女にはそこそこしかヒットしない。長女は、次男がアンチャーテッドをやってる間、もう1台のPS Vitaで塊魂をやっていたが、中盤までしか進めなかった。アンチャーテッドを終えた次男が引き継いで最後のステージまで進めた。

PS3とXbox 360で塊魂をやり込んだ次男にはPS Vita版塊魂の操作系が好評最初の1週間ほどは長女がPS Vitaを持ち歩いて塊魂をやっていた

 ともあれ、PS Vitaの戦略自体は、ウチのケースでは、それなりに当たっているように見える。ゲーム機とスマートフォンの両方のインターフェイス群を取りこみ、カジュアルゲーマー層をより深いゲームの世界に誘うというストーリは、働いている。とはいえ、手放しでは評価できない。

 まず、ウチのようなシチュエーション(PS Vitaでアンチャーテッドをプレイしているのを見て、ライトユーザーがプレイし始めるという幸運)が、それほど一般的とは思えない。それに、タイトルがこぞって同じ方向で進んでいるわけではない。アンチャーテッドのように、うまく誘えるタイトルが続かなければダメで、それは、かなり難しい(そもそも、アンチャーテッドがゲーム機のローンチタイトルとしては異例に豪華)。ましてや、この利点を、世間に理解してもらい、売り上げに結びつけることは至難の業だろう。

●奥さんをコキ使ってモバイルデバイスを予約

 今回、PS Vitaは、トイザらスで並んで予約した。正確には、奥さんに早朝並んでもらって予約した。ちなみに、ゴトウはiPhone 4Sも3DSも、人のいい奥さんに並んで買ってもらったという、とんでもないヤツだ。ところが、早朝から並んでもらったのに、列の人数はトイザらスの予約券の配布枚数以下。その段階で、すでに並ぶ必要がなかったうえに、ウチでヌクヌクしながらAmazonをポチり続けていたゴトウが、そちらでも予約できてしまったので、PS Vitaの予約は2つになってしまった。そして、今は、PS Vitaは普通に量販店で買える状態で、せっかく並んでもらった意味は全くなかった。このあたりは、PS Vitaの置かれている現状を象徴している。人がゲーム専用機に費やすカネと時間が減りつつある影響が出ている。

 実際、ウチを見ても、ゲーム機に回す余暇時間と予算はそれなりに減っている。ゲーム機が娯楽での支配的なデバイスではなくなってしまったからだ。リビングでも、外出時でも、モバイルデバイスがどんどん浸透して、それがライフスタイル自体を変えつつあり、ゲーム機はそれに押されている。

 例えば、長女は、塊魂を進めて、そのあとはアンチャーテッドを終えるまではPS Vitaを抱え込んでいたが、あとは、タブレットに戻ってしまった。「みんなのゴルフ 6」のような軽めのも揃えたのだけど、そっちはヒットしなかった。長女はDSiの時は、かなり長いこと独占して抱え込んでいたのに、3DSとPS Vitaではそうなっていない。

 次男は、ゲーム機に割く時間が一番多いのが、PS Vitaではそれほど続いていない。「塊魂と無双は、もうさんざんやったから」と言ってフルにはプレイせず、「地獄の軍団」を始めたのだが、これも途中で放り出してしまった。次男は「オーバーロード」のようなピクミン系のゲームが大好きだが、地獄の軍団はヒットしなかった。今は据え置きコンソールに戻って、戦術戦略シミュレーションの「R.U.S.E.(ルーズ)」(第2次世界大戦の兵器に凝っているため)をプレイしている。そして、次男も、ゲーム機ではなくタブレットを使っている時間が急速に増えている。

●タブレット4台を家の中に分散して配置

 ウチで今起きているのは、タブレットが他のデバイスから時間を吸い取る現象だ。そして、タブレット化にともなって、タブレットの台数も増えてきた。

 合計4台のタブレットは、ホームコンピュータとして初代iPadとXOOMの2台をリビングに置き、ゴトウの仕事場にプライベート用コンピュータとしてGalaxy Tab 10.1を残し、Kindle Fireを海外出張時のコンテンツビューアとして使っている。

リビングは旧iPadとXoomの2台だが、取り合いが頻発

 そして、タブレットが、子どもたちのコンピュータの使い方を劇的に変えた。3人の子どものうち中学1年の次男と小学6年の長女は、iPadから1年半で、PCからタブレットへとすっかり移行してしまった。子どもたちにタブレットを別段薦めたわけではないのに、驚くほどタブレットに夢中になった。

 まず、リビングにいる間の半分ほどの時間、子どもたちはタブレットを抱えている。TVを見ていても、話をしていても、何かあると、すぐにタブレットでWebを調べる。動画を見るのも、マンガを読むのも、タブレットで、コンソールゲームの攻略情報もタブレットで調べる。ゲーム自体もタブレットでプレイすることが増えた。ふと見ると「Angry Bird」をやっているし、最近では、“なめこ”を1週間くらい栽培していた(「なめこ栽培」というゲーム)。無料ゲームやお試し版ゲームが山のようにあるので、中にはヒットするタイトルが出てくる。有料コンテンツも安いので、ついつい増えて行く。

世間と同様にゴトウ家でもなめこを栽培ウチでロングヒットしているAngry Bird

 ウチでは長いこと、10フィートのディスプレイ距離(TVの視聴距離)でコンピュータを使えるようにしようと試みて来た。PCでのリモコン操作環境だけでも、何通りも試したし、PS3をリビングの基本のWebアクセス端末にしようかともやってみた。ところが、こうした10フィートUI(ユーザーインターフェイス)の努力は、タブレットの1フィートのディスプレイ距離(手元の距離)に簡単にひっくり返されてしまった。

 もちろん、変わったのは距離だけでなく、入力メソッドも変わった。子どもたちは、タブレットのインプットとして音声入力を使うため、標準で日本語音声認識が使えるAndroidタブレットの方が好きだ。ソフトウェアキーボードすらレガシーの、あまり使われない機能になってしまった。

●タブレットが家の構造も変えつつある

 結局、ウチのリビングでは、ホームコンピュータがPCから完全にタブレットに移行しただけでなく、入力もキーボード&マウス(あるいはコントローラ)から、音声&タッチの、よりナチュラルなユーザーインターフェイスへと一気に移行した。そして、コンピュータの利用頻度が劇的に上がり、子どもたちのデジタル依存化が急に進んだ。今ではウチでは誰もがタブレットをホームコンピュータとして使うようになり、リビングでは脱PC化が急速に進みつつある。

 ゴトウ自身の外出時のデバイスも、昨年の頭にスマートフォン2台になってからモバイルデバイス化が進んだ。現在は、PS Vitaをお試しで持ち歩き、時々Galaxy Tab 10.1を持ち歩きと、モバイルデバイスだらけ。しょうがないので、スマートフォンはiPhone 4Sだけに絞り込んだ。面白いのは、結果として、ゴトウは3.5型、5型、7型、さらに場合によっては10型または11型の画面デバイスを同時に持ち歩くことになったこと。そのため、画面サイズと解像度と視点距離で、新しい法則が見えてきた。

モバイルデバイスの画面解像度と面積の比較
PDF版はこちら

 こうしたモバイルデバイスによるコンピューティング環境の変化は、生活のいたるところに変化をもたらしている。現在、最も大きな影響は、タブレットが自宅の大模様替えまで引き起こしつつあること。タブレットによって、最終的にプライベートのマンガや小説、その他の本の電子化が進みつつあるからだ。

 ウチは1階の各部屋の壁面が本棚で埋め尽くされているのだが、それを電子化で段階的になくして居住面積を広げようとしている。そして、最終的には、タブレット化によって、個室がない長女のための個室パーティションを設けようという計画だ。生活に与えるインパクトでは、2010年の末にKinectのせいで犬を飼うようになって以来の大変化が始まりつつある。

ゴトウ家の本棚配置(PDF版はこちら)

(2012年 1月 6日)

[Text by 後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)]