後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Atomスマートフォンで勝負をかけたIntel



●スマートフォンとUltrabookとサーバーがIntelのターゲット

 三題噺風に説明するなら「スマートフォン&タブレット、Ultrabook、サーバー&HPC」となるのが、Intelが先週北京で開催したカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF) Beijing 2012」だ。Webキャストで流したキーノートスピーチから、この3トピックに分けられており、Intelが注力している分野が明瞭に見える。そして、特に、中国で開催したIDFだからこそ強調していたのはスマートフォンだ。

 Intelの中国ビジネスを取り仕切るSean M. Maloney氏(Executive Vice President, Chairman, Intel China)は、「Intel and China, Creating the Future」と題したキーノートスピーチで、中国でのスマートフォンの成功にスポットを当てた。Atomベースのスマートフォンが中国を中心に立ち上がり始めたことを強調。LenovoのAtomベーススマートフォン「K800」を紹介した。

Intelプラットフォームのスマートフォン出荷実績 LenovoのK800

 このキーノートスピーチで面白いのは、スマートフォン&タブレットの戦略を説明するに当たって、まず、プロセス技術の説明から入った点。Maloney氏は、ステージにIntelが22nmプロセスで導入した3Dトランジスタ技術「トライゲート」の大型模型を持ち込み、ゲート電極が3方向からチャネルを囲むようになることで電流をより制御しやすくなることを説明。トライゲートトランジスタにより、同じパフォーマンス時に電力を半分にできることを強調。そのため、Intelの22nmプロセス技術は、小さなポータブルデバイスに向いていると結論づけた。

Intelの22nmプロセス

●低電圧時にクロックが高い3Dトランジスタ

 これには多少説明が必要だ。3Dトランジスタの大きな効用の1つは、電源電圧のスケーリングだ。従来のプレーナ型トランジスタと比べると、低電圧時の動作クロックをずっと高くできる。下はIntelが示したチャートで、例えば0.7Vで駆動した場合には32nmプレーナトランジスタに対して、22nmトライゲートトランジスタは37%も速く動作する。

22nmトライゲートトランジスタのメリット

 そのため、Intelの22nm 3Dトランジスタで製造したCPUでは、特に低電圧版のパフォーマンスが上がる。これとほとんど同じ説明は、先月開催されたCommon Platform Tech ForumでもSamsungが行なっている。Samsungは、3Dトランジスタ化によってキャリアの移動度がほぼ1.5倍に上がると説明しており、Intel同様に低電圧時のパフォーマンスアップを見込んでいる。

トランジスタの断面図比較
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 こうして見ると、低電圧で性能がよくなるのは、3Dトランジスタ一般の特長であることがわかる。しかし、現状では3Dトランジスタを量産にまで持って行くことができたのはIntelだけなので、Intelだけの利点となっている。

 他のベンダーは14nmプロセスから3Dトランジスタの予定で、立ち上げは2015年頃になる見込みだ。Maloney氏は、Intelが2013年には22nmプロセスのスマートフォン向けAtomを投入することで強力な競争力を持てることを強調した。Intelは当面は、3Dトランジスタの先行者の利を享受できるだろう。ただし、製造の難度が上がるというリスクつきだが。

Intelのプロセスルール移行図
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●スマートフォン&タブレットのAtomを急速に発展

 低電圧時に高パフォーマンスを発揮する3Dトランジスタを武器に、スマートフォンへ切り込む。これが、現在のIntelのモバイル戦略だ。Maloney氏はその戦略を、より具体的なロードマップで示した。下がIntelのスマートフォン向けAtom製品のロードマップだ。

IntelのAtomロードマップ

 現在出荷しているのが32nmプロセスの「Medfield(メドフィールド)」プラットフォームで製品名は「Atom Z2460」となる。CPUコアは、32nm版Atomコア「Saltwell(ソルトウェル)」のシングルコアで、GPUコアは「PowerVR SGX540」、2チャネルのLPDDR2のSoC(System on a Chip)「Penwell(ペンウェル)」だ。

 Maloney氏はMedfieldの後に、2倍パフォーマンスの「Atom Z2580」と、ローコストの「Atom Z2000」が続くことも明らかにした。Atom Z2580は、22nmプロセスでデュアルSilvermontコアの「Tangier(タンジール) SoC」ベースの「Merrifield(メリフィールド)」プラットフォームと見られる。Merrifieldの世代から、Intelの3Dトランジスタの強味が発揮され始める。

 ただし、Intelはタブレット向けの32nmデュアルコアの「Clover Trail(クローバートレイル)」プラットフォームを、Clover Trail+としてスマートフォン向けにも投入する予定で、この製品型番はそちらの可能性もある。ローコスト版は32nmプロセスでシングルコアの「Royston(ロイストン) SoC」ベースの「Gilligan's Island(ギリガンズアイランド)」プラットフォームと見られる。

 また、Maloney氏はタブレット向けプラットフォームについても言及。22nmプロセス化で競争力を増すことを示した。2012年の32nmプロセス「Cloverview(クローバビュー) SoC」ベースのClover Trailプラットフォームから、2013年には22nmの次世代プラットフォームに移るという。22nm版は「Valleyview 2」ベースの「Bay Trail(ベイトレイル)」プラットフォームを示すと見られる。

Clover Trail

 タブレットはこの段階でデュアルコアからクアッドコアになると推定される。初代のAtomは45nmプロセスでも相対的にCPUコアサイズが大きく、経済的なダイサイズの中でCPUコア数を増やすことが難しかった。40nmプロセス世代のCortex-A9と比べるとダイ面積の差は歴然としていた。22nmへと迅速に移行することで、コアサイズの不利は急速に緩和されると推測される。

各CPUのダイサイズ
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●Haswellの省電力機能Power Optimizer

 Ultrabookでは、Haswell世代のUltrabook技術について、ある程度の説明が技術セッションで行なわれた。

 Haswellでは「Power Optimizer」または「CPPM」と呼ばれるプラットフォームパワーマネージメントのフレームワークが導入される。これは、Haswellが電源オン状態にある時に、できるだけ長時間スリープ状態に置くようにする技術だ。周辺デバイスやソフトウェアからの割り込みとDMAアクセスを整理し、同期させることで、より長いアイドル期間を創り出す。

パワーオプティマイザの仕組み
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 IDF Beijingでは、CPPMのWindows 8のタイマ割り込みアーキテクチャとの関係が示された。Windows 8では、CPPMによって、より長いアイドル時間が可能で、それによって、より長い間、復帰レイテンシのあるスリープ状態に入ることができる。600msものアイドルが可能になることでアイドル電力の低減が可能になる。

パワーオプティマイザの仕組み

 Ultrabookの待機時の電力では、DRAMも大きな比重を占めている。昨年(2011年)9月のIDFでは、Haswell世代のUltrabookでLPDDR系メモリをサポートすることが示された。しかし、LPDDR3はチップ価格がDDR3Lの2倍以上と高価格で、x32構成しかなく、現状ではモジュール規格もないなど、PCでは使いにくい面も多い。

 そこで、今回のIDF Beijingでは、LPDDR3とともに、もう1つの選択肢としてDDR3L RS(Reduced Standby)またはDDR3Lmと呼ばれる新規格がSK Hynixから提案された。DDR3Lからの派生で、ローコストにスタンバイ電流を減らす製品だ。DDR3Lと比べて約70%もスタンバイ電力を減らすことができるという。

Ultrabookのメモリ対応

 こうした機能により、Haswellでは、携帯電話的にネットワークに接続しながらスタンバイできる「Connected Standby」が可能になる。これは、PCの使い方を変えようとする試みでもある。

●Haswellの次の世代からはPCHもワンパッケージに

 Haswellについては、IDFの技術セッションの中でPC向けチップセットの製造プロセスが久々に微細化することが明らかにされた。下のスライドが示すように、Intelチップセットは、4-Series以降は65nmプロセスで製造されて来た。Haswell世代のチップセット「Lynx Point(リンクスポイント)」からは32nmへ移行する。Lynx Pointは低電圧版ではCPUダイとともにMCM(Multi-Chip Module)でワンパッケージに収められるが、Haswellの次の「Broadwell(ブロードウェル)」世代からは、それが標準になることがわかる。

インテルのマイクロアーキテクチャ

 クライアントでは、Ivy Bridge(アイビーブリッジ)のメディアパフォーマンスがフィーチャされた。IntelのKirk B. Skaugen氏(Vice President, General Manager, PC Client Group)はキーノートスピーチで、Ivy Bridge自体はチック(プロセス移行のマイナーチェンジ)だが、グラフィックスはタック(マイクロアーキテクチャの刷新)だと説明。グラフィックスパフォーマンスは70%アップし、DirectX 11をサポートし、3画面出力に対応したと語った。