後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Xperia PLAYはPlayStation携帯か、ゲームが得意なAndroid携帯か



●Xperia PLAYの位置づけが異なる

 ソニー・エリクソンのゲーム向けスマートフォン「Xperia PLAY」がいよいよ米国で登場する。しかし、ソニー・エリクソンがXperia PLAYを、どういった位置づけにするのか、今ひとつ判然としない。Xperia PLAYには、「ゲームに最適化したAndroid端末」という顔と、「PlayStation Suite(PSS)のプラットフォーム」の2つの顔があるからだ。

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の発表では、Xperia PLAYは、スマートフォン&タブレット向けのソフトウェアゲームプラットフォームであるPlayStation Suiteが重要に見える。ところが、ゲーム開発カンファレンス「GDC(Game Developers Conference)」などでのQualcommやソニー・エリクソンの説明を聞いていると、ゲームがプレイしやすいAndroid端末である点に重点があるように見える。この2つの方向には、決定的な違いがある。それは、ゲームをAndroid SDK(Software Development Kit)とNDK(Native Development Kit)またはそれらで開発されたライブラリやエンジンで作るのか、SCEのPSSフレームワークで作る(またはエミュレーションで提供する)のか、という点だ。

 そして、この違いは、SCEにとって非常に重要な意味を持っている。それは、SCEのゲームソフトウェアプラットフォーム戦略が成り立つかどうかの正否が、かかっているからだ。第1号のPlayStation Suite認定ハードウェアであるXperia PLAYでつまづくと、SCEの戦略は瓦解してしまう可能性もある。

●Xperia PLAYでのPlayStation Suiteに温度差

 SCEは、ゲームプラットフォームとして台頭するスマートフォン&タブレットに対抗するために、2軸の戦略を立てた。1つは、同時期のスマートフォンを凌駕するスペックの「NGP(Next Generation Portable)」(コードネーム)によってゲーム専用ハードウェアを継続する戦略。もう1つは、スマートフォン&タブレット市場に、ソフトウェアベースのゲームプラットフォームで浸透するPlayStation Suite戦略だ。

 そして、後者のPlayStation Suite戦略は、ソニー・エリクソンから投入するXperia PLAYから始動する。SCEとしては、Xperia PLAYの差別化要素としてPlayStation Suiteを盛り立て、PlayStation SuiteをAndroid市場に浸透させたいところだ。ところが、PlayStation Suiteでのパートナーで半ば身内であるソニー・エリクソンには、かなりの温度差が感じられる。

Xperia Playを打ち出したGDCでのソニー・エリクソンブース

 実際、GDCでのXperia PLAYのセッションでは、ほとんどPlayStation Suiteの話は出てこなかった。主題は、AndroidゲームをXperia PLAYの操作系に対応させれば、快適なプレイを楽しめるゲームができる、といったトーン。つまり、Xperia PLAYは、ゲームコントローラがついたAndroid端末という位置づけだ。エコシステムの話で出て来るソフトウェアも「unity」など、スタンダードを確立しつつあるエンジン/ツール類。PlayStation Suiteについては、その上でゲーム市場を広げる要素という位置づけだ。

 GDC会場に設営されたソニー・エリクソンのブースでも、Xperia PLAYは大々的にアピールされていた。しかし、ブースのソニー・エリクソンの説明員は、「Xperia PLAY向けのゲームはどうやって開発すればいいのか」というデベロッパの質問に対して「ゲーム開発に必要なのはAndroid SDKとNDKだけ。他のAndroidデバイスの場合と何ら変わりはない。PlayStation Suiteは、今は考慮しなくていい」と答えていた。

GDCでのXperia PLAYのセッションのスライド

●Xperia PLAYとPlayStation Suiteに距離を置く

 こうした説明からは、「Xperia PLAY = PlayStation Suite」と受け取られることを、極力避けようとするソニー・エリクソンの意図が感じられる。少なくとも、PlayStation SuiteがXperia PLAYの切り札だと持ち上げる雰囲気ではない。PlayStation Suiteもあればいいけど、それよりXperia PLAYを活かしたAndroidゲームが揃うことの方が大切と位置づけている。

 これは、SCEにとって面白くない状況だ。SCEは、PlayStation Suiteをゲームプレイに最適化したXperia PLAYの最大の差別化要素としてアピール。その成功によって、PlayStation Suiteのサポートをさらに広げたいはずだからだ。今までのところ、Xperia PLAYのゲーム開発コミュニティへの売り出し方は、PlayStation Suiteのアピールに全くなっていない。

「PlayStation Meeting 2011」でのNGPに関するスライド

 もっとも、これは現状のソニー・エリクソンとしては、当然の対応かも知れない。あてになるのかどうか判然としないPlayStation Suiteを待つより、既存のAndroidデベロッパを取りこむことが急務だからだ。足の速いスマートフォン&タブレットの世界では、初速が肝心。早い段階で、ゲーム向けコントローラを持つというXperia PLAYの強味をアピールできるタイトルを揃えたい。

 その上で、今後、PlayStation Suiteが差別化要因となるなら、それは歓迎する。そんなスタンスだと考えれば、Xperia PLAYの位置づけも納得できる。少なくとも、PlayStation Suiteと浮沈を共にするというリスクは避けられる。

●まだ未知数のPlayStation Suite戦略の行方

 Xperia PLAYの状況は、SCEのPlayStation Suite戦略の難しさを浮き彫りにしている。

 まず、SCEはPlayStation Suiteを大車輪で急いで整える必要がある。速度が速いスマートフォン&タブレットの世界では、数カ月の遅れが致命的になる。それに追いつくだけの開発力をSCEが発揮できるかどうかが、最初の試練となる。

 PlayStation Suiteは、PlayStationタイトルのソフトウェアエミュレータからからスタートする。PlayStation時代の旧作タイトルのリサイクルだ。しかし、戦略の主眼は、次のステップでSCEが提供する、Android上のソフトウェアプラットフォームでの新作ゲームタイトルにある。SCEがこうしたソフトウェア開発を順当に進められるかどうか、そこに疑問があれば、Androidデバイスベンダー側もついてこないだろう。

 もうひとつのポイントはビジネスモデル。SCEは、ゲーム機で培ったPlayStationブランドバリューと品質管理、そしておそらくはPlayStation Storeのシステムも導入しようとしている。つまり、玉石混淆で、面白いタイトルを見つけるのも一苦労のスマートフォンゲームの世界に、ゲーム機並の安心ブランドを持ち込む戦略だ。

 この戦略のゲーム業界に対するアピールの1つは、おそらくゲーム価格だ。SCEの戦略に乗れば、PlayStationバリューでゲーム価格をAndroidゲームの水準より引き上げることができる可能性が出てくる。スマートフォン&タブレットでは、どうやってゲームで金を稼ぐかが最大の問題で、大手デベロッパは価格を低く抑えなければならない点で苦労している。悪くすると、「価格をほどほどに抑えなければならない→ゲームに開発費をかけられない→ゲームの品質が落ちる→ユーザーから価格に見合わない品質だとブーイングを受ける」のネガティブスパイラルに陥ってしまう。最初からある程度の価格設定が期待できるなら、ある程度開発費をかけて充実したタイトルをリリースすることができる。

 しかし、現状のスマートフォン&タブレットゲームは、高くても数百円で、無料がむしろスタンダード。PCソフトウェアの黎明期のような状態で、エコシステムがまだ確立していない。この混沌とした状況で、PlayStation Suiteのブランドが価値を持てるかどうか、まだわからない。

 ある米国のゲーム業界関係者は「ゲームが1ドル2ドルのところへ、PlayStation Suiteが10ドルでゲームを出しても、失敗するだろう」とコメントする。重要な点は、こうした見方が海外では決して珍しくないことだ。エンドユーザーも、スマートフォン&タブレット市場では、そうした価格意識でいることを意味している。

●半導体的には普通のスマートフォン

 ゲームプレイに適していると言っても、Xperia PLAYはそれほどリッチなマシンではない。中身は、ある意味、普通のスマートフォンだ。

 コアチップはQualcommのSnapdragonで、動作周波数は1GHz。現行世代のSnapdragonのCPUコアは「Scorpion」で、Xperia PLAYのGPUコアは「Adreno 205」。Scorpionは、ARMv7命令セットアーキテクチャで、Qualcommの独自設計で2-wayスーパースカラ構成となっている。パイプラインは整数で10〜12。アーキテクチャ世代と実装的には、ARM Cortex-A8やCortex-A9あたりと並ぶ。GPUコアはAMDから買収した、旧ATI Technologiesの携帯向けGPUコアの資産を発展させたもの。

 デュアルCPUコア+デュアルGPUコアのiPad 2のApple A5と較べると、Xperia PLAYのSnapdragonは従来の水準のハードウェアで、驚くようなスペックではない。Qualcommは次世代のデュアルコア版Snapdragonをすでに発表しているが、Xperia PLAYは採用していない。Xperia PLAYのチップ選択の背景には、他のXperiaファミリとの共通性によって開発のコストとリスクを下げる目的もあったと推測される。

 こうした、無理をしないハードウェアスペックにもXperia PLAYの方向性は明瞭に示されている。Xperia PLAYはゲームにゴリゴリに最適化したデバイスではなく、半導体チップレベルでは、あくまでも標準的なスマートフォンで、それにゲームコントローラをプラスしたデバイスだ。このように、半導体チップレベルで見ると、Xperia PLAYを、ゲームが得意なAndroidスマートフォンと位置づけるのはごく自然かも知れない。

Scorpionの概要