Hothotレビュー

「VAIO Phone Biz」

~ハイスペックなビジネス向けWindowsスマートフォン

VAIOが4月に販売を開始する予定のVAIO Phone Biz

 VAIO株式会社より発表された新しいWindowsスマートフォンが、「VAIO Phone Biz」となる。本製品は、SoCにQualcommのSnapdragon 617(MSM8952、Cortex-A53オクタコア+Adreno 405)、メモリ3GB/ストレージ16GB、5.5型のフルHD液晶ディスプレイを搭載し、それをアルミ削り出しのボディで包んで、重量は約167gとなっている。

 その特徴はなんと言ってもOSにWindows 10 Mobileを採用していることで、デスクトップPCで使われているWindows 10向けに作られているUWPアプリがそのまま動くこと、さらにはContinuum for Phonesと呼ばれる機能をサポートしており、スマートフォン側のディスプレイと外付けディスプレイの2つを利用して、UWPアプリをPC的に利用できる点だ。

 今回はその試作機を発表に先立ってテストする機会を得たので、レビューを行なっていきたい。なお、今回の試作機は、最終的な製品ではなく、セルラー回線への対応、Wi-Fiアンテナの感度などが実際の製品のレベルに達していないという注意書きがあるサンプルであり、実際の製品版では異なる場合があるということをお断りしておく。

Snapdragon 617を搭載しているVAIO Phone Biz

 本製品の基本的なスペックは以下の通りになる。なお、このスペック表はVAIOから公式発表されたものに、筆者側の取材や実機でのチェックで判明したものを追加したものとなる。

【表1】VAIO Phone Bizのスペック(VAIOの資料より筆者作成、いくつかの項目は筆者により追加)
SoCメーカー/SKUQualcomm Snapdragon 617(MSM8952)
CPUCortex-A53(1.5GHzクアッドコア+1.2GHzクアッドコア)
GPUAdreno 405
メインメモリ(RAM)3GB(LPDDR3)
ストレージ(ROM)内蔵16GB
拡張microSD(SDXC対応、最大64GB)
ディスプレイサイズ5.5型
解像度1,920×1,080ドット
Continuum対応(無線のみ)
セルラー回線3GW-CDMA(バンド1/6/8/11/19)
4G/LTELTE(バンド1/3/8/19/21)
LTE-A最大受信速度225Mbps
LTE最大受信速度150Mbps
3G最大受信速度42.2Mbps
無線Wi-FiIEEE 802.11a/b/g/n/ac(2.4/5GHz)
Bluetooth4.0
テザリング対応(Wi-Fi/Bluetooth)
I/OSIMカードmicroSIM/Nano SIM(*非サポート、microSDと排他)
USBMicro USB×1(2.0、OTG対応)/充電(*非公式ながらQC2.0対応)
ヘッドフォン端子
SDカードスロットmicroSD×1(Nano SIMスロットと排他)
スピーカー内蔵モノラル
センサーNFC-
GPS
地磁気センサー
加速度センサー
カメラ前面500万画素
背面1,300万画素
バッテリ内蔵(2,800mAh)
外寸約77×156.1×8.3mm(幅×奥行き×高さ)
本体重量 約167g
VAIO Phone Bizのデバイス情報、OSの初期ビルドは10586.29、SoCがMSM8952、メモリ3GBなどが分かる

 本製品はSoCにQualcommのSnapdragon 617を採用している。現在発売されているWindows 10 Mobileを搭載したWindowsスマートフォンには、5つのSoCが採用されている。それがプレミアム向けのSoCとされるSnapdragon 810/808、ハイエンド向けと位置付けられるSnapdragon 617、メインストリーム向けとされるSnapdragon 410、バリュー向けとされるSnapdragon 210となる。

【表2】Windows 10 Mobileを搭載したスマートフォンで採用されているSoC
ブランドSnapdragon 810Snapdragon 808Snapdragon 617Snapdragon 410Snapdragon 210
型番MSM8994MSM8992MSM8952MSM8916MSM8909
CPUCortex-A57×4/A53×4(最大2GHz)Cortex-A57×2/A53×4(最大1.8GHz)Cortex-A53×8(最大1.5GHz)Cortex-A53×4(最大1.2GHz)Cortex-A7×4(最大1.1GHz)
GPUAdreno430Adreno418Adreno405Adreno306Adreno304
メモリLPDDR4-1600(2×32bit)LPDDR3-1866(2×32bit)LPDDR3-1866LPDDR2/3-1066MHzLPDDR2/3-1066MHz
ストレージeMMC5.0eMMC5.0eMMC5.1eMMC4.5eMMC4.5
ディスプレイ4K+4K(外付)QHD+4K(外付)FHD+外付けWUXGA+720p(外付)720p+外付け
Miracast1080p/60Hz1080p/60Hz非公表720p非公表
USBUSB 3.0/2.0USB 3.0/2.0USB 2.0USB 2.0USB 2.0
Wi-Fi/BT802.11ac/BT4.1802.11ac/BT4.1802.11ac/BT4.1802.11n/BT4.1802.11n/BT4.1
モデムX10 LTE(CAT9)X10 LTE(CAT9)X8 LTE(CAT7)CAT4X5 LTE(CAT4)
製造プロセスルール20nm20nm28nm LP28nm LP28nm LP
ターゲットセグメントプレミアム製品向けプレミアム製品向けハイエンド向けメインストリーム向けバリュー向け
Windowsスマートフォンでの採用例Microsoft Lumia 950 XLMicrosoft Lumia950、Acer JadePrimoVAIO Phone Biz/トリニティ NuAns Neoマウスコンピューター MADOSMAなどプラスワンマーケティング FREETEL Katana.01/02など

 Snapdragon 617は今年(2016年)に入ってから出荷が開始されたばかりの製品で、メインストリーム向けの410や210に比べると、Cortex-A53のオクタコア構成(実際には1.5GHzのA53が4コアと、1.2GHzのA53がbig.LITTLEとして動作する)に強化されており、CPUの処理能力が向上している。

 さらにGPUが最新世代のAdreno 400シリーズに強化されていることも大きな違いとして挙げられる。Adreno 400シリーズの特徴は最新のAPIに対応していること。Snapdragon 410に採用されているAdreno 306などは、Direct3D 11のFeature Level 9.3までをサポートしており、実質Direct3D 9.3までの対応に対して、Adreno 400シリーズではDirect3D 11のFeature Level 11.1に対応しており、最新の3Dゲームも実行できることが特徴となっている。

GFXBenchのinfoタブを表示しているところ。GPUのAdreno 405はDirect3D 11のFeature Level 11.1に対応していることが分かる

 Windows 10でサポートされる新しいアプリケーションであるUWP(Universal Windows Platform)アプリでは、Direct3D 11に対応していることが求められており、ソフトウェア的にDirect3D 11と互換性を実現しているDirect3D 11 Feature Level 9.3のハードウェアでも実行できるが、十分な性能が出るとは言えない状況だ。従って、ハードウェア的にDirect3D 11をサポートするAdreno 400シリーズになっていることは、将来的にUWPのゲームなどが増えてきた時にSnapdragon 617のメリットとなる可能性がある。

 ではプレミアムSKUの810に搭載されているAdreno 430や808に搭載されているAdreno 418と617に搭載されているAdreno 405の何が違うのかと言うと、実のところよく分からない。Qualcommはこうした詳細を明確には情報公開しておらず、詳細は不明だ。ただ、810は内蔵ディスプレイが4Kに、808は内蔵がQHDに対応となっているのに対して、617はフルHDまでの対応となっており、内蔵の演算器の数などが異なっているのだろうと推測できる。また、もう1つ810/808との大きな違いはUSBのサポートで、810/808がUSB 3.0に対応しているのに対して、617はUSB 2.0までの対応となっている。

 つまり、Snapdragon 617は、下位モデルからオクタコアを採用することでCPU性能が強化され、最新世代のGPUを採用しているが、上位から4K/QHDとUSB 3.0への対応は落とされている製品と見て良い。フルHDまでで、USB 3.0が必要なければ、価格は810/808に比べて安価に設定されているので、コストパフォーマンスが高い製品が作れるわけだ。

QuickCharge 2.0に対応し、対応ACアダプタで急速充電可能

 それ以外のハードウェアに関しても、本製品はWindowsスマートフォンの中ではかなりハイスペックになっている。最大の注目はメインメモリ(スマートフォン的に言うとRAM)が3GBとなっている点だ。後述するContinuum for Phonesを利用する場合、PC的な使い方になるので、メモリはより多くあった方がいい。実際、Microsoftが公表しているContinuum for Phonesのスペックでも、最低2GBで、3GBを奨励するとされている。より快適に利用するのであれば、メモリは多いに越したことはないのだ。

 ストレージ(スマートフォン的に言うとROM)は16GBになっている。内蔵のストレージに関しては多い方がいいか少なくても問題ないかはユーザーにより異なっているが、筆者は音楽や動画ファイルをスマートフォンに入れるかどうかが評価の分かれ目だと考えている。スマートフォンのストレージを消費している要因はその2つなので、それをスマートフォンに入れて使う人にとっては16GBでは心許ないと言えるし、そうでなければ16GBで十分だと言える。本製品の場合は用途が、ビジネス向けのセカンド機というユーザーが多いと考えられるので、16GBで特に問題がないだろう。

 なお、microSDカードを内蔵することは可能なので、必要であればそちらに動画や音楽ファイルを入れれば良い。公式なスペックでは64GBのmicroSDXCまで対応と謳われているが、これは動作検証が行なわれたのが64GBまでという意味で、128GBなどのmicroSDXCカードも基本的には問題なく動作するはずだ(あくまで非公式にという意味になる)。

公式スペックでは急速充電には未対応となっているが、本体はQuick Charge 2.0に対応しており、9Vで充電することができていた

 非公式という意味では、充電端子となるMicro USB端子に関しても、“非公式”な機能がある。公式なスペックでは急速充電には対応ないとされているのだが、実機でQuick Charge 2.0対応の充電器に繋いで電圧を確認したところ、9Vで充電されていることが分かった。VAIOに確認したところ、「標準添付のACアダプタはQuick Charge 2.0非対応で、サードパーティの充電器に関して検証を行なっていないので非対応としている」という回答が帰ってきた。要するに本体側の機能としてQuick Charge 2.0には対応しているが、検証などが行なわれていないため、公式には非対応ということだ。非公式の機能であるが、これは嬉しいところだ。

 液晶ディスプレイが5.5型のフルHDの解像度になっていることも見逃せない。もちろん、このサイズの液晶で解像度が高くてもあまり意味がないのではないかという議論はある。しかし、本製品のように、ビジネス用途がメインだと考えると、例えばPDFファイルなどを表示する時により細かく表示することができ、ズームした時もより綺麗に表示できる。この点で、フルHDの解像度のパネルという価値が出てくるのではないだろうか。

VAIO Phone Bizの外箱、現時点では出荷バージョンではなく出荷までに変更される可能性もある
蓋を開けたところ、本体が入っている
中蓋を開けるとACアダプタとUSBケーブルが入っている
ACアダプタは5V/2Aで、QuickCharge 2.0には非対応
ディスプレイは5.5型のフルHD(1,920x1,080ドット)
背面のカメラ部分、1300万画素
背面はアルミ削り出しのがっしりとした高級感あるデザイン
本体の右側面、SIMカード、microSDカードスロットがある。ピンで押して取り出す方式
本体上面、ヘッドフォンジャックがある
本体左側面、電源ボタンとボリュームボタンがある
本体下面にはMicro USB端子が用意されている、USB 2.0でOTG対応

デュアルSIM構成になっており、micro SIMとNano SIMを切り替えて利用できる

 本製品はNTTドコモおよびソフトバンクモバイルの3G/LTEセルラー回線に対応している。筆者の手元にあったNTTドコモのSIM(MNOとしてのNTTドコモと、MVNOのIIJmio)で試してみたが、どちらも問題なく通信できた。なおAPNの設定には、mopera U/SPモードのNTTドコモ標準のAPNのほか、各種MVNOのAPN(mineo.jp、OCN、Biglobe、dmm、umobile、So-Net、Hi-Ho、Nifty、b-mobile、楽天モバイル、WirelessGate、VAIO)が標準状態で導入されていた。

 なお、au/KDDI回線を利用するauのプリペイドSIMカード、mineoのSIMカードも試してみたが、どちらも電波を掴まなかった。auのLTE回線の場合、バンド1(2~2.1GHz)、バンド11(1.5GHz)、バンド18(800MHz)、バンド26(800MHz)などがあるが、本製品の場合はバンド1のみが対応になる。au/KDDIのメインは800MHz帯の方で、それに比べると2GHz帯のカバーレンジは少ないとされており、安定して利用するには800MHz帯への対応が必須だと考えられる。また、au/KDDI回線の場合には3GはW-CDMAではなく、CDMAになるため、そちらも本製品は対応していない。このため、公式スペック通り、au/KDDI回線では使用できないと考えた方がいい。

 本製品のSIMカードスロットは非常にユニークな構造になっている。ピンで小さな穴を押してカードスロットを引き出すという形はiPhoneなどと同じなのだが、SIMカードを入れる場所は2つあり、手前側にNano SIMカードを、奥側にmicro SIMカードを入れる仕組みになっている。というのも、本製品はハードウェア的にはデュアルSIMに対応しており、2枚のSIMを入れることができるのだ。ただし、同時に使える組み合わせは、LTE+GSMないしは3G+GSMだけで、通信キャリアがGSMの電波を出していない日本では実質的には利用できない。

 しかし、海外で使う時に、今でもGSMが利用できる国などに行った時には、日本のSIMをGSM側に設定し音声ローミングし、現地で買ったプリペイドSIMをデータ通信に利用するという使い方が可能だ。この時に、日本でNano SIMを使っていても、micro SIMを使っていても、どっちでも使えるのは非常に便利だろう。

 ただし、Nano SIMカードの場所は、microSDカードと共用スロットになっており、排他となっている。つまり、Nano SIMカードか、microSDカードかどちらかしか選択できないということだ。このため、VAIO公式には、micro SIMカードのみに対応としており、Nano SIMカードのスロットは、基本microSDカードの利用ということを前提にしている。microSDカードを使わなくて良ければ、日本でもmicro SIMカード、Nano SIMカード両方にSIMカードを入れて利用することは可能で、その場合Windows 10 Mobileの機能を利用して切り替えて利用できる。切り替えにはコールドブートは必要ではなく、Windows 10 Mobileの設定項目のセルラー回線のところで、切り替えられる。一度フライトモードになった後、10秒程度で切替が完了する。2つのデータSIMを持っていて切り替えて使いたいなどのニーズがあれば便利な機能となるだろう。

本体の左側面に用意されているカードスロット、トレイ方式でピンで押すことで取り出せる方式
このような形で本体に装着する
奥側がmicro SIMスロット、手前がNano SIMスロットとmicroSDカード排他のスロット
初期導入されているNTTドコモおよびそのMVNOのAPNリスト、主要なMVNOはサポートされている
デュアルSIM構成なので、このように電話のアプリが2つ表示されている
Windows 10 Mobileの設定を利用して2つのSIMカードを切り換えられる

性能面では若干の課題があるが、PC的に利用できるContinuum for Phones

 本製品の目玉と言える機能がContinuum for Phonesになるのは、別記事のインタビューで触れている通りだ。そのContinuumの使い勝手について見ていきたい。本製品のContinuum for Phonesは、有線、無線という2つの接続機能があるContinuum for Phonesの接続方法のうち、無線接続のみになる。これはSnapdragon 617のUSBコントローラがUSB 2.0にしか対応していないことが最大の要因で、有線による実装ができないためだ(Snapdragon 810/808を搭載しているMicrosoftのLumia 950/950 XLやAcer JadePrimoは有線接続ができる)。

 本製品のContinuum for Phonesを利用するには、Miracastのレシーバと、Wi-Fi Directを利用してTVやPCディスプレイなどのHDMI入力に画面を出力する必要がある(解像度はフルHD固定で変更できない、DPIは大/小2段階で設定できる)。基本的にMiracastのレシーバであれば使えるのだが、市販されているMiracastのレシーバは世代の違いなどによって性能的に十分ではない場合などもあるため、VAIOではActiontecの「ScreenBeam Mini 2」を推奨環境としている。

 なお、ScreenBeam Mini 2には、USBキーボードやマウスをMiracastレシーバ側に接続して利用できるYケーブル(充電用のUSB端子とデータ接続できるUSBポートに分岐するケーブル)が標準でバンドルされている「ScreenBeam Mini 2 Continuum」(日本では2月11日発売=別記事参照)と、それが付属していない通常版(現在日本で販売されているのはこちら)がある。ただし、基本的なハードウェアは一緒で、通常版に市販のYケーブルを組み合わせても利用することができたので、今回はそれを利用した(メーカー推奨の使い方ではないので、やる場合は自己責任で)。なお、ScreenBeam Mini 2は、ファームウェアが古いとうまく接続できない場合があるので、AndroidやWindows用のアップデートツールを利用して最新版(記事執筆時点では5.3.9.0)に上げておこう。

 キーボードやマウスをYケーブルに接続して、ScreenBeam Mini 2をディスプレイのHDMIポートに接続すれば、ハードウェア的な準備は完了だ。後は、本製品のContinuum設定ツールから無線接続を選び、表示されているMiracastのレシーバを選ぶ。後はスマートフォンのディスプレイをタッチパッドとして使うこともできるし、スマートフォン側のディスプレイもアプリの表示に利用できる。なお、外付けディスプレイに表示できるアプリはUWPというWindows 10 Mobile向けの開発されたアプリのみになる。Windows Phone 8.1時代に作られたアプリで最新版にアップデートされていない場合には外付けディスプレイでは利用できないので注意したい。

 実際の使い勝手だが、Office Mobile(Word/Excel/PowerPoint)などを使っていると、PCを操作しているのかと思うほどで、Windows PCの操作に慣れている人ならすぐに操作できることができる。デスクトップ版のWindowsとの違いはウインドウ化できず全画面でしか利用できないことぐらいで、Alt+Tabを利用したタスクの切り替えなどにも対応している。

 ただ、実際に利用していると、動きが速い状態になると、Miracastの圧縮が追いつかなくなり、圧縮画面に特有の粗いが画面が一瞬表示され、その後正常な画面が表示されるようになる。ブラウザのスクロールなどでも同様に発生する。今回2.4GHz、5GHzの両方でテストしたが、どちらでも発生していた。

 同様のことは、米国版の「Lumia 950」を利用して米国版のScreenBeam Mini 2に接続するテストを米国で行なった時にも発生していた(有線で接続した場合にはそうした問題は発生しなかった)。同じ問題はMiracastのレシーバにWindows PCを接続した時に起こりうる課題なので、本製品の課題というよりは、Miracastで接続する場合にどの製品でも起こりうる問題だと考えていいだろう。

 現状では、無線で接続した場合の性能に関しては、Miracastを利用していることによる一定の制限があるが、ちょっとした作業であれば十分使うことができる。完全にPCの代替にはならないが、少なくともスマートフォン以上の快適さで文章の編集などができる環境がContinuum for Phonesだと言っていいのではないだろうか。

Actiontec ScreenBeam Mini 2、最新ファームウェアの5.3.9.0にアップデートすることで、Continuumでも活用できる。アップデートはAndroidやWindows用のアップデートアプリから行なうことができる。
Continuum版にはYケーブルが付属しているが、標準版には付属していないので、このように電源とUSB OTGポートを二股にする市販のYケーブルを使ってみたところ、MiracastのUIBCの仕組みを利用してキーボードとマウスを使うことができた
このようにScreenBeam Mini 2をディスプレイのHDMIポートに、キーボード、マウスなどをScreenBeam Mini 2につないだら準備完了。Continuumの設定ツールでScreenBeam Mini 2を探して接続する
接続にはおよそ十秒前後の時間がかかる
接続して見慣れたWindowsのデスクトップが表示されているところ
ブラウザ(Microsoft Edge)を表示しているところ
UWP対応のWordを外付け側に、メニューをスマートフォン側に表示している様子
意味があるかはともかくとして、スマートフォンの出力をミラーリング出力もできる
Miracastは常にデータを圧縮しながら送っているので、スクロールのように動きが速い表示させるとこのように圧縮が追いついていないような乱れた画面になる。これはLumia950でも発生するので、Miracastの課題だ

ベンチマークではSnapdragon 410/210を上回り、808に迫る性能を発揮

 最後に、実機を利用したベンチマークについて紹介しておきたい。現状、Windows 10 Mobile向けにはベンチマークは非常に限られており、スタンダードがない現状だ。Androidなどでお馴染みのAntutuもあり、実際に複数のマシンでテストしたのだが、テストの度にスコアがばらつく現状で、テストとしては適当ではないと判断して落とした。今回はばらつきがほとんどなかったPhoneMark Pro(CPU、メモリ、グラフィックス、ストレージ)と、GFXBench DX BenchmarkというDirect3Dの性能を測るベンチマークの2つを採用した。なお、ばらつきの影響を避けるため、それぞれ複数回テストを行ない、その平均値を取っている。

 比較対象として用意したのは、Snapdragon 808を搭載したMicrosoft「Lumia 950」、Snapdragon 410を搭載したマウスコンピューターの「MADOSMA」、Snapdragon 210を搭載したFREETELの「KATANA 01」の3つ。なお、Lumia 950については米国版で、日本では認定の関係で使えないので、テストは米国内で行っている。

左からVAIO Phone Biz、Microsoft Lumia 950、マウスコンピューター MADOSMA、FREETEL KATANA 01
本体重量は実測値で163gだった
【グラフ1】PhoneMark Pro
【グラフ2】GFXBench DX Benchmark

 結論から言えば、CPU、メモリ、ストレージ、いずれの試験でもSnapdragon 617を搭載している本製品は、Snapdragon 410/210を搭載したMADOSMAやKATANA 01を性能で上回っていることが分かる。かつ、特にグラフィックス周りに関しては上位製品と言えるSnapdragon 808を搭載しているLumia 950に近い性能を叩き出している。既に説明したとおり、Snapdragon 617のGPUであるAdreno 405はハードウェアでDirect3D 11に対応しており、GFXBench DX BenchmarkのDirect3D 11のテスト項目であるManhattanのベンチマークが実行できた。Snapdragon 410/210を搭載した製品ではこれらが実行できていないので、この差は十分に注目していいと思う。

コンシューマ向けのアプリや機能は不足だが、ビジネス向けとしては最高のW10M

 では、この製品をユーザーとしてはどのように評価すればいいだろうか。

 その鍵は、良くも悪くもWindows 10 MobileをOSとして採用していることにあると思う。Windows 10 Mobileをどのように評価するか、それによって本製品の評価も大きく変わってくると思う。

 まず、コンシューマの1台目のスマートフォンとして考えた場合はどうだろうか。この場合、OSとしてのWindows 10 Mobileの完成度に関しては問題ないのだが、課題は依然としてUWPアプリ、特に日本語でまともに使えるアプリケーションが少ないという点にある。かつ、アプリはあっても機能が、AndroidやiOS版に比べると少ないということもよく見かける。例えば、Facebookの公式アプリはいち早くUWPアプリになっているが、先日Facebookの新機能として実装された“リアクション”機能(超いいね、うけるね、ひどいねなどのいいねの発展系の機能)は未だに実装されていないのは典型的な例だろう。

 また、Twitter、Instagramなどの公式アプリもあるにはあるが、AndroidやiOS版に比べると機能は低い。Kindleなどの電子書籍のソフトウェアもほとんどないというのが現状だ。もちろん今はないだけで、今後Microsoftが努力を続ければ改善される可能性はある。だが、AndroidやiOSのデバイスを置き替える目的で買うと、やりたかったことができないということは十分に考えられる。コンシューマがAndroidやiOSのデバイスを置きかえて1台目として買うなら、UWPアプリが増えることを待たなければならない

 しかし、既にAndroidやiOSを持っていて、2台目としてビジネス用のスマートフォンを買おうと考えているのなら評価はだいぶ変わってくる。MicrosoftのOffice 365、そしてそれに付随するOneDrive for BusinessやSkype for Businessなどをスマートフォンでより効率よく使おうと考えているのなら、AndroidやiOSよりも使い勝手は良い。また、性能面で若干の不満は感じるものの、Continuumを利用して外付けディスプレイ、キーボード/マウスなどを接続すればPC的な使い方も可能になる。例えば、自宅と会社それぞれに、ScreenBeam Mini 2 Continuum、外付けディスプレイ、キーボード/マウスを置いておいて、PCの替わりとなる本製品を持って往復する、そういう使い方もありだと思う。

 また、Windows 10 MobileはMS-TCCというBluetoothの拡張プロファイルに対応しており、Windows 10のPCからスマートフォンを触らなくてもテザリングをオンにする機能も用意さている。そうした点はAndroidやiOSよりも優れている。

 そう考えていくと、本製品がターゲットになるのは、2台目のスマートフォンとしてビジネス用途のデバイスを検討しているビジネスパーソンが個人で買う用途や、企業での一括導入などということになる。VAIO側でもそれを意識してNTTドコモのIOT(相互接続試験)を通す予定だと説明しており、販路としてNTTドコモの法人営業部やダイワボウ情報システムなどの法人に強い販路も用意している。

 また、Snapdragon 617、3GBメモリ、5.5型フルHDの液晶ディスプレイというスペックは、現時点で日本で正式に発表されているWindowsスマートフォンの中では最高峰のスペックということになる。ビジネスで使うからにはできるだけ良いモノをと考えるようなビジネスユーザーでWindows 10 Mobileのデバイスを導入を検討しているのであれば、本製品は真っ先に検討してすべきだろう。

(笠原 一輝)