元麻布春男の週刊PCホットライン

あのピークシフトを、もう一度



●震災と停電

 3月11日に発生した東北関東大震災は、東日本、特に太平洋沿岸部の東北地方から北関東に、甚大な被害をもたらした。被災者の方には心からお見舞い申し上げるとともに、一刻も早い復旧を願っている。

 筆者は、地震のあった午後2時46分、いつものように自宅の仕事机に向かっていた。最初、ゆっくりとした横揺れを感じ、それが捻れるように揺れが大きくなるのを感じた。過去の小規模な地震がそうであったように、すぐに終わると思っていたが、いっこうに揺れがおさまらない。東京に住むようになって30年以上になるが、こんなに大きく長く続いた揺れは初めてだった。

 とりあえず縦に積んだNASが落下しないように、手で押さえた。棚の上からマザーボードの空き箱等が落下してきたが、空き箱だと分かっているので、頭上に落下するままにしてNASを押さえ続ける。背後でCDや本が雪崩れる音がしたが、構ってはいられない。ただジッとNASを押さえ続けた。

 揺れがおさまって、まず最初にしたことは、九州に住む両親に無事を知らせること。火を使っていないことは分かっていたから、その心配をする必要はない。関西淡路大震災の時も経験したが、地震の発生直後から30分ほどは、地震によりインフラさえ破壊されていなければ、電話はつながりやすい。それ以降は、発信、着信とも混雑して連絡がとれなくなる。とりあえず、大きな揺れがあったけれど、けが等はしておらず、無事であることを告げて、早々に電話を切った。CDと書籍のデブリを片付けて、ドアを開けたら、ネコが不安そうな顔をしてこちらを見上げていた。

 幸い、地震の後も、電気は使えたし、水道も利用可能だった。携帯電話の基地局も健在で、圏外になることはなかった。いつもは携帯電話が使える場所が圏外になるようだと、基地局に障害が生じた可能性が高い。復旧には時間がかかるから、停電している場合は特に、携帯電話の電源を切ってバッテリーを温存した方が良い。携帯電話は圏外になると、電波を捉えるために、通常以上に電力を消費してしまう。スマートフォンなど最近の端末は、バッテリ駆動時間が短いから、余計に注意が必要だ。できれば家族の間で、緊急時は毎時何分に連絡を試みる、ということを決めておいて、その時間だけ携帯電話の電源を入れるようにすると良いだろう。Twitterのようなサービスは便利だが、それも電気があればこそ。停電中はバッテリ温存を優先すべきだと思う。

 ガスはマイコンメーターがちゃんと動作して遮断されていたが、リセットすることで簡単に復旧できた。エネルギー源は複数あるに越したことはない。台所ではいくつかガラス食器が割れてしまったが、食器棚が丸ごとダメになるといった被害は避けられた。軽微といっていい被害状況だ。TVは徐々に明らかになる深刻な状況を報じており、一瞬のうちに失われたものの大きさに心が痛んだ。復旧には長い時間を要するだろう。

 今回の大震災は、多くの人命を奪い、住居や社会インフラに大きなダメージを与えた。地震もさることながら、津波による甚大な被害は、想像を超えていた。史上最大級、想定を上回るなどと形容される大地震だが、天災は常にわれわれ人類の想定を越える可能性を秘めていることを肝に銘じておく必要がある。想定を越える天災が発生しても、生き残った者の人生は続く。想定を越えられてしまった時に手のつけようがなくなるという点で、原子力が最悪の技術であると分かったことが、今回の大震災が与えた教訓の1つだろう。

 現在、深刻な状況にある福島第一を含め、東北地方の太平洋岸には多くの原子力発電所が設けられている。これらが復旧できるのか、技術的な観点だけでなく、社会的な観点からも復旧できるのか、現時点では予想がつかない。大震災により被害を受けた火力発電所も含め、当面、電力供給に大きな欠損が生じており、すでに計画停電も行なわれている。この春を乗り切っても、電力消費がピークを迎える夏には、電力不足が再び深刻化し、計画停電が避けられないとも言われている。

 計画であれ、無計画(一斉)であれ、電気を失えば、都心のオフィスの多くはその機能を失う。IT機器どころか、エレベータも、エアコンも使えないビルでは、仕事になるハズがない。高層ビルでは、換気のために窓を開けることさえできない。夏の電力消費ピーク時をどう乗り切るか、真剣に考える必要があるだろう。

●今こそ有効なピークシフト機能

 電力消費のピークをずらす、ということで思い出すのは、日本IBM(現Lenovoジャパン)が企業向けに配布していた「ピークシフト・コントロール・プログラム」だ。ソフトウェアにより、電力消費のピーク時にオフィスで使われるノートPCをバッテリ駆動することで、電力消費を軽減しようというものである。その後、東芝からも製品が発表されていた。

ピークシフト機能を搭載した実験機ピークシフトの設定画面第3世代ピークシフトの原理図。深夜に充電を行ない、需要ピーク時にはバッテリで動作する

 ピーク時間帯に充電が始まると、かえって逆効果になるため、むやみに導入すれば良いというわけではないが、アイデア自体は今回も使えるように思う。

 筆者はこのピークシフト・コントロール・プログラムを2002年と2003年の2回取り上げているが、当時に比べてもオフィスPCのノートPC率は上がっているハズだ。また、現在の方が管理ソフトによるオフィスPCの統合管理も進んでいるだろう。都内のオフィスで使われるノートPCすべてが、内蔵バッテリーをうまく使うことができれば、ピーク時電力をかなり減らすことができるのではないか。

 ピークシフト・コントロール・プログラムのプロジェクトは、日本IBMに加え、東京電力、関西電力、三洋電機ソフトウェアエナジーカンパニー(当時)、松下電池工業(現パナソニックエナジー)が協力して行なわれた。

 今こそ、他のPCメーカーやバッテリメーカーにも広く呼びかけて、この機能を実装することができないものかと思う。電力消費がピークを迎えるのは例年7月から9月。それまでに各社のノートPCに合わせたソフトウェアを開発することは可能だろう。とにかくできることは何でも試してみることが必要だ。

 今回の大震災と、それに伴う原子力発電所の致命的な損傷を考えると、今後わが国では脱原発へと向かわざるを得ないだろう。その代替エネルギーを何に求めるのか、CO2削減の流れと合わせて、答えは見つかっていない。電化製品の省電力性を高めるという意味も含め、電気料金に電気エネルギー消費税のようなものを上乗せし、代替エネルギーに関する研究・開発と、被災地復旧の財源にするといった措置も必要になるかもしれない。製品の省エネルギー性能を向上させる最も有効な措置は、エネルギーコストを上げることだ。一時的には産業界にマイナスの影響を与えるだろうが、長期的に見ればそこで培った省エネルギー技術が、新たな競争力につながると確信する。