大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「日本のPC業界を盛り上げる」

~日本マイクロソフトからNECレノボに転籍した宗像淳氏が意気込みを語る

NECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンの執行役員専務に就任した宗像淳氏

 NECパーソナルコンピュータの執行役員常務、レノボ・ジャパンの執行役員専務に、前日本マイクロソフト執行役の宗像淳氏が就任した。日本マイクロソフト時代には、国内で販売されるPCに、Office製品をプレインストールする事業を率いる、オフィスプレインストール事業統括本部長として手腕を発揮。Officeのライセンス制度としては、世界的にもユニークな日本固有のビジネスモデルを確立するとともに、米本社との交渉の末、日本の市場性を考慮した日本向け独自製品のラインアップを認めさせるといった功績も光る。「ハードウェアメーカーの立場から、日本のPC業界を盛り上げたい」と語る宗像氏に、新天地での取り組み、そして、NECレノボ・ジャパングループにおける2016年度の取り組みについて聞いた。

――2016年3月に、NECレノボ・ジャパングループ入りした理由はなんですか。

宗像 現在、国内のPC市場を見ると、右肩下がりの状況が続いています。この状況をなんとか打破したいという思いが根底にありました。これまでにも、日本マイクロソフトというソフトウェアメーカーの立場から、PC業界の活性化に取り組んできましたが、深刻な右肩下がりの現状を見て、別の立場から、PC業界の活性化に取り組みたいという気持ちが強まってきました。

 実際、NECレノボ・ジャパングループに入ってみて感じたのは、ソフトウェアメーカーからのアプローチと、ハードウェアメーカーからのアプローチには差があるということです。日本マイクロソフト時代には、Officeという製品の切り口から、いかにPCを使ってもらうか、それによっていかに生活を楽しんでもらうか、あるいは仕事の効率を上げてもらうか、というアプローチでした。しかし、ハードウェアメーカーの立場では、Officeを使うということは1つの提案であり、それを含めながら、さらに幅広い提案を行なうことができます。長年、ソフトウェア側からPC業界の活性化に取り組み、そのやり方を知る私が、今度はソフトウェアと一緒にハードウェア側から提案することで、業界を活性化させたいと考えています。

 私は、NECに入社してから、海外でPCをはじめとするIT、ネットワーク機器の販売を担当し、その後、日本マイクロソフトで15年10カ月間、仕事をしてきました。私自身が育ててもらった業界ですから、なんとか恩返しをしたい。そうした気持ちがあって、ハードウェアメーカーである、NECレノボ・ジャパングループに入ったというわけです。国内トップシェアを持つNECレノボ・ジャパングループだからこそ、業界を活性化する提案ができるという点にも魅力を感じています。

――NECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンの代表取締役社長を務める留目真伸氏の発言も、この1、2年で、日本のPC業界を活性化させるための取り組みに関する内容が増えていますね。

宗像 入社を決める前に、社長の留目との意見交換の中で、ぜひ一緒にやっていこうという話になったのは事実です。今、NECレノボ・ジャパングループでは、日本のIT活用力を、世界トップレベルの水準にまで引き上げるためにはどうしたらいいのか、ということを議論し、その実現に向けて真剣な取り組みを開始しています。

 NECレノボ・ジャパングループが打ち出した「DREAM(Digital Revolution for Empowering All Mankind)」は、2020年を目標に、日本のIT活用力を世界最高レベルにすることで、日本に活力を与え、真のデジタルライフ、デジタルワークを実現する取り組みであり、これにあわせて、レノボ・ジャパンが発起人となって設立した「digital economy council(デジタルエコノミーカウンシル=dec)」では、多くのPC業界関連企業と連携した活動を行なっています。また、NECレノボ・ジャパングループでは、ライフスタイルの変革のための「D3(Digital Dramatic Days)プロジェクト」と、ワークスタイル変革のための「D3(Digital Dynamic Daily) Worksプロジェクト」をそれぞれ始動させており、これもPCを中心とした新たな活用を提案するものになります。こうした取り組みを成果に繋げ、PC業界を活性化させるところに、私の役割があると思っています。

――その役割を、宗像さん流に表現するとなんでしょうか。

宗像 1つは、「PC屋」に徹するという言い方もできるかもしれませんが、あえて言うならば「デジタルライフ請負屋」でしょうか(笑)。来たるべきIoTの世界では、全てのモノが繋がる世界がやってきますが、それらをPCで管理することで、個人においても、これまでにない新たな使い方が考えられます。そこで、どんなことができるのかといったことを、具体的な形で提案していきたいですね。

 Officeも、さまざまな機能を持っていながらも、その機能のほとんどが利用されていなかったり、想定できる範囲の使い方に留まったりしています。こんな使い方があるんだということ、あるいはこんなやり方をすれば、デジタルライフを楽しめるようになるといった提案をやっていきたいですね。Officeの新たな活用提案は、新たな立場でもやっていくことができますし、それに加えて、ハードウェア側の立場ならではの提案をしていきたいですね。

――これまでの経験はどう生きますか。

宗像 日本マイクロソフトに在籍した約16年間のうち、約7年間が、日本で販売されるPCにOfficeをインストールして販売するPIPC(プレインストールPC)を担当していました。そのほかにも、CRMであるDynamicsを担当したり、中小企業ビジネスを担当したりといった経験もあります。その間、Officeのアタッチレートを世界で最も高い国にすることができたという成果は、私にとっても大きな経験と自信になっています。

 以前はほとんど使われていなかったPowerPointを、日本固有のSKUとして、PCメーカーと一緒になってプレインストールすることで、標準的なプレゼンテーションツールとして定着させたことや、プレインストールされたWordやExcelを、商用利用できるようにするといった日本独自の取り組みも成果の1つでしょう。これらを通じて、ずっと行ってきたことは、使い方提案です。どうやって日々の仕事をOfficeに置き換えて、効率化していくか、どうやって日々の生活をワクワクできるようにしていくかということを、具体的な使い方を通じて提案してきました。この考え方は、今、NECレノボ・ジャパングループがやろうとしていることと同じです。その点で、私の経験を生かすことができると考えています。

――日本マイクロソフト時代は、オフィスプレインストール事業統括本部長として、PCメーカー各社と深い関係を築いていたわけで、裏を返せば、各社の手の内を知る立場にあったとも言えます。宗像氏が、NECレノボ・ジャパングループ入りしたことで、競合PCメーカーから懸念の声は挙がっていませんか。

宗像 いや、そんなことはないと思いますよ(笑)。むしろ、これからもっと進化させた形で、各社と強い関係が築くことができると思っています。PCメーカー各社とも、日本マイクロソフトとも一緒になって、業界を活性化したいと思っています。

――今、PC業界を活性化できていない理由はなんでしょうか。

宗像 これはOfficeにも、PC本体にも同じことが言えると思います。それは、「なんでもできる」というメッセージが、結果として「何もできない」ということに繋がっているという点です。

 例えば、Officeには、WordやExcel、PowerPoint、そしてOneNoteなどのアプリが用意され、これらを使えば、文章をまとめたり、プレゼンテーションの資料を作るだけでなく、年賀状やカレンダー、あるいはペーパークラフトだってできてしまう。なんでもできるソフトウェアです。

 またPC本体も、さまざまなことができます。PCを使えば、Officeを使った生産性向上のほか、Webやクラウドを通じて、これまでにない体験が可能になります。それにも関わらず、現状は、若い人たちを中心に、PCの代わりに、スマートフォンを使う人たちが増加しています。これはスマートフォンが持つ、持ち歩いて、即時性をもったコミュニケーションができるという特徴がしっかりと伝わっているからです。こうしてみると、PC業界全体が、PCが本来持っている価値を訴求しきれていないという反省があります。いや、極端な言い方をすれば、何もできていなかったと言えるかもしれません。それが、PC業界を活性化できていない理由の1つだといえます。

――PC業界を活性化するためにどんなことに取り組みますか。

宗像 ライフスタイルの変革のための「D3プロジェクト」やを、ワークスタイル変革のために「D3 Worksプロジェクト」といった取り組みをさらに加速させていくことになりますが、PCメーカーとしては、製品を通じて、具体的な姿を提案していくことが大切だと考えています。

 例えば、NECパーソナルコンピュータの液晶一体型PC「LAVIE Hybrid Frista」は、家庭内において、PCをどう使うかという新たな提案の1つです。LAVIE Hybrid Fristaには、インフォボードというアプリを搭載していますが、電源を入れたままにしておき、天気、カレンダー、ニュースなどを、ディスプレイに常時表示することができます。今はここまでの機能に留まっていますが、これをIoTと繋げれば、もっと面白いことができるのではないかと思っています。PCを「常時オン」にしておくという使い方提案によって、もっとワクワクするような、みんながエンジョイできるような提案ができると考えています。インフォボードは、そのための重要な切り札になってきます。次の進化をぜひ楽しみにしていただきたいアプリです。

――ワクワクするような提案はいつ頃になりますか?

宗像 私は、2016年3月に、NECレノボ・ジャパングループに入ってから、「使えるPC」とはどんなものか、ということをいろいろと考えてきました。これまでNECレノボ・ジャパングループが蓄積してきた実績をもとに、どんなことができるのか。1カ月ぐらいをかけてようやく、ぼやっとしていたものが、少しずつ見えてきたような感じがします。5年先には、どんなPCが求められるのかということを考え、そこから、今求められるものはなにかということを導き出そうと考えています。ですから、まずは1年後、あるいは1年半後には、新たなコンセプトや、PCの進化が見えるような提案をしたいと考えています。それが、PC業界全体をリードするようなものになればいいですね。そのためには、NECパーソナルコンピュータ、レノボ・ジャパンの社員の知恵やノウハウが必要です。まだぼんやりしたものですから、詳細をお話しできるような段階ではありませんが、それはぜひ、楽しみにしていてください。

――ところで、NECレノボ・ジャパングループに入って感じた、この会社の強みとはなんですか。

宗像 一言で言えば、営業組織が持つ力と、緻密さですね。お客様への刺さり方が強いこと、そして、諦めないという姿勢を強く持っている点には驚きます。これは、外から見ていても感じていた部分ではあったのですが、中に入ってみて、それをさらに強く感じました。私が社会人になって最初に持った名刺が「NEC」の名刺です。もう2度と持つことはないと思っていたNECの名刺を改めて持つことができたのは、私自身とてもうれしく、誇りに思っていることなんですよ。

――逆に課題と感じる部分はありますか。

宗像 意思決定のプロセスが丁寧であるということでしょうか。日本マイクロソフトの意思決定スピードに比べると、いろいろなプロセスを踏む必要があり、少し時間がかかっているなと感じることがあります。NECパーソナルコンピュータの場合ですと、資料でもかなりの厚さのものが用意されますからね。こんな厚いものを作っても読まないよ、と言うこともありますよ(笑)。意思決定のスピードはもっと速くしたいと考えています。

――NECレノボ・ジャパングループ入りしてから、社員に向けて言っていることはありますか。

宗像 「もっと楽しく仕事をしよう!」と言っています。やはり真面目なところが多い会社ですから、もう少し遊びの要素があってもいいかなと思う部分はあります。それと、ワークライフバランスの徹底ですね。どうしても残業がちになるのは、仕事に真面目に取り組む文化があるためだとは思いますが、仕事だけでなく、社員には生活も楽しんでほしいと思っています。それも、もっと楽しく仕事をするための手段の1つですからね。

LAVIE Hybrid ZEROを手にする宗像氏

――2016年度におけるNECレノボ・ジャパングループの重点ポイントは何になりますか。

宗像 1つは、量販店などにおける店頭展示の活性化にも取り組みたいと考えています。例えば、LAVIE Hybrid ZEROも、他のノートPCと一緒に展示されていると、その良さがなかなか伝わりません。形だけをみると、差がないからです。しかし、これを手に持ってもらえば、その圧倒的な軽さをすぐに理解してもらうことができ、さらに、2in1 PCならではの特徴を活かし、タブレット単体としても利用しやすい設計にこだわっていることが分かります。PCは、提案型の製品ですから、しっかりと提案し、説明できる環境を作ることが大切です。

 特に、NECパーソナルコンピュータの場合は、LAVIE Hybrid ZEROや、LAVIE Hybrid Fristaという尖った製品がありますから、それらの製品の価値をしっかりと伝えていくことができる環境が他社以上に求められます。ここを支援していきたい。また、レノボのYOGA Tabletで提案している壁掛けができるハングといった使い方も同様で、その価値を訴求できる店頭での展示提案が必要。どうやったら、我々の価値が、お客様に伝わるのか、という店頭展示の基本に立ち返りたいと考えています。今年夏の商戦に向けて、そこに力を注ぐ予定です。

 そして、2016年度は、「使えるPC」ということにこだわっていきたいと考えています。日常の生活のなかで、常時使ってもらえるPCとはどういうものか、ということを提案したいですね。先にも触れましたが、まずは、これまでに進化を遂げてきたインフォボードをさらに進化させ、日常的に「使えるPC」の世界へと本格的に踏み出していきます。

 状況がすぐに変わるとは思っていませんが、「PCって、面白いじゃないか」と改めて感じてもらえたり、「PCを使うと、スマートフォンだけじゃ物足りないよね」と言ってもらえるような提案をしていきたいと考えています。

――2015年度には、レノボ・ジャパンの国内シェアが初めて10%直前のところまで来ましたね。NECレノボ・ジャパングループとしても35%のシェアを超えた時がありました。シェアの目標についてはどう考えていますか。

宗像 シェア調査では、2016年1月~3月のレノボ・ジャパンの店頭シェアは、10%となりました。また、NECパーソナルコンピュータの同時期のシェアは24%。あわせて34%のシェアです。週によっては、両社合計で40%のシェアを超えることもありますが、年間を通じて、最低でも35%のシェアを維持したいと考えています。そのためには、レノボ・ジャパンで10%以上、NECパーソナルコンピュータで25%以上ということになるでしょう。

 ただ、大切なのはシェアの話ではなくて、「分母」をいかに大きくできるかという点です。市場全体の規模が大きくならなければ、いくらシェアが上昇しても意味がありません。ですから、シェアの話はあまり重視していません。大切なのは、PC市場を活性化し、市場を拡大させるということ。そのためには、「ワクワクする仕掛け」を行い、「使えるPC」を投入すること、そして、業界内の各社とのパートナーシップを強化して、業界全体を盛り上げることが大切です。これまでも業界を盛り上げることに力を注いできましたが、会社が変わっても、やることは同じですよ(笑)。

(大河原 克行)