大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

4年目にして復活したVAIOの次の一手

~“VAIO Zの次”も示唆

VAIOの吉田秀俊社長

 VAIOの吉田秀俊社長は、今回のインタビューで、「VAIOは復活した」と初めて宣言してみせた。2014年7月にソニーから独立したVAIOは、2018年5月期決算で、2桁の増収増益を達成するとともに4期連続で黒字化を達成した。それに加えて、吉田社長は、「自分で稼いだ資金を、新たな領域に投資できる体制が整った。水車が回り始めたのと同じ」と、復活宣言の理由を表現してみせた。

 そして、今後は、「PC」のブランドから、「次世代IT」のブランドへと、VAIOを変貌させる姿勢を示す。新製品のVAIO A12をはじめとするPC事業の基本方針とはなにか。また、VAIO Zの投入はあるのか。そして、VAIOはどこへ向かうのか。VAIOの吉田秀俊社長に、いまのVAIOと未来のVAIOについて聞いた。

VAIOの復活

――2017年6月に、VAIOの3代目社長として就任して以来、約1年半が経過しました。この間、どんなことを重視してきましたか。

吉田 2つのポイントがあります。1つは、社内での意思疎通をしっかりと取ることです。ソニー流、VAIO流の文化のなかに、私流の流儀を入れるわけですから、最初は、私にも葛藤がありましたし、社員にも葛藤があったのではないかと思います。新たな社長がどんな方針を打ち出すのか--。社員にとっては大きな不安だったでしょうし、しかも、モノづくりや販売に関してもどんどん口を出すタイプであることにも戸惑ったと思いますよ。一方で、私から見ると、VAIOの社員はいい意味で「がんこ」ですからね(笑)。私の話を聞いてくれないなんてことも何度もありましたよ。

 私はこれまでに、時代の変化や環境変化に柔軟に対応できずに生きてこられなかった企業の姿をたくさん見てきました。TVの技術変化をみても、その流れに乗り遅れたり、プライドが邪魔をして、変化が遅れたりといったように、時流を読み違え、苦労した企業はいくつもあります。つまり、私の「流儀」をひとことで言えば、「時代の変化をしっかりと捉える」ということになります。

 VAIOの経営をしっかりと安定させないと、次の製品も作れず、次の飛躍もない。経営を安定させるためには、時代の変化をしっかりと捉えることが大切です。その姿勢をもとに、しっかりとコミュニケーションを取るというのが、社長就任以来、私が心がけてきたことです。

 私は、毎月の朝礼のなかで、ずっと「時流」のことを、具体的な事例を交えながら話をしています。技術の話だけでなく、世の中のトレンドや仕組みなどについても話します。過去には、ふるさと納税の仕組みについて、話をしたこともありましたよ(笑)。安曇野にいる開発者は、忙しくて、中にこもってしまう場合が多い。いまの時流の話をすると、ピンときて、発想を変えるきっかけも生まれます。こうしたやり取りを含めて、1年半が経過して、いいコミュニケーションが取れるようになってきています。

――VAIOの社員は「がんこ」だといいますが、吉田社長は「がんこ」ではないのですか(笑)。

吉田 譲らないところは譲りません。経営の「急所」といえる部分を譲ったら、経営がブレてしまいます。目の前に大きなハードルがあっても、ここは絶対に譲りません。まぁ、これは「がんこ」というよりも、「ブレない」というのが正しい表現だと思います。ただ、社員は「ブレない」ことを、「がんこ」だと思っているかもしれませんが(笑)。

――VAIOの社員と、しっかりと意思疎通ができたと感じたタイミングはいつですか。

吉田 モノづくりが行き詰まったり、販売したものが目標値に達しないという状況が生まれたときに、社員がアイデアを出したり、私が強引に引っ張ったりといったことがありました。この1年半で、そうしたことが3回ぐらいありましたね。そうした困難を一緒に乗り越えていくことで、お互いにしっかりとした意思疎通ができるようになった気がします。

――披露できるエピソードはありますか。

吉田 VAIO S13を投入したものの、販売が目標には届いていない時期がありました。これをもう一段伸ばしたい。そのときに、投入したのが、2018年年明けから発売した「ALL BLACK EDITION」です。

 単に色を黒くしただけではなく、ここには、独自にチューニングした「VAIO TruePerformance」を搭載し、VAIOらしさを際立たせました。この結果、販売に大きな弾みがつき、目標を達成することができました。私は、「ここまで黒くする必要があるのか」と聞いたのですが、「いいんです。ここまでやります」と、がんこな社員が言い切りましたから(笑)、「それならばやったらいい」。そんな会話をしましたよ。

ALL BLACK EDITION

――もう1つの重視してきたポイントはなんですか。

吉田 それは次のフェーズに向けた「仕込み」です。その成果が、先ごろの経営方針説明会で発表したソリューション事業やEMS事業におけるパートナーシップの数々になります。お米でも、1年前から種まきをして、ようやく刈り取れて、おいしいご飯が食べられるわけです。それと同じです。仕込みは、これからも継続しなくてはなりません。

――会見では、BenQとのパートナーシップによる「VAIO Liberta」ブランドの電子黒板のほか、モフィリアとの指静脈認証技術、アグリテック領域への進出、さらにはブロックチェーンを活用した次世代IoTへの取り組みなど多岐に渡りました。幅を広げすぎではないでしょうか。

吉田 確かに、外から見ると、手を広げすぎているように見えるかもしれません。ただ、EMS事業は、案件ごとのビジネスであり、それを括るとロボットだったり、アグリテックだったりというカテゴリにまとめることができます。

 VAIOが率先してアグリテックに進出しているというわけではなく、案件がその領域で増えた結果、「VAIOがアグリテックに参入」という動きになったわけです。これも時流を捉えた動きの1つであるといえます。EMS事業において、VAIOが意思をもって進めている領域は、コミュニケーションロボットであり、それ以外の領域は、案件ベースをもとにまとまったという形です。

 じつは、当日はどこまでお見せしようかと考えたのですが、メディアの方々に公開するならば、なるだけ多くのものをお見せしたいと思いました。アグリテック領域におけるひとつの成果であるナイルワークスの農薬散布用ドローンも、直前まで公開することを決めていなかったんです。ただ、すでに安曇野でテスト飛行をして、私もそれに立ち会っていますし、安曇野市とも協力体制を取っています。

――吉田社長は、2018年5月期の業績をもとに、「第1フェーズを完遂した」と宣言しました。これは、「VAIOの復活」と表現することができるのでしょうか。

吉田 第1フェーズの完遂は、VAIOの「復活」と捉えていただいていいと思います。もちろん、業績の観点から4期連続の黒字を達成したということもありますが、復活と宣言するには、別の要素があります。VAIOが成長を遂げるには、仕込みが必要ですが、仕込みをするには、自分で稼いで、その稼いだお金を投資に向けることが大切です。

 最初の3年間は、どうしても投資資金が、潤沢に回りません。次の一手を打つだけの資金を回転させられない状況でした。そこから脱したことが、第1フェーズの完遂ということになります。水車でいえば、少しずつ溜めてきた水(資金)が、その水の力によって、前に回転をし始めたという段階に入ってきたところです。

 そして、ここで得られた資金を、また投資に回せるという、水車の回転が始まりました。この回転が始まったことは、VAIOが復活したと宣言できる大きな理由です。

 一方で、VAIO Zのような尖ったPCが登場しなければ、VAIOは復活したとはいえないというVAIOファンの方々もいるでしょう。それはもう少し待ってもらう必要があります。ただ、VAIOは生き残れるのか、先はどうなるのかという不透明な時期は脱し、しっかりと地に足がついて、新たなものを提案できるようになったという点では、力強く「VAIO復活」を宣言できるといえます。

VAIOは3つの事業で強い事業構造を作る

――改めて、お聞きしますが、VAIOの強みとはなんでしょうか。そして、課題はなんでしょうか。

吉田 一言で言えば、こだわりですね。品質に対するこだわり、設計に対するこだわり、そして、マーケティングや営業も、こだわりを持って日々の仕事に取り組んでいます。これがベースにあって、世界に通用するブランドと、安曇野での優れたモノづくりの実現につながっています。

 ただ、VAIOの強みといえるこだわりは、裏を返せば、課題になる部分でもあると認識しています。こだわりすぎると自由度が失われる。VAIOは、「自由だ、変えよう」をスローガンに掲げていますが、実際には、開発コストが限られ、個人向けにもいい製品を作りたいが、まずは法人向けにフォーカスした製品を作らなくてはいけないという制限がありました。ここはVAIOがこだわらなくてはならなかった部分でもあり、決して自由ではなかったのが実態です。そうなると発想も自由ではなくなります。新たな事業においても、自前でやることにこだわりすぎるとパートナーと組んで挑戦しようという発想が生まれません。こだわりが、自由を減らしてしまっているわけです。

 ただ、少しずつ自由に取り組むことができる領域が増えてきましたから、この課題は少しずつ解決されているのではないでしょうか。

オフィスにも家庭にもVAIO A12

オールラウンダーPC「VAIO A12」

――今回、新たに発表した2in1「VAIO A12」は、新たなスタビライザーフラップ構造などが話題を集めています。これは、VAIOにとって、どんな役割を担う製品ですか。

吉田 VAIO A12は、VAIOのモノづくりにおいて、ターニングポイントになる製品だと位置づけています。私が社長に就任してすぐに発表したのが、VAIO S11とVAIO S13でした。これらの製品は、法人向けモバイルという領域を正面から狙った製品でしたが、VAIOが出すPCとしては、なにか物足りないと思った方々もいたのではないでしょうか。

 じつは、VAIO A12も、最初は、法人向けPCという考え方で開発を進めてきました。A12は、構想3年、開発2年という長い取り組みのなかで生まれた製品ですが、構想3年の段階では、対面販売に最適化した法人向けPCという切り口で開発が進められていました。

VAIO A12は、対面販売に最適化したモバイルPCとして開発が進められた

 私が、この製品のコンセプトを初めて聞いたのが、2017年年末のことです。私の最初の印象は、「それだけではもったいない」ということでした。少し工夫すれば、個人ユーザーにも使っていただけるものになるのではないかと考えました。法人向けPCという領域にフォーカスすることが、VAIOのPC事業の基本となっていましたから、「個人ユーザーにも使ってもらえるようにしたらどうか」という私の提案に、社員は目を丸くしていましたよ。

 このとき、簡単な絵を描いて、社員に見せたんです。法人ユーザーが、クラムシェルとタブレットの両方で利用できるというコンセプトはわかる。対面販売の用途にも適しているのもいい。だけど、これを大型TVにつないだら、個人ユーザーにも使ってもらえるのではないかと提案したのです。

2017年年末に吉田社長が作成した絵。このときは、開発チームは聞き入れなかった

 でも、最初は、言うことを聞いてくれませんでした。法人向けに開発するということが基本コンセプトでしたからね。そこで、年明けに、もう少し詳しく絵を描いて、また説明をしたんです(笑)。

 クレードルのようなものがあれば、会議室に持ち込めばすぐに大型ディスプレイにも資料を投影できる、デスクトップリプレースの用途にも提案できる、そして、家庭でも大型TVの横にクレードルをおけば、ネット動画やネットにあげておいた写真も簡単に見られるようになる。4K出力もでき、4K TVにつなげて高精細な動画も楽しめる。つまり、VAIO A12は、クラムシェルにも使え、タブレットにも使え、それによって、日常の業務だけでなく、対面販売にも最適な使い方ができます。

 さらに、クレードルとつなげば、デスクトップリプレースにも適しているし、会議室でも効果的に利用できる。しかも、家庭内でも新たな利用環境を提案できる。まさに、オールラウンダーというわけなのです。

クレードルによってオールラウンダーPCが実現される

――VAIO A12をオールラウンダーPCという新たなカテゴリを生んだのは、吉田社長の発案だったと。

吉田 自分でいうのは、恥ずかしいので、それは社員に聞いてください(笑)。オールラウンダーPCを実現するには、クレードルは必須です。そこで開発費はなんとかするからやってほしいと言いました。

 ところが、予想外だったのは、私は、もっと簡単なクレードルを想定していたのに対して、こだわりのある開発チームですから、しっかりとしたモノを作り上げてきました。インターフェイスはてんこ盛りですよ(笑)。クラムシェルとタブレットだけの使い方ではオールラウンダーPCとは呼べません。このクレードルがあって、初めてオールラウンダーPCと呼べます。

――ユーザーに、このコンセプトは伝わっているという手応えはありますか。

吉田 最初の1週間におけるVAIO A12の販売動向をみると、約6割の方々が、クレードルを一緒に購入していただいています。クレードルが品不足になるほどの勢いです。社内では、2割ぐらいの添付率ではないかという声もあったのですが、6割という数字からも、多くの方々に、オールラウンダーPCとしての使い方に魅力を感じていただいていると分析しています。

――ちなみに、吉田社長が使うPCは、これからVAIO A12になりますか?

吉田 いまは、VAIO S13のブラウンを使っているのですが、今週からVAIO A12を使います。デスクトップ、モバイル、タブレットの全使いをやります。私は、社長と言いながら、同時に営業マンをやっていますから、これをみなさんの前に持って行って、しっかりとVAIO A12のデモストレーションをしますよ(笑)。

経営方針説明会でVAIO A12を持つ吉田社長

――会見では、2019年に、「生産性を向上させる新たなPC」を投入することに言及しました。これは、モバイルPCの領域を超えるものになりますか。

吉田 いえ、これはモバイルPCの領域のなかでの製品であり、そのなかで、生産性を向上することを実現するPCになります。あくまでも私たちがターゲットとしているのは、モバイルPCです。A4ノートPCの領域は、ジャイアントと呼ばれるメーカーが得意とする領域であり、価格競争も激しいです。プロレスラーに立ち向かっていくようなもので、私たちが挑んでも負けるだけです。しかし、A4ノートPCでも、私たちの強みが発揮できる領域があれば、そこに挑むことはあるでしょう。

――モバイルPCの領域の近くには、タブレットやスマートフォンがあります。この分野も視野に入りますか。

吉田 VAIOでは、一度、スマートフォンを発売した経緯がありしたが、いまの環境を見ると、早いテンポでの開発競争が繰り広げられており、VAIOのリソースを見ても、ここを追求する余裕はありません。また、タブレットも低価格の製品が数多く登場しており、VAIOの個性が発揮できる領域ではないといえます。

――一方で気になるのは、VAIO Zの復活ですね。

吉田 その話は、よく聞かれるので、開発チームには、「そろそろやってくれないか」と冗談を言っています(笑)。今回のVAIO A12は、「Zではなかったが、VAIOらしいものを出してくれた」という評価をいただいています。その言葉に、開発チームはとても励まされていますし、喜んでいます。

――成長戦略に向けた第2フェーズのなかでは、VAIO Zは、登場しますか?

吉田 出したいですね。うーん、「否定はしなかった」と書いてもらっていいですよ(笑)。ただ、次のVAIO Zは、軽ければいい、薄ければいいというものではないと思っています。そして、性能が高ければ、それでいいというものでもないでしょう。なにがZなのかということを、時流を捉えながら、考える必要があります。

 VAIOが目指しているPCは、「快」がコンセプトです。新たなVAIO Zは、その時代の「快」を実現することが前提ですね。技術の変化や新たな素材の登場といった動きもあるでしょうし、また、時流のなかで、こんなVAIO Zが必要だという動きが出てくるかもしれません。そうした流れを捉えながら製品企画をしていきたいですね。

――現在、VAIOには、PC事業、EMS事業、ソリューション事業の3つの柱がありますが、あくまでも成長の柱はPC事業としています。ただ、そのPC事業においても、PC本体だけでなく、周辺機器やセキュリティといった事業領域も明確に定義しました。この狙いはなんですか。

吉田 周辺機器においては、いまのVAIOが得意としている「働き方改革に提案ができる法人向け製品」だけにフォーカスしています。BenQとの提携による電子黒板の投入はそうした狙いから製品化したものです。ここでは、さらに、BenQブランドのディスプレイを取り扱っていくことも決めました。

 じつは、ある日社内を見ていると、社員の多くが、モバイルPCにディスプレイをつなげて利用していることに気がつきました。しかも、2画面を使いながら仕事をしている若い社員が多い。これが新たなデスクトップリプレースの姿なんですね。それならば、VAIOがBenQブランドのディスプレイを扱えば、こうした新たな提案が可能になります。こうした働き方改革の観点から周辺機器の製品領域を増やしていこうと考えています。

――VAIOブランドのディスプレイの投入はありますか?

吉田 価格競争が激しい分野ですから、VAIOが入っていくのは難しいですね。餅は餅屋に任せるのがいいと思っていますから、BenQブランドのまま取り扱います。また、マウスやキーボードも考えたのですが、ここもVAIOが入っていくのは難しいと判断しました。

 その一方で、セキュリティや、お客様の要求にあわせて仕様を変更するキッティングでは、VAIOの強みを発揮できると考えています。とくに、セキュリティは、モバイルPCを軸にPC事業を展開するVAIOにとっては、外すことができない分野です。本体を守り、データを守り、それをつなぐネットワークも守ることができるセキュリティを、パートナーとの連携によって実現したいと考えています。

BenQとのパートナーシップによって製品化した電子黒板「VAIO Liberta」を自ら操作する吉田社長

――セキュリティ分野は大きな成長が見込める領域ですね。

吉田 確かにそうですが、基本的な考え方は、PC本体の成長を支えることに貢献するというものです。これはキッティングも同様です。単独で大きな成長を目指すということは考えていません。

――PC事業に関しては、海外展開が予想以上に速いですね。すでに日本を含めて12カ国で展開していますし、欧州でも2019年早々に展開していくことを表明しました。

吉田 VAIOが独立してから、ぜひ取り扱いたいという海外パートナーが多く、その話が具体化しています。先日も中国の展示会に出展したのですが、多くのTV局の取材を受けましたし、多くの人が駆けつけてVAIOを見てくれました。驚くほどの人気ぶりでした。海外におけるVAIOブランドの強さを目の当たりにしました。

 ただ、これまでの南米や米国、中国への展開は、パートナーの熱意があること、そして、ライセンス販売などのVAIOにとって海外展開のための条件が整ったことで、スタートしたものであり、決して、慌てて海外展開を進めているわけではありません。アジア地域においても、ソニー時代からパートナーだった企業に取り扱ってもらえることになりましたので、我々の方針についてしっかりと理解をしていただいた上で取り扱ってもらうことができています。

 2019年からスタートする欧州も、2年ほど前から話を進めてきたもので、まずは、ドイツを中心にして主要国に展開していくことになります。これによって、世界の主要エリアをカバーできますから、消えつつあったVAIOブランドが世界的に復活させたともいえます。VAIOの強いブランド力を生かす展開の1つとして、海外事業は重要ですし、次のステップでは、戦略的製品の取り扱いに活用したり、PC以外の商材を取り扱う重要なルートになる可能性もあると期待しています。

――PC事業の海外比率はどれぐらいを見込んでいますか。

吉田 いまは、ライセンスビジネスが中心ですから、売上げ貢献という点ではまだ低いですね。ただ、PC事業は、いかに幹を太くしていくかが大切であり、そのための施策として、周辺機器やセキュリティ、そして海外事業があります。海外事業の構成比は、欧州の体制が整った時点で、立案をしたいと考えています。過半に達するということはありませんが、PC事業のうち、2~3割を稼いでくれるぐらいのビジネスにはしていきたいですね。

PC事業の海外展開も積極的に進めている

PCにとらわれない事業展開

――一方で、EMS事業では、主力となるロボティクスを切り出して、これを独立した事業として確立する姿勢を示しました。

吉田 これまでは、コミュニケーションロボットの案件を中心として展開してきたわけですが、それとは別に、ロボティクス以外の領域にも案件の広がりが出てきました。つまり、コミュニケーションロボットの領域と、多種に渡る領域という2つの柱が生まれてきたわけです。多種の領域はこれまでにやったことがないものが多いですから、新たなノウハウを蓄積するという意味でも重要なビジネスと捉えています。

 ここではVAIOが設計、開発にまで踏み込まずに、量産だけを支援するといった生産面でのEMS案件が増えています。たとえば、アグリテックの1つであるナイルワークスの農薬散布ドローンは、VAIOは設計、開発には携わっていません。基板実装、組み立て、検査といった生産部門が受け持つビジネスです。開発部門までを巻き込んで行なうコミュニケーションロボットとは、別の体制でビジネスを行なっているわけです。

 そこで、コミュニケーションロボットを独立した形で捉え、生産だけを行なうそれ以外のビジネスに分けて捉えようとしているのが正確な見方です。コミュニケーションロボットのビジネスが、独立した形で捉えられる規模にまで成長してきたという言い方もできますね。ロボティクスに関しては、2019年1月に開催する「ロボデックス」に出展し、新たな提案をしたいと考えています。

 じつは、ソリューション事業のなかにもEMS案件というものが出てきています。ソリューション事業においては、新たなビシネスを創出するために、さまざまな企業の方々と協業の話をしていますが、そのなかで、「じつはこういうことを考えていて……」というように、量産化に関するお話をいただくこともあります。

 たとえば、popInのスマートライト「popIn Aladdin(ポップインアラジン)」も、そうした流れでVAIOが量産することになりました。これらは、対外的には、EMS事業の1つという言い方をしていますが、社内では、ソリューション事業の1つと位置づけています。

 ソリューション事業は、これまでの枠に捉われない発想やアイデアでビジネスをしています。VAIOのなかで、「自由だ、変えよう」を最も実践しているのが、ソリューション事業ですね。

EMS事業で取り扱っている製品の数々
ナイルワークスのドローン
popInのスマートライト「popIn Aladdin(ポップインアラジン)」

 EMS事業も、ソリューション事業も、それぞれの幹を太くすることで、これまでのように、PC事業におんぶして、そこから新たな投資を創出するという状態から抜け出すことができます。そして、PC事業の重荷を軽くすれば、PC事業にとっても、自己投資に向けられる枠が広がります。

 PC事業一本足では、経営は安定しません。CPUの供給が遅れただけでも、経営にストレートに影響してしまいます。また、季節変動の影響を受けやすいビジネスでもあります。

 一方で、VAIOがPC以外のさまざまな商材を持つことで、ビシネスの幅が広がり、チャンスも拡大します。先日も、電子黒板の商談で、PCも欲しいので一緒にお願いしたいという、これまでとは逆の商談が発生したところです。PCの成長だけに頼らないように、それぞれの幹を太くすることが、今後の成長には不可欠であり、それが強い事業構造を作ることにつながります。これは、社長としての重要な仕事だと思っています。

――経営方針説明会では、VAIOを、「PC」のブランドから、「次世代IT」のブランドに変貌させることを宣言しました。ここでいう「次世代IT」とはなにを指しますか。

吉田 この「次世代IT」という表現については、将来に向けた伏線があり、そこを指していますから、現時点では見えにくいものになっていると思います。1つヒントを言いますと、これからセキュリティは外せない要素ですし、個人情報の保護も避けては通れません。そうしたことを捉え、セキュアな世界で、さまざまなことを提案し、関連するIT機器を提供する企業を目指すということになります。わかりやすくいえば、データを発信、収集するだけのIT機器は、過去のIT機器。それに対して、データをセキュアな環境で発信、収集するのが次世代のIT機器ということになります。もちろん、次世代ITのなかに、PCも含まれます。

――次世代IT時代のPCとはどんなものになりますか。

吉田 デザインは変わっても、液晶ディスプレイとキーボードで構成されるという基本の姿は変わらないと思います。しかし、データをどう扱うかという点で変化が起こると思っています。

 セキュリティの観点から、いまだに、モバイルPCを持ち出し禁止にしている企業があります。制約しないとデータを守れないと考えているからです。こうした制約を解くことができるPCが、次世代ITに当てはまるPCになります。

吉田社長は、「PC」のブランドから、「次世代IT」のブランドへと、VAIOを変貌させる姿勢を示した

――これはいつ頃に実現することになりますか。

吉田 私はいま61歳ですが、社長在任中には、「次世代ITブランド」を仕上げたいですね(笑)。

――2018年5月期の業績は、売上高は前年比10.8%増の214億8,800万円、営業利益は13.9%増の6億4,800万円、経常利益は13.4%増の6億5,000万円、当期利益160.5%増の4億8,200万円と、2桁の増収増益を達成しました。この勢いは当面続くことになりますか。

吉田 この規模の企業ですから、2桁成長をしないと伸びが足りないと考えています。PC事業は、製品力と営業力の両輪が噛み合えば、まだまだ成長する余地がありますし、EMS事業も、ソリューション事業も、多くの引き合いをいただいており、さらに拡大していくことになります。4期連続の黒字となったことで、新卒を含めて、優秀な人材を獲得しやすくなってきました。これも将来の成長に向けて、重要な点ですね。

好調に業績を伸ばすVAIO。引き続き2桁成長を目指す

――2019年のVAIOは、どこに注目をしておけばいいでしょうか。

吉田 2019年7月には、VAIO設立から5周年を迎えます。VAIOの新年度は6月からスタートしますから、2019年度は、7月初めに予定している5周年記念イベントからスタートすることになります。

 2019年度は、5周年にあわせて、いろいろな仕掛けをしていきたいですね。VAIOを長年ご利用していただいているユーザーの方々や、一度は離れてしまったが、また戻っていただいたユーザー、そして、新たにVAIOを使っていただいているユーザーの方々に、恩返しをしたいと思っています。ぜひ楽しみにしていてください。

――ちなみに、5周年記念モデルの投入はありますか?

吉田 それは、まだわかりません(笑)。どんな仕掛けが出てくるのかを楽しみにしていてください。