山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

14.6型の大画面を搭載した“ギャラタブ”最上位「Galaxy Tab S8 Ultra」。12.9インチiPad Proよりもさらに横長

「Galaxy Tab S8 Ultra」。国内実売価格は現時点で未発表

 Samsungの「Galaxy Tab S8 Ultra」は、Android 12を搭載した14.6型のハイエンドタブレットだ。12.9インチiPad Proを超える大画面に加えて、わずか5.5mmという極薄ボディが特徴だ。

 日本国内に7年ぶりに投入される“ギャラタブ”こと「Galaxy Tab」2製品のうち上位モデルである本製品は、現行のタブレットでは最大級となる14.6型の大画面を備えており、細いベゼルともあいまって、大迫力でコンテンツを表示できる。

 今回は6月下旬の発売に先駆け、メーカーから借用した実機をもとに、12.9インチiPad Pro、さらに4月21日にいち早く発売された12.4型モデル「Galaxy Tab S8+」とも比較しつつ、電子書籍ユースを中心とした使い勝手をチェックする。

画面は大型化しながらさらに薄くなったボディ

 本製品は、前回紹介したGalaxy Tab S8+の上位モデルに相当し、画面サイズ的には12.9インチiPad Proがライバルとなる存在だ。まずはこの両製品とスペックを比較してみよう。

【表】各製品のスペック
Galaxy Tab S8 UltraGalaxy Tab S8+12.9インチiPad Pro(第5世代)
発売2022年6月2022年4月2021年5月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)326.4×208.6×5.5mm285×185×5.7mm280.6×214.9×6.4mm
重量726g567g約682g
OSAndroid 12Android 12iPadOS 15
CPUQualcomm Snapdragon 8 Gen 1Qualcomm Snapdragon 8 Gen 1Apple M1チップ
4つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した8コアCPU、8コアGPU、16コアNeural Engine
メモリ12GB8GB8GB/16GB
画面サイズ/解像度14.6型/2,960×1,848ドット(239ppi)12.4型/2,800×1,752ドット(266ppi)12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi)
通信方式Wi-Fi 6Wi-Fi 6Wi-Fi 6
バッテリ容量または持続時間(メーカー公称値)11,200mAh10,090mAh最大10時間
コネクタUSB Type-CUSB Type-CUSB Type-C
生体認証顔認証、指紋認証顔認証、指紋認証顔認証
スピーカー4基4基4基
microSDカード対応(最大1TB)対応(最大1TB)-
価格(発売時)未定(256GB)11万5,500円(128GB)12万9,800円(128GB)
14万1,800円(256GB)
16万5,800円(512GB)
21万3,800円(1TB)
26万1,800円(2TB)

※いずれもWi-Fiモデル

 基本的にはGalaxy Tab S8+の大画面版……と言いたいところだが、細かい差異は多数ある。CPUは同じだが、メモリは8GBから12GBに増量されているほか、バッテリの容量もわずかに増えている。またこの表には含めていないが、前面カメラは超広角に加えて広角が追加された2レンズ構成になっている。

 ボディサイズについては、厚みがGalaxy Tab S8+よりも薄くなっているのは驚きだ。一般的にサイズが大きくなれば、それだけ剛性が必要になることから、ボディは厚くなるのが通例だが、わずか0.2mmとはいえ薄くなっているのは驚嘆に値する。剛性についてはのちほどチェックする。

横向きにするとカメラが上部に来る配置。画面は14.6型、アスペクト比は16:10
カメラはベゼルよりも内側に飛び出ているため、縦向きにするとベゼルの右側から画面に向かってカメラが突き出る形になる
12.9インチiPad Pro(右)との比較。本製品のほうが細長いことが分かる
背面。カメラ部以外はどちらもほぼフラット。本製品は横向き前提のデザインなのがよく分かる
上下に重ねたところ。USB Type-Cポートの左右にスピーカーという配置は酷似している。筐体はアルミ製
12.9インチiPad Pro(右)とは1mm弱もの厚みの違いがある
ベゼル幅の比較。左が本製品、右が12.9インチiPad Pro。前回紹介した12.4型モデルGalaxy Tab S8+よりも幅がスリムになっている
カメラ部は、外見はあまり似ていないが、どちらも2眼構成

 重量は726gと、12.9インチiPad Proよりも約50g弱ほど重いが、ボディの面積だけ見れば100g以上重くてもおかしくない中、その半分以下にとどめたのはむしろ秀逸だ。本製品はボディが細長いせいで、手に持っても12.9インチiPad Proのようなどっしりとした印象がなく、むしろ軽量に感じるのがおもしろい。

 ストレージは256GBのみ。ギャラタブが日本に投入されるのは久々ゆえ、ラインナップを絞り込もうとする意図だろうが、12.9インチiPad Proと比べた場合はウィークポイントになりうる。カラーがグラファイトのみで、シルバーやピンクゴールドの取り扱いがないのも同様だ。

 ちなみに画面サイズは14.6型ということで、12.9インチiPad Proよりも大きいように誤解しがちだが、実際には短辺側の長さは逆にわずかに短く、横方向に16%ほど拡張されたサイズとなる。電子書籍ユースにおいてこれがどのように作用するかは、このあとじっくりと見ていく。

左側面はスピーカーを搭載
右側面はUSB Type-Cポート、スピーカーを搭載
上面は電源ボタン、音量ボタン、カードスロットを搭載する。これら配置は12.4型モデルGalaxy Tab S8+と同様
底面にはオプションを磁力で吸着させるためのポゴピンを備える
カメラは背面からやや突出している。スペックは12.4型モデルGalaxy Tab S8+と同じ
microSDカードスロット。最大1TBまで対応する
USB Type-Cポート部のアップ。下側はギリギリまで厚みを削っていることが分かる
重量は実測735g。Galaxy Tab S8+との差はおよそ170gということで、スマホおよそ1台分だ

Galaxy Tab S8+とは異なるノッチ仕様

 ホーム画面はGoogleやMicrosoftのアプリがフォルダにまとめられ、そのぶん同社純正のアプリが目立っている。電子書籍アプリはプリインストールされておらず、自身で選んで導入することになる。

 ちなみに前回の12.4型モデルGalaxy Tab S8+はセットアップ完了済の状態でメーカーから借用した機材を用いていたが、今回は筆者自身がセットアップを行なったため、デフォルトでのアプリの顔ぶれ、配置などは、前回よりも今回の製品のほうが正しいと考えられる。ただし発売前の製品ゆえ、差異がある可能性は少なからずあるのでご容赦いただきたい。

ホーム画面。Galaxy独自のアプリも多く、特に最下段のランチャーはアプリ名も表示されないのでやや分かりづらい
プリインストールアプリ。12.4型モデルGalaxy Tab S8+はアイコンが横に6個並んでいたが、本製品は8個並ぶ。設定を変更すると最大10個並べられる
Galaxy独自のアプリは「Galaxy」フォルダにまとめられている。Galaxy Tab S8+では「Samsung」フォルダだった名前がなぜか変更されている
Google製アプリもフォルダに集約されている
Microsoft製アプリ。このあたりの顔ぶれはGalaxy Tab S8+と違いはない
Clip Studioもプリインストールされている

 生体認証は12.4型モデルのGalaxy Tab S8+と同じで、顔認証と指紋認証のどちらも対応している。反応がよいとは決して言えないのだが、指紋認証で触れる画面内のエリアは、縦向きでは画面下、横向きでは右側と配置が切り替わるので(ユーザーが右利きであるならば)ストレスは少ない。

顔認証と指紋認証を搭載。顔認証はメガネを外して登録するタイプ
指紋認証は専用のセンサースイッチではなく、画面内指紋センサーで認証を行なう
指紋認証は、縦向きでは画面下、横向きでは右側に配置される

 ボディの剛性については、ざっと見た限り、特にひ弱さは感じられない。左右を持って力を加えるとボディは若干しなるが、これは12.9インチiPad Proでも同様だ。

 ただし構造上、1点に集中する圧力に強くないのは明白なので、通勤ラッシュなどでバッグの中に入れて持ち歩く場合、中央部が押されない工夫は必要だ。そうした意味では面でカバーするタイプの保護ケースは欲しいところだ。

 さて、前回のGalaxy Tab S8+との違いとしてすぐに気が付くのが、画面上のインカメラだ。Galaxy Tab S8+は12.9インチiPad Proと同様に、インカメラは上下左右等しい幅のベゼル内に埋め込まれていたが、本製品は昨今のスマホのように、カメラを収めたノッチがベゼルから飛び出た状態になっている。

 これは本製品のインカメラが、超広角レンズに加えて広角レンズも搭載するという2眼構成になっているためだ。無理にベゼル内に収めようとせず、ベゼルの細さを優先した設計だが、本製品はそれゆえ縦向きに持つと画面の右ベゼルからノッチが飛び出ているという、一風変わった外観になっている。

 ノッチが必ず短辺側に来るスマホとは対照的な設計で、本製品はこのノッチがある限り、横向きでの利用が前提になっていると見て差し支えない。使い方によっては、多少気になることがあるかもしれない。

画面を横向きにした状態。上部中央にインカメラを収めたノッチがある
縦向きにすると、このノッチは右側中央に配置される。Webページのように縦スクロールのコンテンツを表示する場合は、邪魔に感じることもある

 ベンチマークについては、「Google Octane」では本製品が「26,896」、Galaxy Tab S8+が「46,961」、12.9インチiPad Proが「63,572」。また「Wild Life Extreme」では本製品が「2,375」、Galaxy Tab S8+が「2,245」、12.9インチiPad Proが「5,123」となっている。後者は順当な値に思えるが、前者が極端に低い理由は不明だ。

「Google Octane」でのベンチマーク結果(いずれもChromeを使用)。左が本製品で「26,896」、中央がGalaxy Tab S8+で「46,961」、右が12.9インチiPad Proで「63,572」
「Wild Life Extreme」でのベンチマーク結果。左が本製品で「2,375」、中央がGalaxy Tab S8+で「2,245」、右が12.9インチiPad Proで「5,123」

12.9インチiPad Proより横長の画面はどんなコンテンツで活きる?

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。

 本製品の解像度は239ppi。Galaxy Tab S8+(266ppi)や12.9インチiPad Pro(264ppi)に比べるとわずかに低いが、目で見る限りは特に違いは感じられない。なお電子書籍ユースではあまり影響はないが、リフレッシュレートは最大120Hzに対応している。

 さて本製品の画面は、12.9インチiPad Proを約16%左右に引き伸ばしたサイズということで、その迫力は圧倒的だ。コミックの場合は左右に大きな余白ができるだけで、ページの表示サイズが大きくなるわけではないが、正方形に近い判型を見開きで表示する場合などは、この画面サイズが活きてくる。

コミックは見開き表示で使うことになるだろう
ページのサイズは紙のコミックを完全に凌駕している
もっとも12.9インチiPad Pro(下)と並べると、そこまで極端なサイズ差はない
判型が正方形に近い「DOS/V POWER REPORT」だと、むしろ本製品のほうがわずかに表示サイズが小さくなってしまう
ただしこれを見開き表示にすると、左右ページが連結されてワイド比率に近くなるため、12.9インチiPad Proよりもページは大きく表示できる
雑誌の単ページ表示。細かい文字も問題なく表示できる
雑誌の見開き表示。解像度自体はGalaxy Tab S8+よりわずかに低いが細かい文字が潰れず優秀だ

 また本製品はベゼルも細いので、読書時の没入感は高い。一般的に電子書籍端末では、ベゼルがあまりに狭いと誤ってページをめくってしまいがちなので、操作性も踏まえると一長一短なのだが、迫力を優先するならばまたとない選択肢だ。これは電子書籍に限らず、動画の鑑賞にも言える。

 一方で使っていて気になったのは、前章でも述べたように、縦向きに持つと右ベゼルの中央にノッチが飛び出た状態になること。これによってコンテンツの表示が遮られることはそうそうないだろうが、神経質な人は気になるだろう。

画面が横向きであれば、ノッチは見開き中央のノドにかかるのでそれほど気にならないが、縦向きだと気になることはある
設定でノッチの高さを黒く塗りつぶすこともできるが、上部ベゼルだけが太く見えるほか、コンテンツ自体もひとまわり小さく表示されてしまう

 また本製品は音量調整ボタンがかなり中央寄りに配置されているので、常にボタンに指をかけていると、手が画面を隠してしまいかねない。前回のGalaxy Tab S8+にも見られた問題だが、外部デバイスを使ってリモートでページをめくるなどの選択肢も検討したい。

電源ボタンと音量調整ボタンは、横向きにした時に画面左上に来る。左端ではなくやや中央寄りなのが特徴
画面を隠すことなく電子書籍のページをめくるならば、このように背面から音量ボタンを操作するのが妥当だが、持ち方が制限されるのがネック

 なお本製品で電子書籍を扱う場合に試したい便利機能として、サイドキーおよびショートカット機能がある。サイドキーに任意のアプリを割り当てておけば、ダブルクリックすることですばやく呼び出せるので、1つの電子書籍アプリを集中的に使っている場合などに便利だ。

 もう1つのショートカットは、ロック画面の左下と右下に任意のアプリを登録しておき、画面を内側にスワイプすることですばやく呼び出すための機能だ。こちらは2つまでのアプリを登録できるので、利用頻度の高い電子書籍アプリを登録しておくとよいだろう。

 本製品は画面サイズが14.6型と大きいことから、ホーム画面に配置されたアイコンをタップするにしても、指先の移動距離はそこそこ長くなる。こうした場合、このサイドキーとショートカットの機能を活用すると、操作が楽になるはずだ。

サイドキー。任意のアプリをダブルクリックで呼び出せる
ショートカット。ロック画面の左下と右下に任意のアプリを登録しておき、すばやく呼び出せる
実際にショートカットを配置した状態
画面を内側にスワイプすることでアプリが起動する。言うまでもないがこの時、生体認証によるロック解除は同時に行なわれる

雑誌コンテンツの表示に向いた製品。気になる実売価格は

 以上のように本製品は、薄く軽く、かつ大画面のデバイスを探しているユーザーにはぴったりの製品だ。実際に12.9インチiPad Proと持ち比べても、画面が大きいにもかかわらず本製品のほうが軽く感じ、そのぶんハンドリングも容易だ。これまでになかったポジションの製品といえる。

 電子書籍ユースで特に向いていると感じられるのは、雑誌コンテンツを多く読むユーザーだ。10~11型クラスのタブレットでは小さいと感じるユーザーはもちろん、PCの大画面ディスプレイで雑誌コンテンツを読んでいて、なるべく近い感覚で扱えるタブレットを探しているユーザーにはうってつけの製品だろう。

 コミックについては、やや大きすぎる印象はあるが、雑誌掲載時のサイズや、原稿用紙サイズで見られると考えれば、またとない選択肢だろう。このほか技術書など、ページ内に細かい説明書きが多いコンテンツの表示にも適している。

 一方で、テキストコンテンツの表示はあまりオススメしない。もちろん老眼などが理由で文字をなるべく大きく表示したいニーズには適するが、1ページの文字量があまりに多いと、小説などでうっかり先の展開が目に入ってネタバレするなどのリスクもあるからだ。本製品でテキストコンテンツを読んでいると、文庫本や単行本など、せいぜい先の数行しか目に入らないページサイズには、相応の意味があることを実感する。

本製品であれば、片方のページだけでiPad miniよりも大きく表示できる

 気になるのはやはり価格だ。本稿執筆時点では国内販売価格はまだ発表されていないが、米国直販ではGalaxy Tab S8+(128GB)が899.99ドルなのに対して、本製品(256GB)は1,199.99ドルとなっている(いずれも2022年5月9日現在)。1.3倍強の価格差があることを考えると、15万円を超える可能性は高い(Galaxy Tab S8+の国内価格は11万5,500円)。

 これは同容量の12.9インチiPad Proよりも高価で、本製品はSペンが標準で付属するメリットはあるものの、なかなか評価が難しい。今後の発表を待ちたいところだ。

 なおAndroidはこの3月から4月にかけて、Google Playストアのポリシー改定の影響で、多くの電子書籍ストアでアプリからの直接購入ができなくなり、Webブラウザを使って購入しなくてはいけない仕様へと改められた。本稿執筆時点では、Kindleに関してはまだアプリ内での購入が行なえるが、多くのアプリでは購入のシームレスさが一歩後退し、iOSやiPadOSと横並びとなってしまった。

 こうしたことから、電子書籍ユースでAndroidを選ぶ必然性は、音量ボタンによるページめくりに対応することくらいしか、現状なくなってしまっている。そうした中で敢えてAndroidを選ぶならば製品に相応の付加価値が欲しいところだが、本製品はiPadシリーズがカバーできていない14.6型の大画面を備えており、いま敢えて選ぶべき価値は十分にあると言っていいだろう。