山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

CPUが強化された34,800円の第8世代「iPad」の使用感をチェック

iPad(第8世代)。シルバーのほかスペースグレイ、ゴールドの3色をラインナップする

 Appleの「iPad(第8世代)」は、10.2型のiOSタブレットだ。iPadファミリーのなかでエントリーモデルにあたる製品で、従来モデルの外見や基本スペックを踏襲しつつ、CPUの強化が図られている。

 製品発表会では、フルモデルチェンジした新型iPad Air(第4世代)の影に隠れてあまり目立たなかった本製品だが、税別34,800円からというリーズナブルな価格を維持しつつパワーアップしたことで、製品としては一段階ランクアップした印象だ。

 今回は筆者が購入したWi-Fiモデル(32GB、シルバー)を用い、電子書籍ユースにおける従来モデルとの違いのほか、iPadOSのマウス機能を使ったハンズフリーでのページめくりの方法などを紹介する。

縦向きに表示した状態。初代iPad以来の伝統となる、ホームボタンのあるデザイン
横向きに表示した状態。電子書籍ユースではこちらの使い方がメインになるだろう。画面サイズは従来モデルと同じ10.2型
上部に電源ボタン、側面に音量ボタン、背面にカメラというおなじみの配置。カメラはいまとなってはめずらしい突起のないタイプ
ホームボタンはTouch IDによる指紋認証に対応する
Lightningコネクタの左右にはスピーカーを搭載する

相違点は実質CPUのみ

 まずは従来モデルとスペックを比較してみよう。参考までに従来のiPad Air(第3世代)についても並べている。本製品と同時発表の新型iPad Air(第4世代)ではないので留意してほしい。

【表】iPadのスペック
iPad(第8世代)iPad(第7世代)iPad Air(第3世代)
発売2020年9月2019年9月2019年3月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)250.6×174.1×7.5mm250.6×174.1×7.5mm250.6×174.1×6.1mm
重量約490g約483g約456g
CPU64ビットアーキテクチャ搭載A12
Bionicチップ
Neural Engine
64ビットアーキテクチャ搭載A10 Fusionチップ64ビットアーキテクチャ搭載A12
Bionicチップ
Neural Engine
画面サイズ/解像度10.2型/2,160×1,620ドット(264ppi)10.2型/2,160×1,620ドット(264ppi)10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi)
通信方式IEEE 802.11acIEEE 802.11acIEEE 802.11ac
バッテリー持続時間(メーカー公称値)最大10時間最大10時間最大10時間
コネクタLightningLightningLightning
スピーカー2基2基2基
税別価格(発売時)34,800円(32GB)
44,800円(128GB)
34,800円(32GB)
44,800円(128GB)
54,800円(64GB)
71,800円(256GB)

 この表からもわかるように、おもな相違点はCPUが第3世代iPad Air相当にアップグレードされたことと、重量がわずかに増えたことだけだ。ストレージは32GBと128GBという従来と同じ構成で、税別34,800円(税込38,280円)からというリーズナブルな価格設定も同様だ。

 重量はWi-Fiモデルで490gと、約7g増えた計算になる。ちなみに実測値では従来モデルが479g、本製品が484gということで、公称値とのズレはあれ、数g増えたのは事実のようだ。従来もそうだったが、画面サイズが近い上位モデルとの差別化もあってか、あまり軽量化にこだわっていない様子が見て取れる。

 本製品と同時発表になったiPad Air(第4世代)は新たにWi-Fi 6に対応したが、本製品はIEEE 802.11ac、つまりWi-Fi 5のままだ。現行のスマートフォンやタブレットは昨今Wi-Fi 6対応が進んでおり、このあたりにもエントリーモデルらしさが漂う。

 このほか、上位モデルではすでに省かれたTouch ID搭載のホームボタンや、イヤフォンジャックを搭載。また背面カメラはシングルレンズだったりと、従来モデル以前から続く意匠をそのまま採用している。Smart Keyboard/Apple Pencil(第1世代)に対応するのも、従来モデルと同様だ。

左が本製品、右が従来の第7世代モデル。後者はiPadOS 14に未アップデートなため壁紙や一部アイコンがiPadOS 14導入済みの本製品と異なるが、外観や画面サイズはまったく同じだ
背面。こちらもまったく同一で、下部に印字されているモデル名でしか区別がつかない

 なお唯一、大きく変更になっているのが付属の充電器およびケーブルで、USB Type-C仕様に改められている(iPad本体側のポートはLightningのまま)。iPad ProやiPhone 11 Proシリーズと同じ最大18Wのモデル(9V/2A)かと思いきや、最大20W(9V/2.22A)という新しいモデルだ。外観はまったく同一で、底面のシルク印字でしか違いがわからない。

充電器およびケーブルがUSB Type-C仕様に変更になったため、化粧箱内部のトレイは新旧モデルで大きく異なっている
新型のUSB Type-C充電器。「20W」という印字が見える。モデル番号は「A2305」
左が本製品付属の最大20Wの充電器(A2305)、右がiPad ProやiPhone 11 Proシリーズに付属する最大18Wの充電器(A1720)。シルク印刷を除いて見た目はまったく同一だ

表示性能は問題なし。じわじわと増える重量はやや気になる

 では使い勝手を見ていこう。電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。

 画面サイズ(10.2型)や解像度(264ppi)は従来と同じということで、表示性能は従来モデルとまったく同じ。コミックの見開き表示や雑誌の表示は、原寸大よりはやや小さくなるが、細部の表現力にまったく問題はない。注釈などの細かい文字もしっかり読める。

 一方、反射防止コーティングが施されていないためiPad Airなどに比べて画面が反射しやすいことや、フルラミネーションディスプレイではないため画面がやや奥まって見える点も、従来と変わっていない。

 ただしこれらは上位モデルと比べると差異があるというだけで、致命的ではない。とくにフルラミネーションディスプレイは、Apple Pencilを使う上ではペン先と画面が離れて見える問題があるため対応していたほうが望ましいが、電子書籍ユースでは非対応でもとくに問題はない。

 気になるのはむしろ重量だろう。10型クラスで490gという重量は、500g以内に収まっているとは言え、決して軽くはない。第6世代が約469g、第7世代が約483gと、じわじわ増えているのも気になる。ちなみに新型iPad Airは約458gなので、それなりの差がある。

 電子書籍ユースでは長時間手で保持するのがつらい場合もあり、この点にこだわるようであれば、新型iPad Airのほか、画面サイズが7.9型とふたまわり小さいものの約300.5gと軽いiPad miniを選ぶ手もあるだろう。

コミックでは見開きの表示に対応する。264ppiということで表示性能も及第点だ
縦向きの表示にも対応するがコミックはむしろ大きくなりすぎる印象だ
むしろ縦向き画面は雑誌媒体の表示に向いている
画像化されたテキストも問題なく読める。注釈サイズであっても文字が潰れていないのはよい

 CPUが強化されたことで注目される動作速度だが、リンクをクリックしてページが表示されるまでの時間や、複数のコンテンツをまとめてダウンロードする時間などで、従来モデルとの違いを感じる。とは言え、横に並べて同時に実行すればわかる程度でしかなく、単体で使ってみて「オッ、速い」と体感できる人はまれだろう。

 ただしベンチマークでは、従来モデルとの性能差はかなりある。iPadOSのバージョンが違う点は差し引く必要があるが、従来モデルの約1.54倍といったところだ。電子書籍ユース以外の用途ではこのくらいの差が出るケースもあると考えておけばよい。余談だが、CPUが同じiPad Air(第3世代)の84%程度のスコアにとどまっているのが興味深い。

Sling Shot Extremeでのベンチマーク値の比較。本製品はiPadOS 14、残る2製品はiPadOS 13.5.1を使用。左から本製品、iPad(第7世代)、iPad Air(第3世代)。iPad(第7世代)には圧勝しているがiPad Air(第3世代)にはおよばない

iPadの画面に触れずに電子書籍のページをめくるワザとは

 さて、本製品の発売と時を同じくして、新OS「iPadOS 14」がリリースされているが、iPadOSの新登場時におけるダークモードやSplit Viewのように、電子書籍まわりで便利に使える新機能は見当たらない。ウィジェットのなかにApple Books関連の何かがないかと思い探してみたが、それもないようだ。

 むしろ電子書籍ユースにおけるiPadの使い方を変えるかもしれないのが、iPadOS 13.4で新たにサポートされ、このiPadOS 14でも利用可能なBluetoothマウス機能だ。これを使えば、画面に直接触れることなく、電子書籍のページめくりが行なえるようになる。今回はこの方法を紹介しよう。

 やり方はとくに難しいものではなく、BluetoothマウスをiPadとペアリングしたのち、タップでページがめくられるエリアにマウスポインタを置き、デバイスの左ボタンをクリックしてページをめくるだけだ。布団の上でマウスを操作するのが無粋ということであれば、空中で操作するタイプのデバイスを使えばよい。

 今回は以前やじうまミニレビューでも紹介した、エレコムのBluetoothハンディトラックボール「Relacon(リラコン)」を使用してみた。これならば、ベッドの枕元にiPadを取り付け、寝転がったままハンズフリーでページをめくるのも余裕だ。

空中で操作可能なエレコムのBluetoothトラックボール「Relacon(リラコン)」。最近になって新モデル(M-RT1BRXBK)がリリースされたようで、従来とは型番が変更になっている(今回は旧モデルを使用している)
本体前方に左クリック/右クリックボタンを備えており、これを使ってページめくりが行なえる
ベッドサイドなどにアームを使って本製品を固定すれば、寝転がった状態での電子書籍の閲覧や動画の鑑賞もお手のものだ
「Relacon」で操作中。画面にタップしなくともページがめくれる
「Relacon」を使ってページめくりを行なっている様子。ボールにやや遊びがありポインタを狙ったところに止めづらい点を除けば、リラックスした姿勢で操作ができ非常に便利だ

 以前はこうした操作1つを行なうにしても、AssistiveTouch機能を使わなくてはいけなかったが、現在のiPadOSではBluetoothマウスを接続するだけで済む。試してみるとわかるが、指先以外を動かさずに1~2時間も平気で読み続けられるので、じつに危険である。床ずれ対策を真剣に考えなくてはいけないレベルだ。

 もっとも理想なのは、ページをダイレクトにクリックするのではなく、キーボードの「←」、「→」を使ったショートカットでのページ操作だ。こちらであれば、画面のどこにマウスポインタがあろうが、確実にページをめくることができる。

 それゆえ、前述の「Relacon」に近い外観と操作性を持ち、かつ本体内に任意のショートカットキーを記憶しておけるデバイスがあれば、それに「←」、「→」を登録して使うことで、さらに快適にページめくりが行なえるはずだ。筆者も理想に近いデバイスにまだ巡り会えていないので、もう少し探してみたいと思う。

ホームボタンはなくなるの?

 以上のように、使い勝手そのものは従来モデルと相違がない。新しくiPadOS 14が搭載されていると言っても、従来モデルもアップデートすれば同等になるので、差別化要因にはならない。第7世代モデルを所有しているユーザーは、買い換える必要はないだろう。

 一方、画面サイズが旧来の9.7型で、かつSmart Connectorが非搭載の第6世代以前のモデルを使っているユーザーであれば、検討する価値はある。とくにホームボタン搭載という条件で選ぶのであれば、現行モデルにおける候補は本製品のみになってしまったからだ。

 ちなみに今回、iPad AirがiPad Proに近い仕様になり、ホームボタン搭載のiPadは(iPad miniを除けば)本製品のみとなったが、では次期モデルではホームボタン自体が消滅するかというと、筆者はそうは思わない。

 というのも、ホームボタンは操作が直感的だからだ。それほどリテラシーの高くないユーザーに操作方法を伝える場合でも「操作中に迷ったらとにかくコレを押すべし」と伝えておけば迷わないのは大きな利点だ。タブレットの操作に不慣れなユーザーがはじめて選ぶ1台として最適なだけに、その選択肢を自らなくす可能性は低いように思われる。

 むしろ次期モデルで考えられるのは、今回終息になったiPad Air(第3世代)のような、10.5型への画面サイズの大型化だろう。筐体サイズを維持したまま狭額縁化による画面サイズの大型化は、内部密度の上昇によってコスト増につながりやすい筐体の薄型化に比べれば、可能性は高いように思う。

 今回のモデルチェンジで、リニューアルした新iPad Airへと移行するユーザーはかなり多いものと考えられる。個人的にその選択はありだと思うが、同社の製品はマイナーチェンジの翌年にそこそこ大きいフルモデルチェンジが来ることがよくあるだけに、このiPadが次期モデルでどうなるか、そうした次の一手にも個人的には注目していきたい。