山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

ファーウェイ「MediaPad M5 lite 8"」

~LTEモデルでも2万円台後半で入手可能な8型タブレット

MediaPad M5 lite 8"

 ファーウェイの「MediaPad M5 lite 8"」は、Android 9 Pieを搭載した8型タブレットだ。Wi-Fiモデルが実売2万円台前半、LTEモデルも2万円台後半から購入できるなど、リーズナブルな価格設定が際立つ一品だ。

 7~8型のタブレットはその可搬性の高さから国内では人気が高いカテゴリだが、実際にはiPad mini一強と言っていい状態にあり、近年は各社から新製品が投入される機会も減りつつある。しばらくモデルチェンジが行なわれていなかったiPad miniが今春リニューアルしたことで、一極集中の傾向は今後ますます強まる可能性も高い。

 こうしたなかでほぼ唯一、継続的に8型クラスのタブレットをリリースし続けているのがファーウェイで、5月に登場した本製品は、スペックはミドルエンドながら、ひととおりの機能をざっと抑えつつ、リーズナブルなプライスを特徴とする製品だ。

 今回はメーカーから借用したLTEモデルをもとに、電子書籍ユースにおける本製品の使い勝手を、iPad mini(第5世代)や、Fire HD 8(第8世代)と比較しながらチェックしていく。プリインストールソフトやベンチマーク回りの評価は、掲載済みの西川氏のレビュー(LTE対応で3万円切りの高コスパ8型Androidタブレット「MediaPad M5 lite」)もチェックしていただきたい。

縦向きを基本としたデザイン
横向きにした場合、ホームボタンを含むナビゲーションバーが右側に移動するので、天地も息苦しくない
右側面に音量ボタンおよび電源ボタンを備える。このサイズのタブレットで両者が同じ側にある製品はあるようでない
上部にはイヤフォンジャックを備える。隣のスピーカーは、本体を横向きにすることで、底面のスピーカーと合わせて画面の左右に配置される
底面。Micro USBポートはかなり右寄りの位置にある。中央下のスピーカーの配置を優先したと見られる
左側面にはカードスロットがあり、microSDを追加可能だ
背面。全体的にすっきりした意匠。カメラは若干背面よりも飛び出ている

外観はFire HD 8に酷似も、性能は圧倒的に上

 まずは仕様をざっと比較してみよう。iPad mini(第5世代)とFire HD 8(第8世代)に加えて、スペック的には本製品よりも上位となる、型番に「lite」を含まない8.4型モデル「MediaPad M5 8.4"」も併せて見ていく。

【表】スペック比較
MediaPad M5 lite 8"Fire HD 8(第8世代)iPad mini(第5世代)MediaPad M5 8.4"
発売2019年5月2018年10月2019年4月2018年5月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)204.2×122.2×8.2mm214×128×9.7mm203.2×134.8×6.1mm212.6×124.8×7.3mm
重量310 g約369g300.5g約320g
OSAndroid 9Fire OSiOS 12Android 8.0
CPUHUAWEI Kirin710 オクタコア (4 x 2.2 GHz + 4 x 1.7 GHz)クアッドコア1.3GHz×464ビットアーキテクチャ搭載A12 BionicチップNeural Engine組み込み型M12コプロセッサHUAWEI Kirin 960 オクタコア(4xCortex-A73 2.4GHz + 4xCortex-A53 1.8GHz)
メモリ3GB1.5GB3GB4GB
画面サイズ/解像度8型/1,920×1,200ドット(283ppi)8型/1,280×800ドット(189ppi)7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi)8.4型/2,560×1,600ドット(359ppi)
通信方式802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n802.11ac MIMO対応HT80802.11a/b/g/n/ac
バッテリ持続時間(メーカー公称値)5,100mAh(10.6時間のビデオ再生と62時間の音楽再生)10時間最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生)5,100mAh(1080p動画を11時間再生可能)
コネクタMicro USBMicro USBLightningUSB Type-C
microSDカード○(400GBまで)-
直販サイト価格(発売時)24,710円(32GB)8,980円(16GB)
10,980円(32GB)
45,800円(64GB)
62,800円(256GB)
37,800円

 本製品は、画面がワイド比率ゆえ、アスペクト比4:3のiPad miniよりも、もう1つの比較対象であるFire HD 8に外観および画面サイズは酷似している。もっとも解像度は、200ppiを下回っているFire HD 8よりもはるかに高い上、重量も50g以上軽いなど、スペックとしてははるかに上だ。後述するが、レスポンスも圧倒的に高速である。

 iPad miniと比較した場合、全体的に筐体が細長いものの、長辺のサイズや重量もよく似ている。解像度はやや及ばないが、それでも300ppi前後ではあるので、表示性能は同等クラスと言っていい。

 それでいて価格は、2万円台の前半から入手できるということで、訴求力が高い。容量は32GBなのでiPad miniには及ばないが、microSDカードによる容量追加にも対応しているので、自由度は高い。iPad miniは予算的に厳しいユーザに合致する製品と言えるだろう。

 SoCは同社nova lite 3にも使われているミドルエンド向けのKirin710で、上位モデルに当たる「MediaPad M5 8.4"」のKirin 960ほどのハイエンドではない。iPad miniとの最大の違いを挙げるならばここだろう。

 多少気になるのは、USBがType-CではなくMicroで2019年発売のモデルとしてはやや古いこと、および厚みが8.2mmと、iPad miniの6.1mmと比べると分厚いことだ。iPad miniが薄すぎるのもあるが、2mmも差があると、手に持った時の印象はかなり異なる。

 なお上位モデル「MediaPad M5 8.4"」は、発売は約1年前と古いが、スペック的にはこちらのほうがiPad mini(第5世代)に近く、価格も本製品より上ながらiPad miniよりも安価(実売3万円台前半)なので、最新機種にこだわらずに探すならば選択肢に入ってくる。興味のある方は、該当製品の筆者レビュー(ファーウェイ「MediaPad M5」)も参照いただきたい。

左が本製品、右がFire HD 8。画面サイズは同じ8型だが、ベゼル幅が違う関係でボディサイズはFire HD 8のほうがひとまわり大きい
左が本製品、右がiPad mini(第5世代)。8型と7.9型ということで画面サイズはほぼ同じだが、アスペクト比が異なるため印象はかなり異なる
厚みの比較。いずれも左が本製品、右上がFire HD 8、右下がiPad mini(第5世代)。Fire HD 8よりは薄いがiPad miniとの差は一目瞭然だ

Androidタブレットとしては一般的。USBポートの位置が気になる?

 セットアップ手順は一般的なAndroid 9のそれに、ファーウェイ独自のEMUI関連の設定が加わっており、手順の数はやや多め。プリインストールアプリはGoogle製アプリ+ファーウェイの独自アプリといったラインナップで、全体的にシンプルだ。電子書籍アプリはプリインストールされていない。

 ホーム画面はAndroidの一般的なそれだが、画面を横向きにした時に、ホームボタンなどを含むナビゲーションバーが画面の下から横(右端)に移動するため、横向きで使う場合でも天地が圧迫されないのはメリットだ。またこのナビゲーションバー自体を非表示にし、ジェスチャー操作に一本化することもできる。

 iPad miniおよびFire HD 8と比べた場合に違いとして挙げられるのがセキュリティだ。iPad miniはTouch IDによる指紋認証にのみ対応しているが、本製品は指紋認証は非対応で、顔認証にのみ対応している。

 最近のスマートフォンでは、指紋認証と顔認証の両方に対応した製品が増えており、そうした仕様が理想ではあるが、このあたりはコスト的にもやむを得ないだろう。パスワードもしくはPINにしか対応しないFire HD 8よりはよほどいい。

ホーム画面。すべてのアプリがホーム画面に並ぶ仕様だが、別画面に分ける、いわゆるドロワー表示にすることも可能だ
画面を横向きにするとホーム画面も横向きになる。この場合、ホームボタン類は画面の下ではなく右側に配置される
初期設定ではナビゲーションバーが表示されているが、これらを非表示にしてジェスチャー操作に一本化することも可能だ
本製品は顔認証に対応している。今回メーカーから借用した機材では項目が表示されていないが、正しくはこの「セキュリティとプライバシー」のなかに「顔認証」という項目がある

 しばらく実際に使ってみて気になったのが、USBポートが底面の中央ではなく、かなり右寄りに配置されていることだ。おそらくスピーカーを中央に配置するのを優先したためだろうが、市販のタブレットスタンドなどはUSBポートが中央にある前提で設計されている場合が多く、こうしたアクセサリとの組み合わせでは、不便に感じることもありそうだ。

 また背面のカメラはやや突起があるため、最薄部で比較するとFire HD 8(9.7mm)よりも1.5mm薄いが、カメラの厚みを加えた最厚部で比較すると、両者の厚みにそれほど違いはない。カメラ部の厚みは実測9.6mmあるので、実質ほぼイーブンだ。

底面のUSBポートはかなり極端に右寄りの位置にある。ちなみにUSB Type-Cではなく旧来のMicro USBだ
カメラは若干の突起がある。厚みは実測では9.6mmだった

解像度も十分、コミックの見開き表示にも対応可能

 電子書籍ユースについて見ていこう。とくに断りがないかぎり、ストアはKindleストアを利用している。テキストコンテンツのサンプルには太宰治著「グッド・バイ」を、コミックのサンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を用いている。

 本製品は8型ということで、縦向きではコミックのほぼ原寸表示が可能だ。表示サイズはFire HD 8とはほぼ同等で、iPad miniはアスペクト比の関係で、本製品のほうがひとまわり小さくなる。

 本体を横向きにしての見開き表示も可能だ。さすがに天地サイズは窮屈だが、解像度が283ppiあるため、見開きになると細い線がまるで描写できないといった問題はない。200ppiを切っているせいで見開きにすると細部がつぶれるFire HD 8(189ppi)とは、ここが最大の違いだ。

左が本製品、右がFire HD 8。画面サイズ、ページの表示サイズともにほぼ同じだ
左が本製品、右がiPad mini(第5世代)。こちらはアスペクト比の関係で、7.9型のiPad miniのほうが表示サイズはひとまわり大きくなる
見開きでの比較。本製品(上)とFire HD 8(下)とでサイズはほぼ同じだが、解像度の差は如実に出る(後述)
同じく、見開きでの本製品(上)とiPad mini(下)の比較。表示サイズは本製品のほうがひとまわり小さいが、解像度は足りており問題なく読める
解像度の比較。上段が単ページ表示、下段が見開き表示で、左から順に本製品(283ppi)、Fire HD 8(189ppi)、iPad mini(326ppi)。Fire HD 8の単ページ表示(中央上)よりも、本製品の見開き表示(左下)のほうが細い線もしっかり描写できている

 一方で、従来から同社の7~8型クラスのタブレットにみられる問題は、本製品でも解決されていない。それはKindleなど一部の電子書籍ストアアプリで、画面を横向きに固定している場合でも、ホーム画面やライブラリ、ストアの画面などが強制的に縦向きになることだ。

 そのため本製品では、見開きで読んでいた本を閉じて、次の本を開こうとライブラリに戻ると、そのたびに画面が90度回転して縦向きになってしまう。確認したかぎりではKindleのほか、楽天Koboやebookjapanでも同様の症状が見られ、快適な利用を妨げてしまっている。

 この問題は「ローテーションコントロールPro」など、アプリごとに向きを制御できるアプリを導入することで回避できるが、他社の7~8型クラスのタブレットではお目にかからず、ファーウェイ製品でのみ以前から集中的に発生している問題なので、そろそろタブレット側での解決を望みたいところだ。

ホーム画面はこのように横向き表示に対応している
電子書籍アプリも、Kindleのほか今回試した主要なアプリについては、横向き表示=コミックでの見開き表示に問題なく対応している
ところが一部の電子書籍アプリについては、ホーム画面やライブラリ、ストアなどが横向きに対応せず強制的に縦向き表示になってしまう

 ただし本製品は、画面が横向きだとナビゲーションバーが画面右に配置される仕様なので、外部アプリを使うなどの力技で画面を横向きに固定してしまえば、ナビゲーションバーが画面下に配置されるほかの8型タブレットよりも、天地が息苦しくないという利点がある。工夫次第でメリットになることもありそうだ。

選択肢が減りつつある7~8型タブレットのなかでも貴重な製品

 以上ざっとチェックしたが、解像度などの表示性能まわりはまったく問題ない。それ以外の部分も、前述のように画面が横向き表示にならないなど細かい問題はいくつかあるが、このクラスのタブレットとして完成度は高い印象だ。

 パフォーマンスも、ベンチマークではiPad miniに大差をつけられているが、電子書籍ユースでそれらの差を実感する機会はまずない。一方、Fire HD 8と比べると、画面の切り替わりの速さや読み込みの速さなど、性能の差はなにかにつけて実感することが多い。

Sling Shotによるベンチマーク比較。左から本製品、Fire HD 8、iPad mini(第5世代)。OSの相違などから完全に公平な比較ではないにせよ、スコアはそれぞれ1,333、148、6,863とかなり差が極端だ

 これに加えて本製品は、Androidならではの、電子書籍ストアアプリ内で本が買えるというメリットがある。なによりFire HD 8と違ってGoogle Playストアが利用できるのは大きな強みだ。また(見開き表示ではボタンの左右が逆になるが)音量ボタンでページめくりが行なえるのも利点だろう。

 以上を総合すると、iPad miniでは価格的に条件に見合わず、またKindle以外の電子書籍ストアや、さまざまなアプリが使える汎用性の高さ、および実用レベルの性能と利便性の高さに魅力を感じる人に向いた製品と言える。Androidで競合が減りつつあるなか、これだけの総合力がある製品は貴重だ。

 なお画面を横向きにした状態では、スピーカーが左右に配置されるので、動画鑑賞にも向く。もともと本製品はHarman Kardonのチューニングによるスピーカー性能が1つの売りであり、電子書籍に加えて動画鑑賞を楽しみたいユーザーにも、とくにおすすめできる製品と言えそうだ。