山田祥平のRe:config.sys

起きて半畳寝て一畳、それでも欲しい15型

 どんなに広大なデスクトップがあっても、人ひとりが視野に入れて実用的に使える領域はかぎられている。人は必要以上の領域を望むべきではないのかもしれない。だが、それでもデスクトップは広いほうがいいし、できることなら持ち運びたい。

続々登場する15.6型フルHDモバイルディスプレイ

 ここのところ廉価な15.6型フルHDモバイルディスプレイが各社から続々と登場している。24型ディスプレイを持ち歩くのは自分でやっていても無茶だとも思うし、会社に常置して使うにしても、ロッカーから取り出してフリーアクセスの席に設置するのはさすがにはばかれる。でも、15型なら許容範囲ではないだろうか。

 ここのところ13型ディスプレイのモバイルノートPCで、すべてをまかなわなければならなくなるトレンドが強いが、15型のノートや20型程度の外付けディスプレイでPCを使っていたかつての環境に比べれば、少し能率が落ちているのではないかとも思う。1人で用途に応じて複数台のPCを使うのが理想的だが、予算はもちろん管理の点でもそれはなかなか難しい。

 今回は、数ある製品のなかから、レアモノショップでおなじみのサンコーから発売されている、その名もズバリ「Type-Cモバイルディスプレイ15.6」をしばらく使ってみた。価格は19,800円と2万円を切っている。最廉価ではないが、スペックを見るかぎり、かなり魅力的に見えた。バッテリ非内蔵で陳腐化しにくく、スピーカーつきでHDMI入力もできるのでPC以外のAVデバイスでも使えそうと、いろいろ欲しかった条件がそろっている。みんな、こういうスペックを求めていたのか、アッという間に品切れで予約受付中になっている(本稿執筆2020年2月6日時点)。次の納期までには数カ月かかる可能性があるという……。

 本体重量は約700g(実測713g)で、スタンドにもなるカバーが同梱されていて、こちらが313gだ。合計1kgちょっと。がんばればビジネスバッグに入れて持ち運べるし、キャリーバッグに入れてゴロゴロと引っ張る分にはほとんど負担にならないボリュームだ。重さが気になるようならカバーをやめて百均で調達できるようなタブレットスタンドを使えば大幅にダイエットできる。

 本体の左側にUSB Type-C端子とMini HDMI端子、右側にUSB Type-C端子と電源スイッチ、操作用ダイヤルが装備されている。

 ノートPCのUSB Type-C端子と左側のUSB Type-C端子をケーブル1本で接続すれば、DisplayPort Alternate Modeでセカンドディスプレイとして認識される。もちろん電源もPCから同時に供給される。GalaxyやHuaweiのスマートフォンを接続することでPCモードでキーボードやマウスを使った操作もできる。ちょっとした出張ならそれだけでいいという場合もありそうだ。

 うれしいのはHDMI端子が装備されていることと、スピーカーを内蔵しているという点だ。これはつぶしがきく。ただし、HDMIでは電源の供給ができないので、電源については右側のType-C端子に別途供給する必要がある。つまり、ビデオデッキがあればTVになるし、Nintendo Switchなどのゲーム機をつなげば音つきで大画面ゲームを楽しめる。

あってうれしいPDパススルー

 うれしい誤算は、電源入力専用に用意された右側のType-C端子がUSB Power Delivery(PD)パススルーに対応していたことだ。仕様には明記されていなかったのだが、右側からPD電源を供給すれば、左側のType-C端子はPDで電源を出力できる。電源が供給されていればPDソースになり、供給されていなければPDシンクとなるデュアルロールがちゃんと機能しているようだ。

 手元で常用しているパナソニックのレッツノートにはType-C端子が1つしかないし、富士通のLIFEBOOK UH95/D2やUH-X/D2はType-C端子が2つあるが片方しか映像出力に対応していない。もう1つのType-C端子はPDソースにはなれてもシンクにはなれない。

 これらの機種には電源専用の端子が装備されているので、それを使えば済むのだが、そのためだけに専用のACアダプタを持ち歩くというのもばかばかしい。

 だが、このディスプレイがPDパススルーに対応していることがわかったので、別途、専用電源アダプタやPDパススルーのHubなどを用意することなく使える。

 今のところ、致命的な欠点は見つかっていない。日本ほど15型ノートが売れた国はないときいているが、こうした製品が出てきているのをみるとモバイルディスプレイもまた15型がトレンドとなりそうだ。一家に1台というくらいに慣れ親しんだサイズ感をもう一度といったところか。

 唯一気になるとすれば、画面の輝度を記憶しないところだろうか。いったん電源が切れると、もう一度設定する必要がある。と言っても本体右側のダイヤルで簡単に輝度を調整できるので、大きな問題ではないと判断している。

 ちなみに15.6型ディスプレイと13.3型のノートPC、2つのフルHDディスプレイを並べて使う場合、96dpiというWindowsの既定値でデスクトップを表示するには前者を145%、後者を124%にスケーリングする必要がある。Windowsのスケーリングは25%単位なので、150%と125%に設定すると、ほぼ同じサイズ感で使うことができる。人によっては125%と100%で十分という場合もあるだろう。とにもかくにも作業領域は一気に2倍以上になる。

あるものは使いたい

 今回は、たまたま国内出張があったので、この製品を持参してみた。宿泊は一般的なビジネスホテルだ。壁に作りつけた申し訳程度の作業スペースが用意されているが、その上に、各種のパンフレットや館内案内の冊子、据置電話機などが所狭しと置いてある。しかもTVまであってデスクとして機能させるのはたいへんだ。とりあえず、置いてあるものを取っ払ってノートPCなどを設置してみた。

 持参したモバイルディスプレイを接続するだけでセカンドディスプレイとして機能するようになる。それで十分なのだが、気になるのがすぐ隣にあるTVだ。24型フルHDのスペックのようで、最近の多くのビジネスホテルはこの程度のTV設置が当たり前になりつつある。

 あれば使いたくなるというのが人情だ。今のところ、ビジネスに使うモバイルPCでHDMI端子が省略された製品というのはあまり見かけない。おそらくは会議室などに設置されたディスプレイやプロジェクタへの出力のためなのだろう。かつてはそのためにミニD-Sub15ピン端子は必須とされていたが、この先しばらくはHDMIということになるのだろう。だから出張時にHDMIケーブルさえ持参すれば、簡単に3台目のディスプレイを使える可能性は高い。そう思って、短期出張用のキャスターバッグにも長めのテーブルタップといっしょにHDMIケーブルを忍び込ませてある。今回もそれを使って接続してみた。

 ほかの周辺機器と違って、ディスプレイについては、接続したところで機密が漏洩するようなセキュリティ上のリスクは考えにくい。しかも部屋はほとんどの場合個室だ。のぞき見などの心配もない。仕事を終えて会食後に部屋に戻ってバタンキュー、翌朝はシャワーを浴びて朝食をとったらすぐに出発といったスケジュールでは活躍の機会はないかもしれないが、出張先での万が一の急用対応などに備え、効率的な作業環境を準備しておくのは大事だ。そういう意味では誰でもできるBCP(Business Continuity Plan : 事業継続計画)でもある。ビジネスホテル側も、ケーブルをデスクの引き出しに常備しておいてくれるといいのだが。

 広辞苑には「人間の生活に必要な面積はわずかなのだから、ぜいたくは慎むべきであるという意」とされている「起きて半畳寝て一畳」という教え。いや、違うでしょ。贅沢はわかっていてもラクをしたいという欲望は無限だ。