山田祥平のRe:config.sys

PCとスマホ、15万円ならどっちを買う?

 今後、スマートフォンの価格が高騰する可能性が高いという。官房長官の「4割値下げ」発言の影響が、そういうところに出てくるとなると、日常的に利用するスマートデバイスについての考えを改める必要も出てきそうだ。

分離で端末価格が高くなる

 通信サービスと端末代金の分離が進めば、端末代金は今よりもずっと高くなるという。当然、ハイエンドの端末を手に入れるのは予算的に厳しくなる。それなりの端末なら10万円超が当たり前になり、15万円近く支払わないと最新のiPhoneが手に入らないとなると、これは深刻な問題だと感じられるのも無理はない。

 もちろん、急に端末の原価が高騰して売価に影響するわけではない。これまでは、端末の代金の割引額は、毎月の通信サービス料金から差し引くという方法が当たり前のように行なわれてきたため、端末は安いけれど、通信サービス料金は高いという錯覚に陥っていただけの話だ。

 端末を一括支払いで購入すれば、割引分はそのまま通信サービス料金から差し引かれる。そういう買い物をするユーザーにとっては、通信サービス費はかえって安くなったように見える。キャリアに貸したと同義な一括支払い代金を分割で戻してもらうかたちになるからだ。

 だが、普通は2年間の分割払いで支払うため、見え方としては、毎月、高額な通信サービス料金を払っているように感じてしまう。そこでは端末を購入した料金を支払っているという意識は希薄で、端末+通信サービスの合計額がいわゆる携帯電話料金として認識される。それを分離すれば、通信サービス料金は安くなるが、端末代は高価なものになる。これが通信サービスと端末代金分離の副作用だ。

 さらに、その通信サービス料金を今の水準より下げると、同じサービスを維持するために、キャリアはほかのビジネスでカネを確保しなければならなくなる。キャリアの決算内容(2018年度上期)を見ると、たとえばドコモの場合、2017年上期と2018年上期を比較した場合、スマートライフ領域の営業利益は22%増えている。営業利益の割合は通信事業が84%、スマートライフ領域が16%といったところだ。

 ちなみにスマートライフ領域はコンテンツ・コマース、金融・決済、ライフスタイル、法人ソリューション、あんしん系サポートなどが含まれる。

 今後、この領域の割合はもっと増えるだろうし、最大4000億円規模を予定しているという値下げによる顧客還元にしても、その減益を見込みながらも、スマートライフ、法人ビジネス、5Gの成長などで新たな収益機会を創出するとしている。

スマートライフ領域も通信料金?

 キャリアがスマートライフ領域に力を入れるようになると、一般消費者は通信サービス料金とコンテンツ費、決済額などを合算した額を毎月引き落とされることになるだろう。早い話が、購入した電子書籍のコミックの価格はもちろん、ドコモがいうところのd払いなどで月々のケータイ料金と合算して支払う金額もこちらだ。

 つまり、コンビニで買った弁当代、夜の飲み会費用なども合算される。端末と通信サービス代金が分離しても、もしかしたら、キャリアから引き落とされる総支払額は以前より高くなってしまう可能性もある。値下げされたはずなのに、なんだか通信費が前より高くなったと勘違いするユーザーが出てくるかもしれない。紙の請求明細を発行せず、毎月、Webでのチェックもしなければ、そういう勘違いをしてしまうのは当たり前だ。

 そんな日常の意識が急に変わるはずもない。だったら、銀行引き落としでも、クレジットカード決済でも、分離をアピールするなら、通信費、端末費、スマートライフ費の請求元も分離し、それぞれがいくらかかっているのかを明示するのがいいかもしれない。そこまでしないと勘違いは永久に続く。ただ、そういうことをするためには請求をするキャリア側でのコストもかかるだろうから、エンドユーザーにとって本当にトクなのかどうかはあやしい。

風が吹けば桶屋が儲かる的な

 ハイエンドのスマートフォンは、普通、10万円以上はするものだという認識は、普通の人にはない。いろいろな方法でそれが隠蔽されてきたからだ。実質×円の価格表記はまさにそれだし、ショップに行けば行ったで、今なら×円キャッシュバックといった貼り紙がうるさいほど掲示されている。

 これらのサービスの資金源となっているのは、端末を頻繁に買い替えて、月々の端末購入サポート代を途中で権利放棄するユーザーや、新しい端末を購入することなく、また、キャリアを変更することなく5年も10年も同じキャリアにとどまっているユーザーが支払い続けている料金だ。

 保守的なユーザーは今なおガラケーを使い、スマートフォンのような大容量のデータ通信をしないので、額としてはそれほど大きなものではないかもしれないが、今なお、3Gユーザーが3割いるとも言われているような現状を考えると、決して馬鹿にできない金額だ。

 ドコモは2020年代半ばには3Gを終焉させたいと考えているようだし、3Gネットワーク維持が次世代の通信の大きな負担になっている状況は否定できないが、カネの行き来を考えたときのインパクトは決して小さなものではない。

 かくして、なんとなくではあっても、スマートフォンはけっこう高額な機器であるということが浸透していくだろう。場合によっては、PCとスマートフォンはサイズこそ違え、同価格帯の製品だという認識が出てくるかもしれない。

 スマートフォンは、ほとんど肌身離さず持ち歩き、日常的に使うものだし、PCは使うシーンがかぎられる。ビジネスマンにとってはPCがなければ仕事にならないが、一般のコンシューマはそうではないだろう。同じ10万円前後の支出を覚悟しなければならないとしたら、いったいどちらが選ばれるだろうか。

 それとも、こうしたスマートデバイス類に投資できる金額の絶対額として、払えて3万円程度といったことになるのだろうか。個人的には仮に目安が3万円だったとして、その金額で購入できるスマートフォンとPCを比べたら、PCのほうに魅力と可能性を感じたりもする。

 もはやスマートフォンなしで日々の暮らしは不可能だから、スマートフォンはローエンドを選んだり中古を購入するなど最低限の支出で抑え、コストパフォーマンスの高いPCに投資する可能性が高い。きっと自分ならそうすると思いながら、世のなか全体がどうなるのか。かくして、風が吹けば桶屋が儲かる的に、通信料金が下がればPCが売れるといった現象につながっていくかどうか。

 PCの業界は、これをチャンスとしたビジネスができれば、2020年に予想されているPC暗黒の時代をコンシューマ向けPCの復権で回避できるかもしれない。ただ、その答が出るまでには、まだしばらくかかりそうだ。