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プロカメラマン山田久美夫の

「ソニー MD DISCAM」ファーストインプレッション


 9月末のIFA99で参考出品された、世界初のディスクメディア採用ビデオカメラ「MD DISCAM」が正式発表された。今回は試作モデルを使う機会を得たので、早速その感触をレポートする。なお、仕様の詳細については製品情報を参照されたい。



●ディスクの便利さを感じる操作感

 使ってみてまず感じるのが、ディスクメディアならでは便利さだ。画像の一覧表示が簡単にでき、すぐに検索できる。  もともと私の場合、静止画がメインのため、動画を撮影する場合でも数秒から数十秒単位の比較的短いカットを撮ることが多い。だらだらと長時間撮影するよりも、短いカットのほうが、“動画スナップ”的な感じで、見ていても小気味良いからだ。

 これをDVカメラのようなテープメディアで撮影すると、必要なカットへ行き着くのが大変なのだが、「MD DISCAM」なら、撮ったカットがサムネール画面として一覧表示されるので、すぐに必要なカットを見ることができる。さらに、不必要なカットを簡単にカットできるうえ、音楽MDのように再生順序を簡単に編集できる点も実に便利で楽しい。

 本体サイズはMDディスクを収納するため、最新のDVカメラに比べるとサイズは大きめだ。しかし、手にしてみると、意外にしっくりとしたホールド感で、撮影時にはその大きさを感じることはなかった。カラーリングは写真ではわかりにくいが、VAIOカラーであるバイオレット調になっている。デザイン的には、もう少しスタイリッシュさとインパクトがほしかった。

写真は、9月のIFA 1999で参考出品された際のもの


●楽しめる編集作業

 本機の大きな特徴として、撮影した映像の編集操作が挙げられる。これは、これまでのビデオカメラにはない機能だ。本機は、カメラ単体でかなりのレベルまでの編集作業ができ、ごく一般的な編集であれば、PC上での作業を必要としないレベルだ。

 編集とひとくちにいっても、その内容は多種多様。簡単なものでは、各カットの順序を入れ替える「移動」。撮影した動画の前後を削除する「トリミング」。編集したいカットを複製する「コピー」などがあげられる。

 さらに、動画上にペイントできる「落書き」、文字入力できる「タイトル」、動画再生時の最初と最後に部分にエフェクトを加える「シーンチェンジ」といった特殊機能もある。

 なかでも、ピクチャーエフェクトは魅力的で、機能的には現在、「モノクロ」、「セピア」、「モザイク」と「スロー再生」しか搭載されていないが、これだけでも結構楽しめる。とくに、「セピア」と「スロー再生」を併用すると、映画のなかの回想シーンのような効果が得られて、なかなか感動的。この手のメニューを今後さらに追加してほしいところだ。

 これらの編集作業をする場合、基本的に記録したオリジナルデータに対する加工は加えられず、編集手順だけが別データとして保存され、再生時にそのデータに基づいた処理が行なわれるようになっている。そのため、何度でもやり直しがきく。ただし、映像の前後を削除する「トリミング」作業だけは、オリジナルデータを直接操作するため、一度コピーを作成してから操作する方が安全だろう。


●タッチパネルによる感覚的な簡単操作

 これらの編集操作は、MD DISCAM本体の、タッチパネル式の3.5インチ大型液晶上で行なう。

 まず、本機を再生モードにすると、撮影された映像データがサムネールとして一覧表示される。そして、再生したい映像を、本体付属のタッチペンを使ってダブルクリックするか、ジョグダイアルで選んでクリックするだけ。MD DISCAMには従来のテープメディアのような“頭出し”という操作は存在せず、見たい映像をダイレクトに再生できる。このあたりがディスクメディアの魅力だ。

 さらに、画面左側にアイコン化されたメニューバーがあり、ここから必要な機能を選んで操作する。実際の編集作業は、とても感覚的でわかりやすい。そのうえ、選んだ機能の内容が、画面下にテロップ状に表示されるので、説明書をいちいち読まなくても操作できる点は実に親切で好感が持てた。


●実用十分な画質

 MD DATA2ディスクによるMPEG-2カメラと聞くと、やはり気になるのが、その画質だ。本機には記録モードとして、4Mbpsと8Mbpsの固定レートと、被写体の情報量に応じて記録レートを自動的に変化させる可憐レートのVBR(Variable Bit Rate)モードがあるが、今回は主にVBRモードを使って撮影してみた。

 画質はテレビ画面で見る限り、必要十分なレベルであり、通常のDVカメラで撮影したものと比較しても、大きく見劣りするようなことはない。もちろんファミリーユースや旅先での記録などには、まったく支障のないレベルだ。

 ただ、ビデオカメラとしての撮像部分は、一般的なDVカメラと同等で、同社のメガピクセル機「DCR-PC100」や3板式の「DCR-TRV900」に比べるとワンランク落ちる感じがするのはやむを得ない。本機で気になったのは、ホワイトバランス。性能的には通常のDVカメラと同レベルなのだが、本機の場合には、編集作業が容易にできるため、カットを繋いだ場合に微妙なホワイトバランスのズレが目立ってしまうことがあった。これは露出面でも同じことがいえるわけで、このあたりは編集機能を備えたモデルとして、今後の大きな課題となりそうだ。

●山田久美夫氏による静止画撮影例
画像はベータ版による撮影のため、製品とは異なる場合があります。画像の著作権は山田久美夫氏に帰属します


●不満のない記録時間

 本機は、記録時間が通常のDVカメラよりも短いが、長時間の連続撮影をしない限り、この点が気になることはほとんどなかった。実際に、連続したカットとして撮影する時間は、通常、長くても3分程度であり、それ以下の場合がほとんどだ。そのため、残りの記録時間に注意しておけば、最大20分のMD DATA2ディスクでも結構なカットを撮影することができる。しかも、いざとなれば、不要なカットだけを削除するといった、ディスクメディアならではの荒技も使える。

 また、ビデオテープの場合には短いカットを撮影すると、頭出しが面倒で編集もひどく面倒なため、1つのカットが長くなる傾向がある。しかし本機なら、短いカットをつぎつぎ撮影しておき、あとから順序を入れ替え、シーンチェンジ効果を加えて編集することができる。そのため、自然と短いカットが増えることで、実質的な記録時間は短くてすむ。

 むしろ、撮影中に気になったのは、データ記録中の振動だ。このあたりはディスクメディアを搭載した機器に共通する弱みだ。ただ、今回、ごく普通に使った範囲では、データのエラーを起こすようなことはなかった。

 このほか、電池の持ち時間に関して、メーカー側は、大型液晶を使用した撮影で連続65分、実撮影で32分と記載されているが、感覚的には、この数値よりも遙かに長く撮影できるような感じがした。もっとも、本機は構造上、標準サイズのバッテリーしか搭載できないので、やはり予備電池を持ち歩いた方がいいだろう。


●便利なイーサーネットによるパソコン転送

 PCとの接続は、イーサーネット(10Base-T)で行んなう。DVカメラの場合はいまやIEEE-1394系が主流になっているが、本機ではより広いユーザーが気軽に扱える点を考慮して、この方式を選んだという。この転送方法については、賛否両論ありそうだが、少なくとも現時点では、IEEE-1394インターフェイスを標準で備えているPCが少数派であることを考えると、現実的な選択肢ともいえる。

 本機は、カメラ自身にIPアドレスを設定することができ、PCからはHTTPサーバーとして見える。この場合、DHCPによるIPの自動取得も可能だ。PC側からの操作は、すべてWebブラウザ上で行なう。Webブラウザから本機にアクセスすると、記録されている映像のサムネール一覧が表示され、その上にPC転送時のサイズとフレームレートを指定するダイアログが配置されている。


●基本操作はWebブラウザから

 基本的な操作は、一般的なホームページの閲覧と同じ操作になっている。つまり、データのダウンロードは、そのサムネールをクリックするだけでOK。IE5の場合、普通に動画データをクリックすると、別のウィンドウが自動的に開き、そこでQuickTimeデータが再生される。データとしてダウンロードしたい場合は、右ボタンを使って、HDD上に保存することになる。

 転送されるデータは、動画の場合にはQuickTime形式。静止画ではJPEG形式に自動的に変換される。また、オプションとしては、動画データの場合、動画サイズは1:1、1:2、1:4の3種類。秒間コマ数は1、2、5、15、30の5種類を選ぶことができる。

 ただし、動画時でも転送されるのは映像データのみで、サウンドデータは転送されない。この点は実に残念だ。また、MD DISCAM上で編集したデータは、編集結果がそのまま転送されるが、特殊効果を施したものはエフェクトのない映像データのみなので注意が必要だ。

●山田久美夫氏による動画撮影例

サイズ 4:1 秒間15フレーム
322KB 1,011KB

サイズ 2:1 秒間15フレーム
962KB 2,066KB
画像はベータ版による撮影のため、製品とは異なる場合があります。画像の著作権は山田久美夫氏に帰属します

 このほか、インターネット上での利用を考えて、よりファイルサイズが小さくできる、MPEG-1データへの変換機能も追加して欲しいところだ。PCへの転送時間は、カメラ内でデータ変換が行なわれるため、それなりの時間がかかる。といっても、よほど長時間のデータや、大きな画像サイズやコマ数を指定しない限り、十分に待てる範囲の速度だ。

 転送されたデータのクォリティは、予想以上に良好だ。もちろん、転送時の設定によって、クォリティはかなり大きく変化するうえ、ビットレートを高めに設定すると、ローパワーなマシンではコマ落ちしてしまうケースもあるので、注意が必要だ。  また、イーサーネットで繋がっているのであれば、本機をPCとして認識してファイルを共有させ、撮影されたデータをドラッグ&ドロップで転送できるようなインターフェイスも採用して欲しいところだ。


●新しい楽しみ方ができる新世代ビデオカメラ

 先だって開催された「エレクトロニクスショー」では、各社からディスクメディアを採用したビデオカメラが出品された。記録メディアとしては、やはりDVD系が主流となっていた。だが、本機以外の参考出品モデルは、基本的にはテープメディアをディスクメディアに置き換えることがメインとなっており、ディスクらしいメリットを明確に感じられるコンセプトを前面にうたったモデルはなかった。

 そのなかで本機は、MD DATA2を採用している点もさることながら、それ以上に、ディスクメディアならではの“楽しさ”を感じさせるモデルに仕上がっている点に好感が持てる。とくに編集作業が本機単体で簡単にできるため、これまで一般のビデオユーザーには縁がなかった、自分の手で“映像を作る”という新しい楽しさを、多くの人が体験できるモデルに仕上がっている。

 この世界初のディスクメディア搭載機「MD DISCAM」が、単なる記録メディアの置き換えではなく、新しい楽しさを備えた新世代のビデオカメラとして登場してきたことは実に喜ばしいことであり、今後の動画文化の発達にも新しい一歩となるモデルとして、本機のコンセプトを高く評価したい。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報
http://www.sony.co.jp/mddiscam/
□関連記事
【11月1日】ソニー、MD DATA2メディアのムービーカメラ「MD DISCAM」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/991101/sony.htm
【9月1日】プロカメラマン山田久美夫のIFA 1999レポート
ソニー、MPEG-2ベースのMDビデオカメラを公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990901/ifa2.htm

■注意■

('99年11月2日)

[Reported by 山田久美夫]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp