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法林岳之のTelecom Watch
第31回:'99年9月編



 今年7月のNTT分割・再編を機に始まったインターネットアクセスラインの争いは、9月に入り、さまざまな情報が公開され、ますます激しさを増しそうな勢いだ。しかし、その一方で、好調を続ける携帯電話・PHS陣営は、ハードウェアを含めた新しい展開を試み始めている。


幅広い利用者が対象のi・アイプラン

 今年7月にNTT分割・再編を機に発表された新サービスの計画では、地域IP網を利用した定額IPサービスの注目度が非常に高い。しかし、現在、予想されている月額8,000~1万円という金額は、必ずしもすべての利用者の環境に適しているわけではない。むしろ、同時に発表された準定額(半固定)料金を採用した割引サービスの方がより多くの利用者にメリットがあるはずだ。このことはこのコラムなどで何度となく紹介してきている。

 その準定額料金を採用した割引サービス『i・アイプラン』がいよいよ10月から開始された。このプランではあらかじめ指定しておいた単位料金区域(3分10円の区域)内のひとつの電話番号に対する通信が割引になるというものだ。対象となる回線はISDNのみだ。i・アイプランでは月額1,200円と3,000円のコースが設けられ、『i・アイプラン1200』では3,000円分(15時間相当)、『i・アイプラン3000』では7,500円分(37時間30分相当)の通信が可能になる。曜日や時間帯を問わないため、昼間中心の利用者も割引の恩恵を受けられる。対象電話番号の数などに違いはあるが、利用時間が深夜・早朝に限られるINSテレホーダイからの乗り換えも十分検討する価値があるだろう。人間の生活ペースから考慮しても、はるかにこちらの方が健康的だ。

 さて、i・アイプランが登場したことにより、周辺サービスやハードウェアにも変化を期待したいところだ。たとえば、ISDNターミナルアダプタやISDNルータは、こうした料金プランを考慮した設定ができるように、設定メニューやユーティリティを変更する必要があるだろう。プロバイダ側も単位料金区域内のアクセスポイントの電話番号の統合を検討してもいいのではないだろうか。もちろん、アクセスポイントの電話番号の統合には、NTT側も十分に協力する必要がある。こうした周辺サービスやハードウェアの充実なくして、i・アイプランの成功はない。

 インターネットに接続するアクセスラインには、ここ数ヵ月で数多くのプランが発表された。しかし、実はその多くは本サービス開始が来年夏以降となっている。仮に、来年7月に開始されると考えても、あと9ヵ月あるわけだ。この間の料金を少しでも節約するためにも、i・アイプランの導入は十分検討する価値があるだろう。来月、再来月の数千円の節約は、来年7月以降の新サービス導入時の資金にもなるはずだ。現在、アナログ回線を利用していたとしても、9ヵ月分の節約で、ISDNターミナルアダプタの購入代金や工事費なども十分捻出できるはずだ。将来的な展望ばかりにとらわれず、まずは明日の通信料金を節約することから始めることをおすすめしたい。

 一方、定額IPサービスについては、10月半ばにも正式な発表がされる予定だが、NTT東日本/西日本合わせて、1,000人ずつの利用者、10社ずつのプロバイダが実験に参加することが明らかになっている。月額料金については当初の1万円からやや下がり、8,000円程度が目安になるのではないかと言われている。ところで、この定額IPサービスの料金に関して、9月14日に行なわれた『国際コンピュータ通信会議1999』において、ソニーCEOの出井伸之氏が「日本のインターネットについて言えば、通信料金がものすごく高い。定額で1万円とは、非常に高い。料金を市場原理で決めないで自分で決めるのがそもそもおかしい」という発言をしている。実際に生で聞いたわけではないので、必要以上のコメントは差し控えるが、正直なところ、「高い」、「安い」の発言や論争はもう聞き飽きたというのがホンネだ。今回のNTTの定額IPサービスをはじめとするインターネットアクセスラインについては、各方面でさまざまな議論が起きている。しかし、その多くが「高い」、「安い」といったもので、そこから生まれる可能性がある新しいサービスや利用スタイルの変化についてはあまり語られていない。つまり、「夢がない」のだ。ソニーはウォークマンやビデオカメラなど、数多くの夢を提供してくれた企業だ。できることなら、「高い」、「安い」といった目先の話ではなく、通信の世界における新しい夢を語ってもらいたいのだが……。

□NTT、ISDNの市内定額型割引サービスを発表(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0916/iaiplan.htm
□国際コンピュータ通信会議1999 レポート ソニーCEO 出井氏基調講演
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990914/iccc01.htm


PCのあり方を変えるモバイル端末

 9月は通信関連の新製品があまり発表されなかったが、9月7~11日まで幕張メッセで開催されたWorld PC Expo'99では参考出品という形で、新しい製品を見ることができた。

 このWorld PC Expo'99で注目度の高かった出展社と言えば、iBookを出展したアップルコンピュータということになるのだろうが、最も勢いが感じられたのはやはりNTTドコモだ。iBookはすでにアメリカで発表されたもので、それが日本で初めて生で見られるということで注目を集めた(マスコミに対しても初公開というのは考えものだが……)。これに対し、NTTドコモは参考出品という形で、今までにない製品を数多く出品していた。たとえば、『SeaLion』や『MobileWarrior』はいずれも携帯電話やPHSを内蔵することにより、モバイルコンピューティング最適化した環境を提示している。しかも、単に通信機能を内蔵するだけでなく、本体を閉じているときやエリア内に入ったときにメールを自動的に送受信する機能など、使い勝手を考慮した機能も搭載している。ハードウェアとソフトウェアの両面でしっかりモバイル環境を考慮しているわけだ。

 NTTドコモのモバイル製品というと、ポケットボードシリーズやブラウザボードなどのお手軽携帯情報端末ばかりが注目されているが、こうしたPC関連の製品にも秀作は多い。今回の製品もNECや東芝といったメーカーの既存モデルをベースにしているが、本当にモバイル環境に必要とされる機能を考え、それを具現化できる点はさすがだ。世界的に見ても携帯電話・PHS通信事業者で、ここまで踏み込んだ製品開発をしている事業者はおそらく他に例を見ないだろう。もしかすると、数年後にはNTTドコモなどの携帯電話・PHS事業者が主導する形で、PCが作られているかもしれない。

 また、NTTドコモは9月30日、ソニー、松下通工、IBMと共同で、2000年春にPHSによる音楽配信実験をすることを発表している。松下通工との実験ではSDメモリカード内蔵PHS、ソニー/IBMとの実験ではメモリースティック内蔵PHSを利用する。ちなみに、'98年のCOMDEX/Fall'99でメモリースティック内蔵端末が展示されていたが、ほぼ同じコンセプトのものがいよいよ本格的に市場に投入されることになる。実験段階ではあるものの、このサービスによって、携帯電話やPHS端末のスタイルも大きく変わることになるかもしれない。

 一方、お手軽携帯情報端末ではシャープが9月9日にコミュニケーションパルの後継モデル『コミュニケーションパル MT-300』を発表した。基本的なスペックは従来と変わらないが、MT-300ではPHSやドッチーモにも対応している。しかもPHS部分については、NTTドコモの64kbpsPIAFSに対応しているため、Webページ閲覧などもかなり快適に使うことができる。本体にはデジタル携帯電話(cdmaOneをのぞく)用の接続ケーブルが内蔵され、PHSを利用するときはオプションのPHS用接続ケーブル(NTTドコモ/アステル用、DDIポケット用)を使うのだが、このケーブルの着脱がマニュアルでは「30回まで」と表記されている。コネクタ部分の耐久性を考慮しての表現なのだろうが、携帯電話とPHSを併用する利用者が多いことを考えると、この姿勢には疑問を抱かざるを得ない。もし、耐久性に不安があるのならば、耐久性のあるものに改良すべきだろうし、ブラウザボードと同じコネクタを採用することもできたはずだ。PCなどよりもはるかに幅広いユーザーをターゲットにする商品としては不的確な対応だ。

 しかし、この部分を除けば、お手軽携帯情報端末としての完成度はかなり高くなっており、ごく普通のモバイルユーザーでも十分実用になるレベルだ。特に、重量の面で見ると、ミニ/サブノートPCの約1/3程度しかないことは大きなメリットと言えるだろう。また、「コミュニケーションパルやブラウザボードは専用機だから……」と敬遠する向きがあるのも事実だが、実は重要なことはその端末で何ができるかであり、メールやWebページ閲覧が主体であれば、これらの機器でもそれほど大きな不満は出ないはずだ。ただ、PCとの連携に関してはまだまだ不十分な面が多いので、ぜひ次期モデルではOutlookやOrganizerといったソフトとの連携も視野に入れた開発を期待したい。

□NTT DoCoMo、携帯・PHS内蔵のノートPCを展示
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990907/wpe02.htm
□法林岳之の非同期通信レポート「WORLD PC EXPO 99 Telecomレポート」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990908/wpe12.htm
□NTTドコモ、「メモリースティック対応PHS」で音楽配信実験を開始(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0930/docomos.htm
□シャープ、64kbps通信対応のコミュニケーションパル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990909/sharp.htm

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp