●EmotionEngineは2005年には1億トランジスタへ
久夛良木氏は、地味なプレゼンテーションばかりのMicroprocessor Forumで、PlayStation2の試作機によるデモを披露。さらに、壮大なネットワークド・デジタルエンターテイメントのビジョンで、聴衆を沸かせた。
久夛良木氏が、プロセッサ業界のカンファレンスのスピーカーとして呼ばれたのは、もちろんPlayStation2の心臓である128ビットMPU「EmotionEngine」が、斬新なアーキテクチャでとんでもない性能を持つMPUだからだ。EmotionEngineは、マルチメディア拡張命令を搭載した128ビットのCPUコアに、10個の浮動小数点積和演算ユニット、4個の浮動小数点除算ユニット、デジタルビデオコーデック、Direct Rambus DRAM(RDRAM)インターフェイス2チャンネルなどを搭載する。294.912MHzで駆動、トランジスタ数は1,050万だ。スペックだけなら、とてもゲーム機のCPUとは信じられない。トランジスタ数にしても、Pentium III(950万)と同等だ。
●PlayStation2ベースのワークステーションが登場!
もっとも、SCEIは、これをPlayStation2後継機に載せると言っているわけではなく、PlayStation2が実現するデジタルエンターテイメントのマーケットのための、クリエイティブワークステーションに搭載することを、今回明らかにした。
SCEIは、PlayStationでは開発プラットフォームにPCを使ってきたが、PlayStation2では性能的にPCでは不足するため、ゲーム開発のために専用ワークステーションを提供する。そして、来年からは、その延長線で、将来のリアルタイムデジタルエンターテイメントのためのクリエイティブワークステーションを出して行くという。
このワークステーションは、PlayStation2のアーキテクチャをベースにしたもので、2000年のフィエズ1では、HDTVクラスの映像(2,000×1,000ピクセルで60フレームプログレッシブ)を扱えるようにするという。次の、2002年のフェイズ2では、EE2とGS2を搭載し、「e-CINEMA」とSCEIが呼ぶインタラクティブ3Dムービーを制作できるようにする。そして、2005年のフェイズ3では、EE3とGS3を搭載、より高品質な映像(4,000×2,000ピクセルで120フレームプログレッシブ)をクリエイトできるようにし、「e-Broadcasting」とSCEIが呼ぶ、ネットワーク時代のリアルタイムデジタルエンターテイメントを開発できるようにするという。
●ネットワーク時代のデジタルエンターテイメント
SCEIの描くデジタルエンターテイメントの構想を明らかにするために、久夛良木氏は、まず、コンピュータゲームの歴史から振り返った。同氏は、'61年に登場した最初のゲーム「Space Wars」(PDP-1ベース)から始まり、アーケードゲームの時代、Atariの時代、ファミコンの時代を展望。そして32/64ビットゲーム機の時代になってゲーム機の出荷量が飛躍的に伸び、インストールベースは'99年で1億2,000万台に近づいたことを説明した。また、ゲーム市場の規模も、'98年には米国で映画市場と金額的にはほぼ並んだと述べた。つまり、コンピュータゲーム機が急速な進化の結果、いよいよエンターテイメントの中心へと来ようとしているというビジョンを示したのだ。
その上で、久夛良木氏は、ゲームや音楽、映画が融合したデジタルインタラクティブなホームエンターテイメントの時代がPlayStation2でやってくると宣言。コンピュータエンターテイメント市場の規模も、ゲーム市場だった時より拡大、1,000億ドル規模になるというビジョンを示した。
しかし、SCEIの構想はその程度にとどまらない。さらに2005年までに10%の家庭が、広帯域ネットワークで結ばれ、ネットワークを通じてコンテンツを配信する「e-Distribution」の時代が来ると、久夛良木氏は語った。そして、エンターテイメントビットコンテンツとして、PlayStation2のゲームコンテンツやデジタルミュージック、デジタルムービー(e-CINEMA)が、直接ユーザーのもとに届けられるようになるという。このネットワークドデジタルエンターテイメント時代になると、市場規模はさらに1兆ドル規模に膨れ上がるという。
そして、そのために必要なプラットフォームのエンジンがEmotionEngineであり、コンテンツ制作に必要なエンジンがEmotionEngine2/3であるというわけだ。
('99年10月7日)
[Reported by 後藤 弘茂]