Click


第21回 : 無線を軸にした製品展開に期待



 アジア最大をうたい文句に開催されたWORLD PC EXPOも終わり、今週は東京ゲームショウへとなだれ込むという、ニュースサイトを運営する方々にはかなり酷な日々が続いているが、私もその例に漏れず、WORLD PC EXPOへと足を運んでみた。

 といっても、展示会に付随して行われる発表会やインタビューの連続で、しらみつぶしに会場内を歩く時間はない。昨年より会場が縮小されているものの、この手の展示会が軒並み縮小傾向にある中では、かなりの盛況ぶりだった。そのせいか、会場内の熱気はすさまじく、おそらくアジアで最も暑い(熱いではない)展示会と化していた。幕張メッセの冷房設備はもう少しどうにかならないのか? と考えながらも、いくつか気になるトピックについて話をしてみたい。



■ 先週紹介のA1R、実は隠し球もある?

 たくさんの幟(ノボリ)を立てて登場感をアピールしていた松下電器のLet's NOTE A1R。その無線機能は紹介した通り。なかなか注目されているようではあったのだが、無線でモデムやTA、デスクトップPCにアクセスできるワイヤレスステーションは、使い方がいろいろありすぎて詳細がイマイチふつうの人には伝わりきっていないように思えた。もっとも、熱心に説明を聞いているところをみると注目度そのものは高いようだ。単にPIAFSでシリアルポートを接続しているだけ……と言っても、実際には使い勝手などを想像しにくいためだろう。

 ワイヤレス接続部はケーブルのないシリアル接続だと考えれば、ほとんどは説明がつく。TAやモデムへのダイヤルアップができるのは当然だろうし、PCとの通信もケーブル接続機能でOK。ではルータ接続の人はどうする?
 もしかするとデスクトップPC上でWindows 98 Second Editionのインターネット接続共有機能を有効にし、さらにダイヤルアップサーバを起動させ、A1Rからシリアルポートにダイヤルアップして(もしくはケーブル接続)、ルータのある家でもA1Rで家庭内モバイルできるだろうか? と考えてみたのだが、これは今のところ成功していない。幸い、1カ月ほどデモ機を借りることができたため、いろいろなパターンで試してみたい。

 何はともあれ、無線で繋がるのは手軽でいい。たとえば、我が家にはたくさんのPCがあるのだが、PCに全く興味のない家族たちにとってゴミ、もしくはMP3プレーヤー、エンコーダ、メール端末、このいずれかの価値しかないと言われてしまう。中でもケーブル類の多さには非難の嵐。A1Rでモデムとの間がワイヤレスになったからといって、そのあたりを納得してもらえるほど改善されるわけではないが、電話線を廊下に這わせてパソコン部屋に引っ張っている人にとっては救世主だろう。

 と、余談が過ぎてしまった。2週連続A1Rで話を進めるわけにはいかないので、WORLD PC EXPOの話題に戻りたい。A1Rの担当者と話をしていたら、ちょっとした話を聞けたのだ。キーワードはNTT DoCoMo。DoCoMoと言えば、やはり無線通信だ。もしかすると、A1RのPIAFS無線通信ユニットに公衆回線への接続機能を付加し、NTT DoCoMoのモバイルモデルとして発売するのか(これはこれで需要があると思うのだが)と思いきや、そうではないらしい。  肝心のところは全く教えてくれないので、感触だけで想像すると、iモードで成功しているパケット通信による運用モデルを、PCにも持ち込むのではないか? と勝手に想像している。PCは携帯電話機と異なり、常に情報を受信している状態にしているとバッテリーが保たない。そのあたりを含め、何らかの企画を練っているのではないかと邪推しているが……。Let's NOTE/commの後継機種あたりが怪しそうだ。  もっとも個人的には、手っ取り早くA1RのPIAFS無線通信ユニットを公衆対応にしてほしい。PHSは事業として成功していないとかいろいろ言われているが、東京などの大都会にマッチした通信手段だと思うし、64Kbpsで気軽に安定した接続ができる唯一の無線メディアでもある。せっかくのこのインフラを使わない手はないと思うのだが。


■ スマートさが欲しいNTT DoCoMoのPC

 さて、そのNTT DoCoMoはというと、やっぱり携帯電話やPHSのユニットを内蔵させたPCを参考出展させていた。もともと、LibrettoのDoCoMoモデルを用意するなど、こうしたモバイル端末の開発には熱心なNTT DoCoMoだが、今回は端末ごとPCの中に入れてしまったわけだ。
 重量1.2キロ、LibrettoベースのMobile Warriorは、なかなか使いやすそうなのだが、ちょっとサイズが大きくなり、B5サブノートとたいして変わらないサイズになってしまうのが難点。NECがLavieをベースに開発したと思われるSeaLionも、通信ユニット部が少し盛り上がっている。しつこいかも知れないが、A1RにPHSが内蔵されているところを見た後だと、どうも魅力が半減してしまうのだ。

 と文句を言っていても仕方がないのだが、PHS内蔵モデルはうまくすると業務向けのソリューション製品として、おもしろいものになるのではないかと期待している。PIAFSのいいところは、コールに対して端末側が応対できることだ。パケットは常時通信だから、PCのような消費電力の多い機器には向かない。でもたまに電話がかかってきた時に起きて、何らかの処理を行なうぐらいのことはできる。
 たとえばサーバー側で、設定された条件のメールや重要な社内情報の更新、要注目のWebページ(競合他社の新製品情報や株価ニュースなど)を収集し、PIAFSで自動発信するようにしておけば、営業マンが持ち歩くPCに情報をプッシュすることができる。ノートPC側はWake on PHSで自動起動させ、受信と情報の整理作業を行った後、自動的にサスペンドすればいい(ACPIならアプリケーションが自らサスペンドさせることもできる)。いつも新鮮な情報を持ち歩いて仕事を行なえる。  公衆無線通信機能を内蔵したノートPCは、機器そのもののコストや通話料などのランニングコストの関係から、ビジネス向けのソリューションを確立し、提案ベースで導入が進むのではないかと思う(もちろん、コンシューマ展開も期待したいが、いきなりは難しいだろう)。会場では製品に関する説明は受けられたものの、ビジネス展開の具体的な話までは伺うことができなかったのが残念だった。


 さて、展示会も最終日になると、パーム・コンピューティング社長のアラン・ケスラー氏の基調講演や記者会見に参加できるはずだったのだが、毎日足しげく幕張に通うわけにもいかず、締め切りの前に断念してしまった。

 編集部の工藤氏が会場に足を運んだようだが、レポートを読む限りPalmのオープン戦略に期待できるのかどうかは、まだ今ひとつわからない。Palmの良さは、言うまでもなく目的にあわせてシンプル化され、無駄のないソフトウェアとハードウェアで構成されていることだ。パーム・コンピューティングは多機能信奉な会社ではないため杞憂に終わるとは思うが、プロセッサ非依存かつマルチベンダーな体制の中で、今ほどのシンプルさを保っていられるのかどうか。

 よく「本田さんはPalm派のようですが」とメールをいただくのだが、僕はPalm派というわけではない。ただ、不要な機能が多くなると、便利に思う人もいれば、煩雑に思う人もいる。しかもコンピュータの場合は、目先の動作速度の問題もある。だから、Palmが1番いい場合もあるだろうし、Windows CEが優れている点もある。だから、好きか嫌い、特定業務にフィットするしない、といった議論はあるだろうが、一概に優劣を付けられないと思っている。
 Palm OSに関しては、特にビジネス向けのソリューション展開について、それほど遠くない未来に日本でも大きな動きがあるようだ。ここ数カ月のPalm OSには要注意だろう。

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp