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WORLD PC EXPO 99 基調講演レポート


Red Hat会長兼CEO ボブ・ヤング氏
~ オープンソースのディストリビューション間の争いに興味はない ~

基調講演

会期:9月7日~11日(7日は特別招待日)

会場:幕張メッセ HALL 1~8

 WORLD PC EXPO 99 最後の基調講演は「Linuxがコンピュータ・ビジネスを変える」という表題で、10日11時より米Red Hatの会長兼CEO ボブ・ヤング氏により行なわれた。講演に引き続き行なわれた記者会見の模様もまじえてお伝えする。


■基調講演 オープンソースは必須条件

基調講演

 背広姿で登場したヤング氏は「ふだんはこんなの着ないのだけど、今日はIntelやIBMの人とも話をしなければならなかったので」と笑いを誘い、すぐに上着を脱ぎ、ネクタイもゆるめてしまった。

 「私自身はビジネスマンであり、セールスマンだ。オープンソースをどういうビジネスモデルにすればいいのかをずっと考えてきた」と話しはじめ、米国の独立を例に挙げ「自由を求める革命家たちには、その活動を支える資金を提供する商人や銀行があった。彼らも束縛からの自由を求めていたからだ。Red HatがIPO(株式公開)を行ない、多数の資金を集められたのもそれに似ている。プロプライエタリなシステムからの自由を求める人たちの支援が得られたのだ」と述べた。

 「オープンソースの世界で成功を収めるために必要なのはブランドの確立だ。同じジャンルの2つのものからどちらかを選ぶのは、ブランドのへの信頼による。そのためには、一貫性、信頼性をもって、顧客の要望に応えなければならない」とスーパーやケチャップなどのブランドを例にあげて解説した。

 「顧客が求めるサポートを提供するためにはオープンソースは必須だ。現在のアプリケーションは'80年代の技術で作られているが、21世紀のアプリケーションはインターネットへのファンクションが必須となる。それはあなたのPCがサーバーとしても機能することを意味する」

 「あなたが(スタンドアロンで)ワープロを使っているだけならば、数分その仕事が止まることは問題ではないかもしれないが、インターネットで接続されている場合はほかの人の仕事をダメにしてしまう可能性があるのだ。信頼性を保証するためにも、バグは“回避”するのではなく、“解決”しなければならない。NASAへ納入するシステムにソースコードが必要とされるのと同じ理由だ。宇宙飛行士たちが飛んでいるときにブルースクリーンが出たらこまってしまう。リスクを残してはいけないのだ」とオープンソースが今後は必須条件なのだと力説した。

 「いまPCを使っているユーザーは約4億人にすぎないが、世界中の56億人がPCを使うときに500ドルもするサーバーOSを使うことはできない。Turbo Linuxや我々から100ドル以内でソースコード付きのOSが入手できるということは、大変重要な意味をもつことなのだ」と締めくくった。

 続いての質疑応答で、Linuxの各ディストリビューション間の競争と互換性の問題が質問されると「いま、オープンソースの世界が私の足下だとすると、プロプライエタリなコンピュータの世界はあのホールの隅にあるカメラぐらいの広がりがある。また、未来のコンピュータの世界はここ(幕張)から東京ぐらいまでの広大な広がりがあるのだ。だから、オープンソースのディストリビューション間の争いに興味はない。また、ソースがオープンであるからこそ、各自の技術は公開され、フラグメンテーション(混乱)を起こすことは少ない」と述べた。続けて、「我々が提供しようとしているのは顧客満足であり、よりよいサービスとサポートである。もし、我々自身がプロプライエタリな世界を目指し始めるならば、市場の大半を失ってしまうだろう」と差別化の手段は独自の仕様ではなく、サービスとサポートであることを強調した。


■記者会見 法人向け市場のバックエンドを支える

記者会見
赤いキャップをかぶるヤング氏(左)

 午後には別室にて記者会見が行なわれ、日本法人代表取締役の平野正信氏も同席した。まず、五橋研究所との関係について次のように述べた。

 「Red Hatが世界戦略についてリサーチを行なった結果アジアにおける法人向け市場には大きなチャンスがあると判断した。また、IBMやCompaqなどのインターナショナルパートナーの支援も最優先の課題だった。パートナーの支援については自社でやらざるをえない仕事でもある。

 五橋研究所は以前から個人市場に特化していたし、話をもちかけた時の反応もがっかりするものだった。Red Hatがこの半年ほどIPOで多忙を極めたのもコミュニケーション上の問題だったかもしれない。窪田さん(五橋研究所代表取締役)にとっても企業市場というのは、大きなチャンスだったと思う。今後は五橋研究所やTurbo Linuxとの関係の修復を図りたい」とし、営業方針の相違が問題であったとした。

 一方、個人市場については「個人、法人、ISDなど各分野について関わりたい。(個人市場で必要な)GNOME、KDEなどのGUIについても投資をしている」と述べるに留まった。

 なおLinuxコミュニティで活躍している個人へのIPO前の株式分与についての質問には次のように応じた。
「IPOにともなう分与にあたって、当初5,000名をコミュニティからピックアップした。そのうち1,300名がIPOに応じる(Red Hatの株を購入する)とした。しかし、FCC(米証券取引委員会)はIPOについて慎重な態度で臨み、米国居住でない人や、株式投資の実績がない人など150名については、基準を満たしていないとされてしまった。これらの人々については残念なことだったが、1,150名の人がIPOに参加できたことは意義あることだと思う。混乱や試行錯誤があったことは否定しないが、1つの成果としてとらえてほしい」と述べた。

 「また、コミュニティのサポートについてはリソースの提供など、さまざまなことを進めており、また発表できるだろう。ただ、Red Hatがコミュニティに対して行なっているもっとも重要なサポートは、1行たりとも欠けずにソースをオープンにしていることだ」と付け加えた。

 企業市場に向けて特化するというのは、個人的には残念な面もあるが、現状での経営方針の選択としては妥当だろう。また、基調講演、記者会見を通じて、新しい主張は少ないものの論旨は明快かつ率直で好感を覚えた。Linux業界を代表する一人として今後も注目していきたいと思わせる講演だった。

□WORLD PC EXPO 99のホームページ
http://wpc99.nikkeibp.co.jp/
□Red Hatのホームページ
http://www.redhat.com/

('99年9月10日)

[Reported by date@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp