統合型チップセットの大本命登場
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前々回はVIA TechnologiesのSuper7用統合型チップセットのApollo MVP4を取り上げた。今回取り上げるIntel810もMVP4と同じような統合型チップセットだが、PC用のチップセットではトップシェアを誇るインテルが発売するとあって早くから統合型チップセットの本命とされていた製品だ。
しかし、Intel810ではネーミングも大幅に変わったことからもわかるように、構造的にも大きな変化が加えられている。440LX/440BXなどの従来のチップセットは2チップで構成されており、CPUから見て近い方のチップをノースブリッジ、CPUから見て遠い方のチップをサウスブリッジと呼んできた。これに対して、Intel810では、
というネーミングに変更されている。
また、両チップを接続するバスも大きな変更が加えられている。従来の440BXではノースブリッジとサウスブリッジを接続するバスはPCIバスだった。これに対して、Intel810ではハブインターフェイスと呼ばれる専用バスになっており、動作クロックは66MHz、帯域は266MB/秒とPCIバス(33MHz、133MB/秒)の倍になっている。このため、USBデバイスやIDEデバイスなどがPCIバスを介さなくてもCPUやメモリとデータのやりとりを行なうことができるので、システム全体としてパフォーマンスをあげることが可能になっている(インテルではこうしたIntel810のアーキテクチャをアクセラレーテッドハブアーキテクチャと呼んでいる)。
もう1つ目新しい点は、ICHがISAバスをサポートしていない点だろう。従来のサウスブリッジはPCIバスとISAバスを橋渡しする機能を持っており、どのマザーボードでもISAバススロットを搭載していた。しかし、ICHではそうしたPCI-ISAブリッジ機能は持っておらず、標準状態ではIntel810マザーボードではISAバスはサポートされない。ただし、サードパーティなどからは安価なPCI-ISAブリッジチップが発売されており、それを利用すればISAバスをサポートすることが可能になっている。現に秋葉原で発売されているIntel810搭載マザーボードの中にもISAバスをサポートする製品もあり、必ずしもISAバスが使えないという訳ではない。
なお、GMCHやICHにはそれぞれ2バージョンが用意されている。
GMCH | GMCH0 |
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ディスプレイキャッシュはZバッファ(隠面消去)など3D系の処理を行なう際にデータを展開するメモリとして使われる4MBのSDRAMのことで、インテルによるとディスプレイキャッシュを利用することにより30%程度3D描画を高速化することができるという。なお、この4MBのSDRAMはあくまでZバッファの処理などだけに使われ、2Dの処理には利用されない。2D処理時のビデオメモリ(フレームバッファ)としてはメインメモリの一部が利用される。ビデオメモリとしては、1MBが起動時に強制的に割り当てられるほか、起動後に動的に割り当てられるようになっており、インテルではこうした仕組みをDVMT(Dynamic Video Memory Technology)と呼んでいる。
ICHも2バージョンが用意されていて、Ultra ATA/66に対応しているか否か、サポートするPCIバスマスタデバイスの数などで違いがある。
IDE | PCIバスマスタ | |
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ICH | Ultra ATA/66 | 6 |
ICH0 | Ultra ATA/33 | 4 |
ICH | ICH0 |
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こうした2種類ずつのGMCHとICHの組み合わせにより、3種類のIntel810が販売されている。
Intel810-DC100 | GMCH+ICH | 32ドル |
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Intel810 | GMCH0+ICH | 29.5ドル |
Intel810-L | GMCH0+ICH0 | 25.5ドル |
となっており、マザーボードベンダは製品の性格(価格重視なのか、性能重視なのか)に応じて選択できるようになっている。
AOpen MX3W AMRを備えたSocket 370マザーボード |
Soltek SL-67G64 CPUスロットにSlot 1を採用した。Pentium IIIとの組み合わせでハングアップする事が報告されている |
マザーボードメーカーのSuperPowerから入手した資料によると、Intel810とPentium IIIを利用した時に起きる問題はインターネット・ストリーミングSIMD拡張命令(以下SSE)の1つであるMASKMOVQ命令を実行するとハングアップするという。MASKMOVQ命令を実行しない限りは発生せず、現在MASKMOVQ命令を利用したアプリケーションが皆無に等しいことを考えあわせると、ハングアップする可能性は非常に低いというのがマザーボードメーカー側の見解だ。確かに、現時点ではSSEに対応したアプリケーションが少ないことを考えれば、そう考えることもできるだろう。実際に、筆者はSL-67G64とPentium IIIの組み合わせでしばらく使ってみたが、特に問題は発生しなかった。ただ、やはり不安が残ることは間違いなく、Pentium IIIと組み合わせて利用するのは避けた方が無難かもしれない。なお、マザーボードメーカーによれば、このPentium IIIとの互換性の問題は、7月中旬にも製品版が投入されると言われているA3ステップ(Intel810eに相当する、現在のIntel810はA2ステップ)で修正されるとの事なので、Pentium IIIと組み合わせて利用したいユーザーはIntel810eのリリースまで見合わせたほうがいいだろう。
BIOSTAR M6TWC CPUスロットにSocket 370を採用したマザーボード。チップセットはIntel810-L |
(1)Business Winstone 99
Ziff-Davis,Inc.のWinstone 99を利用したアプリケーションベンチマークは、比較的ユーザーの体感に近い数値が出るベンチマークとして世界中でデファクトスタンダードとして利用されている。日本語Windowsでは動作しないので、英語版Windows NTにServicePack4を組み込んだ環境を用意してテストした。通常であれば、Business Winstone 99(ビジネスアプリケーション)、High-End Winstone 99(ハイエンドアプリケーション)という2つのテストを行なうところだが、810を搭載した3製品はHigh-End Winstone 99がハングアップしてしまうというトラブルが発生した。このため、今回はBusiness Winstone 99だけを行なうことにした。
MX3W | SL-67G64 | M6TWCM | P2B+Intel740 | P2B+RIVA128ZX | P2B+RIVA TNT | SL-56F1+K6-Ⅲ/400MHz |
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24.7 | 25 | 25 | 26.7 | D/S | 26.9 | 26.9 |
Intel810を搭載したマザーボードは、P2B+ビデオカードという組み合わせと比較してもさほど遜色ない結果を叩き出した。若干、パフォーマンスダウンが見受けられるが、ビデオメモリをメインメモリ内においているためだろう。通常ビデオカードはリフレッシュ作業のために定期的にビデオメモリにアクセスするため、メインメモリへのアクセスが増えてしまい、結果的にシステム全体のパフォーマンスが低下してしまってしまうのだ。ただ、差は体感できるほどの差ではなく、実用上はほとんど気にならないレベルといっていいだろう。
(2)Business/High-End Graphics WinMark 99
Ziff-Davis,Inc.のWinBench 99に含まれるBusiness/High-End Graphics WinMark 99は、ビジネスアプリケーション(Business Graphics WinMark 99)やハイエンドアプリケーション(High-End Graphics WinMark 99)におけるビデオカードの描画性能を計測するベンチマークだ。今回は1,024×768ドットで65,536色と1,677万色の2つの色数で計測した。Intel810は32ビットカラーモードを備えていないので24ビットカラーで計測し、ほかのビデオカードに関しては32ビットカラーで計測した。
MX3W | SL-67G64 | M6TWCM | P2B +Intel740 | P2B +RIVA128ZX | P2B +RIVA TNT | SL-56F1+K6-Ⅲ/400MHz | |
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Business Graphics WinMark 99 1,024x768ドット/65,536色/85Hz | 119 | 120 | 119 | 134 | 130 | 146 | 137 |
High-End Graphics WinMark 99 1,024x768ドット/65,536色/85Hz | 335 | 341 | 338 | 428 | 398 | 433 | 443 |
Business Graphics WinMark 99 1,024x768ドット/1,677万色/85Hz | 86.2 | 86.9 | 86 | 110 | 95.7 | 139 | N/A |
High-End Graphics WinMark 99 1,024x768ドット/1,677万色/85Hz | 290 | 289 | 291 | 411 | 389 | 425 | N/A |
結論から言えば、Intel740やRIVA128ZXを搭載したビデオカードなどとあまり差がない結果を残しており、2Dの描画性能では特に不満を感じることはないと考えていいだろう。色数を増やしたときには、Intel740などに比べてややパフォーマンスダウンの度合いが著しいのが目に付く。今回のベンチマークとは直接関係ないが、1,280×1,024ドットなどの高解像度に設定すると、体感できるほど遅くなったのがわかるなど、あまり高解像度・多色モードでの利用には向いていないということが言えるだろう。
(3)3DMark99 Max
3Dの描画性能に関しては3DMark99 Maxを利用した。本来であれば3Dゲームに用意されているフレームレートを計測するテストを行ないたかったところだが、Intel810のディスプレイドライバにはフレームレートテストを実行するのに必須のV-SYNCの設定をオフにする設定が無かったので、今回はその必要がない3DMark99 Maxだけを実行する事にした。
MX3W | SL-67G64 | M6TWCM | P2B +Intel740 | P2B +RIVA128ZX | P2B +RIVA TNT | SL-56F1+K6-Ⅲ/400MHz | |
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800x600/16bit/85 | 2,512 | 2,544 | 2,083 | 2,058 | 1,164 | 3,267 | 1,022 |
1,024x768/16bit/85 | 1,779 | 1,809 | 1,369 | 1,139 | 948 | 2,794 | 689 |
Intel810の3D描画能力は800×600ドットでも1,024×768ドットでもIntel740を越えており、RIVA TNTを搭載したSPECTRA3200R2には届かないにしても、通常の3Dゲームには十分な3D描画性能を持っていると言えるだろう。MVP4との差はかなり大きく、統合型チップセットとしてはかなり高い3D描画能力を持っていると言える。また、2Dでは全く差がなかったIntel810-DC100とIntel810-Lだが、3Dでは22%程度の違いがあることがわかった。インテルのいう「30%差」まではいかないものの、ディスプレイキャッシュによる効果がかなりあるという結果になった。
マザーボードレベルでも十分お買い得な価格設定となっている。今回紹介したMX3Wが実売価格で1万9千円前後、SL-67G64が1万7千円前後、M6TWCが1万6千円前後と1万円台の後半になっている。例えば、Intel740を搭載したビデオカードは秋葉原で5千円もしないで買えるが、それでもマザーボードと組み合わせれば2万円は行ってしまう。それよりも高い3D描画能力を持つIntel810なのだから、十分お買い得であるといっていいだろう。
今後は、ビデオベンダーからも続々と統合型チップセットがリリースされると言われている。例えば、S3はすでにVIA Technologiesのノースブリッジと自社のSavage4のグラフィックスコアを組み合わせたSavageNBと呼ばれるSlot 1用統合型チップセットを計画している。この他、ATI Technologiesなども統合型チップセットを計画していると言われており、統合型チップセット市場はグラフィックスチップベンダーとチップセットベンダーが入り乱れた熱い市場となる可能性を秘めている。もちろん、迎え撃つ側のインテルも準備は万端で、Intel810の後継チップセットとして、前述のIntel810eを7月に、さらに2000年の第1四半期にはAGP 4xと外付けのAGPスロットをサポートしたSolanoを、さらに2000年第3四半期にはCPUをも統合したTimnaをリリースする予定と言われている。これからも統合型チップセットから目が離せない展開が続きそうだ。
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[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]