非同期通信レポート 第44回

『cdmaOne』試用レポート
スーパーデジタルは何を目指すのか? 【後編】

TEXT:法林岳之



もうひとつの魅力『WAP』

現在発売されているcdmaOne端末の中で、WAP対応は日立製のC201Hのみ。IDOエリアの場合、端末の市場価格は店による差は少なく、C201Hが22,800円、それ以外の機種が20,800円ほど。C201Hが2,000円ほど高くなっている
 全国展開に伴って投入されたcdmaOneのシングルモード機は合計6機種あるが、これらのうち、日立製のC201Hでのみ利用できるのがWAPサービスの「EZアクセス」(セルラーグループではEZweb)だ。cdmaOneで提供される豊富なサービスの内、インターネットユーザーやPCユーザーが最も恩恵を受けられるサービスと言ってもいいだろう。WAPとは「Wireless Application Protocol」の略で、インターネット上の電子メールやさまざまなコンテンツを携帯電話やPDAなどで利用するためのプロトコルで、世界中の通信関連企業が参加するWAP Forumで標準化が進められている。

 cdmaOneのWAPサービスではニュースや生活情報、データベース検索などのコンテンツ、電子メール、アドレス帳、スケジュール、タスクリストなどのサービスが提供される。WAPサービスではcdmaOneのWAP対応端末からセルラーとIDOが用意したWAPゲートウェイを経由し、コンテンツプロバイダーのページにアクセスする。このWAPゲートウェイはインターネット上のプロトコルとWAPの変換の役割を担っている。C201HにはWAP向けのコンテンツを閲覧するために、WAP標準規格の基になったPhone.com社(旧Unwired Planet社)が開発したHDML用ブラウザが搭載されている。ちなみに、本来、WAPコンテンツはWMLという言語で記述されるのだが、これに対応するブラウザやゲートウェイが製品化されていないため、ベースになった米Phone.com社のブラウザやゲートウェイが採用されている。

 こうした携帯電話やPHSを対象としたコンテンツサービスは、昨年あたりから急速に増えているが、セルラーとIDOではこれらの情報サービスを当面、無料で提供する。また、コンテンツの参入は両社とも随時受け付けており、今後も順次、内容を拡大していくという。すでにWAPコンテンツ向けの講習会なども開催されているが、WAPコンテンツ向けのエディタの提供なども検討しているそうだ。

 WAPサービスでは利用できるサービスの内容により、「EZアクセスA」、「EZアクセスB」という2つの料金体系が用意される。セルラーでは「EZwebスタンダード」、「EZwebプレミアム」という名称になっている。


● Eメール
メールが到着すると、Cメールによって通知される
 インターネットのメールアドレスと送受信が可能なEメールサービス。全角で最大2,000文字のメールを保存可能。メールアドレスは「任意の文字列@eza.ido.ne.jp」(IDOの場合)、「任意の文字列@b2.ezweb.ne.jp」(セルラーの場合)という形式。デジタルホングループのSkyWalkerやNTTドコモのiモードメールと違い、端末に直接メールが届くのではなく、EZアクセスのサーバー内にメールが蓄積され、それを端末側から参照する構成になっている。ただし、メール着信時はcdmaOneで標準提供されるCメールによって通知される。EZアクセス内のサーバーには、受信箱で最大200件・7日間、保存箱で最大100件・14日間、メールが保存される。セルラーのEZwebは若干期間が長く、受信箱で最大100件・30日間、保存箱で最大100件・制限なしという仕様になっている。

 また、EZ Replyという機能により、メールを受信したユーザーが返事をしやすくなっている点も面白い。たとえば、EZアクセスのメールアドレスにメールを出すとき、あらかじめ予想される回答の選択肢を書いておいたり、電話番号やURLを書いておくことで、受信した側は選択肢から選んで返事をしたり、電話を掛けるといったことができる。この場合、発信者側が予想回答や電話番号、URLなどにタグを書き込んでおく必要がある。



● EZインターネット
 携帯電話単体でアクセスできる情報サービス。70種類以上の情報サイトが提供されているほか、HDMLで記述されたページを参照することができる。


● EZ PIMアドレス帳
 EZアクセスB(セルラーのEZwebプレミアム)で利用できるサービス。サーバーに用意されたEZマイページ上に作成できるアドレス帳。住所や勤務先、Eメールアドレスなどを最大500件まで登録できる。EZマイページはパソコンのWebブラウザから参照することができ、それぞれの情報をパソコン上から登録することができる。登録した情報を携帯電話の電話帳にダウンロードすることも可能。


● EZ PIMスケジュール
 EZアクセスB(セルラーのEZwebプレミアム)で利用できるサービス。サーバー上にEZマイページ上に作成できるスケジュール帳。アドレス帳同様、パソコンのWebブラウザから設定でき、最大500件まで登録が可能。予定の時間に携帯電話のチャイムを鳴らすといった設定もできる。


● EZ PIMタスクリスト
 EZアクセスB(セルラーのEZwebプレミアム)で利用できるサービス。サーバーに用意されたEZマイページ上に作成できるToDoリスト。アドレス帳同様、パソコンのWebブラウザから設定でき、最大100件まで登録が可能。タスクには「やること」と「電話」の2種類が設定でき、電話の場合はアドレス帳とリンクさせることも可能。


 さて、ここでひとつのキーになるのが『EZマイページ』だ。EZマイページとはIDOやセルラーのサーバー上に設けられたEZアクセス(EZweb)ユーザー専用のWWWページで、ここを通じて、PIMなどの内容や設定を自由に変更できるようにしている。たとえば、オフィスのパソコンからEZマイページに取引先の電話番号を登録しておけば、外出先でC201Hを使い、登録した電話番号をダウンロードするといった使い方ができる。スケジュールやタスクリストも同様だ。上手に活用すれば、ちょっとしたメモとしても利用することができる。オフィスなどが常時接続になっているユーザーにとっては、なかなか魅力的で活用しがいのあるサービスと言えるだろう。


 
EZマイページのトップページ。EZアクセスB(セルラーのEZwebプレミアム)で利用できる。画面には出ていないが、自分のページ内のデータ検索もこのトップページで可能   アドレス帳は、対応端末(現在はC201Hのみ)にダウンロードできる登録はWebでまとめて行ない、ダウンロードすれば携帯電話メモリツール要らず。ただし、夜中はサーバがかなり重いことがある


cdmaOneを使ってみて

 では、実際にcdmaOneを使ってみた感想などについて述べてみよう。筆者は3月15日の予約受付開始の日に、即日予約し、4月14日のサービス開始日から主力をcdmaOneに切り替えている。まだ1週間余りの試用だが、おおよその内容は把握できている。ちなみに、比較対象とするPDCデジタル携帯電話は、筆者が普段から利用しているNTTドコモのPDCハーフレートと東京デジタルホンのPDCフルレートを利用した。

 まず最初に通話品質だが、「切れにくい」という点については明らかにアドバンテージがある。実は、筆者はクルマで移動中に携帯電話を利用することが多い(自分で運転するときはもちろんハンズフリー)が、PDCフルレートやPDCハーフレートでは途中で何度となく回線が切れてしまい、掛け直すことが当たり前になっていた。しかし、cdmaOneではほとんど切れることがなく、非常に快適に利用できている。利用頻度にもよるが、この1週間でわずか2回しか回線断を経験していない。PDCフルレートやPDCハーフレートでは1日に2~3回経験していたことを考えると、品質の差はかなり大きいと見ていいだろう。ただ、今後、cdmaOneユーザーが増えたときにもこの品質が維持できるかどうかは定かではない。

 次に、音質についてだが、これは人や通信環境によって判断が異なる。まず、PDCハーフレートとの比較では確実にいいと言える。これはおそらく誰が聞いてもハッキリしているだろう。しかし、PDCフルレートとの比較では音質に違いがあるものの、実用上の差はあまり大きくないというのが正直な感想だ。これは前述の通信方式による情報量の差にほぼ準じていると解釈できそうだ。cdmaOneから加入電話に発信し、相手に「音質はどう?」と聞いてみると、ほとんどの人が「いいね」と答えてくれる。しかし、PDCフルレートが安定して利用できる環境から発信し、同様の質問をしてみると、これまた「いいね」、「悪くないね」という答えが返ってくる。

 つまり、必ずしもすべての人がcdmaOneとPDCフルレートを聞き分けられるほど、高品質だというわけではない。ただ、いかんせん感覚的な話なので、これは実際にcdmaOne体験コーナーなどで試してみることをおすすめしたい。ちなみに、cdmaOne特有の現象として、無音状態が続いた後の話し始めの部分で、一部音声が途切れるような状態があったことを付け加えておく。おそらく通信方式の特性によるものなのだろうが、今後、端末の改良などで改善されることを期待したい。

カードはIDO PLAZAで24,800円とちょっと高め。また、現在のところは14.4kbps止まりのため、データ通信用なら、64kbpsパケット通信サービス待ちが無難だ
 そして、注目のWAPサービスだが、これは判断が非常に難しい。EZマイページを活用するEZ PIMはなかなか便利なサービスであり、今までにない新しい携帯電話の活用スタイルが生まれてきそうだ。ただ、現在のシステムは回線交換で接続しているため、WAP対応端末からEZマイページにアクセスするまでの時間が40秒以上掛かってしまう。その上、ここ数日は接続に失敗することがあまりにも多く、ほとんど実用になっていないというのが現状だ。原因としてはサーバーの停止、制御線の接続ミスなどが考えられるが、いずれにせよ、この部分の安定度はPDCで提供されているiモードなどに遠く及ばない。早急な改善策が望まれる。

 このことを考慮すると、やはり、WAPサービスが本格的に利用できるのは、パケット通信サービスが実用化される秋以降ということになりそうだ。セルラー/IDOともにその時期には10機種以上のWAP対応端末を発売したいとしており、「本命は64kbpsパケット通信サービス対応時」とコメントしている。ただ、こうした新しいサービスにトラブルは付き物であり、それを理解できるのであれば、ぜひとも実体験してもらいたいサービスであることは間違いない。

 通話品質やサービス以外の面についても少し触れておこう。cdmaOneがPDCとはまったく異なるサービスであることはここまで解説してきたとおりだが、細かいところではPDCでおなじみの本体底部の端子の形状が変更されている。PDCとの混乱を避けるための措置だろうが、この部分は十分にアナウンスされていない。たとえば、クルマなどで利用するシガライターアダプターでPDC用の汎用のものが販売されているが、端子形状が異なるため、利用することはできない。

 同様に、デジタル携帯電話用通信カードなども利用できない。そもそも通信方式が違うため、利用できないのは当たり前だが、今までノートPCやWindows CEマシンなどに搭載されてきたPDCインターフェイスの資産は完全に失われることになる。ちなみに、cdmaOne用データ通信カードはようやく出荷が始まり、筆者も実際に購入してみたのだが、これが24,800円とかなり高い。値引きもないため、結果的にはcdmaOne端末そのものよりも高価な買い物に なってしまった。その上、Windows 95/98/NT 4.0などに対応した設定ファイルが添付されておらず、「標準14,400kbpsモデム」として利用しなければならない。Windows 95が発売された当時ならともかく、これだけWindowsが普及した時代に、あまりにもお粗末な話だ。普及台数にもよるのだろうが、サードパーティ各社の参入を期待したい。

 また、こうしたオプション類の発売状況に関して、ショップなどで混乱が出ているのも改善を望みたい点だ。実は、データ通信カードとシガライターアダプタについて、何軒かのIDO PLAZAに連絡してみたのだが、出荷時期や予約受付に関する答えはバラバラだった。結局、千代田区麹町にあるIDOショールームに連絡をして正解を聞き出すことができたのだが、もう少ししっかりとしたアナウンスをしてもらいたいところだ。


cdmaOneは買いか?

現在、cdmaOne端末は6機種。左から、C101S、C102K、C103T、C104SA、C105P、C201H。音の良さ、切れにくさを買うなら、C201Hにこだわる必要はないかも
 さて、最後にcdmaOneそのものが買いかどうかという点について考えてみよう。
 ここまで解説してきたとおり、cdmaOneというシステムそのものは非常に魅力的であり、十分可能性を秘めている。PDCハーフレートの環境から乗り換える価値は十分にありそうだ。特に、音声通話に不満を感じているユーザーは、まじめに検討してもいいだろう。

 PDCフルレートからの乗り換えについては、少々疑問が残る。音質の差だけでなく、現時点ではエリアの差もある(当然、まだcdmaOneの方がやや狭い)ため、携帯電話の利用環境が劇的に改善されるとは言い難いからだ。実際に、体験キャンペーンなどで音を聞いてみてから判断しても遅くないはずだ。

 WAPサービスを重視したいというユーザーについては、非常に判断が難しい。年内に開始される予定の64kbpsパケット通信サービスがWAPサービスの本命であることは間違いないが、いち早く体験したいのであれば『買い』、逆に予算的な余裕がなかったり、ダイヤルアップ接続でインターネットに接続しているユーザーは『待ち』が正解だろう。いずれにせよ、最終的な判断基準は、自分が利用したいコンテンツがあるか否かでするしかない。

 cdmaOneは今までにない新しい携帯電話のシステムであり、そのスタイルや使い方をも変えてしまう可能性を持っている。今後、セルラー及びIDOがどのようにサービスを拡充していくのか、対するNTTドコモがどのような対抗策を打ってくるのかが非常に気になるところだ。

□cdmaOneサービス情報(IDO)
http://www.ido.co.jp/cdmaone/index.html
□cdmaOneサービス情報(DDI)
http://www.ddi.co.jp/cellular/cdma/cdma.html
□WAP Forumホームページ(英文)
http://209.41.118.247/

[Text by 法林岳之]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp