第3回:続・いまどきのPDA選び(レポートの書かれた背景)



 IDO・セルラーグループが全国ネットを完成させたcdmaOneやWAP、NTTドコモの64kbps接続サービス開始とPHS・携帯電話両用機発売など、モバイルな話に事欠かなかったここ最近。もちろん、このあたりのネタを拾っていこうか、と考えていたのだが、少し気になる話が出てきたので、前回までで述べたPDA選びについて続編を書いてみることにしたい。
 この連載は、なにも小型携帯端末だけに限ったものではないのだが、あるホームページを知って、PDA選びに対する見解にもう少し話を付け加える必要がある、と思ったからだ。



■ 巨大企業からの圧力はある?

 まずはPalmシリーズ(PC WatchではPalmシリーズと表記しているが、ユーザーコミュニティの間では過去の製品を含める意味からPalm/Pilotと表記するのが慣わしのようだ)の定番Webサイト「パーム航空」を見ていただきたい。Palmシリーズのユーザーに対して非常に有益な情報を毎日発信している大変有益なサイトだ。

 このサイトの中で管理者の機長氏は、結局のところPalm-size PCを自分では購入しなかったこと、初回でPalm-size PCの長所を挙げたものの、その文章が歯切れの悪いものだったことを指して、その背景にある企業への気遣いをしながらも、実は筆者はPalmシリーズを支持しているという見解を出している。
 実はPalmシリーズ関係のメーリングリストに加入している友人からも、同様の話やPalmシリーズに対して厳しすぎるのではないか、という指摘も多数いただいた。こうした意見が出てくることに関しては、少し私の言葉が足りなかったかもしれない。

 しかし、そうした言葉を補う前にひとつだけ話をしておきたい。それはメーカーからの圧力に関してだ。読者が想像するように、私は仕事柄マイクロソフトとは頻繁にやり取りをしている。先日もロサンゼルスで開催されたWinHEC、その翌週に行なわれたWindows 2000 Reviewer's Workshopと、約2週間もの間、ずっとマイクロソフト広報の担当者と会う日が続いたし、Windows 2000のマーケティング担当者を捕まえて疑問点を聞いたり、時間がないときには食事をしながら話を聞くこともあった。

 しかし、圧力と言われるようなものは、これまでに一度も受けたことがない。話の上では広告の全面引き上げを行なったいくつかの企業(マイクロソフトではない)を聞いたし、マイクロソフトにしても中村正三郎氏の連載に対する話は有名だ。また僕自身も、ある大手AVメーカーから広告営業部を通じて、ある比較記事に関して「当社への嫌がらせとしか思えない記事」とクレームを入れられたこともある。

 しかし、少なくとも私の身近なところで、マイクロソフトからクレームを入れられたという話を聞いたことはない。私はOffice 2000に対してかなり辛辣な記事をいくつかポストしているが、それに関連してマイクロソフトから意見を聞かれることはあっても、圧力らしき言動や行動を受けたことはない。

 パーム航空の会議室で、車関連の雑誌に記事を寄稿していたという元フリーライターの方が、メーカーの悪口を書くと100%仕事が来なくなるので悪くは書けない。よってPC業界もそれは同じだろう。と述べていたが、その常識は少なくとも日本のPC業界には当てはまらないと思う。

 では、なぜマイクロソフト寄りに思える記事があるように感じるのだろうか?



■ 客観的に見るか、ポリシーに従うか

 世論とは非常に怖いものだ。たとえば米国のPC関係マスコミの様子を見ると、そこには日本以上にマイクロソフトバッシング、Linux擁護の姿勢がはっきりと現われている。特にZiff-Davis PublishingのZDnet( http://www.zdnet.com/ )では、日本版では訳されていないバッシング記事が毎日のように掲載されている。中には言いがかりのような記事まで含まれているから驚きだ。

 サンノゼ在住のある記者が、マイクロソフト本社にあるカンパニーショップ(社員向けのマイクロソフト用品販売店)に訪れて子供用のジャケットを手に取り「サンノゼではコレを子供に着せることはできないなぁ」と呟いていたという。それほど米国におけるマイクロソフトへの風当たりは強い。

 もともと筆者も、コンピュータを使い始めたころはマイナー系の機器やベンダーを愛してきた。おそらくこの仕事をしなければ、間違いなくアンチ・マイクロソフト派になっていただろう。駆け出しのライター時代はアンチ・PC-98派だった。

 しかし、当時のPC-98のすべてが悪かった、とは今は思っていない。結果的にPC-98アーキテクチャは、Windowsによって押しつぶされたかっこうになったが、その背景としてアンチ・PC-98派があったことは間違いない。そうした意味では、報道側がアンチ・マイクロソフトに回り、OS独占支配からユーザーを解放するほうが業界のためだという考え方もあるだろう。

 しかし私自身はそうしたポリシーよりも、お金を払ってその対価を得るユーザー自身のことを考えていたい。現時点でどれがいいのか、その背景としてどのような事実があると考えられるか、などは、自分自身の趣向を超えて常に客観的であるべきだと思う。

 単に僕の好みで記事を書けば、PDAはPalmシリーズ、ノートPCはIBMか松下を買え!という記事になってしまうだろう。だが、その選択がすべての読者に正しいわけではない。読者がお金を出すとき、真剣に物選びをする。その真剣さに対して自分で判断しうる情報を提供するのがレビューアの仕事だ。

 客観的に物を評価するとき、ほとんどの評価物に関して長所と短所が共存している。ここで世論に影響されてバイアスがかかると、どうしても世論に支持されているものの短所は書きにくい。たとえばLinuxのデスクトップOSとしての機能不足や、GUI関連のハイレベルな共通APIが存在しないことなどを連日記事にしたら、おそらく僕はLinuxコミュニティの中で嫌われ者になるだろう。

 しかし、それでも指摘せねばならない。それを知らずにお金(Linuxの場合これは知れたものだが)や時間を浪費するユーザーが、覚悟なしにLinuxを使い始めれば大きな誤解をする。最悪の場合、二度とLinuxを信じなくなるだろう。客観的に見るということは、世論の中間点ではないと考えている。

 つまり、なんでもかんでもマイクロソフトを否定することは――今の世論からすれば、あるいはそれが中立的と言われるのかもしれないが――必ずしも客観的とは言えないように思う。マイクロソフトが本当に良いと思われる製品を出して、それが客観的ではない評価で押し潰されることがあるとしたら、それはやはりフェアとは言えないだろう。



■ PDA選びで意図したこと

 さて、長々とモバイルというテーマとは異なる話を続けたが、話をPDA選びに戻したい。私は前編でプラットフォームとしての背景や現状、将来について考えを示し、後編で今現在の製品への実装を評価して(個人的に)好みの製品を選んだ。だから、前編は歯切れが悪く、後半は歯切れが良くなったのかもしれない。

 これは何人かの方にメールで返事をしたのだが、PDA選びで紹介した3つのプラットフォームは、過去のコンピュータの姿になぞらえてみることができると思う。

・Palm/Pilot
 かつてのIBM/PC AT互換機とPC DOSの組み合わせのようなプラットフォーム。機能は限られているし、ハードウェアやOSはチープかもしれないが、そのプラットフォームを取り巻くユーザーコミュニティと彼らの生み出すソフトウェア、無駄のないシンプルさが魅力だ。しかし、AT互換機と異なるのはハードウェアが基本的にシングルベンダーであることだ。将来的な発展性が見えにくいといった不安要素もあると思う。標準のアプリケーションが今ひとつ機能不足な点も気になる。ただ、現時点の技術でPDAを作るとしたらPalm/PilotがPDAとして最もバランスの取れたものになる。PDAには余分に使える電力やパワーは存在しないからだ。

・ZAURUS
 富士通が誇ったOASYSのようなものだ。専用機として使ったときの使いやすさは大変優れているし、日本人の嗜好に合った仕様が採用されていると思う。欠点は柔軟性が低いことで、PCとの連携も良くはなっているが完全ではない。仕事に使うためにZAURUSにある機能を使いたいだけなら最適な機種だろう。Palm/PilotよりもPHSや携帯電話との接続性も高く、日本の無線通信事情に合っているのもメリットだ。

・Palm-size PC
 Windows 3.0+i286、i386の組み合わせと同じような雰囲気を感じる。その心は、将来的な発展性や汎用OSならではのマルチベンダーから登場するハードウェア、アプリケーション開発プラットフォームとしての可能性だ。ただし、まだ発展途上でCPUもOSを生かせるほどには高性能化していない。また、OS上で提供されているソフトウェアも機能不足だ。数年後にはPalm-size PC(というよりはWindows CE)が世の中を席巻しているかもしれない。ビジネスロジックをフロントエンドとなるPDA側に組み込んだ企業システムソリューションを提供するならば、Palm-size PCが最適だと思う。

 今はまだ、PDAは不完全な機器だ。これから大きく発展する可能性が残っている。そんな状況で選ぶなら、シンプルかつレスポンシブなPalmシリーズだと考えたが、仕事や移動中のメールチェックの便を考えるとZAURUSも捨てがたい。個人的なチョイスは、そうした考えから生まれたものだった。
 果たして皆さんの選択は何だったのだろうか?

[Text by 本田雅一]


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