~Dual Celeronブーム到来か? Soltek製変換アダプタの登場~



 Celeronは本来、インテルがいうところのBasic PC(要するに低価格PC)向けCPUとして投入されたものだが、クロックアップ耐性が高いことから、自作派に高い人気を誇っている。そのCeleron人気をさらに加速させる製品が、今回取り上げるSoltek製変換アダプタ「SL-02A」だ。SL-02Aを使えば、Dual Celeronマシンを気軽に自作することが可能になる。



■ CeleronのDual化改造とは?

 Celeronは、Pentium IIと同じCPUコアを採用しているが、Pentium IIとは仕様的に異なる部分もある。CPUをDual動作させるにはBR1#と呼ばれる信号線が必要になるが、SEPP版Celeronの場合、BR1#がCPUコアからカードエッジに結線されていないため、Dual動作を行なうことはできない。ところが、昨年夏に川田智広氏によって、SEPP版Celeronを改造して、Dual動作を実現する方法が見いだされた。具体的な方法は川田氏のHPに詳しいが、SEPP版CeleronのDual化改造は、CPU基板をドリルで削ったり、非常に細かな半田付けを行なう必要があるなど、かなり高いスキルを必要とするものであった。失敗すればCPUが壊れてしまう可能性も高いため、SEPP版CeleronのDual化改造は一部のマニアのためのものという印象が強かった。

 しかし、'99年1月にPPGA版Celeron(Socket 370対応)が登場したことで、その状況も一変した。PPGA版CeleronをSlot 1対応マザーボードで使うためのSlot 1 → Socket 370変換アダプタに改造を施すことで、CPU自体に手を加えることなく、Dual動作を実現できるようになったのだ。ただし、全ての変換アダプタで、Dual化改造を行なえるわけではない。MSIのMS-6905は、Dual化がしやすい変換アダプタとして、秋葉原でも人気を集めている。変換アダプタを利用したCeleron Dual化も、川田氏のHPが詳しい。



■ 無改造でDual動作を実現する変換アダプタ「SL-02A」が登場!

Soltek製のSlot 1 → Socket 370変換アダプタ「SL-02A」。無改造でのDual動作を実現した点が売り
 Slot 1→Socket 370変換アダプタを改造することで、従来よりも気軽にDual Celeron環境を実現できるとはいえ、それでもある程度の半田付け技術は必要だ。変換アダプタは、2,500~3,000円程度で売られているので、失敗してもコスト的なリスクは少ないが、やはり半田ゴテを握ったことのない人にとって、敷居は高い。しかし、低コストでDual環境を実現したいというニーズは大きく、変換アダプタにDual化改造を施して販売するショップも現れたほどだ。

 PPGA版CeleronではピンにBR1#の信号線が出ているため、その信号線をそのままカードエッジの端子に接続してやるだけで、Dual対応になるわけだ。それなら、無改造でDual動作を実現する変換アダプタが登場してもおかしくはない。そこで登場したのが、SoltekのSL-02Aである。SL-02Aは、秋葉原で入手できる製品としては初めて、無改造でのDual動作を実現したことが最大の売りである(なお、MSIのMS-6905の新バージョンでも、Dual動作を実現するとアナウンスされている。詳しくは後述)。ただし、SL-02Aにも、Dual動作に対応したバージョンと非対応のバージョンがある。現在秋葉原で売られているSL-02Aは、基本的にDual対応となっているようだが、基板の左上に「A2」というシルク印刷があるものがDual対応バージョンなので、購入の際には確認しておきたい。もちろん、「A2」というシルク印刷があっても、SoltekがDual動作を保証しているというわけではない(CeleronのDual動作は、インテル保証外の動作である)。また、従来のSECC用のRetention Kitで固定できるように、外形サイズをSECCと同じにするプラスチックカバーが付属していることも特徴だ。



■ Windows NT Workstation 4.0評価キットでマルチプロセッサ環境を実感

 SL-02Aを利用すれば、手軽にDual Celeronマシンを組み立てることができるが、それだけではDual CPU環境を活かすことはできない。そう、マルチプロセッサ環境をサポートしたOSが必要になるのだ。Windows 98は、マルチプロセッサ環境に対応していないため、せっかくのDual CPUも宝の持ち腐れとなってしまう。マルチプロセッサ環境をサポートしたOSとしては、Windows NT 4.0(Workstation/Serverともに)やBeOS、Linuxなどがあるが、やはり対応アプリケーション数においては圧倒的にWindows NT 4.0が上だ。しかし、Windows NT 4.0はWorkstation版でも約3万円はする。個人が気軽な気持ちで試すには、やや辛いところだ。

 ところが、その問題を解決してくれる嬉しい商品が登場した。それが、Soltek製のDual CPU対応マザーボード「SL-68A」(Intel 440BXチップセット採用)と「SL-02A」、Windows NT Workstaion 4.0評価キットを組み合わせたセット商品(26,800円。以下、Dual Celeronセットと呼ぶ)である。Windows NT Workstation 4.0評価キットは、マイクロソフトが企業向けに2,000円で提供している製品だ。その名前からもわかるように、Windows NT 4.0の性能評価用として用意されたもので、機能は製品版と全く変わらないが、インストール後120日間しか利用できないという制限が付いている。つまり、Dual CeleronセットとSL-02Aをもう1個、PPGA版Celeron2個を用意するだけで、120日間という期間制限はあるものの、OSを含めたDual CPU環境が実現できるわけだ。価格的にもリーズナブルなので、コスト的な魅力も高い。もちろん、Dual Celeronセットでも、CeleronのDual動作を保証しているわけではないのだが、筆者が試した限りにおいては問題なく動くようだ。


 
Soltek製のDual CPU対応マザーボード「SL-68A」   120日間試用できるWindows NT Workstation 4.0評価キットは2,000円

■ クロックアップするならCeleron 300Aがお薦め

Soltek製「SL-68A」は、マザーボード上のDIPスイッチによってFSBクロックを66MHzと100MHzに切り替え可能
 現在、PPGA版Celeronには、300A/333/366/400/433MHzという5つの製品が存在する。本来、FSBクロック66MHzで動作するように設計されており、クロック倍率も全て固定だ(順に、4.5/5/5.5/6/6.5倍)。定格通り素直に使うなら、予算に応じてどの製品を選んでもいいのだが、クロックアップ(もちろん動作保証外なので、自己責任において試していただきたい)を前提に考えるなら、クロック倍率が低いほうが有利だ。CPUのプロセス自体は、300A MHzでも433MHzでも同じ0.25ミクロンプロセスなので、クロックアップ耐性にも大幅な違いはないと予想される。価格的にも、8,000円台で購入できる300A MHzは魅力的だ。そこで今回は、PPGA版Celeron 300A(リテール品)を利用して、Dual Celeronマシンを組むことにした。もちろん、狙うは450MHz(100MHz×4.5)動作だ。

 Dual Celeronセットに含まれているマザーボード「SL-68A」は、マザーボード上のDIPスイッチによってFSBクロックを66MHzと100MHzに切り替えられるほか、BIOS設定によって、FSBクロックを75/83MHzに設定することもできる。100MHzオーバーには対応していないようだが、Dual動作時の安定性を考えると妥当だろう。PCIスロットを5本(うち1つはISAスロットと共用)、DIMMスロットを4つ備えているなど、拡張性も優秀である。



■ Celeron 450MHz×2のパフォーマンスは圧巻

BIOS起動時に、2 Processor(s)と表示された
 まずは、定格動作(300MHz)で、システムの導入を行なうことにした。BIOS起動時には、2 Processor(s)と表示されているので、Dual CPUとして問題なく認識されているようだ。Windows NT 4.0は、ブータブルCD-ROMになっているので、CD-ROMから直接ブートしてインストールを行なうことが可能だ。なお、Windows NT 4.0では、マシンの環境にあわせてカーネルの導入が行なわれるので、マルチプロセッサ環境で利用するなら、インストール時にCPUが2つ装着されている必要がある。Windows NT 4.0のセットアップ画面で、コンピュータ名のところに「MPS Multiprocessor PC」と表示されていれば、Dual CPUマシンとして認識されていることになる。Windows NT 4.0のインストールが終わったら、最新のService PackであるService Pack4を導入する(Service Pack4も評価キットに含まれている)。いくつかのアプリケーションを使ってみたが、動作も非常に快適だ。

 Windows NT 4.0をマルチプロセッサ環境で導入してから、Celeronを1個外しても起動する。そこでそれぞれの状態で、Dual CPU対応のベンチマークテストを行なってみることにした。評価には、HDBENCH(EP82改/かず氏作のフリーソフト)の最新α版であるVer.3.00α2( http://www.lares.dti.ne.jp/~ep82kazu/ から入手可能 )と、Ziff-Davis,IncWinstone 99 Version 1.0に含まれているDual Processor Inspection Tests、およびOpenGL用ベンチマークテストの標準化団体OPC(OpenGL Perfomance Characterization Project)が開発したViewperf 6.1を用いた。ただしWinstone 99は、日本語環境では動作しないので、Winstone 99のみ英語版Windows NT 4.0 Workstationを導入した環境でテストを行なった。また、比較のために、Pentium III 500MHzでも同じテストを行なってみた(なおSL-68Aは、Pentium III対応とのことだが、筆者の環境ではPentium IIIを装着すると起動しなかったので、Pentium IIIのテストは、ASUSTekのP2Bを用いて行なった)。

 ベンチマーク結果は、以下に示したとおりで、やはりDual CPUの効果は確実に現れていることがわかる。Dual CPUに対応していないベンチマークテストでは、ほとんど性能向上は見られないが、複数のアプリケーションを同時に動かす場合、Dual CPU環境のほうが、より高速に処理を行なうことができるので、Dual CPU環境の意義は決して小さくはない。

【Dual Celeronベンチマーク結果】
CPUCeleron 300A×1Celeron 300A×2Celeron 450×1Celeron 450×2Pentium III 500×1
HDBENCH Ver.3.00α2 Int(整数)1226324355183943655220174
Float(浮動小数点)26035203390578064407
Memory Read1536128650230224308125211
Memory Write1800833379269595004629429
Winstone 99
Dual Process
1.692.082.302.642.43
Viewperf 6.1
Drv-05
1.0691.1661.6021.7431.834

 定格の300MHzで安定して動作することを確認したので、FSBクロックを100MHzに上げてみることにした。SL-68AでFSBクロックを100MHzにするには、DIPスイッチの5番と6番をOFFにすればよい。今回使ったPPGA版Celeron 300Aは、両方とも当たりの製品(=クロックアップ耐性が高い)であったようで、冷却強化などをせずに450MHz(100MHz×4.5)で安定動作した。Dual Celeron 450MHz動作についても、ベンチマークテストを行なってみたが、そのパフォーマンスはまさに圧巻だ。特にHDBENCHのCPUの結果は、Pentium III 500MHzの1CPU動作時に比べて、遙かに高くなっている。


【テスト環境】
マザーボードSoltek SL-68A(Celeron)、ASUSTek P2B(PentiumⅢ)
メモリ128MB(PC/100、CL=3)
HDDQuantum Fireball EX6.4
ビデオカードMatrox Millennium(PCI:ビデオメモリ4Mバイト)
OSWindows NT Workstation 4.0 120日間限定試用版、
Windows NT Workstation 4.0 英語版

 現在、Pentium III 500MHzが8万円前後で販売されていることを考えれば、PPGA版Celeron 300AをDualで450MHz動作させたときのコストパフォーマンスは非常に高い(PPGA版Celeron 300AとSL-02Aを2個ずつ買っても25,000円で十分お釣りがくる)。もちろん、今回用いたベンチマークテストは、Pentium IIIで追加された命令群「SSE」(Streaming Single Instruction Multiple Data Extensions)に対応していないので、Pentium IIIは単なる高速なPentium IIとしてしか利用されていないが、SSEをサポートしたアプリケーションが現時点ではほとんど存在しないことを考えれば妥当な評価であろう。また、話題のBeOSも上記の環境で、Dual CPUとして問題なく動作したことも付け加えておく。

 Windows NT 4.0(およびWindows 98)の後継OSであるWindows 2000の登場が控えている現在、一足早くDual CPU環境を実現しておくのも悪くはないだろう。SL-021AやDual Celeronキットは、Dual CPU環境を体験したい自作派ユーザーの強い味方になる。

 また、MSIからは、MS-6905というSlot 1→Socket 370変換アダプタが発売されているが、近日中に新しいバージョン(Version 1.1)に切り替わるとアナウンスされている。MS-6905 Version 1.1は、SL-02Aと同様に無改造でCeleronのDual動作を実現するだけでなく、コア電圧を変更できることが特徴だ(1.8~2.6Vまで設定可能)。コア電圧を上げることでさらなるクロックアップも狙えるので、こちらも面白そうだ。

 
BeOSも上記の環境で、Dual CPUとして問題なく動作   近日中にお目見えするという、MSI製のMS-6905 Version 1.1。無改造でCeleronのDual動作を実現するとともに、コア電圧の変更(1.8~2.6V)もサポート

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[Text by 石井英男@ユービック・コンピューティング]


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