東芝 TEGACKY |
文字を使ったコミュニケーション手段としては、ここ数年、携帯電話やPHSの文字メッセージ通信機能が若年層を中心に高い人気を得ている。たとえば、文字電話を発売したDDIポケット電話の全トラフィックの内、約40%が非音声利用によるものだそうだ。女子高生の間などでは文字メッセージ通信を1日に何十通も送るツワモノも居るという。ポケットボードなどの携帯情報端末を使ったメールも人気が高く、NTTドコモとともに『10円メール』をサービスしているマスターネットでは、毎月数万というペースでユーザーが増えているという。こうした文字メッセージによるコミュニケーションの機能に特化したサービスとして提供されたのが『文字電話』というわけだ。
文字電話に対応した端末としては、『TEGACKY(テガッキー)』(東芝)や『手描きPipi』(トミー)がすでに出荷されており、4月下旬には先日発表された『Me-Tel(メーテル)』(カシオ)も出荷が開始される。ちなみに、すでに出荷されている2機種の内、TEGACKYは5,000円前後で販売されている。
Pメールの画面 |
PメールはDDIポケット電話がサービスし、PHS事業者間の文字メッセージ通信の相互接続にも採用された事実上の業界標準規格だ。最大20字までの数字やアルファベット、カナを送受信できるもので、通常の通話料のみで送信できるため、全国一律1通あたり10円しか掛からない。ただ、1バイト文字しか送受信ができないため、今ひとつ表現力に乏しい。
送られたメッセージは相手の端末に直接届くため、相手がエリア外に居るときは送信できない。ただ、3月1日から開始された『Pメール一斉送信』ではPメールセンターを経由して送信されるため、相手がエリア外のときなどでも最大12時間、一定間隔でメッセージを送信してくれる。
PメールDXの画面 |
Pメールの拡張版とも言えるもので、約1,000文字までの漢字、ひらがな、カタカナ、記号、イラストなどを送受信できるサービスだ。送信方法は直接相手のPメールDX対応端末に送る方法、PメールDXセンターを経由した送信が用意されている。料金は、直接送信なら全国一律1通10円、PメールDXセンター経由は全国一律10円/30秒となっている。
メッセージを直接送信したときは、相手の端末に直接届くため、相手がエリア内に居ることが条件になる。これに対し、センター経由での送信は、センター内のメールボックスに蓄えられるため、相手が読み出すまで(最大31日間)内容が保持される。センター経由のメッセージは、インターネットのメールアドレスとも接続が可能で、一斉送信や送信予約、着信通知、転送、蓄積停止、拒否などのオプションサービスも提供されている。
文字電話を利用するには、上記サービスなどの通話料のほか、毎月の基本使用料が必要になる。コースは以下の2種類が設定されている。
月額基本料金 | |
コース名 | 料金 |
ベツベツメールコース | 月額980円 |
コミコミメールコース | 月額1,780円(無料通話1,000円分を含む) |
もし、契約をするのであれば、最初の月だけでもコミコミメールコースを選択することをおすすめしたい。最初は面白がって、いろいろなところにメールを送りまくることになるからだ。ちなみに、当月及び前月の課金情報は、『料金案内サービス』を利用することで確認できる。通話のできない文字電話でもスピーカーホンは内蔵されているため、ダイヤルすれば、音声ガイダンスで課金情報を確認することが可能だ。この他にも、長期間契約していると基本料金が割引になる『長期割引サービス』、複数の回線を1枚の請求書で支払うと割引になる『複数割引サービス』なども用意されている。特に、複数割引サービスなどは家族で契約するときなどに便利だろう。
インターネットメール の受信画面 |
メールアドレスは「(ニックネーム)@pdx.ne.jp」という形式になっており、ニックネームの部分は4~20文字の英数字と記号を組み合わせ、利用者が自由に設定することができる。ニックネームの登録は文字電話からオンラインサインアップのメニューを選んで実行する。このニックネームはメールアドレスのためだけでなく、PメールDXセンター経由のさまざまなサービスを利用するときにも必要になる。
ニックネームの部分は全国で一元管理されており、地域会社ごとのサブドメインなどは割り当てられていない。ニックネームの取得は早い者勝ちとなっているため、「sato」「suzuki」「tanaka」といったよくある姓や名前は、ほぼ取得できない状態になっている。筆者のような珍しい名前ならともかく、一般的な姓であれば、名前などと組み合わせるなどの工夫が必要だ。また、一度登録したニックネームは、その回線を解約しない限り、変更はできない。ニックネームの再利用も現時点では考慮されていないようだ。
しかし、インターネットとメールの送受信が可能であることは、非常にメリットが大きい。専用線で接続されたオフィスのPCとメールの送受信をするのはもちろん、他の携帯電話・PHS事業者のインターネットメールサービスとも相互にやり取りができる。文字数も約1,000文字と多いため、少々長めのメールでも読むことができそうだ(実際に、1,000文字のメールを文字電話で読むのはツラいが……)。
また、PメールDXのインターネットメール機能が優れているのは、さまざまなオプションサービスが提供されていることだ。たとえば、メールの通知サービスは「未確認メール通知」「新着メール通知」「期限到来メール通知」「受信限度メール通知」が用意されており、ユーザーが必要に応じて、自由に設定を変更することができる。これらの通知はPメールを使って通知されるが、料金が1回10円と高いのが難点だ。
イラスト作成画面 |
文字電話では液晶ディスプレイとペンを組み合わせることにより、手描きイラストを作成することができる。この作成したイラストは他の文字電話やPメールDX対応PHS、インターネットメールに添付して送信することが可能だ。通常のPメールDXの文字によるメールと組み合わせたり、イラストのみを送信することもできる。
1枚目 | 4枚目 |
2枚目 | 5枚目 |
3枚目 | 6枚目 |
添付されるファイルはビットマップ(BMP)形式で、サイズは192×130ドットとなっている。TEGACKYの画面ではその1/6に相当する部分を描くことができ、都合6枚のイラストを組み合わせ、1枚のイラストとして送信している。TEGACKYや手描きPipiなどの間でイラストを送信したときは、6枚中の何枚目かという情報も付加されるため、紙芝居のように、1枚ずつめくりながら見る(見せる)ことができる。
つまり、手描きイラストによるデジタル6コママンガが送信できるというわけだ。ちなみに、4月下旬に発売が予定されているMe-Telに対して送信したときも、同様の付加情報が添付されるため、同じように見られる予定だ。文字電話以外のPメールDX対応端末は、この付加情報を解釈できないため、スクロールしてイラストを見ることになる。
これに対し、PCなどに送信した場合は、6枚のイラストがつながった状態のBMPファイルがメールに添付される。6枚の順番は左上の図のようになる。インターネット経由でイラスト付きメールを送信するときは、この状態をよく考慮して、手描きイラストを描く必要がある。逆に、PCからの送信では、何枚目という情報が付加できないため、スクロールしてイラストを見ることになる。
さて、そこで気になるのが『絵心』の問題だ。TEGACKYのイラスト作成機能には、2種類の太さ(大きさ)のペンと消ゴム、10種類のスタンプとフレームしかない。直線や円を描くツールは搭載されていない。そのため、フリーハンドでイラストを描かなければならない。この話を聞いた時点で多くの人は「オレは絵心ないからダメだなぁ」と考えてしまうだろう。
かく言う筆者も絵にはまったく自信がなく、絵の上手な編集部のK女史やデザイナーから送られてくる手描きイラストを見ると、ちょっと恥ずかしくて送れないと考えていた。しかし、TEGACKYの画面は「イラストを描かなければならない」というものではない。別に、手描き文字だけを送っても構わないのだ。さらに、ヘタなイラストはヘタなイラストなりの妙な味わいがあることもわかってきた。
特に、PCに送信した場合、デジタルな画面の中にアナログなイラストが表示されるというミスマッチが楽しく感じられる。たとえば、
PCで受信した人 | : | 「あれ? なんかメールが来てるぞ。添付ファイル?」 |
文字電話からのメール | : | 「いま秋葉原に来てるんだけど……」 手描きイラスト |
といった感じの使い方ができるわけだ。PC側のメーラーにもよるが、メッセージ画面に添付ファイルをアイコンとしてしか表示しないメーラーでは、添付ファイルのアイコンをクリックするというアクションの後で、オチに相当するイラストを見せるという使い方もできそうだ。とにかく、出来の善し悪しなどは気にせずに、ばりばりとゴミメールを描いて送るのが面白い(受け取る側の気持ちも考えないとマズいんだけど(笑))。
まず、起動時のメインメニューには、ここまで紹介した各機能やサービスに対応した選択肢が表示される。付属のペンでメニューを選んでいけば、メールの送受信くらいは比較的簡単にできる。
次に、文字の入力だが、画面上の文字をクリックして行なう。ひらがなとカタカナは「あかさたなはまやらわ」が並んでおり、それを選ぶと、下にその行の文字が表示され、目的の文字を選択する仕組みだ。もちろん、連文節によるかな漢字変換もでき、変換しない文字は単漢字変換で入力する。変換効率も他の携帯電話やPHSと比べれば、さほど悪くない。英数字も基本的な方法論は同じだ。
文字入力の画面 |
アドレス帳は相手のPHS番号やメールアドレスだけでなく、住所なども登録できるようになっている。本格的なPDAにはかなわないが、内容的にはよくできている方だと言えるだろう。スケジュール帳も用意されているが、これはおまけ程度と考えた方が良さそうだ。
アドレス帳の画面 |
スケジュール帳の画面 |
全体的に非常にシンプルな構成になっているが、実際の操作性はあまり良くない。どこにどの機能が入っていて、それがどんなサービスに対応するのかがわかっていないと、スイスイ操作することは難しい。文字入力については、すでにキーボードを触っているユーザーにとっては面倒に感じられる。インターネットメールとのやり取りが可能になっているのだから、「.co.jp」「.ne.jp」「.com」「.ac.jp」などが一発で入力できるようにしてもらいたい。マニュアルの出来についても不満の声が多い。筆者は友人に「今どきのコなんて、これくらいはマニュアル読まないで使ってるよ」などとうそぶいていたが、ハッキリ言って読む気のしないマニュアルだった(笑)。
ちなみに、サイズ的にはかなりコンパクトで、ポケットベルを持つ感覚に近い。筆者は首から下げられるタイプのヒモを用意し、常に首から下げて、本体は胸ポケットにしまっている。余談だが、ポケットステーションのヒモがちょうど使いやすいのでおすすめだ。
電池は本体内蔵のリチウムイオン電池を利用しているが、これが意外に消耗が激しい。使い方にもよるのだろうが、サラリーマンや学生が朝から夜まで外出している間、まったく充電をしなくて済むかどうかが微妙なくらいだ。しかも充電時間が長いため、帰宅したときは、常にACアダプタに接続しておくという状態になっている。
しかし、文字電話にはいくつかの不満点も残されている。たとえば、PCとの親和性の問題もそのひとつだ。文字電話はPメールDXというサービスに対応することにより、インターネットとのメールの送受信を可能にしているが、パソコン側で指定サイズのイラストを作るのは、なかなか骨の折れる作業だ。文字電話及びPメールDX対応端末へのイラスト送信専用として、簡易ペイントツールを配布するというサービスを提供してもいいのではないだろうか。
ちなみに、『PHSとPメールDXをうまく使おう』(斉藤徹氏による)というページでは、「JavaアプレットによるWWWブラウザから手描きイラストを送るツール」や「任意の月のカレンダーを PメールDXの手描きデータ形式のメールで送る」といった面白い試みがされている。こういったツールをDDIポケット電話のWWWページに用意しておき、文字電話ユーザーに手軽に手描きイラストを送れるようにしておく手も考えられるだろう。
また、PメールDXのメールアドレスの管理方法については、非常に不満が多い。筆者のように、珍しい名前なら問題ないが、普通の名前の人は名字のままのメールアドレスを取得することはまずできないだろう。筆者の回りで本名のまま、メールアドレスを取得できた人は、筆者以外にわずか1人しか居ない。やはり、地域会社名と英数字を組み合わせたサブドメインを加え、より簡単に好みのメールアドレスを取得できるようにすべきだ。この点は早急な改善を望みたい。
同様に、センター経由で送られてくるメールの着信通知も不満だ。1通あたり10円という高い着信通知を利用すると、インターネット経由でメールを送られたときは、最低でも20円の出費となる。ポケットベルのように、『何十回まではいくら、それ以上は1通あたりいくら』という計算方法もあるのではないか。
TEGACKYについては、初の文字電話対応端末ということもあり、まだ練り込まれていない面もあるのだが、やはり、ユーザーインターフェイスやマニュアルなどに不満点が多い。特にマニュアルについては、もっと一般の書籍や他製品のマニュアルなどを研究し、わかりやすいものを作っていただきたい。
細かい不満点は残されるが、文字電話は今までの製品にはない可能性を秘めている。最後に、今後の文字電話の発展形について、少し触れておこう。
背面の端子 (中央の青い四角い部分) |
たとえば、文字電話をテキストと手描きイラストの送受信のみに利用するのは、あまりにももったいないとは考えられないだろうか。TEGACKYにはαDATA32と同じようなデータ通信端子が備えられているが(おそらくメインテナンス用)、この端子とノートPCのUSBポートを接続し、データ通信にも利用できれば、ノートPCユーザーには便利だろう。DDIポケット電話が今夏から全国でサービスを開始する予定の『64kbpsPIAFS』にも対応すれば、ヘビーなモバイルユーザーに興味を持ってもらえそうだ。もちろん、PCだけでなく、ザウルスやWorkPadといったPDAとドッキングする形も考えられる。
また、ポケットボードのようなキーボードを備えた簡易メール端末に、文字電話の通信機能を内蔵するというアレンジも考えられる。ポケットボードは手軽にプライベートなメールアドレスを取得できることも人気の秘密だったが、ランニングコストの安いPHSで、これをやらない手はない。TEGACKYで実売5,000円前後なのだから、キーボードをつけたとしても1万円で済むはずだ。
この他にも、文字電話はさまざまなアレンジが考えられる。今後のDDIポケット電話のサービス拡充、各社の製品開発に期待したい。
[Text by 法林岳之]