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Intelの最新ロードマップ--Pentium III 800MHzが視界に


編集部注:
 「Intelのロードマップとコードネームを大整理」も更新しています。併せてご覧ください。



●デスクトップは来年800MHzに到達

 昨年末からのIntelのロードマップ変更は、じつに目まぐるしかった。毎週毎週、何かが変わるという状況で、息をつくヒマもなかったというのが実感だ。しかし、それもようやく先々週のIntelのカンファレンス「Spring '99 Intel Developer Forum(IDF)」とPentium IIIの正式発表で、落ち着いたように見える。ここで、いったん、Intelの2000年までの戦略を整理、そのなかでのPentium IIIプロセッサの意味を分析してみよう。

 まず、デスクトップのロードマップでは、IntelがPentium III 550MHzを第2四半期に出荷と発表、チップの順番がかなり変わった。また、CPUのベースクロックであるフロントサイドバス(FSB)のクロックが133MHzになるのは、正式に'99年第3四半期からになった。これは、Intelが133MHz FSBをサポートするチップセット「Intel 820」の出荷自体を、IDFで'99年後半にずれ込ませてしまったからだ。

 Intel 820と133MHz FSBが導入されるのは、おそらく0.18ミクロン版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)が発表される9月頃になる見込みだ。133MHz FSB版0.18ミクロンPentium IIIの製品スケジュールは、今わかっている限りでは、それほど変わっていない。第3四半期の終わりに600MHz、第4四半期の終わりが667MHz、2000年第1四半期の終わりが733MHzになると、IntelはOEMメーカーに知らせたという。さらに、Pentium III Xeonプロセッサでは、2000年第2四半期には800MHzも予定されているというので、Pentium IIIも2000年第2四半期頃には800MHzが出ることは、ほぼ間違いがない。現在のところでは、Pentium III(Coppermine)では、この800MHzが最終的なクロックになると思われている。

 また、133MHz FSBの立ち上げ時には、0.25ミクロン版Pentium IIIでも133MHz FSBに対応した533MHzバージョンが出るという話もある。IntelがIntel 820とDirect RDRAM 400MHzでアグレッシブにプッシュできる態勢をこの時までに整えることができれば、Pentium III 533MHzが出るだろう。

 一方、以前、このコーナーで伝えた通り、Intelは2000年まで100MHz FSBも延命する。こちらは、550MHzが前倒しになったが、それ以降は変更がないようだ。第4四半期の終わりが650MHz、2000年第1四半期に700MHzで、750MHzの計画は今のところない。つまり、その時点までには133MHz FSBに移行が完了すると踏んでいるわけだ。

 また、Intelは2次キャッシュ統合のCoppermineに移行するにあたり、Celeron同様にソケット版パッケージに切り替えると言われている。ソケットへの移行は、今年の第4四半期から始まる見込みだ。


●モバイルは来年早々に700MHzに到達

 Celeronは、Pentium II/IIIのローエンドにぴったりとくっついてクロックをアップする。今年前半に、433MHzと466MHzを出したあとは、いよいよ500MHz版を今年後半に出すと言われている。ただし、この500MHz版は、66MHz FSBのままとなる見込みだ。これは、上のPentium IIIの133MHz FSB化が進まないためだと思われる。つまり、Pentium II/IIIラインとCeleronラインの差別化のために、FSBを66MHzに止めなければならないと想像される。Celeronが100MHz FSBに移行するのは、おそらく2000年前半に予定されているCoppermineベースのCeleronからになるだろう。このCeleronは、500MHz以上のクロックで登場すると見られている。

 モバイルのロードマップは、0.18ミクロンで製造する400/433MHzのPentium IIが正式に公表されてずいぶん変わった。この0.18ミクロン版Pentium IIは、今年になって急にロードマップに入ってきたチップで、急いで企画した製品らしく、独自のコードネームがつけられていない。OEMメーカーによると、Intelも「Dixon (0.18μ)」と呼んでいるという。

 モバイルでは、IntelはこのDixon (0.18μ)のあと、9月頃に0.18ミクロン版のモバイルPentium IIIを発表する。これは400MHzと500MHzで登場すると思われている。また、モバイルPentium IIIでは、「Geyserville(ガイザービル)」テクノロジにより、AC電源時にクロックと電圧を上げることが可能になる。具体的には、モバイルPentium III 500MHzが、600MHzか650MHzに上がると思われる。さらに、来年にはIntelは、モバイルPentium III 550MHzでGeyserville使用時には700MHzをマークするチップを出すと言われている。つまり、Geyserville使用時のクロックは、ほぼデスクトップと差がなくなる。

 ところで、業界関係者によると、この0.18ミクロン版のモバイルPentium IIIのコード名は「Coppermine-256K」だという。Coppermineの統合する2次キャッシュSRAMが256KBであることは前から知られているが、なぜわざわざ「-256KB」とつけているのか? 勘のいい人はもうおわかりかも知れないが、じつは、「Coppermine-128K」というのがあるのだ。関係者によると、Intelは0.18ミクロン版モバイルCeleronを、2000年に投入する予定で、そのコードネームがCoppermine-128Kなのだという。つまり、現在のモバイルPentium II(Dixon)とモバイルCeleron(Dixon-128K)の関係と同様に、0.18ミクロン版モバイルCeleronはモバイルPentium IIIの2次キャッシュの半分を殺したものになるらしいのだ。このほか、ロードマップにはないが、Intelは低消費電力版のモバイルPentium IIとモバイルCeleronやμPGAパッケージ版も計画している。


●Pentium IIIの売りものSSEはじつはオマケ

 こうしてIntelのロードマップを眺めると、'99年は怒濤のようなPentium IIIラッシュになることがわかる。IntelがOEMメーカーにしている説明によると、メインストリームPC(1,000ドル以上のPC)では、'99年第3四半期中までに一気にPentium IIIが浸透、Pentium IIを完全に置き換えてしまう予定になっているという。つまり、Pentium IIは、夏頃までには姿を消してしまうというわけだ。

 そう説明すると、Pentium IIIのストリーミングSIMD拡張命令(米国では略してSSEと呼ばれている)に、それだけの魅力があるのかと突っ込まれそうだが、じつは、Pentium IIIの普及にSSEはまったく関係がない。どういうことか説明しよう。

 Intelは、Pentium IIIの最大のフィーチャはSSEと位置づけ、Pentium IIより進化したCPUとして華々しく宣伝しているし、メディアでもそう受け止めている。ところが、Intelの実際の製品販売戦略は、それとはまったく逆のことを示している。つまり、Pentium IIIをPentium IIより進化した、より付加価値の高いCPUではなく、Pentium IIと同列・延長線の製品として扱っているのだ。

 これを端的に示すのが価格だ。じつは、Pentium IIIとPentium IIは、同クロックの場合、ほとんど価格差がない。OEMなどからの情報によると、Pentium IIIの450MHzとPentium IIの450MHzの価格差は、わずか20ドル、4%程度。つまり、Pentium IIIのフィーチャであるSSEは、たった20ドルのオマケとしてPentium IIIについてくるということになる。これなら、Pentium IIIを選ばない手はない。また、そのオマケ用のソフトが当初は揃っていなくても、誰も文句はないはずだ。

 Intelのこの戦略は、非常にロジカルだ。IntelがいくらSSEがいいと騒いでも、ソフトメーカーは、インストールベースが拡大しないと食指を動かされない。そして、ソフトメーカーが積極的に対応しないとSSEの効果はでない。たとえば、SSEで3Dグラフィックスが速くリッチになると言っても、今のゲームがぐんと速くなるわけではない。SSEを前提にジオメトリの負担を大きくして、たとえば、フルポリゴンで緻密なグラフィックスを構成するようなゲームを作ったり、あるいは物理シミュレーションをするようなゲームとかを作ってこないと顕著な効果は出ない。

 そのため、IntelはMMXの時のように、いやおうもなしにすべてのCPUがMMXを搭載して、MMXが当たり前という状況に持って行かないとならない。それが、『SSEオマケ戦略』だったというわけだ。

 もっとも、Intelも始めからSSEをオマケにするつもりではなかったようだ。というのは、Intelの当初のPentium IIIの価格設定では、Pentium IIIとPentium IIでは同じ450MHzでも50ドル以上の価格差があり、しかもPentium III 500MHzは800ドル以上の最高ランクの価格に設定されていた。もう少しSSEの付加価値というものに対して強気だったのだ。ところが、発売が近づくに連れて価格差はどんどん小さくなり、価格自体も下へスライドした。その結果、SSEは事実上オマケとなった。ここから推測できるのは、IntelはPentium III発売が近づくに連れて、SSEを付加価値として価格差を大きくつけるのが難しいと判断したということだ。Intelのこうした価格決定はかなりうまい。マーケットの状況を敏感に把握して対応している。


●Pentium IIとPentium IIIの生産コストは同じ

 しかし、SSEをオマケとするのはいいが、その分のコストはどうなる、と思うかも知れない。ところが、それも問題がない。Pentium IIIはPentium IIにSSEの実行ユニットと新レジスタを付加した。その分トランジスタ数は950万個へと増えた(オリジナルのPentium IIは750万と発表されている)。ところが、ダイサイズ(半導体本体のサイズ)は、ほとんど変わっていないのだ。Pentium IIIのダイサイズは、インテル日本法人の説明では127.9平方mm、2月の学会「ISSCC99」での発表では123平方mm、データシートを見ると117平方mm程度、となぜかばらつきがあるが、いずれにせよ0.25ミクロン版Pentium IIの初期のダイサイズ130.9平方mmより小さい。つまり、原理的に言えば、CPUコア自体の生産性はPentium IIとPentium IIIで変わらないことになる。

 これは、Intelが製造プロセス自体をチューン(最新のプロセスは光学的にシュリンクしていると言われる)したのに加え、Pentium IIIをダイサイズが小さくなるように最適化したからだ。例えば、ISSCCで発表されたPentium IIIのダイ写真を見ると、チップの周辺にこれまであったボンディングパッドがなくなっている。これは、C4(Controlled Collapse Chip Connection)テクノロジを使いボンディングバンプをチップ表面に持ってきてしまったからだ。

 Intelは、どうやら、量産するプロセッサのダイサイズを120~140平方mmに保とうとしている。Intelは、このサイズがバランスがいいと考えているようで、チップサイズを小さくするほうに技術を使うのでなく、そのサイズに機能を詰め込む方に使っている。つまり、コストは一定で、集積する機能を増やすというポリシーでいるようだ。今回はそれがSSEだった、そして次の0.18ミクロン版Pentium III(Coppermine)では、それが256KBの2次キャッシュSRAMになる。おそらく、Coppermineのダイサイズも同程度になるだろう。


●高クロックにチューンしたのがPentium IIIの最大の利点

 さて、SSEがオマケだとしたら、Pentium IIIの付加価値とは何だろう。じつは、それはクロックなのだ。Pentium IIIは、Pentium IIにただSSEを加えたチップではない。ISSCCでの技術発表を見ると、Pentium IIIは高クロック化へ向けて様々な工夫が盛り込まれていることがわかる。例えば、XORゲートを8トランジスタにして高速化するといった、細かなレベルで、500MHz以上のクロックを安定して実現するための仕掛けが施されているのだ。

 つまり、Pentium IIIはPentium IIに手を入れて高クロック化に向けてチューンし、SSEを加えたチップなのだ。そのため、Pentium IIIはPentium IIよりクロックの上限が高く、高クロック品が安定して採れると思われる。実際、ISSCCのプレゼンテーションでは、IntelのラボでPentium IIIが650MHzでちゃんと動作していることを明かした。ところが、Intelは、現在0.25ミクロン版Pentium IIIでは、550MHzまでしか製品化の計画がない。つまり、乱暴な言い方をすれば、650MHzでも動かそうと思えば動くチップを550MHzで出すわけだ。それだけマージンが高いことになる。

 先々週、AMDのK6-IIIについてこのコーナーで書いたときに、AMDがマスクに手を入れたのは高クロック化のためだとAMDが主張していることを書いた。ところが、Intelも同じように高クロック化へのチューンをしている。つまり、AMDがクロック競争で守勢という状況は、AMDのマスク変更の効果が出る今後も、変わらない可能性が高い。Intel関係者は、AMDよりもIntelの方が依然としてクロックの上限が高く、高クロック品が安定して採れると主張している。

 これは、クロックの上限だけの問題ではない。もっとも重要なのはプロダクトミックスだ。半導体の生産では、1枚のシリコンウエーハから、高クロックで動くチップも低クロックしか動かないチップもミックスして採れる。このプロダクトミックスが高クロックへ寄れば、つまり、高クロック品がより多く採れれば、1枚のシリコンあたりの売上げが上がる。つまり、ASP(チップの平均販売価格)が上がることで利益が大きくなる。

 さて、IntelはPentium IIIで高速化に向けてチューンすることで、おそらくプロダクトミックスもPentium IIよりかなり上げられるようになった。実際、Intelの計画では、今年の第4四半期までにはPentium IIIを500MHz以上に完全に移行させてしまうつもりだ。つまり、市場に出す全製品を500MHz以上にできるというわけだ。

 互換MPUメーカーがこれに対抗するのはなかなか難しい。もしPentium IIIに本気で対抗しようと思ったら、500MHz以上の製品を出すだけでなく、全製品を500MHz以上に持っていかなければならないのだ。しかし、そうしない限り、いつまでもCeleron対抗で激しい価格競争を迫られ、Intelよりずっと低いASP、低い利益率に止められてしまう。なかなか、苦しい戦いだ。


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('99年3月9日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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