先週までで、CPU、マザーボード、ビデオカード、サウンドカードといったリビングルームPCの中核が決まった。あまりシステムが肥大しないうちに、とりあえずシステムを組み上げて、OS(Windows 98)のインストールを行なっておきたい。
ケースは、手持ちのミドルタワーケースを流用するつもりだし、とりあえずハードディスクは以前仕事マシンに入っていたIBMのDHEA-36480を使いまわしすることにした。6.4GBという容量は、本格的にサウンドやビデオのデータを扱うのであれば不足だが、リビングルームPCをそうしたクリエイティブな用途に使う予定は今のところない。まぁ何とかなるだろう、というのが読みである。比較的動作音が静かで発熱量が低いのも、このドライブの利点で、リビングルームPCには重要な特徴といえる。いくら動作音が静かでも、発熱量が多くて冷却ファンを追加するハメになっては、元の木阿弥になってしまう。
■リムーバブルは第2世代SuperDisk「LKR-F934」
リムーバブルメディアとしては、通常のフロッピーディスクドライブ(FDD)の代わりに、予告通り?第2世代のSuperDiskドライブであるLKR-F934を用いる。リムーバブルとしては、他にMOドライブ、Zipドライブ、CD-R/RWドライブなど他にも候補はある。問題は、フロッピーディスクとの互換性が必要かどうか、ということで、筆者の立場は「まだ必要」である。となると、こうしたリムーバブルドライブでは、別にFDDが必要になってしまう。すると、FDD+DVD-ROMドライブ+リムーバブルで、ハードディスク以外に3つのデバイスが必要だ。しかし、SuperDiskなら、SuperDisk+DVD-ROMドライブの2デバイスで済む(DVDにこだわらなければ、FDD+CD-R/RWドライブという組合せも有力だろうが、筆者は要DVDなので、やはりこれではまずい)。拡張カードですべてのPCIスロットが埋まるであろうことを考えれば、あまり言えた義理ではないが、それでも内蔵するデバイスの数は、トラブルや発熱を考えると極力少なくしたいものだ。
そのDVD-ROMドライブだが、手持ちのものの中からCreative PC-DVD 2x(DVD2240E)に決めた。松下寿電子工業のSR-8582のOEMと思われる第2世代DVD-ROMドライブで、手元には本家SR-8582もあるのだが、利用を予定しているDVDデコーダカード(昨年末のこのコラムでも取り上げたCreative TechnologyのPC-DVD Inlay)が、Creativeのドライブでなければ動かないことから、こちらに決めざるを得ない、というのが実際のところである。
■ DVDデコーダは「PC-DVD Inlay」にこだわるわけ
そうまでしてPC-DVD Inlayを使う理由は、すでに手元にあるとか、安かったとかいう事情以外にも若干ある。まず、筆者の考えるシステムでは、アナログオーバーレイ方式のDVDデコーダカード(CreativeのPC-DVD Dxr2やSigma DesignのHollywood+)ではちょっと都合が悪い。図1は、アナログオーバーレイ方式のデコーダカードの接続を示したものだ。アナログオーバーレイでは、ビデオカードのVGA出力をデコーダカード側に取りこんで、Windowsデスクトップ画面とデコードしたDVD画像の重ね合わせを行なう。つまり、ビデオカードは、DVDの画像が表示されていることなど全く関知していない。これが、アナログオーバーレイ方式の画像がビデオカードの性能や機能から独立していられる理由である。
だが問題は、この重ね合わせた最終出力が得られるのが図の出力2だけ、ということにある。出力1(ビデオカードのNTSC出力)では、Windowsデスクトップの上にDVDプレイヤーソフトは表示されているものの、本来動画が表示されるべきエリアは、ピンクの色が表示されているだけである(まだ、DVDの画像は重ね合わせられていない)。出力3(DVDデコーダカードのNTSC出力)は、一般に全画面のDVD出力(民生用DVDプレーヤーの出力と同じ)をサポートするだけで、Windowsデスクトップは出力されない。WindowsデスクトップにDVDの動画が重ね合わせられた出力は、出力2のみなのである。
図1:アナログオーバーレイの場合 | 図2:フィーチャーコネクタを使ったデジタルオーバーレイの場合 |
すでに述べたように、筆者はリビングルームPCにPCディスプレイを接続せず、TV受像機一本槍で行く予定にしている。したがってアナログオーバーレイ方式のデコーダカードでは、WindowsデスクトップにDVDの画面を重ね合わせた最終画面を表示することができないのである。どうしてもそれが欲しければ、出力2を外付けのTVコンバータと組合せる必要があるが、それでは何のためにビデオカードをXPERT@Play 98にしたのか分からなくなってしまう。XPERT@Play 98の定評あるNTSC出力(TV出力)を使いたいからこそ、この構成にしたのである。
一方、デジタルオーバーレイカードなら、こうした問題は起こらない。図2は、デジタルオーバーレイの場合を図にしたものだが、出力3が民生用DVDプレイヤーと同じ全画面のDVD出力である点は同じだが、出力1にDVDの画面がちゃんと重ね合わせられる(もちろん出力2もそうだが、筆者はここに何も接続しない)。これがあるとないとでは、DVDプレイヤーソフトのマウスによるオペレーションの容易さが全然違ってしまう。GUI+マウスによるイージーオペレーションは、PCベースのDVD再生における数少ないメリットの1つであるだけに、筆者はこれを大切にしたいと考えたのである(したがって、TVの隣にPCディスプレイをおける人、TV受像機を全く使わずPCディスプレイだけで行く人には、こうした事情は該当しない)。筆者は図2の出力1をTVのビデオ1に、出力3をビデオ2に入れて、TVのリモコンで切りかえるようにした。マウスで操作する必要がある時はビデオ1を選択し、その必要がなくなったらリモコンでビデオ2を選択すれば良いのである。
■ ソフトウェアDVDプレーヤーは?
もうひとつ、この問題を解決する方法としては、ソフトウェアDVDプレーヤー(ソフトウェアDVDデコーダ)を使うことも考えられる(もちろん、必要なプロセッサパワーは高くなる)。この場合の問題は、DVDの再生品質に妥協を強いられることだ。ソフトウェアDVDプレイヤーのNTSC出力の品質は、全面的にビデオカードに依存する。XPERT@Play 98のTV出力は定評あるものだが、それはあくまでもビデオカードとしては、という話。全画面にDVDを表示するという条件になると、ハードウェアデコーダのNTSC出力には到底かなわない。
また、ソフトウェアDVDプレーヤーの場合、現時点ではドルビーデジタル音声を取り出す方法がない(DTSはハードウェアデコーダですらサポートされておらず、今のところPCベースで再生する方法はないようだ)。S/PDIFをサポートしたサウンドカードでも、そこから得られる音声はドルビーデジタル信号ではない。たとえば、5.1チャネルのドルビーデジタルサラウンド音声をサポートしたタイトルであっても、サウンドカードのS/PDIFから出力されるのは、5.1チャネルをいったん2チャンネルステレオにダウンミックスし、それをデジタル出力したものである。ドルビーデジタルによる5.1チャネルサラウンドを再生したければ、今のところハードウェアデコーダの出力を使うしかない(MonsterSound MX300のオプションS/PDIFカードは、ソフトウェアデコードした場合のドルビーデジタル出力をサポートすると言われている)。
以上のような事情が、筆者がPC-DVD Inlayを選んだ理由である(Region Codeをフリーにできる、Macrovisionをオフにできるといった事情もあるが)。このカードは、Creative Technology自前の製品ではないせいか(LuxSonor SemiconductorのOEMと思われる)、どうやら製品ラインナップの主流から外れてしまったようで、現時点では入手性が悪くなってしまったが、筆者の目的にはかなっている。PCベースのDVDデコーダカードの中には、画質はともかく、極端に画面の左右や上下が切れるものもあるようだが、テストパターンを表示させた限り、筆者が持つ民生用DVDプレイヤー(ソニーのDVP-M30)と同等であった(ということは、PCディスプレイに表示させた場合よりは、若干切れるということではある)。画質も、出力3を見ている限り、DVP-M30に比べ特に劣るとは思えない(出力1は、左右がノーカットで完全に表示されるものの、やはり画質的に見劣りする)。
■ とりあえず基礎システムは完成
というわけで、リビングルームPCの基礎システムは完成した。次回からは、応用編?である。だが、どうも最近、リビングルームPCに暗雲がたちこめはじめたような気がしてならない。そう思う1つの理由は、ここにきて家電業界とPC業界で、あまりにもメンタリティが違うことが浮き彫りになったように思われるからだ。先のIDFで、Intelは次世代のストレージインターフェイスに、これまで主張してきたIEEE-1394ではなく、ATAの発展型とUSB 2.0を用いると発表した(ここでは触れるスペースがないが、これにはこれで、正当性はあると思う。また、USB 2.0がストレージ分野で成功を収めれば、当然他の分野への応用を狙ってくるだろう)。この直接の引きがねとなったのは、1ポート1ドルというAppleのライセンス料徴収宣言ではないかと言われている。相互接続が必要なのに、ライセンス料をとるのは望ましくない、というのがPC業界(Appleを除く)の意見である。だが、家電業界は、1ポート1ドルのライセンス料より、MicrosoftのOSライセンスに数10ドル払い、CPUという単なる部品に数100ドル支払うPC業界の方がよっぽど信じられない、と考えているのではなかろうか(ある意味、これも真実である)。
筆者はこれまで、将来のリビングルームの中心に座り、家庭のエンターテインメントセンターになるのは、PCかPCから発展したものになるのではないかと思っていたし、できればそうなって欲しいとも思ってきた。また、その方向にみなが向かうのではないか、と考えてもいた。これが筆者がリビングルームPCに向かう背景にあった。
だが、どうも流れはリビングルームに攻め込みたいPC業界と、守り抜きたい家電業界の激突という方向に向かっているようだ。発表されたばかりのPlayStation後継機がIEEE-1394(iLink)をサポートするというのも、何だか象徴的な気さえしてくる(USBもサポートするのだから、決してそんなことはないのだろうが)。PC業界と家電業界の戦いは、米国企業と日本企業の戦いでもある。確かにPCの完成度は低いかもしれないが、米国家庭での普及率が5割を超えたという市場調査報告もある。迎え撃つ家電業界も油断はできないハズだ。戦いの結果がどうであれ、競争によりユーザー利益が増すということを望むばかりである。
[Text by 元麻布春男]