後藤貴子の データで読む米国パソコン事情
 
第14回:「iMacがホリデー商戦を制覇、でも……」ほか


「iMacがホリデー商戦を制覇」 でも……

●Appleは復活するのか

 米PCリテール市場のホリデー商戦をiMacが制覇した。
 米国の調査会社PC Dataによれば、小売・通販のコンシューマ向けPCの売上で、'98年10~12月期にApple ComputerのiMacが1位をとった。iMacは台数ベースで全体の6.2%、金額ベースで7.2%のシェアを取ったという。

 Apple Computerがこの統計リリース前に発表した決算報告でも、iMacは10~12月に52万台近く売れ、これによりAppleの売上や収益は予想を上回って伸びたとしている。iMac発売以降、Appleがノリにノっていることは間違いない。

 だが、Apple Computerは本当に昔のように復活するのだろうか? 疑問符はまだ貼り付いたままだ。報道によれば、iMacは小売店に5週間分も流通在庫があると指摘するアナリストたちもいる。また売れ行きが徐々に落ちている様子なのも不安材料だ。PC Dataの統計でも、12月だけを見るとiMacは3位だったのだ。

12月の小売・通販による米コンシューマPCトップ5
1位Compaq Presario 5170
2位Compaq Presario 5150
3位Apple iMac
4位Compaq Presario 2266
5位eMachines eTower
 

●台風の目、eMachines

 この表を見ると、Compaqの強さが改めてわかるが……、ン? 5位に見慣れないメーカーがある。
 eMachines――この韓国系新興メーカーは、米国市場で旋風を巻き起こした。iMacの価格が1,299ドル、PCの小売平均価格が1,000ドルを切ったばかりというときに、399ドルパソコンをひっさげて登場したのだ。Cyrixの266MHzチップを使っており、DVDとCeleron 333MHz搭載版でも599ドルだ。

 突然躍り出たeMachinesは、PCの地滑り的低価格化の象徴だ。つまり今のところ、消費者はPCの価格がまだ下がることを望んでいるのだ。
 '99年も低価格化は加速するだろう。ステレオがラジカセに置き換わっていったように、PCはどんどん、誰もが持つありふれたモノになっていきつつある。その流れに、かっこいいけど価格の高いApple製品はついていけるだろうか。

□iMac Tops Fourth Quarter US Retail/Mail Order PC Sales(PC Data)
http://www.pcdata.com/press/hardware12199.html


Microsoft、我田引水で失点

●Microsoft提出のサーベイに司法省が挑戦

 「Windowsソフトの開発者の8割がWindows 98のInternet Explorer統合を望んでいる」――こう結論づけたサーベイが米国で大きな議論を呼んでいる。これはMicrosoft対司法省の裁判でMicrosoft側の証人が引用したものだが、その信憑性に司法省が疑問を投げかけたからだ。

 このアンケート結果を証言で引用したのはMITの経済学者Schmalensee氏。200人の独立系ソフトウェアベンダの83%が、インターネット技術のWindows 98への統合は消費者にとっていいことだと思うと答え、また85%は自社にとって、80%はソフトウェア業界全体にとってもいいと思うと答えたという。

 ところが司法省は、このサーベイはMicrosoftが自分の望む答えになるよう誘導した可能性が高いと示唆し、その証拠としてゲイツメールを持ち出したのだ。それによれば、ゲイツ氏は、「9割の開発者がOSとブラウザの統合を意味あることだと考えていることを示すサーベイがあれば、自分の証言で非常に助けになる」と書き、その後、Microsoft幹部らとサーベイの質問の作り方まで議論している。

 傍聴報道によれば、そんなメールの存在を知らずに引用したSchmalensee氏はその後、しどろもどろになってしまったらしい。

●統計は両刃の剣

 この事件の教訓は、統計は両刃の剣ということだ。Microsoftのねらいは、客観的データで「社会はMicrosoftの味方」であることを証明することだった。だが、Microsoftがデータを故意に作っていたと思われれば、どうだろう。
 数字はそれだけで相手を雄弁に説得してくれることもあるが、客観性を信じてもらえなければまったく逆効果なこともある。あまりに我田引水的な統計は、いくら第三者に調査してもらっても、人に疑心を起こさせてしまう。

 Microsoftが裁判状況を報告するリリースで出してきた「人々はMicrosoftが好き」(まただ)という調査結果もそうだ。今度のは、Microsoftが調査機関に頼んでふつうの米国人1,002人にした世論調査だそうだ。それによれば、76%がMicrosoftは米国の経済成長に貢献していると答え、73%が消費者やソフト業界に恩恵を与えていると答えている。でも、今の裁判下のこの状況なら、どんな数字でも疑いの目で見られる。それをMicrosoftはもっと考えたほうがいいのかも。

□Microsoft Faces Competition from Many Directions, Expert Testifies (Microsoft)
http://www.microsoft.com/presspass/trial/jan99/011499.htm
□'99年1月14日裁判記録(Microsoft)
http://www.microsoft.com/presspass/trial/transcripts/jan99/01-14-pm.htm


「Linuxが2倍に成長」はホント?

 '98年、コンピューター業界で一大ブームとなったLinux。IDCによれば、'98年、このUNIX互換OSのライセンス出荷数は世界全体で前年比212.5%増となり、サーバーOS市場全体の17%強を占めたという。
 一方、Linuxを脅威に感じていると言われるWindows NTサーバーは前年比27.2%増、156万台の出荷だった。30%近い成長は一見、悪くなさそうだが、サーバー市場を制覇することが目的のMicrosoftにしてはむしろ苦戦だ。それに比べ、Linuxは大健闘といえる。

 ただし、考えてみると、導入にけっこうなコストのかかるWindows NTサーバーや各社UNIXと、基本的にGNU GPL(General Public License)でカーネルが無償公開されているLinuxとは比較しづらい。IDCのリリースには、Linuxの出荷数をどうやって測ったのかの詳細はない。Linuxがオープンソースだから過大にカウントされていると言っているのではない。むしろ、業界のフィーバーを見ていると、Linuxは2倍というより、もっと伸びていてもおかしくないような雰囲気だ。Linuxと他のOSとを、出荷数という土俵で比べるのは無理があるかもしれない。

□IDC Reports 25.2 Percent Growth in Shipments of Server Operating Environments in 1998(IDC)
http://www.idcresearch.com/Press/011899Bpr.htm

[Text by 後藤貴子]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp