元麻布春男の週刊PCホットライン

同時進行連載:リビングルームPCが欲しい・その1



■なぜリビングルームPCなのか

 唐突だが、今回からしばらくの間、このコーナーを「同時進行連載 リビングルームPCが欲しい」にしてしまうことにした。第1回目の今回は、なぜリビングルームPCなのか、というテーマを取り上げたい。

 一般にPCは、リビングルームに不釣合いと言われている。それは、多くのPCがさえないベージュのタワー型筐体で、リビングルームのインテリアにそぐわない、という問題だけが理由ではない。単に外観だけの問題なら、一昔前のZenithのPCやiMacなど、それぞれ好き嫌いを別にすれば、それほど格好悪くないPCもなくはない。また場合によっては、PC本体を目に触れぬよう、隠してしまうことだって可能だ。

 PCがリビングルームに似つかわしくない最大の理由は、PCのコンテンツがリビングルーム向きではない、ということに尽きる。言うまでもなくリビングルームとは、家族が集う部屋である。つまり、そこに置かれる「機器」は、複数の人間が同時に共同で利用する性格を持たねばならない。テレビ受像機は家族みんなで見るものだし、音楽を再生する装置にも同じことが当てはまる。だが、PCのコンテンツは、リビングルームの共視/共聴に不向きなものが多い。

 たとえば、PCの発展を支えてきた伝統的なオフィスアプリケーションは、ワープロにせよ表計算にせよ、テキストが主役である。どんなに仲が良かろうと、1つの新聞や書籍を2人で同時に読むのが難しい(人により文字を読む速度が違えば、興味を持つニュースも異なる)ことでも明らかなように、テキストベースのコンテンツは複数人での同時利用に向かない(現状のWebではリビングルームコンテンツにはなれない、ということでもある)。ましてや、家族のように、大人と子供が入り混じる環境では、テレビのチャンネル争い以上の問題が生じてしまうだろう。

 加えて現在のPCには、リビングルーム機器の複数人で共視・共聴するという性格にそぐわない点が他にもある。たとえばテレビ受像機が、家族が座る場所に向かい合わせた場所に、数メートルの距離をおいて設置されるのと同様、リビングルームPCでも利用者とディスプレイの間にある程度の距離が欲しい(家族が同時に利用する以上当然のことである)。だが、一般的なPC(ディスプレイ解像度も含め)は、ディスプレイをテレビ受像機と同じ距離だけ離して設置すると、とてもじゃないが文字が読めなくなってしまう。たとえゲームであっても、ゲーム専用機と違って、PCゲームの多くは高解像度ディスプレイを前提にしたものが多く、文字が読めないとプレイできないことが少なくない。

 では、というわけでディスプレイの表示解像度を下げると、今度は使い勝手が悪くなる。普通のPCを640×480ドットで使いたいユーザーが誰もいないことでも明らかなように、基本的にPCのユーザーインターフェイスは、短距離で高解像度のディスプレイを使うことを前提にできている。離れた位置でも文字が読めるように画面解像度を落とすと、使い勝手まで落ちてしまうのである(この点で、最初からテレビ受像機を前提にしたWebTVやDreamcastのWebブラウザは、最初から低解像度を前提にユーザーインターフェイスができている)。

 画面解像度を落としてPCディスプレイを遠ざけるのが無理なら、逆にディスプレイの解像度を高く維持したまま、利用者との距離を近づけてはどうだろう。だが、リビングルームでそれをやると、テーブルやコタツの上にディスプレイが居座ることになってしまう。これでは、リビングルームとしての機能が果たせなくなる。結局、この方法では、ディスプレイはリビングルームの片隅に設置するしかなさそうだ。しかし、リビングルームの中央にディスプレイがないのでは、筆者が考えるリビングルームPC(家族のエンターテインメントセンターとしてリビングルームの中核になる)とはイメージが合わない。

 これだけ、リビングルームPCのマイナス面を挙げ連ねたことでも分かる通り、常識的にはリビングルームPCなど、現時点ではしょせんナンセンスなのかもしれない。だが筆者は、そのナンセンスなリビングルームPCをぜひ設置したいと考えている。たとえばDVD再生、たとえばデジタルCSデータ放送、たとえばBitCastやADAMSなどのVBIサービス、たとえばMDデッキのコントロールなど、リビングルームPCでやってみたいことは山ほどあるのだ(独身者であれば、これらをリビングルームPCでやることはないのだろうが)。リビングルームPCが本当にナンセンスなのか、やってみると意外に使えるのか、実際に使ってみて考えよう、というのが筆者の目的である。

■リビングルームPCはやっぱり自分で組むことに

 そして、上記のような様々な用途を考えているおかげで、リビングルームPCもやっぱり、自分で組むことになりそうだ。リビングルームという場所に置く以上、筆者とてたとえばVAIOコンポのような、メーカー製のちょっと恰好の良いPCの方が望ましいと思う。だが、こうした薄型スリムPCでDVD-ROMドライブを内蔵したものはまだないし、拡張スロットの数も十分ではない(東芝のVision ConnectならDVD-ROMドライブを内蔵しているが、やはりスロットの数が足りない。また、果たして今でも現役機種なのだろうか)。放送系のサービスがサービスごとに異なる種類のPCIカードが必要になることでも明らかなように、筆者が望むリビングルームPCには、現状では拡張スロットがたくさん必要なのである。

 当然、ベースになるのは普通のATXマザーボードになり、普通の(不恰好な)ミドルタワーを使わざるを得ない。実は、一時最近流行りのNLXベースの薄型ベアボーンPCをベースにすることも考えたのだが、やはり拡張スロットの数と、せっかくのオンボードグラフィックスにNTSC出力がついていない、という点で厳しいという結論になった(やはりディスプレイにはテレビ受像機を使わざるを得ないと思っている)。オンボード100Base-TXを持っていることでも分かるように、こうしたベアボーンPCの大半はビジネス用途を考えているようだ。というわけで、次回は具体的なシステム構成を考えてみたいと思う。

[Text by 元麻布春男]


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