スタパ齋藤

すっげぇノートパソコン ~ThinkPad 770X~



■ すっげぇノートパソコン

 去年の10月12日、第18号の週刊スタパトロニクスにて、『安定への道 ~東芝TECRA 780DVD~』という記事を書いた。タイトル通り、東芝の(当時の)フラッグシップノートマシン、TECRA780DVDを購入してベリーグットなんですよこのマシンはスゲエんだよ見てくれよという話。その後些細なトラブルに見舞われたTECRA780DVDだったが、東芝の怒濤のサポートを受けた瞬間パーフェクトな安定性を誇りまくるようになり、現在も連続レジューム記録などを更新しつつ、問題全然ナシ状態で約6カ月、俺の仕事を手伝ってくれている。

 そして去年の暮れ、問題ナシなコンピューティングをエンジョイしている俺のところへ、突然のちん入者が。俺の弟である。弟は薬剤師で、コンピュータとは縁がないハズなのだが、以前俺が供与した松下のLet's noteをきっかけにコンピュータに目覚め、近頃は在庫管理やらメールやらFAXやらゲームやらハガキ印刷やら、ゴリゴリとコンピュータを使いまくっている人となった。で、その弟に、俺の最強に強まったTECRA780DVDを見せたら、その瞬間TECRAの虜になった。

「見ろ、弟よ!! これが最強に強まったパソコンだ!!」
「なにその広い画面~!! ああっ英語キーボードだカッコいい!! DVD再生してるスゲぇ!! なんでそんなに速くEXCELが起動すんの~!? おおっ画像ファイルがすげースピードで開く!! インターネットも速い!!」
「そうだ!! 何しろこれは最強に強まったパソコンだからな!! 光る光る東芝製だ!! マルチメディアにオンデマンドだーッ!! だがインターネットが速いのはISDNでIIJだからでパソコンとはイマイチ関係ないヨ!!」
「そのパソコン、ちょうだい」
「だーっ!! ふざけんなこのタコ!! ちょうだいでもらえたら大蔵省印刷局要らねぇんだよ!!」
「わかった、買う。売って。そろそろ飽きたでしょ。どうせ新しいの買うんでしょ」

 うっ、なかなか鋭い。さすが俺の弟。確かにTECRAは抜群だが、俺としてはより抜群なコンピュータを模索してもみたい。そしてもうすぐ1999年(去年の話なので)。TECRAを弟に売り、俺は俺で新しい超最強に強まったマシンを手に入れるというのも悪くない。てなわけで、とりあえずいずれTECRAは売ってあげるよーんということにし、俺はより強まったコンピュータを捜すことにした。

 すると間もなく、渡りに船的なタイミングの良さで、すっげぇノートパソコンを発見した。それはIBMのThinkPad 770X。IBMのフラッグシップノートマシンだ(770Xは3機種用意されており、中でも目を引くのは9549-7AJというモデル)。このマシンについての詳しいスペックはIBMのサイトのカタログページを参照していただきたいのだが、とりあえずこの770X(9549-7AJ)、どこがすっげぇって、液晶ディスプレイがすっげえ。XGAを上回る画素の高精細表示が可能なSXGA表示!! SXGA表示なんてコトバ存在するんですかァなんて些細な疑問は、1,280×1,024ドット表示というスペックを確認した瞬間フッ飛ぶ。それから、当たり前の用にDVD-ROMドライブを搭載し、何気なく搭載されたモバイルPentiumⅡプロセッサは300MHz駆動だし、さりげなく128MBもメモリを搭載している!! 何から何まで搭載しまくり!!

 このマシンは、俺が求めるノートパソコンのスペックを、てやんでえべらんめえというチャキチャキな感じで満たしているマシンだったのだ!! くぅ~っ!! たまらねえ!! そうだ今度はコレしかねえ!! このマシン買うゼ!! 買うぞ買わせろ売ってくれ!! 値段はいくらだ!!

 ゲッ!! ゲゲッ!! ゲゲゲゲゲゲゲゲーッ!! 770X(9549-7AJ)の価格は、IBMのサイトのカタログによると、なななな、なんか、標準価格が、きゅ、きゅ、きゅ、92万8,000円!! たたた高い!! 高過ぎる!! 清水の舞台32個を重ねたよりも高い!! 飛び降りたりすると即死する!! だめだ。すっげぇイイが、雲の上のマシンだ……。



■ ていうか、ThinkPadって、イイの!?

ThinkPad 770X
ThinkPad 770X 928,000円
IBMの誇るノートPCのフラッグシップモデル。1,280×1,024の解像度を持つほか、DVDもモチロン搭載。店頭で展示販売するようなモデルではないため、IBM社員でもあまりお目にかかれないという高嶺の花だ。この解像度でドット欠け1個だけというのは凄い
 ThinkPad 770Xのスペックの高さに、一瞬我を忘れてサイフを取り出した(けどまるで足りなかった)俺だったが、冷静になってみると、焦って買ってはイケナイような気がしてきた。IBMのノートマシンを使ったことはあるが、いちばん最近使ったのは、ウルトラマンPC(PC110)。その前はThinkPad 230Cs。ChipCardも両方使ったけど、ともあれ、その後のIBMのマシンには、いまひとつ興味がなかった。Mwaveの不都合なウワサなともいろいろ聞いたし……。また、黒いキーボードにかなり目立つホワイトで日本語が刻印されているという点も、俺をThinkPadから遠ざけた一因だ。

 そこで、ThinkPad 770Xを諦める意味でも、いろんなパワーユーザーの方にIBMのノートはいかがなモンなのかという話を聞いてみた。

「IBMねぇ、まあやっぱり最高でしょ最高」
「いいよねIBMは。さすがって感じだよね」
「最近いまいちおもしろくないメーカーだけど品質は抜群だね」
「仕事に使うノートになると、やっぱりIBMになっちゃうなあ」

 など、IBMのノートなんか全然ダメだゼ~みたいな意見は微塵もなかった。人の懐事情も知らないでイイを連発しやがって……。でも、そうなのか、イイのか。だが俺の最強に強まったTECRAと比べたらどうなんだろうと、その辺もリサーチしてみた。

「東芝かぁ~、シブい選択だねぇ~。TECRAもいいけどThinkPadもかなりいいよ」
「いいよね東芝は。でもIBMの最近のThinkPadは最高にいいよ」
「TECRAも抜群だけどThinkPadも抜群だよ」
「仕事に使うノートだととりあえずIBMにしちゃうなぁ。ATの本家だからなぁ。世界のIBMだからなぁ」

 なるほど。そうか、IBMのマシンはやっぱりイイのか。そうか。でも90万円以上するんですよ770Xは。どうしろって言うんだ俺に。あーどうしたらいいんだ俺は。ていうか欲しいぞ俺はアレが!! くわッ!! あーどうしよう。
 そんな気持ちをPCWatchの担当編集のお姉さまにぶつけてみた。

「はいもしもし~、あっ齋藤さんどうしましたぁ~? なになにThinkPadが欲しい!? ふむふむフラッグシップで770Xで」
「そうなんスよ欲しいんスよたまらねえんですよ!!」
「90万は高いスね~高過ぎですね~」
「しかも90万なのに日本語キーボードなんですよその点だけがイヤなんですよ英語派なんですよ!!」
「じゃあIBMの知り合いの人に聞いてみますよ、英語キーボードになるかどうか、それと割引可能かどうか」

 で、その日から話はどんどん進み、英語キーボードに換装できないことはないし、T-ZONE渋谷店さんのおかげで多少の割引が可能となるし、やっぱりどこをどうつついてみても770Xは抜群だということになった。ついでに
「地獄の底のマシンだろうが雲の上のマシンだろうが、欲しかったら買うんだよオイ!! わかってんのかコラ!! 地獄の底のマシンなら地底人ブン殴ってでもマシン買え!! 大気圏外に欲しいマシンがあったら息止めてゲットしろ!!」
と物欲の神様が俺を叱咤激励したので、いよいよ俺は買う決心を固めた。



■ 英語キーボード大換装会(12.28事件)

USキーボード(写真上)と日本語キーボードはちょっとタッチが違い、日本語キーボードのほうが昔の98ライクな感じだ。しかしどちらのキーボードも30万円程度のノートPCとはスイッチからして違うモノで、キータッチはかなりイイ感じ。内部は金属シールドが使用されているなど、コスト度外視の作り
 そして去年の12月28日15時30分、ついに770Xを買う時がきた。ていうか単にT-ZONE渋谷店に行って、ThinkPad 770X(9549-7AJ)を買うだけのことなのだが、その日はけっこう大騒ぎであったと同時に、IBMのフラッグシップノートとゆーモンスターマシンの片鱗を見ることにもなった。

 まず、770Xというのは、前述のとおりIBMのフラッグシップノートだ。いわば、世界最強メーカーの最高機種、文字通り世界最高のノートになる。それがどういう意味を持つのかというと、俺のようなマニア的フツーの人を除けば、一般的なフツーの人は買わないのである。IBM社員でさえほとんど間近にしない、ある意味特殊なマシンなのである。じゃあどういう人が買うのかというと、エギュゼクティブな人がたまに買う。いわゆるひとつのシャチョー方面の人だ。

「おいチミ、ワシもパソコンを使いたいなあ。なにかワシに向いたのをあつらえてくれたまえ」
「はっ、IBMのノートパソコンなどよろしいかと」
「うむ、それでいい。イイのを頼むよ、イイのを。わっはっは」

 と、シャチョーのトコロへ届けられるのは、ThinkPadのiシリーズとかチャンドラ2とかではなく、いちばん高いハイエンドノートなのである。シャチョーさんがド素人だろうとマニアだろうと、シャチョーさんは会社の顔なので、パソコンにせよ椅子にせよ、ある程度高級なモノないし最高級品を使ってないと会社の沽券に関わるのだ。

「あそこのシャチョーさぁ、うちの娘にあてがった激安パソコンとおんなじ機種使っててさぁ、なんかさぁ、笑っちゃってさぁ」
 などとウワサされてはならないのである。エギュゼクティブたるシャチョーさんはとりあえず笑われちゃあダメなのだ。

 一方、シャチョーさんの元に届けられるマシンも、気合が入っていないといけない。
「おいチミ、この770Xとかいうパソコン、ちっとも良くない。まるでダメじゃないか。調子が悪いったらありゃしないぞ」
「そうですかぁ、一応IBMの最高機種なんですが……」
「IBMも大したことないのう。今度入れ替えるウチの計算機な、アレな、富士通かNECか東芝のにしたまえ。IBMだけはだめだぞ」
「はっ、IBMはダメと……(メモしている)。承知いたしました」

 ハイエンドマシンがうっかりイマイチだったりすると大変だ。90万円の製品でチョンボをやらかしただけなのに、90億円の儲けを失ったりするようなことになりかねない。まあパソコン一台でビッグビジネスがどうこうなるなんてのは冗談としても、IBMの顔たるフラッグシップマシンがイマイチだったりすると、IBMの沽券に関わるのである。

 それをまざまざと見せつけられたのが、770Xを買った直後のこと。770Xの日本語キーボードを英語キーボードに交換して忘年会をやろう!! と集まってくださった、ビットマップファミリーシンディケート(インプレス刊『ネットウォーリアハンドブック』――すげえおもしろい実践モバイル本――の著者)の方々、770Xを売ってくれたナイスガイの方、およびインプレスの方々を前に、770Xの筐体を開けた時。集まった人々の多くは、今まで多数のノートパソコンの内部を見てきた人であり、ThinkPadとかを開発した人だったりもしたが、口々に「お~、中身までこんなに違うとは思わなかった~、さすがだ」と驚いていた。

 つまり、770Xの内部は、他の普及型ノートとはひと味違っていた。作りは頑丈だし、パーツもワンランク上のものだったし、何より美しく作られていたし、全体的に贅沢な作りだった。パソコンの中身に詳しい人によれば、
「これは技術者にやりたい放題やらせたという感じだ。普通ならココとココとココとココは、もっと安いパーツを使う。キーボードなんかも全然違う。パーツがみんな高級品だ」
とのこと。俺は“頑丈”とか“よさげなパーツ”とか“キレイ”とかしか、わりと表面的な部分の高級感しかわからなかったが、百戦錬磨の技術者の方々に言わせると、“見えない所まで高品位”らしい。

 そう言えば、キーボードの裏側とか、マザーボード上部は、金属シールドの上にビニールで気密が保たれていた。恐らくこれは基盤を冷却するための空気がスムーズに流れるための工夫だと思われるが、こんなに凝ったことがしてあるノートマシンは今まで見たことがなかった。表だった細かい所だと、スピーカーから出るステレオサウンドはもちろん音がイイうえに音割れしないとか、筐体外部に指で押して湾曲するようなヘタり感が一切ないとか、各面において完璧を目指して作られた感じだ。ふつーそんなの気にしないだろうと思うような点、例えば、PCカードスロットの開閉蓋が一般的なノートパソコンより重厚な感じで作られていたりする。なんか完璧に調教・手入れされたドーベルマンみたいな雰囲気である。力強いと同時に、エレガントだ。

 それから、肝心のSXGA液晶(1,280×1,024ドット/13.7インチTFT液晶)も、大したモンだった。これほど広いTFT液晶なのに、ドット欠けがたったの1コしかなかった。しかも常時未点灯で全然目立たないドット欠け。1コもあったという言い方もできるが、800×600ドットTFTにも1コや2コの液晶欠けが存在するから、驚異的なほどドット欠けが少なかったと言えよう。



■ '99年は770Xでゴー!!

キーボード換装後、DVDビデオを再生してみるスタパ氏。写真ではさほど感じないが、昨今の銀パソに慣れた目には、770Xはかなり巨大だ。しかしデスクトップ代替機としては問題ない大きさと言える
 というわけで、770Xがめでたく自分のものになった。まだ使い始めたばかりなので、その安定性がどうのと書けないが、とりあえず感触的なことを。

 まず、SXGA(1,280×1,024ドット)の画面だが、これはすっげぇ広くて気持ちイイ。これまでTECRA780DVDのXGA(1,024×768ドット)液晶を使っていたので、それほど広く感じないかな~と思っていたのだが、実際使い始めてみるとヤケに広く感じられる。Webブラウザとテキストエディタの両方のウィンドウを十分な広さで開いて並べても、特に支障を感じないとうイメージ。770Xを使ってからSVGA(800×600ドット)のサブノートなどを使うと、そのドットがヤケにデケぇっていうか、アイコンが巨大っていうか、なんだか、“こどもようぱそこん”という感じがしてくる。VGAからこのSXGAに乗り換えたりすると、いきなり宇宙空間に放り出されたような不安感に襲われるかもしれない。

 そう言えば、その後、ゼロ・ハリさん(コンピュータの知識とアイデアにおいては恐怖の大王もビビって引き返すほどの人物)から、ThinkPadはNASA公認のマシンでスペースシャトルでも使われた(http://www.ibm.com/News/ls/1998/10/sp_intro.phtml)り、770XがPC Computing誌の'98年MVPに選ばれた(http://www.zdnet.com/pccomp/mvpawards98/hardware-10.html)りした話も伺った。なるほど、700系のThinkPadって定評ありまくりのマシンだったのね。

 770Xの日本語キーボードは、イイ感じで使える。キーストロークが十分あり、しっかりしたクリック感もある。が、英語キーボードの方がもっと快適で、若干タッチも良く、広々としていて、何より美しい。770Xは、英語版のキーボードが手に入れば、日本語キーボードからの換装を行なえるが、慣れてない人や自信のない人にはちょっとムリっぽい感じだ。俺の場合、仕事柄、IBMの開発陣の方にも協力していただけて、非常にラッキーだったと言えよう。なおThinkPad 235に関しては、http://www.ibm.co.jp/jpccinfo/pcdock/index.html英語キーボードへの換装サービスが正式に実施されている。ともあれ、ゼロ・ハリさん、AKIプさん、亜土電子の近藤さんらに、深く深く深く、地球の裏側くらいまで深く感謝している。

 770Xはかなりデカい。戦艦級を超えていて、空母という感じ。が、非常にスッキリしたデザインなので、大袈裟な感じがなくてクールだ。厚みも重さも空母級だが、主にデスクトップで使うためのノートとしては、特に問題を感じない。いや、このハイスペックマシンに自分のコンピュータ環境を全て任せれば、机上でも出先でも完璧に何でもこなせるマシンとして役立てられる。あと、770Xはデカくて重いのだが、意外にもその動作音は静かだった。

 が、770Xの弱点発見。他のThinkPadもそうだが、マット(無光沢)仕上げのブラックボディは、ビックリするほど手の油が付きやすい。徹夜明けに顔をいじった手で触ろうものなら、まるで自分が脂性の油野郎なのかと悲しくなるほど、すぐにブラックボディに汚れがついてしまう。ポテチ食いながら触ったりするともはや……えっ? そんなことしないって!? そうですな。手を洗ってから使えば問題ないと言えよう。時々消毒用エタノールとかで拭けばオッケーと言えよう。

 てなわけで、とりあえず使い始めた770X、これから何が起きるかわからないが、時々この連載記事で経過報告をやりたいと思う。

□日本IBMのThinkPad 770X製品情報
http://www.ibm.co.jp/pc/thinkpad/tp77089/tp77089a.html

[Text by スタパ齋藤]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp