元麻布春男の週刊PCホットライン

ユーティリティソフトと信頼性


■ マルチメディア命令のCPUベンチマーク

 先週は、筆者とユーティリティソフトの過去のかかわりと、なぜ最近はユーティリティを使わなくなったか、ということについて触れた。その筆者が、なぜまたユーティリティソフト、それも複数のユーティリティをセットにした、いわばユーティリティスイートを買う気になったのか。ことのおこりは、ベンチマークの必然性からであった。

 現在のプロセッサの性能分野には、ウエイトの大小は別にして、整数演算、浮動小数点演算、マルチメディア命令(いわゆるMMX)の3つのジャンルがあることは、ほとんどの人が知っていることと思う。整数演算と浮動小数点演算の2つは、昔からプロセッサの性能を示す指標として多くのベンチマークプログラムが用意されてきた。ワークステーション分野で用いられるSPECintやSPECfpはその代表格とも言えるものである。

 加えて、明らかにこの2つの分野の演算性能に依存したアプリケーションが存在することが、そのアプリケーションによるベンチマークテストも可能にしている。たとえば、Quake IIのベンチマークは、Multi TextureをサポートしたOpenGL/MiniGLアクセラレータ対応のグラフィックスカードベンチマークになると同時に、プロセッサの浮動小数点演算性能のベンチマークとして、極めて有効である。

 だが、もう1つの性能分野であるマルチメディア命令については、確立したベンチマークテストが存在しない。ある意味でこれは、マルチメディア命令の使い道が、プロセッサベンダの言うほどは存在しない、あるいは重要ではないということを示している可能性が強いが、さりとて全く無意味であるとも思えない。ペイントソフトのフィルタ、ソフトウェアMIDI、ソフトウェアDVDプレーヤーなど、マルチメディア命令をサポートしたアプリケーションが実在する以上、プロセッサ選びの際のウエイトとしては大きくないかもしれないが、決して無価値ではないのである。無価値でない以上、その性能を計る意味はあるし、計らねばならない。

 これまで、マルチメディア命令のベンチマークとして、最もメジャーだったのは、おそらくIntelのIntel Media Benchmark(IMB)と呼ばれるものだろう。MMX Pentiumプロセッサと同時にリリースされたこのテストプログラムは、IntelのMMX命令を使ったもので、その結果がiCOMP 2.0インデックスにも反映される。だが、筆者や周囲の経験では、IMBはテストによって得られる性能指標の再現性が悪いこと(同じハードウェアでも、テストごとにバラついた数値が出やすい)、3DNow!のような他社の拡張には対応していないことなどから、あまり評判が良くない。しかも、Intel自身がIMBを改良する意欲を失っている(プロセッサベンダであるIntelが作ったベンチマークなど、どうせ誰も信用しないんでしょ、というのが彼らの言い分である)。


■ ベンチマークのためにNortonを購入したものの

 その代わりにIntelは、Symantecに技術協力して、Norton Multimedia Benchmarkをアップデートしてもらうのだという。実は、Katmaiのリリースに合わせてiCOMPインデックスも、現行の2.0からiCOMP 3.0へと切り替わる予定なのだが、そこではIMBに代わってNorton Multimedia Benchmarkの指標が採用されることになっている(これらが今でも予定通りかどうかはわからないが)。ならば、と考えて筆者は再びNorton Utilities(正確にはNorton Utilities for Windows Version 3.0)の正規ユーザーとなった。Norton Multimedia Benchmarkは、この中に含まれるSystem Information(Norton SI)の一部である。

 購入に際してWindows 98対応であることは、パッケージを見て確認した。ちゃんとWindows 98でも動作することになっている。ところが、インストールして、Norton SIを呼び出し、Multimedia Benchmarkを使おうとすると、見事にクラッシュし、毎回Norton Crash Guardのお世話になる始末。あわててREADMEを見ると、Multimedia BenchmarkはWindows 98でサポートされていない。Norton Utilitiesには、Live Updateと呼ぶ、アップデートプログラムが添付されており、これを用いることで最新版へのアップデートが可能なのだが、この原稿を書いている今も、Norton Multimedia Benchamarkは、相変わらず完全には動かないため、総合指標を得ることができないでいる。

 さて、Norton Utilitiesという総合ユーティリティパッケージにおいて、Norton SIは含まれるプログラムの1つに過ぎない。そしてMultimedia Benchmarkなど、Norton SIから呼び出される一介のモジュールに過ぎない。おそらくNorton Utilitiesというパッケージ全体の持つ価値の何分の1、ひょっとすると100分の1程度の価値かもしれない。だが、筆者はこの「事件」により、Norton Utilitiesを利用する意欲が完全になくなった。それは、Multimedia Benchmarkが動かないという単純な事実ではなく、こんな障害をほったらかしにしておくメーカーの無神経さが耐えられないからだ。

 そのほかの、よりクリティカルなツールの信頼性を語る資格は筆者にないが(使っていないのだから)、おそらくそんなひどいことはないのではないかと思う。だが、ユーティリティを使う気にさせるのは、絶対に間違いが起こらないのだという「信頼感」である(とりあえず最初は問題がない以上、しょせん真の意味での信頼性はわからない。あくまでも「感」なのである)。障害の生じることがわかっている(だからこそREADMEに明記されている)プログラムが、標準インストールでインストールされてしまう無神経さでは、万が一の事故の際に、大事なハードディスクを任せる気にはなれない。障害が生じるとわかっているのなら、インストーラは絶対にそのモジュールのインストールをさせてはならないし、プログラムは、該当する機能のボタンが押せる状態にしてはならない。

 Norton Utilitiesに限らず、どうも最近ユーティリティソフトの信頼性が落ちているような気がする。たとえば、アンチウイルスソフトにしても、少なくとも筆者の周囲では、コンピュータウイルスの感染による被害より、アンチウイルスソフトを常駐させたことによる障害(コンフリクト)の方がはるかに頻発している。もちろん、障害の責任はアンチウイルスソフトの側ばかりでなく、アプリケーションにもあるハズだ。しかし、ユーティリティの用途がコンピュータ環境の保全であり、アプリケーションも保全されるべき環境の一部である以上、何が何でもユーティリティ側が対処せざるを得ない。そうした一種の職人気質みたいなものは、もう望めないのだろうか。筆者は派手なビジュアルやサウンド機能など、ユーティリティに全く求めていないのだが。

[Text by 元麻布春男]


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