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インテルが次世代Mobile Pentium II“Dixon(ディクソン)”を公開?



●インテルの次世代Mobile Pentium IIパッケージ

本体本体  インテル日本法人は、9月24日、東京で行なわれた「インテルアーキテクチャプレスセミナー」で、次世代のモバイル向けPentium IIプロセッサパッケージの実物を始めて公開した。約38×32mmの基板の上にCPUコアのダイ(半導体本体)が装着されているというシロモノだ。裏側は、小さな半田バンプのボールがびっしりと並ぶボールグリッドアレイ(BGA)になっている。ただし、普通のBGAと比べるとずっとボールの間隔が小さい。これは、「μBGA(マイクロボールグリッドアレイ)」と呼ばれる「CSP(チップサイズパッケージ)」技術を使っているからだ。

 これだけなら、半導体のパッケージ技術に興味がある人でなければ、「フーン」で終わってしまいそうだが、ひとつだけ面白いことがある。それは、このパッケージに載っているCPUコアが、現在のどのPentium II系CPUコアともサイズが違うことだ。やけに長細い。しかも、2次キャッシュ用SRAMチップが載っていない。そう、つまり、これは、次世代の2次キャッシュ統合型Mobile Pentium IIかも知れないというわけだ。

 Pentium II/Celeronプロセッサ系MPU(0.25ミクロン版)には、今のところ大きく分けて2種類のダイがある。Pentium IIや2次キャッシュ無しCeleronのCPUコアと、128KBの2次キャッシュを統合したCeleron 300A/333MHz(Mendocino:コード名)の2つだ。従来のMobile Pentium IIに載っていたのは前者で、そのダイは約11×約12mmのほぼ正方形だった。2次キャッシュ統合型Celeronは、このCPUコアに128KB分のSRAMをくっつけたワンチップだが、インテルの公開した写真を見る限り、今回のMobile Pentium IIほど細長くない。

 ちなみに、今回のパッケージ上のダイのサイズを計ってみると、その寸法は約10×18mmのように見える。これは、ひじょうにおおざっぱな計り方なので、正確な数字とはとても言えないのだが、ラフに計算すればダイ面積は180平方mm近辺になる。それに対して、Pentium IIのダイサイズは130.9平方mm、128KBの2次キャッシュを統合したCeleronは153.9平方mmだ。数字の上でも、どちらとも合わないように見える。では、このチップは、一体なんなのだろう?


●これはDixonか?

 インテルは、'99年にモバイル向けMPUを、一気に充実させるつもりでいる。現行のMobile Pentium II以外に、128KBの2次キャッシュ統合タイプのMobile Celeronを投入するほか、次世代の0.18ミクロン技術で製造する「Mobile Coppermine(コード名:カッパーマイン)」を投入することを公式に明らかにしている。しかし、それ以外に、もう1種類チップがある。それは、256KBの2次キャッシュを統合した「Dixon(コード名:ディクソン)」と呼ばれるMobile Pentium IIだ。

 インテルは、Celeronでは128KBの2次キャッシュを統合するために、ダイ面積を約23平方mm増やした。とすると、Dixonでさらに128KBの搭載に、同じ程度のダイ面積が必要になると仮定すると、大ざっぱに見てDixonのダイ面積は180平方mm近くなる。つまり、今回公開された新パッケージに搭載されていたダイと、ほぼ同じサイズになるというわけだ。

 もちろん、インテルが公開したのは、サンプルのパッケージであり、載っているダイの大きさなどが製品版と同じという確証は何もない。それに、もしこれがDixonだとしても、来年始めに出荷される予測からすれば、サンプルが存在することに何の不思議もない。ちょっとヨタ話的になってしまったが、要は、これがDixonの初公開だったのかも知れないということだ。


●薄型ノートの設計が容易に

本体 ところで、インテルは、これまでMobile Pentium IIでは、モバイルモジュールと呼ばれるCPUコアと2次キャッシュ、チップセットのノースブリッジチップなどを搭載したモジュールと、ミニカートリッジと呼ばれるCPUコアと2次キャッシュを搭載したモジュールの2形態で提供してきた。つまり、Pentium IIでは、PCメーカーはモジュールしか選択肢がなくなってしまったわけだ。

 これには、モバイル版のMMX Pentiumの時のTCP(テープキャリアパッケージ)より扱いやすい反面、設計の自由度が制限されるという問題があった。インテルは、次の2次キャッシュ統合型Mobile Pentium IIやMobile Celeronでは、このμBGAでも提供することで、薄型ノートPCを設計しやすくするつもりのようだ。おそらく、インテルがBasic Mobile PCと呼ぶ、超低価格ノートでも、コスト削減のためにμBGAが使われるようになるのではないだろうか。


●ベアチップからCSPへの流れ

 また、ここには、ベアチップからCSPへと、半導体業界の流れが変わったという背景も見える。業界の大勢としては、テープ状の絶縁フィルムに半導体のチップを裸のまま載せたTCPのようなベアチップ系の技術より、CSPへと向かっていると言われる。インテルは特に、CSP技術のなかでもこのμBGAが気に入ったようで、フラッシュメモリのパッケージにも採用している。また、インテルと組んで'99年にインテルのパフォーマンスデスクトップPC向けメインメモリを提供する米Rambus社の設計した高速DRAM「Direct RDRAM」も、基本的にμBGAで提供される。

 つまり、どんどん実装の高密度化が可能になってくるわけだ。そうすると、CSPを駆使してラディカルにマザーボードのフォームファクタを小さくしたりといったことも容易になる。インテルがミニノートPCにやたらと関心を示し始めた理由も、このあたりにあるのかも知れない。


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('98年9月24日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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