後藤貴子の データで読む米国パソコン事情
 
第6回:「米国で広がるデジタル格差」ほか


米国で広がるデジタル格差

■PCを持つ白人、持たざる黒人

 人種のモザイク米国。そこでの人種ごとの典型的中流家庭の姿を、ちょっと思い描いてみよう。そこにPCはあるだろうか。

 白人のオルブライト家は子供の部屋にPCを置いた。学校でもPCを使った授業があるし、インターネットで宿題の調べ物などができると親は思ったのだ。もっとも彼が一番好きなのは友達とアダルトサイトを探したりチャットしたりすることだが。
 アジア系のチェン家では書斎にPCがある。コンピュータ企業に勤める父親が家に持ち帰った仕事をするために買ったのだ。今では子供もいっぱしのプログラミングを覚えてしまい、どちらのPCかわからない状況だ。
 ところが黒人のジャクソン家にはPCなど見あたらない。子供部屋で一番目立つのはマルコムXの大きな写真。一家の楽しみはTVでNBAの試合を見ることだ。

 ……もちろんこれは一面的な見方だ。アジア系なら皆PCに飛びついているわけではないのは、日本人自身がよく知っている。同じように、外でバスケするより家でPCのチューンナップしているほうが好きという黒人だって少なくないはずだ。
 だが、このステレオタイプは本当に存在するという調査結果が出た。米政府の調査「FALLING THROUGH THE NET II」によると、黒人やヒスパニック(南米系)のほうが白人よりもPCやインターネットに疎遠で、アジア系が一番PC持ちだというのだ。

 米国では黒人やヒスパニックは収入が少ない世帯が多いんだから当然といいたいところだが、この調査では、収入が同じレベル同士で比べても、黒人やヒスパニックのほうが白人よりPCを持っていないことがわかった。逆に、アジア系をはじめとする非ヒスパニックの少数民族は、同じ収入レベル同士でも白人よりPC保有率が高かった。

 具体的にいうと、調査結果はこんな内容だ。

■それが米国の問題点

 つまりアジア系はゆとりがなくてもPCを買うが、黒人やヒスパニックはゆとりがあっても買わない家が多いわけだ。なぜなのか。黒人やヒスパニックには、PCに反感があるのか、必要と感じないのか。調査をした米政府ももっともらしい説明をできないでいる。

 報道記事の中には、デジタルワールドに黒人やヒスパニック向けのコンテンツがなく、彼らのほうを向いたマーケティングもなされていない、そのため興味を持てないのではという分析があった。たしかに、ヒスパニックの中には英語が苦手な人が多いし、その点ではハンディのない黒人も、白人とは違う嗜好や文化を持っている。だから英語を話す白人が育ててきたPCやインターネットでは、テイストに合うソフトやコンテンツも少なく、自分のものではないと感じたとしても不思議はない。

 また、成功した層でさえもPCの保有率が白人より低いということは、彼らが、できるだけ差別の影響を受けない分野で成功を求めた結果、それがたまたまPCが必要でないような場だったとも考えられる。そしてアジア人の場合は、コンピュータに白人より積極的に取り組むことで成功を得るという、別のアプローチをとったということかもしれない。

 こうした分析はまったくの想像でしかなく、本当の理由はわからない。しかし、理由はともかく、これが大変な問題をはらんでいることはよくわかる。
 米国は今、デジタルエコノミー社会(本連載「米政府が“デジタル立国”を宣言」を参照)に移行しようとしている。そこではPCやオンラインアクセスを持ち、使えることが、ペンを持ち、読み書きできるのと同じくらい重要だ。だからそれを持たない黒人やヒスパニックのハンディは今想像する以上に大きくなる可能性がある。そしてこのハンディが収入の格差から直接生まれているのでないところに問題の根の深さがある。
 また逆に、国民がみなPCなどを使いこなしてくれなければ、米国の“豊かなデジタルエコノミー社会”は絵空事で終わってしまう可能性だってある。

 米政府はネットアクセスやPCができる人できない人の格差の問題を「デジタルデバイド(分かれ目)」だと警告を発している。だが、じつはこのデバイドは人種間以外に年齢・地域などでも存在する。また、やっかいなことに、'94年の調査時より差が大きくなっているのだ。デジタル化を目指す日本にとっても、これは対岸の火事ではない。


HDTVに盛り上がる米国?

■米国人のHDTV認知度が急速に高まる

 日本に来た米国人が電器店でずらり並んだ横長TVに驚いたという話を聞いた。というのも、米国では横長TVなんて売っていなかったからだ。TVと言えば、伝統的な4対3に決まっている。だが、これからは違う。秋から横長映像のHDTV(High Definition TV:高品位TV)放送が米国で始まり、横長TVも並ぶようになる。

 そのためか、この春から夏にかけHDTV(High Definition TV:高品位TV)への認知度が急に高まっているという調査結果「CONSUMER AWARENESS AND INTEREST IN HDTV INCREASING」が米国の家電メーカー団体Consumer Electronics Manufacturers Association (CEMA)から出された。HDTVという言葉を知っていると答えた人は4月には30%弱だったのに7月の調査では58%と、わずか3カ月で一気に2倍になった。

 実は、日本と違って米国にはアナログのHDTVであるハイビジョン放送がない(ハイビジョン放送のことを忘れている日本人も多いかも知れないが)。HDTVといえば11月に始まるデジタルTV放送のHDTV(1,920×1,080ドットあるいは1,280×720ドット)のこと。だからこれまでHDTVという言葉にもなじみがなかったし、横長TVも見たことがなかったのだ。つまり、ここへきてHDTVへの認知度が高まっているということは、デジタルTVへの期待が盛り上がっているということを示している。実際、調査では、70%の人がデジタルTVのデモを見にこの秋、電器店に行こうと思うと答えた。

■しかし買う気のほうは?

 というわけで、認知度の調子はいいのだが、では、実際にHDTV放送対応TVを“買う気”の方はどうかというと、これが未知数だ。というのは、HDTV対応TVの価格は5,000ドル(70万円)以上。これは、日本人と比べて電器製品に対するサイフのひものかたいふつうの米国人たちが飛びつく値段ではない。HDTV放送が始まっても、初めのうちは対応TVは普及しないだろうというのがおおかたの見方だ。
 もっとも、CEMAのニュースリリースでは、アナログからデジタルTVへの移行について昨年より詳しくなったと答えた人の半分以上が、デジタルTVを買う気も昨年より増したと答えたとしている。しかし、彼らの買うデジタルTVというのはイコールHDTVということにはなりそうもない。

 家電業界では、そうした視聴者のために、今のアナログTVにデジタルTV放送を変換(ダウンコンバート)して表示できるセットトップボックス(STB)を売り出すつもりだ。HDTV本来の画面の美しさを得ることはできないが、とりあえずデジタルTV放送を見ることだけはできるわけだ。また、HDTV対応ではないが、DTVに対応した横長(704×480ドット)TVも登場すると見られている。HDTV放送は、アナログTVやSDTVで見る場合は解像度を落として表示される。

 しかし、このことは米国でのHDTV放送の普及にとって大きな障壁になる可能性がある。というのは、放送局がせっかくコストをかけてHDTVで番組を制作しても、ほとんどの視聴者はそれをHDTVの解像度では見ることがない。つまり、HDTV放送は意味をなくしてしまう可能性がある。日本でもハイビジョンTVは結局普及しないままデジタルTVに移行しようとしている。さて、米国のHDTVはどうなるのだろう。

[Text by 後藤貴子]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp