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プロカメラマン山田久美夫の

コダック「DC260 ZOOM」ファーストインプレッション

「DC260 Zoom」  話題の160万画素3倍ズームモデル「DC260 ZOOM」が、日本コダックから26日に発売になる。このモデルはパーソナル機で初めての160万画素(有効画素数159万画素)モデル。しかも、3倍ズームを搭載しており、さらにデジタルカメラ用OSである「Digita」を採用した最初の市販モデルとなる(機能やスペックは参考記事を参照)。

 このDigita OSは、Appleからスピンアウトしたメンバーが設立した米FlashPoint Technologyが開発したOSだ(詳細はこちらを参照)。

 なお、DC260 ZOOM本体以外の画像はすべてDC260 ZOOMにて撮影した。撮影した本体はβ機であり、製品版とは異なる場合がある。特に指定のない画像は1,536×1,024ピクセルで、Betterモードにて撮影している。



【スペック編】
●充実した基本スペック

DC260 Zoom DC260 Zoom  本機の基本スペックを簡単に紹介しておこう。まず、CCDは1/2インチの原色系正方画素の160万画素タイプ。しかも、有効画素数でも1,536×1,024ピクセル(約157万画素)、かなりの高画素モデルといえる。

 ピクセル数でおわかりのように、データの縦横比がテレビやパソコンモニタと同じ4:3ではなく、35mmフィルムと同じ3:2となっている点が大きな特徴だ。つまり、130万画素クラスの画像の横幅だけを広げた形になっている。この縦横比は、銀塩写真に慣れ親しんでいる人にとっては親しみやすいものだ。実際にパソコンのモニタ上で見ても安定感や広がり感があり、個人的には好ましいものに感じた。縦位置のカットではやや縦長すぎる感じもあるが、一般的なユーザーはほとんど横位置の撮影なので、さほど違和感はないだろう。

 レンズは35mmカメラ換算で38~115mm相当の3倍ズーム。レンズの明るさもF3.0~4.7とまずまずのレベル。ピントはもちろんオートフォーカスで、位相差検出方式。しかも、多点測距方式になっており、基本的には測距点のなかで一番近い部分にピントが合う仕組みになっている。そのため、人物が二人で並んでいるようなシーンで、画面中心に被写体がなくても、きちんとピントがあう確率が高い方式となっている。もちろん、目的に応じて、中央一点測距式にも切り替えできる。また、マニュアル設定(距離数値入力)も可能だ。

 記録媒体は、大容量化に有利なコンパクトフラッシュ(CF)カードを採用。電源は単三型電池4本でアルカリ電池のほか、ニッカドやニッケル水素バッテリにも対応している。

コンパクトフラッシュ 電池 本体側面
 


●カスタマイズも自在の超多機能モデル

カメラ上部  DC260 ZOOMは、カスタマイズできる部分がきわめて多いカメラだ。まず、使用頻度の高いストロボモード、露出補正、連写、画質モードは、カメラ上部のボタン操作だけで設定できる。もっとも、画質モード以外はメインスイッチをOFFにすると、デフォルトに戻ってしまう。個人的にはストロボモードだけでも設定を保持してほしい。また、操作ボタンは小さく押しにくい。

 これに加えDigita OSが直接管理する機能も、液晶表示を使って設定できる。こちらは実に多彩で、すべてを紹介することはできないほどだ。他機種にないものでは、一定時間毎に自動撮影を行なう「インターバル撮影」、カード内に新規ディレクトリを作成して画像の整理や移動ができる「新規アルバム作成」、日付や文字、ロゴなどの「画面内写し込み機能」、撮影光源別のカラーバランス設定できる「ホワイトバランス機能」、最長4秒までの「長時間露出」、フォーカスモードを切り替えられる「シングルスポットAF」や「マニュアルフォーカス」、シンクロコードによるストロボ撮影ができる「外部ストロボ撮影機能」(絞り値の設定可能)などがあげられる。
 

 さらに、本体のメニューでは設定できないような機能でも、ユーザーがスクリプトを書いて利用することができる。このあたりは、他のモデルとは一線を画する部分だ。

操作画面1 操作画面2 操作画面3
 

 このスクリプト機能を利用することで、業務用途にも対応できる。さらに、将来的にはソフトのバージョンアップによる機能向上はもちろん、処理アルゴリズムによる画質向上といったことも可能性としてある。また、Digita対応のサードパーティー製アプリケーションが登場すれば、それを追加して、機能アップをはかれるなど、さまざまな可能性が秘めらている。

 実際に本機にはコマンド集が付属しており、それを参照してスクリプトが組める。スクリプトは、CFカードからカメラに読み込まれて実行される。もっとも、現時点ではAutoexec.batにあたる部分がないので、起動時に自動的にスクリプトを読み込んで、オリジナルの状態に設定することはできず、起動後に手動でスクリプトを読み込むことになる。これはおそらく、間違ったスクリプトを自動起動させて、復旧できなくなる可能性があるためだと思われるが、使っていてなんとも煩わしい。スクリプト実行のショートカットを、特定のボタンの組み合わせに割り当てられるようになれば便利だろう。

 また、CFカード内に保存されるスクリプトの保護のためか、本機にはCFカードのフォーマット機能がない(未フォーマットのカードを挿せば自動検出してフォーマットできるようだ)。不要な画像をまとめて削除するときには不便を感じる。


【操作編】

●ちょっと大きめだが持ちやすいボディ

本体上面  「結構大きい」というのが,実機を見ての第一印象。サイズ的には「DC210A」よりも横幅は狭いが、形状としてはほぼ正方形に近い。実寸でいえば、さほど大きいわけではないのだが、けっこうズングリとした感じだ。

 デザインは個性的で、結構ゴツゴツてしいる。この手のデザインは好き嫌いが分かれるところだが、見慣れてくると、それなりに可愛く見えてくるから不思議。また、見た目に比べると、収納性や携帯性はさほど悪くはなく、160万画素・3倍ズーム機としては十分許容できるレベルに収まっている。

 実際に手にしてみると、サイズは大きめだが、その分、グリップ感はよく、安定したホールディングができる。撮影してみても、シャッター速度が遅くなる暗めのシーンでも意外にカメラブレが少なく好ましく思えた。


●遅い起動時間、2コマ目までならすぐ撮れるシャッター

本体背面  使って見て最初に気になるのが、起動時間の遅さだ。なにしろ、メインスイッチを押してから、実際に撮影できる状態になるまでに、なんと約15秒もかかる。たしかに、Digitaという、それなりに大きいOSを読み込んでいるのだから、ある程度は仕方のない部分もあるのだろうが、それにしても“カメラ”としては遅すぎる、パソコンの起動を待つ感じに近い。

 なにしろ、スイッチを入れても、最初の約8秒間はウンともスンともいわず、光学ファインダ横のLEDが点滅するだけ。つづいて、沈胴式のズームレンズが規定位置(一番ワイド側)になるようにせり出してくるまでが長いので、最初はメインスイッチが入ったのかどうか不安になることも多かった。

 起動に時間がかかりすぎるので、筆者は節電モード(オートパワーオフ)を標準の2分から5分に延長し、なるべく電源を落とさないようにして使っている。こうすれば、撮影するたびに15秒もの無駄な時間を過ごさなくてすむ。

 そして、日常的な撮影で一番気になるのが、画像の記録時間。だが、これには少々説明が必要だ。まず、純粋に1コマ撮影し、それが処理されカードに書き込まれるまでの時間が、約12秒かかる。これがいわゆる記録時間になるわけだが、本機の場合、内部に2コマ分前後のバッファメモリがあり、1枚撮影した直後でも、もう1枚まではすぐに撮影することができる。つまり、2コマまでは待ち時間なしで撮れるわけだ。また、撮影後、液晶モニタ上にプレビュー画像が表示され、左上に「撮影可能」と漢字で表示される点も親切だ。

 そのため、一般的な使用では、体感的にはさほどストレスを感じず、“待たされ感”は意外に少ない。もっとも、3枚目が撮影できるのは、その2枚の処理がすべて終了したあとで、2枚目を撮影してから約30秒かかるのは、結構じれったい。せめてあと1コマ分のバッファーがあれば、だいぶ印象が変わると思うのだが、このあたりもコストとの絡みもあるのだろう。


●レスポンスが遅い液晶ファインダ

 ファインダは光学式がメイン。もちろん、実像式のズームタイプで、視野はやや小さめだが、周囲まで色つきもなく、シャープで明るく、クリアな見え味を実現している。そのため、通常の撮影では、光学ファインダで撮影することをオススメしたい。

 一方、低温ポリシリコンTFT採用の液晶モニタは、起動後はモニタボタンを押すまで表示されない。表示のレスポンスは猛烈に悪い。さらに、信号の転送レートが遅いこともあって、カメラを左右に動かすと赤や青だけの画像が別々に動きながら表示されてしまう。実際に液晶を見つめて撮影していると、酔ってしまいそうなほどで、閉口する。また、被写体の微妙な変化も確認しづらく、ズーミングした際にも、焦点距離の移動に液晶のレスポンスが追いつかず、正確なフレーミングが難しい。さらに、液晶使用時の電池消耗が激しい点が気になる。液晶をメインで使うと、1450mAhの大容量ニッケル水素電池を使っても、割に早い時期からバッテリ警告がでる(光学ファインダ使用時でも電池の消耗は多めだ)。これらはコダックの液晶モニタ付き歴代モデルに共通した欠点ではあるのだが、今回のような高画素モデルになって、その欠点がより顕著になったものといえる。

 これらは、本機が採用しているようなプログレッシブ(全画素一括読みだし)方式のCCDで高画素化した際の問題点でもある。つまり、VGAクラスに比べて遥かに多いデータを順次読み出しているので、画像の転送レートが遅くなるわけだ。もちろん、読み出し方式を工夫することで、ある程度の高速化を図ることもできるのだが、他社の多くの高画素モデルが採用しているインターライン式に比べると、この点では若干不利な方式といえる。もちろんこれは、内部処理の高速化によっても解消されるわけだが、本機ではまだまだリアルタイムというレベルにはほど遠い。

 再生時の表示品質も今一つだ。本機は同社で初めて低温ポリシリコンTFTを採用したモデルだけに、表示品質が期待されるが、かなりコントラストが高く、ハイライトが飛んでしまったような表示になる。これは撮影直後に表示されるプレビュー表示も同様だ。

 最初に撮ったときには、カメラのトラブルかと思い、すぐにPC上で確認したほどだ。しかし、画像データは実に美しく、液晶表示での印象よりも良好で安心した。この液晶再生時の表示品質の悪さも、コダックの液晶付きモデルに共通した欠点だが、高品位で人気の低温ポリシリコンTFT液晶ですら、この結果なのにはガッカリした。このあたりは、使用感はもちろんのこと、カメラ全体の印象を大きく左右するポイントだけに、早期の改善を要する点といえる。

再生表示  再生表示のレスポンスは十分に早い。これは最初にサムネール画像を表示し、その後、本画像を読み込むためで、体感上の軽快感向上には貢献している。もっとも、サムネールと本画像では、解像度はもちろん、色味もだいぶ異なる(サムネールは色数が少なく見える)点は、やや気になる。



●使い勝手はいいが気になる点も

 実際に使ってみると、オートフォーカスの測距速度もまずまず。AFロック後、シャッターボタンを押してから実際に写るまでの時間差(タイムラグ)も比較的短めだ。また、本機はズーム全域で30cmまでの近接撮影ができ、しかも近接撮影時でもとくにマクロ切り替えを必要としない点は便利だ。

 前記の通り、液晶ファインダのレスポンスは優れていないが、光学ファインダメインで撮影すれば、さほど気にならない。2コマ目まではすぐに撮影できるので、普段気軽にスナップしている分には軽快だ。

 また、160万画素と高画素ではあるが、サイズが1/2インチと大きいこともあって、実効感度も必要十分。他社の130万画素1/3インチCCD搭載のズーム付きモデルに比べても、被写体ブレやカメラブレを起こすケースが比較的少なかった。

屋外で撮影 ビル 屋内で撮影 デッキ 屋外で撮影 自動車
470KB Bestモードにて撮影
394KB
248KB

 

 むしろ、撮影していて気になるのがAFの精度。なにしろ、初期設定の多点測距式マルチAFは,遠近が入り組んだシーンでは一体どこにピントをあわせているのかユーザーに分からず,液晶の表示品質も優れないので、不安感がつきまとう。さらに、5~30m付近の中距離での測距精度が不足気味で、望遠側で撮影するとピントを微妙に逃すケースが多かったのは残念だ。これは測距方式から見て、ある程度仕方のない部分もあるが、これだけの画素数をきちんと生かすには、やや力不足だ。


●きれいで見栄えのする160万画素モデル

 160万画素モデルと聞くと、一番気になるのがその画質だが、期待に違わず良好なものだ。コダックの歴代モデルに共通した、明快で見栄えのする絵づくりで好感がもてる。

屋外で撮影 花1 屋外で撮影 花2 屋外で撮影 花3
233KB 344KB 253KB

 解像度も良好。PCのモニタ上で等倍表示してみても、実用十分な解像度を備えており、一般的な用途ではこれで十分と感じられるレベルといえる。実際に、A4版にプリントしてみても鑑賞に堪えるレベルで、安心してコンパクトカメラ代わりに使うことができるほどの実力だ。

 もちろん、厳密に見ると、130万画素クラスのトップレベルのモデルより若干劣る感じもある。感覚的にはCCDの解像度にレンズ性能が追いついていないような印象だ。もっとも、CCDのフィルター配列の関係か、ニコンの「COOLPIX900」やエプソンの「CP-600」、オリンパスの「C-840L」のような、被写体の輪郭部に縦方向のノイズが見られない点はとても好感が持てる。そのため、画像自体が素直で、より切れ味のいい画像が欲しい人は、画像処理ソフトを使って、多少の輪郭強調処理をすれば一段と輪郭の立った画像が得られる点もうれしい。

屋内で撮影 子供
277KB
 色再現性も十分に良好。被写体に忠実というわけではないが、コダックのパーソナルモデルらしい、とても見栄えのする色調を実現している。なかでも、コクのある肌色の再現性には独特のものがある。これはCCDが原色系ということもあり、前記の3機種のような補色系モデルよりもピュアでヌケのいい色調となっている。

 もちろんこれは、単純にCCDや処理アルゴリズムだけはなく、オートホワイトバランスの制御が優秀な点も大きく貢献している。

 階調の再現性も滑らかで好感が持てる。明暗の再現域も高画素クラスのなかでは十分に広く、コントラストの高いシーンでも階調が破綻することが少ない点が好ましい。

 また、露出やストロボ光の調光制御も優秀。一般的なシーンでは、ほとんどカメラ任せのままでも安心して撮影できる。もっとも、望遠側では3mくらい離れるとストロボが光量不足気味になることもあった。

屋外で撮影 バイク 屋外で撮影 教会
350KB 263KB
 また、直接関係がないように見えるが、画質の向上に貢献しているのが縦位置センサーの存在だ。本機は縦位置撮影時に、画像を90度回転させて縦位置のデータとして記録する機能を備えている。これはカメラ内に縦位置センサーを搭載することで、カメラ内で回転処理をし、実現しているわけだ。そのため、一般のモデルのようにパソコン転送後に縦位置変換する必要がない(この機能をカットすることもできる)というメリットがある。さらに、その画像をJPEGで再圧縮する際に起きる画質低下を避けられる点も大きなメリットといえる。

 個人的には、この画質に満足しているわけではないが、それでも現状の高画素モデルのなかでは、明らかにトップレベルであり、「パーソナル機もいよいよここまできたか」という感慨すら感じる仕上がりといえる。



【結論】

●万人向きではないが、さまざまな可能性を秘めた本格派高画質モデル

 本機には実にいろいろな側面がある。まずひとつは、「160万画素3倍ズーム」という現行のパーソナル機でトップレベルのハイスペック・デジタルカメラという面。この点では、液晶表示や記録時間など多少の欠点はあるにせよ、画質面では十分過ぎるほどの実力を備えている。

 さらに、Digita OSを搭載することで、デジタルカメラでありながらも、PCと同じようにコマンドにより制御ができ、カスタマイズも容易で、あとから画質や機能をアップできるという側面もある。この点では、従来モデルにない利用法や楽しささえ感じさせる。また、今回は試すことができなかったが、PCとのUSB接続といった新たな機能も加わっている。

 そして、どちらの側面から見ても楽しめるモデルに仕上がっていることは事実だ。しかし、両方の要素を追ったために、本来、パーソナル機に求められる重要なポイントである「軽快さ」や「シンプルさ」が損なわれている。つまり、業務用モデルとパーソナル機の中間的な存在であり、やや中途半端なコンセプトのモデルともいえるわけだ。

 存在がやや中途半端とはいえ、一般的なパーソナルユーザーにとっては、128,000円、実販では10万円前後で、これだけの画質と機能を備えたモデルが入手できるのだから、この点は素直に喜ぶべきだろう。また、PCユーザーにとっては、コマンド集を見ながら自分でスクリプトを書いてカメラを制御するという、MS-DOS時代のような楽しさもあり、この点でも大いに魅力的だ。

 すべての人に手放しでオススメできる種類のモデルではないが、これらの点に魅力を感じる人なら、買って損はない、さまざまな可能性を秘めたモデルだ。

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【6/1】コダック、高解像度のズーム付きデジタルカメラ
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('98/6/12)

[Reported by 山田 久美夫 ]


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