【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース

WebTVがデジタルTVに進化する
-家電に重点を移したMicrosoftのTV戦略(前編)-


●デジタルTV開始のカウントダウンが始まった

 コンピュータ産業対TV産業。米国の放送業界でのこの1年の最大の話題はこれだった。昨年4月に、地上波TV放送(いわゆる普通のTV放送)のデジタル化スケジュールが発表されて以来、コンピュータ業界、とくにMicrosoftはデジタルTVに向けた戦略を急展開させてきた。Microsoftのコンシューマ攻略戦は、今やデジタルTVを中心に組み立てられていると言っても言い過ぎではない。

 MicrosoftがデジタルTVに向けたのろしを上げたのは、ちょうど1年前。昨年4月に米国ラスベガスで開催された放送業界の展示会「National Association ofBroadcasters Convention(NAB) 97」で、PCと融合しやすい仕様と、その仕様を推進するコンソーシアム「Digital TV Team(DTVチーム)」を米Intel社、米CompaqComputer社とともに発表した。そして、あれから1年が経ち、デジタル地上波TV放送スタートをあと7ヶ月後に控えた先週のNAB 98では、コンピュータとTVの両業界で新たな進展が見えてきた。

 Microsoftなどが1年前に行なった提案は一部の放送局にはある程度は受け入れられた。しかし、放送業界やTV業界全体がMicrosoftの思う方向に進んだわけではない。その意味では、Microsoftの一勝一敗といったところか。こうした状況で、Microsoftはその戦略を微妙に転換しつつある。また、各放送局がデジタルTVでサポートする画像フォーマットを決定したため、戦いは次のラウンドに移りつつある。データ放送やインタラクティブコンテンツ、また、それらを含めたビジネスモデルの提案とそのフォーマット、そしてデジタルTVを受信するレシーバーのコンピューティング機能の標準化などが次の焦点になるだろう。

●インタレースとプログレッシブが乱立

 この1年、コンピュータ業界対TV業界という構図では、当初、インタレースかプログレッシブ(ノンインタレース)かという部分ばかりがクローズアップされた。コンピュータ業界は、PCのディスプレイに表示しやすく、静止画やテキスト情報が読みやすく、帯域を有効に使えてデータ放送をより多くできるプログレッシブ方式を支持、一方、放送業界の一部はより高い解像度が現状で可能なインタレースを支持した。

 まず、NAB 98ではこの決着がついたようだ。米国4大ネットワーク局のうちのABCとFOXの2局とPBS系局などはウワサ通りプログレッシブ方式(720Pあるいは480P)をサポート。これに、すでにプログレッシブ方式を実質的に支持した格好の米国最大手のCATV会社Tele-Communications(TCI)社を加えると、コンピュータ業界はそれなりの支持を得たことになる。ただし、DTVチームの主張していた段階的に解像度を上げて行くというアプローチは、まだ支持を得たわけではない。

 一方、4大ネットのうち、CBSは予定通りインタレース方式のHDTV(高解像度TV)「1080i」をサポート、加えてNBCも1080iと表明したという。4大ネットのうち2局がインタレースになったことで、プログレッシブ陣営と互角の影響力を持ったと言っていい。もっとも、NAB 98でのMicrosoftのクレイグ・マンディ上級副社長(ConsumerPlatforms Division)のキーノートスピーチのトランスクリプトを読むと、1080iでの放送は週1回程度になると指摘している。それが本当なら(機材などの関係でそうなる可能性も高いと言われている)、こちらのインパクトも決定的ではないように見える。しかし、この状況でディジタルTVレシーバーを作るとなると、プログレッシブとインタレースのすべての方式(480P、720P、1080i)をサポートしないわけにはいかない。そうしないと映らない番組のあるディジタルTVレシーバーになってしまうからだ。ただし、これはその方式をデコードできるかどうかで、必ずしもそのままの解像度で表示しなければならないわけではない。

●WebTVがコンシューマ市場攻略の要(かなめ)に

 では、この状況で、Microsoftが作るディジタルTVはどうなるのだろう。今週のNABや「COMDEX Japan 98」、「Windows CE Developers Conference」での発表やスピーチ、またその前後の発表などで輪郭が見えてきた。まず、変わったのは「コンバージェンス(Convergence、収れん=家電とコンピュータの融合)」への傾斜が強まったことだ。WinHECでも、アウトラインが説明されたが、MicrosoftはPCをリビングルームにもたらしディジタルTVを楽しめるようにするという昨年の主張をトーンダウン。アナログTVからのアップグレードは、おもにWebTVベースのディジタルTV用製品でカバーするという方針に変えた。PCでは、Windows 98上の「WebTV for Windows」というWebTV上位互換の環境でディジタルTVをサポートするが、コンシューマ市場へ攻め入る役目は事実上WebTVの肩に負わされたと見ていい。このあたりは、Microsoftのスピーカーによって発言に“ぶれ”があるが、結局、「TVを見るのにPCのように高くて、ハングアップもする扱いにくい機器はいらない」という声に押されたと見ていいだろう。

 また、ディスプレイに関しても、プログレッシブ重視からトーンダウンして、ディジタルTV版WebTVに既存のアナログインタレースTVを接続して、とりあえず楽しむことができるというトーンになった。この場合は、プログレッシブ方式でも高解像度でも、今のTV向けにダウンコンバートされてしまうので、画質の面でのディジタルTVの利点は活かせない。ただし、将来高解像度ディジタルTV(HDTV)のディスプレイを買ったときには、そのまま利用できるという。

●WebTVのデジタルTV版が'99年に次々登場

 具体的なデジタルTV対応WebTVとして最初に登場するのは、TCIのデジタルCATV用STB(セットトップボックス)だ。Microsoft子会社のWebTV Networksのスティーブ・パールマン社長は、このSTBで704×480ドットプログレッシブで60フレーム/秒の「480P」フォーマットをサポートすることを、COMDEX Japanで来日した際の記者会見で明かしている。もちろん、そのためには現行のWebTVに新たにMPEG2のデコードを行なうハードウェアやメモリを加える必要がある。しかし、「480Pのビデオ(MPEG2)データのデコードは(新たに加えた)ハードウェアで行なうが、オーディオデータのデコードはソフトウェアで処理」(パールマン氏)と、できる限りMPUパワーを利用することでコストを抑える方針だ。また、このニューバージョンのWebTVは、世界中の同等のフォーマットのデジタルTVに対応できるともパールマン氏は語った。おそらく、ケーブルモデムといった物理的な部分の規格さえ同一なら、ソフトウェアの書き換えだけで対応できるだろう。このTCI版WebTVは、OEMメーカーから'99年に本格的に供給される予定だ。

 そして、次のステップとして登場するのは、HDTVに対応したWebTVだ。パールマン氏は、「'99年に登場する製品で480Pだけでなく720Pもサポートする」と明確にした。しかし、1080iのサポートに関しては明言を避けた。このバージョンは、おそらくフルデコードをハードウェアで行ない、メモリもより多く積むことになるだろう。MicrosoftはこのクラスのWebTVの価格が最終的に199ドルになると、3月のカンファレンス「WinHEC 98」で説明しているが、HDTV対応では最初はそれより100ドル以上は高くなるのではないだろうか。

 ただし、パールマン氏は、2003から2004年には、HDTVのすべてのフォーマットがソフトウェアでデコードできるのではと予測している。そうなると、コストは今と同程度にまで下がるだろう。また、パールマン氏は、地上波やCATVだけでなく、衛星、Universal ADSLといった主な伝送路にそれぞれ対応するWebTVを出していくと語った。最終的にはひとつのボックスで、すべての伝送路にも対応できるようにしたいという。

(後編に続く)


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('98/4/13)

[Reported by 後藤 弘茂]


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