【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース
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「やっぱり」の声が多い、CompaqのDEC買収


●CompaqのDEC買収で揺れた週明け

 先週から今週頭にかけての最大のサプライズは、やはり米Compaq Computer社による米Digital Equipment Corporation(DEC)社の買収。といっても、月曜日(日本時間で火曜日)の段階では、まだそれほど突っ込んだ記事は登場していない。ほとんどのニュースサイトが第1報を報じ、ようやく買収の背景や、これに対するアナリストの意見などを集めて肉付けした記事が登場し始めたところだ。

 コンピュータ系のニュースサイトで比較的充実しているのは、突発モノに強いNEWS.COMで、ここでは色々な角度から光を当てた複数の記事で特集を組んでいる。メイン記事の「Compaq to buy Digital for $9.6 billion」(CNET NEWS.COM,1/26)には、CompaqとDECの売り上げと利益の過去5年間の推移のグラフなどがあり、これを見るとDECの凋落とCompaqの興隆が一目瞭然だ。コンピュータ業界に5-6年以上いた人なら、DECは業界のパワーハウスで、Compaqは新参のPCメーカーという感覚がまだ残っているだろう。しかし、この5年でその位置はひっくりかえってしまったわけだ。

 さて、今回の買収は、業界最大の大変動になったわけだが、なぜCompaqはDECを欲しがったのだろう。もちろん、大きな目的はIBMやHewlett Packardが力を振るっているコーポレート市場なのは確かだ。「Compaq Vaults Into IBM's League With Digital Purchase」(The Wall Street Journal Interactive,1/26、有料サイトhttp://www.wsj.com/から検索)は、これまではIBMとHPだけが、カスタマにどんな種類のシステムでも提供できる企業だったが、そこにCompaqが加わると指摘している。先日買収したTandem製品を除けば、PCサーバーしか持たないCompaqは、これまでミッドレンジ以上のサーバーは提供しにくかった。しかし、DECの充実したミッドレンジからハイエンドの製品群とサポート網、ディーラー網が加われば、そうした領域の製品も込みで提供できることになるわけだ。


●さまざまな見解が登場

 また、「Compaq poised to take on IBM, HP」(CNET NEWS.COM,1/26)では、アナリストが、CompaqにはこれまでUNIXソリューションが弱かったが、DECのおかげでそれが強化されることがポイントと指摘している。この意見の背景には、米国ではまだ大企業のシステム部門はWindows NTをそれほど信頼していないという事情があると思われる。Windows NTサーバーは浸透したと言っても部門サーバー止まりで、基幹業務用サーバーや全社規模の情報系サーバーにはまだほとんど受け入れられていないのが実状だ。とくに、基幹系システムはようやくメインフレームからUNIXサーバーへの置き換えが実現し始めた段階だし、ブームのデータウェアハウスも主役は64bit化で先行してきたUNIXだ。だから、この記事が指摘しているように、CompaqがUNIXを欲しがったというのも、かなりあり得る話だと思われる。とくに、「Digital UNIX」(DECのUNIX)が「IA-64」(Intelの次期64bit MPUアーキテクチャ)に移植されるという状況ならなおさらだ。

 もっとも、その一方では「Wintel wins in Compaq deal」(CNET NEWS.COM,1/26)のように、非Wintel陣営の一角だったDECがWintelに乗ったCompaqの一部となったことで、結局勝ったのはWintelだという意見もある。また、Alphaの今後についても見方が分かれている。これで「Merced(IntelのIA-64 MPU)」への移行が進むという意見が多いが、「Compaq's DEC Buy Clouds Alpha Picture」(TechWire,1/26)のように、Compaqが、Intelからの独立性を保つためにAlphaを使うかも知れないという声もある。


●Compaqの格付けと株価は下がった

 いずれにせよ、今回の合併は、Compaqにとっては自社のミッシングピースを加えて企業市場にさらに食い込むための大きなジャンプだったわけだが、その効果には否定的な意見も多い。たとえば、「Compaq Outlook Neg.; Digital Equip On S&PWatch; Pos.」(The Wall Street Journal,1/26、有料サイトhttp://www.wsj.com/から検索)は、米国の格付け会社がCompaqの格付けを下げたことを報じている。この影響か、DECの株価は急騰したにも関わらず、Compaqの株は少しだが下がっている。これについて「Compaq Makes a Big Move -- and Shareholders Cringe」(The Wall Street Journal、有料サイトhttp://www.wsj.com/から検索)では、アナリストが、長期的には合併がCompaqにベネフィットをもたらすだろうが、6~12ヶ月の短期的に見るとリスクが多いと指摘している。「Compaq Seen Facing Challenges Integrating Digital」(The Wall Street Journal,1/26、有料サイトhttp://www.wsj.com/から検索)によると、このサイズの合併はうまくやってゆけないのが通例で、とくにDECとCompaqのようにまったく異なる企業文化を持つ巨大企業が融合するのは非常に大変という。

 このほか、合併交渉の内幕記事も登場している。「Inside the Compaq-Digital deal」(CNET NEWS.COM,1/26)によると、両者の合併協議は、2年前の'95年夏に行われ、そのあと96年にも行われている。だが、これらの交渉は合意にいたらずたち消えたという。実際、この時期にCompaqがDECを買収するというウワサが出ている。また、DEC買収がうまく行かなかったCompaqは、Gateway 2000に買収をもちかけ、昨年春にはあとちょっとで合意というところまで行ったことも明らかになっている。しかし、Gateway 2000買収が失敗した直後の昨年6月、CompaqとDECの交渉は再開され、そして1月に入っての最後の2週間の秘密ネゴシエーションの結果、買収価格も折り合いがついて今回の発表に至ったのだそうだ。こうやって見てみると、Compaqの買収戦略も必ずしもコーポレート市場にターゲットを絞ったものではなく、揺れていたことがわかる。


●Netscapeの捨て身の戦略

 Compaqで大騒ぎとなったニュースサイトだが、このほかにも比較的大きなニュースがあった。米Netscape Communications社による、「Netscape Navigator」の無償配布だ。とくに、コンピュータ系のメディアでは、これと同時に発表された、同社の次期クライアントである「Netscape Communicator 5.0」のソースコードの公開が大きくクローズアップされていた。というのは、Navigatorの無料化は、以前から予想されていたが、ソフトウェアのシークレットであるソースコードの公開はほとんど誰も予期していなかったからだ。Netscapeのこの大胆な動きに対する意見は2つに割れている。「Navigator Source Code Source of Debate」(COMPUTER RESELLER NEWS,1/23)では、あるVAR業者がNavigatorのソースコードにアクセスできるのは、デベロッパーの夢だと言っているが、その反面カスタマイズされたブラウザ同士のの非互換性を恐れる声があると伝えている。また、「What Netscape's Open Communicator Code Means」(PC World,1/23)は、ソースコードがハッカー(ここではクラッカーの意味で使っている)の手に渡ることでセキュリティの問題が発生するという意見に対して、結局は公開されることでセキュリティの問題が早く直されて、よりセキュリティが高くなるというセキュリティ専門家の声を紹介している。

 見方はさまざまだが、全体的に見ると、開発者の間では歓呼の声で迎えるという意見の方がずっと強いようだ。これには、実際にソースコードに手を加えカスタマイズしたいというニーズだけでなく、精神的な意味合いも非常に大きいのではないかと思う。ソースコードの公開というのは、ソフトメーカーにとっては唯一の所有物を公開してしまうことで、これだけの規模の製品では最近聞いたことがない。Netscapeは、それだけのリスクをおかしても、インターネットコミュニティの「オープン」という思想を守ったと賞賛されるだろう。Microsoftがクローズドな悪の帝国で、Netscapeがオープンな正義の闘士であるとアピールするのに、これ以上いい戦略があるだろうか。また、NetscapeはIEに打撃を与えるのに、ブラウザを無料化するだけではインパクトが少ないと認識していたわけで、これも正しかった。とりあえず、このラウンドの勝利者は、Netscapeということだろう。


 また、先週はNetscapeの動きと連携して、Microsoftと司法省の和解があったわけだが、それに関しては木曜日のコラムで詳しく分析したい。

('98/1/28)

[Reported by 後藤 弘茂]


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