法林岳之のTelecom Watch
第6回:1997年7月編
「国内の56kbpsモデムのメーカー分布」ほか


国内の56kbpsモデムのメーカー分布

 毎月のように話題を提供し続けてきた56kbpsモデムだが、7月の新製品としては7月24日のオムロンのx2 Technology対応製品、同日の松下電子応用機器のPCカードモデムくらいしかなく、製品ラッシュもほぼ一段落したようだ。
 ただ、オムロンの製品発表により、大手メーカーの製品がほぼ出揃ったことになり、ようやく国内モデムメーカーの分布がハッキリしてきた。各陣営の構成を見てみよう。

●x2 Technology
USロボティックス、ソニー、アイワ、オムロン

●K56flex
日本モトローラ、松下電子応用機器、NEC、ダイアモンドマルチメディアシステムズ、日本アイ・ビー・エム(Aptiva)、マイクロ総合研究所、サン電子、TDK、ビジネスイノベーション

 メーカーの数としては、明らかにK56flex陣営が多いが、シェア的にはオムロンがx2 Technology対応製品を発表したため、ほぼ互角となった。ただ、Telecom Watchで何度も触れているように、これはあくまでも現時点での話であり、秋へ向けて、x2Technology陣営のメーカーがK56flex対応製品を発売したり、逆のパターンの発表が行なわれる可能性が高い。現在までに取材した範囲では、数社が相手陣営の規格に準拠した製品の開発に着手しており、どのメーカーもどちらの規格が業界標準になっても対応できる体制を整えている。

 ただ、前回のTelecom Watchでもお伝えしたとおり、ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)で来年はじめに勧告が予定されている国際標準規格では、どちらの規格でもない折衷案が採用される可能性が高いと言われている。こうしたことを踏まえ、ユーザーが製品を選ぶときにはどんな点に注意すべきかを考えてみよう。

1.自分が加入するプロバイダの対応する規格を選ぶ

 今更説明するまでもないが、K56flexとx2 Technologyはまったく互換性がないため、必ず自分の加入しているプロバイダの対応する規格の製品を購入するようにしよう。

 ただ、そこで注意しなければならないのが国際標準規格の存在だ。来年早々には国際標準規格が勧告されるとは言え、完全に移行するまでにはまだ確実に半年以上ある。V.34(28.8kbps)が勧告されたときのことを考慮すれば、正式勧告から半年くらいが実質的なサービススタートになりそうだ。つまり、国際標準規格に乗っ取った56kbpsモデムのサービスは早くても'98年春、混乱すれば'98年夏にずれ込む可能性があり、少なくとも半年以上は現在の規格に付き合う必要があるわけだ。となれば、自分が加入するプロバイダが対応するモデムを選ぶというのは必須ということになる。なお、それぞれの規格に関する情報は以下のページを参照していただきたい。 □K56flex対応プロバイダ一覧
http://www.ascend.co.jp/index/k56flexisp.html
□x2 Technology対応プロバイダ一覧
http://www.usrobotics.co.jp/isp/

2.アップグレード可能な製品を選ぶ

 来年早々に勧告される国際標準規格がx2 TechnologyでもK56flexでもない規格になると、当然のことながら現在の56kbpsモデムは何らかの形でアップグレードしなければならない。こうした事態に備え、国内で販売されている56kbpsモデムの多くは、アップグレード可能な設計になっている。なかには国際標準規格勧告時のアップグレードサービスをすでにアナウンスしている製品もある。もし、これから購入するのであれば、自分の購入する製品がアップグレード可能かどうか、サービスが行なわれるかどうか、有償か無償かといった点をチェックするようにしたい。

 ただ、有償か無償かという点については、それほど重要視しなくてもいいだろう。何故なら、実際に国際標準規格が勧告されてみないと、アップグレードがどの程度の規模になるのかわからないからだ。また、アップグレード可能かどうかという点については、フラッシュメモリを搭載し、ユーザーサイドでアップグレードできる製品を選ぶようにしたい。従来は電気通信事業法の関係上、ユーザーサイドでのアップグレードが認められていなかったが、今春、JATE(財団法人電気通信端末機器審査協会)が規制を緩和したため、この機能の存在意義がかなり大きくなっている。

3.サポート体制を見る

 仮にアップグレードサービスが行なわれるとしても、国際標準規格に準拠した製品の発売より著しく遅れてしまっては、先行して56kbpsモデムを購入する意味は薄れてしまう。そこでチェックしたいのが各メーカーのサポート体制だ。

 ISDNターミナルアダプタでも同様の傾向が見られるが、メーカーによってアップグレードサービスに対する取り組み方はかなり異なる。もし、56kbpsモデムを購入するのであれば、過去にアップグレードサービスを行なった実績があり、ISDNターミナルアダプタなどでも積極的にサポートしているメーカーの製品を選びたい。過去の実績などから見れば、サン電子やマイクロ総合研究所などが有力だろう。逆に、松下電子応用機器などはまったくの未知数と言えそうだ。

 この他にも注意すべき点はいくつかあるが、最低でもここに挙げた3点だけはチェックしておきたい。

 さて、56kbpsモデムでもうひとつ気になるのが、K56flexとx2 Technologyのパフォーマンスの違いだ。特に、アスキーインターネット接続サービス(AIX)のように、両方の規格に対応しているプロバイダに加入しているユーザーとしては気になるだろう。

 まず、接続速度についてだが、いずれの規格に対応した製品もISDNターミナルアダプタのアナログポートに接続するという好条件を持ってしても、50~54kbps程度が限界となっており、通常のアナログ回線では45~50kbpsが最も多いという結果が得られている。日本の回線品質は高い方だと言われているが、NTTの交換機などの問題もあるため、おそらく現状のままでは56kbpsを実現するのは不可能と言えそうだ。

 また、全体的な傾向として見られるのが圧縮プロトコルの効果の違いだ。K56flexとx2 Techonologyという2つの56kbpsモデムの規格では、ともにITU-T V.42bisという圧縮プロトコルを併用しているが、これは最大4倍の圧縮効率を持っており、56kbpsプロトコルと組み合わせれば、最大224kbpsもの速度でデータを送受信することが可能だ。ただ、これはあくまでも理論値であり、圧縮済のLZHファイルなどを転送すると、逆に遅くなってしまう。

 ところが、実際にプロバイダに接続してファイルを転送してみると、x2 Technology対応製品は効率よく圧縮され、1MBのTEXTファイルをわずか30秒ほどで転送してしまうのに対し、K56flex対応製品はいずれも3倍以上の時間が掛かってしまう。逆に、圧縮済の1MbytesのLZHファイルを転送すると、x2 Technology対応製品が250秒程度であるのに対し、K56flex対応製品は180秒程度で転送できてしまう。つまり、K56flexの方が圧縮効率が悪いというわけだ。安定度についてはどちらも似たり寄ったりで大きな差はないが、x2 Technology対応製品の方が接続直後の速度が維持されにくい傾向があるようだ。

 とは言うものの、価格的にも従来のV.34モデムとほぼ変わらない価格で販売されており、V.34モデムよりも確実にネットサーフィンが快適になるのだから、56kbpsモデムは十分『買い』と言えるだろう。ただ、長期的に見た場合、やはりISDNに勝る選択肢はないという事実も忘れないでいただきたい。

【関連記事】
□松下、K56flex準拠の56kbps対応PCカードモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970724/matusita.htm
□オムロン、x2方式対応のボックス型モデム2機種
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970724/omron.htm


各社出揃ったISDNターミナルアダプタ

 7月は前月までに発表されたISDNターミナルアダプタの出荷が開始され、いよいよ店頭で購入できるようになった。特に目新しいニュースはないが、ここではTelecomWatchの読者のためだけに、各製品のショートレビューをお届けしよう。ちなみに、各製品のスペックについては、各社のホームページなどを参照いただきたい。

●NEC AtermIT65Pro

 USBポートや液晶ディスプレイを装備したAtermシリーズの最上位モデル。DSU内蔵及びなしのモデルがラインアップされており、従来のAtermIT55及びIT25DSUなどと併売される。価格もやや高めの設定になっている。

 アナログポートは従来品同様、3つ備えており、ダイヤルインやグローバル着信識別、フレックスホンにフル対応するなど、機能面に不足はない。また、アナログポートに接続した電話機からも各種設定、停電モード用の電池ボックスにNiCd充電池も装着できるようにするなど、一段と使い勝手が向上している。

 デジタルポートはUSBとRS-232Cを備えているが、USBポートが利用できるのはWindows95 OSR2(4.00.950B)以降で、『USB Supplement for OSR2』(以下、USB Supplemnt)がインストールされている環境に限られる。このUSB Supplementはコントロールパネル内のアプリケーションの追加と削除で確認できる。一部のマシンではOSR2モデルながらもUSB Supplementがインストールされていないものもあるので注意が必要だ。

 気になるデジタルポートのパフォーマンスだが、RS-232C経由ではまったく問題ないものの、USB経由は動作がまだ不安定だ。その上、USBに接続したときの利用制限などもあり、現時点では大きなメリットとなっていない。正直に言ってしまえば、「USBがまともに使えるのはWindows 98以降」ということになるのだろう。

 ただ、この点を除けば、従来品と同じようにお勧めできる製品であることは間違いない。あとはユーザーがAtermIT55シリーズなどとの価格差をどう判断するか次第だ。

●SUNTAC TS128JX/D

 従来販売していたTS128GA2シリーズからモデルチェンジする形で登場したのがTS128JX/Dだ。DSU内蔵モデルのみがラインアップされているが、DSUの切り離しもできるので、すでにISDN回線を敷設したユーザーの増設用としても利用できる。

 従来製品で不評だった液晶ディスプレイにバックライトが付き、やや傾いて設置されたため、かなり視認性は向上している。通信中は回線状態や通信状態、切断時には切断理由と通信料金、発着信時には相手先の電話番号などが表示される。待機中は日時や同社ホームページのURL、サポート窓口の電話番号、NIFTY-Serveのサポートフォーラム名などが表示されるようになっており、かなりにぎやかだ。これくらい芸達者だと、とりあえず置いているだけでも楽しくなる。

 また、本体前面にはマルチファンクションキーを備えており、日時や各種機能の設定ができるようになっている。操作性もそれほど悪くなく、デジタル時計の設定を変更する感覚に近い。今までのISDNターミナルアダプタになかった新しい試みとして、高く評価したい。

 アナログポートの機能は従来製品よりも充実しており、デジタルポートの64/128kbps接続の動的な切り換えが可能なBOD(Bandwidth On Demand)機能が搭載された。ただ、デジタルポートのパフォーマンスは接続するプロバイダによってかなり差があるようで、128kbps接続ではまだフルにパフォーマンスを引き出せていない。しかし、従来製品でも頻繁にファームウェアをバージョンアップしてきた実績もあるので、いずれ解決されるだろう。

●アイワ TM-AD1280

 アイワは昨年末にTM-B1280というISDNターミナルアダプタを販売していたが、7月に『TM-AD1280』という新製品を発売した。従来製品はデジタルポートのパフォーマンスこそ高いものの、アナログ回りの機能が充実していなかった。しかし、今回のTM-AD1280はアナログ回りの機能を大幅に強化した新設計のものとなっている。インターネット接続をしないアナログポート専用ISDNターミナルアダプタとしても利用できるほどだ。

 TM-AD1280が最も特徴的なのは、縦横どちらに設置しても視認性が確保できる回転式液晶ディスプレイを採用した点だ。液晶ディスプレイ部分のみが独立して回転する構造になっている。液晶ディスプレイは文字部分が光る反転タイプのものを採用しており、今回紹介した中ではAtermIT65Proと並んで視認性が高い。細かい点ではあるが、縦横のどちらに設置しても筐体が動かないように、小さなゴム足をつけるなどの配慮もなされている。

 ただ、デジタルポートについては一部のプロバイダと相性が悪く、128kbps接続時に十分なパフォーマンスが得られていない。64kbps接続に関しては問題ないので、当面は64kbps接続で利用しておき、将来的に不具合が改善されれば、128kbpsでも接続するといった使い方がベターだろう。

●そのほかの既存のISDNターミナルアダプタ

 この3機種を迎え撃つ既存のISDNターミナルアダプタはどうだろうか。短くなってしまうが、一言ずつコメントを付け加えておこう。

 まず、ISDN市場を切り開いた立て役者でもあるMN128の最新モデル『MN128V3』だが、機能的にはまったく申し分ないものの、液晶ディスプレイなどの新しい機能が搭載されていないのが残念だ。価格的なアドバンテージもそれほど大きくないが、動作実績と安定度については他製品以上に信頼できる。

 次に、国内のISDNターミナルアダプタの老舗でもある沖データの『PCLINKTA322DSU』だが、製品そのものは上手に作られているものの、マニュアルやユーティリティのヘルプファイルなどの出来が悪く、はじめて購入するユーザーにはお勧めできない。セールスポイントとなっているインテリジェントBODもマニュアルのフォローがないため、十分に使いこなすことができない。今後の同社のサポートに期待するしかないだろう。

 そして、アナログ回りの機能で定評があるアレクソンの『ALEX-128/HG』だが、バックライト付き液晶ディスプレイを備えるなど、今回紹介した3製品と同じようなスペックを実現している。同社のホームページを通じ、積極的にファームウェアのアップグレードも行なわれており、将来的にも安心して使うことができそうだ。とりあえず持っていても損のない1台と言えるだろう。

●ダイヤルアップルータは『MN128-SOHO』がイチ押し

 最後に、ISDNヘビーユーザーに注目を集めているISDNダイヤルアップルータだが、やはり『MN128-SOHO』の優位性は揺がない。これを追随する製品も登場したが、根本的な仕様のミス(NetVehicle-EX3はDSUを内蔵しながらS/T点端子がない!)などもあり、まだまだ相手になってないというのが正直なところだ。ただ、MN128-SOHOがセットアップしやすく、ISDNターミナルアダプタの機能も搭載しているとは言え、ISDNを知らないまったくの初心者が手を出すのはやや不安だ。やはり、ある程度はISDNやIPネットワークに関する基礎知識が必要とされるからだ。

[Text by 法林岳之]


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