【イベント】

後藤弘茂のCOMDEX Fall '97特別レポート


NC対Windows-based Terminal
両方に手を伸ばすターミナルメーカー





●NC陣営とMicrosoftの対立の狭間

 NC (Network Computer)対Microsoft。この2年間業界を騒がせてきたこの2大勢力の 対立の、ちょうど狭間に今いるのがターミナルメーカーだ。メインフレームやXター ミナルを作ってきたターミナルメーカーのほとんどは、ここ1~2年で、NCタイプの Webブラウザを搭載したデバイスを出荷、NC陣営の一員に一応数えられていた。つい この間までは……。

 先々週のCOMDEXで、MicrosoftのHydraサーバー対応のターミナル「Windows-based Terminal(WBT)」を一斉に出展したターミナルメーカー各社は、今やMicrosoftの対 NC戦線の最前線にいる。一体、ターミナルメーカーは、NC対Microsoftという構図を どう見ているのだろうか。ターミナルメーカーのひとつ米Tektronix社のVideo and Networking Divisionのプログラムマネージャ、リー・レイニー氏はCOMDEXの会場で その問いに次のように答えた。

 「よく聞かれる質問だが、シンクライアント対Microsoftという単純な構図はもう ないと思う。当社もNCイニシアチブは支持してきたが、今やシンクライアントには多 くの異なったテクノロジがある。シンクライアントといって、単純にくくることはで きないし、今ではMicrosoftもその中にいる」

 また、レイニー氏によると、今のビジネス向けのシンクライアントは大きく2つの カテゴリーに分かれるという。

 「ひとつは、オーナーシップコストの引き下げを追求するローコストターミナル だ。デスクトップ側は表示だけで、アプリケーションの実行とデータストレージは ネットワークに置いておく。これは、データエントリをするような、タスクベースの ワーカーのためのものだ。このモデルは非常にTCOを下げることに効果がある」

 「もうひとつは、よりインテリジェンスなターミナルで、ブラウザとJavaなどを ローカルで使うことを基本にするもの。アプリケーションの一部はネットワークで実 行するが、一部はターミナル側で実行する。これは、ノレッジワーカーのためのもの だ。TCOは最初のモデルと比べると下げることはできない」

 つまり、シンクライアントには、米Oracle社や米Sun Microsystems社が提唱するよ うなJavaベースのNCと、よりダムターミナルに近いモデルの2種類があり、それぞれ 異なるニーズに対する異なるソリューションであると見ているわけだ。Tektronixは NCもすでに市場に出しており、多くのターミナルメーカー同様、両方のタイプに手を 伸ばした格好だ。ちなみに、Tektronixの場合はNCとWBTはハードウェアはまったく同 一で、OSをWindows CEに入れ替えるだけで完全なWBTとしても使えるようになる。NC かWBTかというのは、まったくユーザーのチョイスというわけだ。

●NCからWBTへと軸足を移す?

 ただし、今回の展開を聞く限りは、同社の戦略はWBTにかなり重心は移っているよ うだ。それは、Tektronixがタスクベースのターミナルでの長い経験があり、WBTはそ の延長線だからだという。また、WBTのようなターミナルに関しても3年前から取り組 んでいたと強調していた。そして、Microsoftのアーキテクチャを選んだのは、それ がたまたま最適な選択だと見られるからだという。

 「WBTは、既存のターミナルのリプレースマーケットがメインだ。いわゆる、グリー ン文字の小さな画面のターミナルだ。この分野でのユーザーのニーズはPCのアプリ ケーション、トラディショナルなメインフレームアプリケーション、UNIXのアプリ ケーション、このすべてにアクセスしたいというものだ。そして、今、PCに関しては Hydraがある。Hydraが重要なのは、Microsoftのサポートが得られることだ。これは カスタマにとっては非常にいい。また、MicrosoftはWBTのOSにWindows CEを使うが、 この利点は業界のスタンダードであるWindows環境の一部であることだ。独自のOSを 使うよりもオープンで、そのためカスタマはWindows CE上に移植される品質のよいソ フトウェアを選択することができる。たとえば、ターミナルエミュレータなどだ。た だ、このWBTではJavaアプレットも使用できるが、あまり向いていない。このタイプ は非常に低コストでTCOを大きく引き下げることができ、しかもWindowsアプリが使え る。これが利点だ」(レイニー氏)

 考えてみれば、ターミナルメーカーはこれまでも業界の事実上のスタンダードのホ ストやサーバーに対応してきたわけで、今回MicrosoftのHydraとWBTをサポートした のもそれと同じことというわけだ。顧客のニーズがあるから、メインフレームやUNIX サーバーに対応するのと同じようにHydraにも対応する。Hydra専用のターミナルを 作ったわけではなく、彼らのターミナルがサポートするサーバーにHydraを加えたと いう感覚のようだ。一方、Windows CEをターミナルのOSに採用しようとしているの は、それがWBTのスタンダードだというだけでなく、彼らにとってもっとも重要なア プリケーションであるターミナルエミュレータなどの開発負担が減るというのも大き な理由であることがわかる。Microsoftにからめ取られたという見方もできるかも知 れないが、ターミナルメーカーとしてはこの選択は、当然なのかも知れない。

●NCの成功に関しては懐疑的

 もちろん、JavaベースのNCでもJavaで書かれたエミュレータなどが提供されてい る。米Citrix社が提供するICAクライアントを使ってHydraサーバーにアクセスするこ とだってできる。NCでWBTの機能は完全にカバーできるわけだ。しかし、レイニー氏 はJavaベースのNCのアプローチに対しては懐疑的だ。

 「SunやOracleのNCは、WBTよりもっとリッチな機能を考えている。しかし、Javaを 使うことを前提とすると多くのCPUパワーとメモリが必要になり、よりファットなク ライアントになってしまう。しかし、いま企業ユーザーの最大関心事はTCOを引き下 げることだ。その点、NCではそれほどTCOを下げられないだろう。だから、市場で大 きく成功するとは思えない。AmigaやAtariなどのようなニッチにとどまるのではない か。TCOを下げる点に関しては実際的なのはHydraとWBTの組み合わせだと考えている」

 おそらく、これはJavaを戦略の中心に据えたNCメーカーと見解が対立する点だろ う。彼らはNCでは管理を集中できるので、劇的にTCOを引き下げることができると主 張しているからだ。また、これは伝統的なホスト集中型と分散型のふたつのコン ピューティングモデルの対立でもある。OracleやSunのNCはネットワークでの処理の 分散を前提としているわけで、その方がホスト集中モデルより柔軟なアプリやネット ワークの構築が可能になり、サーバーの負担も少なくなるはずだ。しかし、ターミナ ルメーカーであるTektronixはその点はあまり評価していないようだ。

 もちろん、同社がこう主張するのは、自社の戦略を他のNCと差別化するためという 側面もあるだろう。それと、ターミナルメーカーとJavaを中心に据えたNC陣営では、 ターゲット市場もずれている。Tektronixの場合、同社のNCであるNC200もターミナル エミュレータなどを充実させており、しかもそれを簡単に切り替えるユーティリティ も用意する。これは、同社のターゲットがあくまでもターミナル市場であり、ターミ ナルからノレッジワーカー用クライアントまで幅広くカバーしようというタイプのNC とは戦略が違うことを示していると思われる。しかし、ターミナル置き換えというの は、ちょっと市場としては小さすぎないだろうか。

 「ホーム市場は違うだろうが、企業のPC/UNIX/メインフレームという環境には当社 の考えるようなWBTは合っている。これは、現状ではホームよりもずっと大きなマー ケットだ。メインはオンライントランザクションなどの用途で、銀行や電話会社など では、膨大な数のターミナルが必要とされている。たとえば、当社はある電話会社 に、9,000台のターミナルを入れた実績がある」(レイニー氏)

 このように、ターミナルメーカーはそれなりにWBTに関してはやる気がある。さら に、WBTにはターミナルメーカー各社のほか、大手ではHewlett Packardが参入すると 見られている。COMDEXでは、HydraコーナーのHPのブースではサーバーを展示してい るだけだったが、解説員は同社がWBTを開発しており、近く参入する予定であること を認めた。今後、どういう展開になってゆくのか、NCとの対立という軸は別にして も、気になるところだ。

●Intelもリーンクライアント戦略を発表

 さて、Hydraのβ登場とともにターミナルメーカーが一気にクローズアップされた シンクライアントだが、Microsoftの用意が整ったことで、いよいよIntelも積極的に コミットし始めた。Intelは、NCからWBTまでを含む軽量クライアントを「lean client (リーンクライアント)」と呼び、Intelベースでクライアントボックスを作るスペッ クづくりに乗り出した。Intelとしては、NCでもWBTでもなんであれ、ともかくIntel のMPUを使ってくれさえすればいいわけだ。PCだけににしがみつくのはリスキーだし、 Microsoftもこの市場に入ってきたのだから、もはやMicrosoftに気兼ねをする必要も ない。うまくゆけば、リーンクライアントという新しく勃興した市場にもx86を浸透 させることができる。

 じつは、'97年4月の「オラクル・オープンワールド(OOW)1997」で展示された Oracle系NCのほとんどがx86ベース(船井電機製)だったことから分かる通り、NCも一 部はIntelに傾斜してきている。これは、NCを導入する大企業の担当者が保守的で、 馴染みのない組み込みRISC系MPUではなく、IntelのMPUを好むといった理由があるた めだという。Intelがコンペティティブな製品を出せれば、十分ビジネスチャンスは あるわけだ。

 IntelとMicrosoftがそれぞれの思惑で参入してきた、シンクライアント(リーンク ライアント)市場。どちらも、それなりに一部のメーカーを引き込むことに成功しつ つある。これを見ていると、NC対Wintelという構図は過去のものになりつつあるよう にも思える。もちろん、WebブラウザをインターフェイスとしたNCで、Javaベースの アプリケーションをという、モロにMicrosoftのWindows戦略とぶつかるNCの路線だっ て健在だ。しかし、シンクライアントという大きなワクで見ると、その土俵の中での 主導権争いにシフトしてきたようにも見える。

□参考記事
【11/21】COMDEX Fall '97レポート インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971121/comdex.htm


[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp