●Hydraのβ版とHydra対応クライアントWBTが一斉に登場
今回のCOMDEXのMicrosoft関連で、もっとも重要なニュースのひとつが「Hydra(コード名)」、つまり正式名「Windows-Based Terminal Server」であることは間違いがない。Hydraは、Windows NTベースのマルチユーザー環境を実現するサーバーソフトとプロトコル、それにクライアントモジュールのシステムだ。Hydraを使うと、Windows NT Server上で実行するアプリケーションのGUIだけをクライアント側に持ってくることが可能になる。つまり、アプリケーション自体はサーバー上で動いているが、クライアント側はそのアプリがあたかも自分のマシンの上で動いているような感覚で利用できるというわけだ。
Hydraを使うと、クライアントはWindowsと非互換であっても、Windowsアプリを実質的に利用できることになる。また、クライアントには、アプリを格納するハードディスクも、実行するための大容量メモリもCPUパワーも必要がない。486クラスのCPUと少量のメモリ、それに非Windows互換の軽量OSで、十分にWindowsアプリを使えるクライアントができてしまうというわけだ。Microsoftでは、このHydra対応クライアントを「Windows-based Terminal」と呼んでいる。そして、COMDEXではHydraのβ版と同時に、このWBTが一斉に登場した。
WBTを発表したのは、Boundless Technologies、Network Computing Devices(NCD)、Neoware Systems (旧HDS Network Systems)、Tektronix、Wyse Technologyなど。これらは、ほとんどの読者にとって馴染みのない名前だろうが、いずれもターミナル(Xターミナルやメインフレーム端末など)メーカーとしては大手ばかりだ。Exchange Server 5.5発表の際に、Hydraについて触れたビル・ゲイツMicrosoft会長兼CEOは、これらのターミナルトップメーカーだけで、世界のターミナルの90%のシェアを占めているという。
●いまひとつ明確でないターミナルメーカー各社のWBTへの姿勢
Windows-based Terminalは、最低で4MBのROMと4MBのRAMを搭載し、ディスク類は持たず、価格は500ドル程度ということになっている。もちろん、PCのアーキテクチャを取る必要はなく、Windows PCと比べると極度に“軽い”端末だ。また、基本的にクライアントのOSにWindows CE 2.0のWBT版を搭載することになっている。しかし、各社のWBTを見るとWindows CEを搭載しているのはNCDだけで、他のメーカーはいずれも独自のリアルタイムUNIXなどを搭載している。これはもちろん、彼らの現行のターミナルなどに採用しているOSだ。その理由は「単純に時間的に間に合わなかっただけ」(Boundless Technologies)で、いずれのメーカーも「来年には同じハードウェアでWindows CEにアップグレードできるようにする」(Tektronix)という。
では、Windows CEを搭載していないメーカーは、現在はどうやってWBTでHydraサーバーにアクセスしているのか。じつは、Hydraでは2種類のプロトコルがサポートされている。WindowsファミリではMicrosoftがNetMeetingなどで使っているアプリケーション共有/TV会議のためのプロトコル「T.SHARE」を使い、非Windows上では、Microsoftが今回のHydra開発で提携したCitrixのICAというプロトコルを使う。そして、このICAはすでにターミナルやNC (Network Computer)で幅広く採用されている。だから、ほとんどの端末メーカーは以前からサポートしていたICAによってHydraにアクセスしているわけだ。じつは、現段階ではWindows CE用のT.SHAREもまだメーカーに配布されていない(12月だという)。だから、Windows CEをOSに使ったNCDでさえ、HydraサーバーにはICAでアクセスしている状態だ。
このことからわかる通り、各社がWBTとして展示しているのは、じつは現行のXターミナルやWindowsターミナル製品で、Hydraのために新しくハードウェアから開発したものではない。つまり、彼らにとってHydraのサポートを宣言するのは非常に簡単であるわけだ。だから、ターミナルメーカーがこぞってHydraベースのWBTを発表したといっても、まだ彼らのやる気がどの程度かは計ることができない。
実際、ターミナルメーカー各社に聞くと、WBTへの姿勢はそれほど明確ではない。「テキストベースのターミナル、JavaベースのNC、Windows CEベースのWBT。この3ラインを提供してゆくことになる。それぞれ異なる顧客のニーズがあると思う」というBoundlessの方向性が、典型的なターミナルメーカーの戦略だと考えていいだろう。また、Wyseなどは特に以前から独自のWindowsターミナルに力を入れていたが、「Microsoftがサポートするというのは歓迎すべきこと。何も反対する理由はないのでHydraを取り入れる」(Wyse)という。ターミナルメーカーにしてみれば、渡りに船で、とりあえず乗ったというのが現状のようだ。
●HydraとWBTは、NCに対する対抗策のひとつ
HydraとWBTが狙うのは、既存のターミナルなどの置き換えだ。「全世界には3,500万の老朽化したターミナルがある。これだけですごい市場だ。さらに、今までPCをターミナル代わりに使っていた場合もある。これもWBTで置き換えることができる」(Wyse)という。つまり、PCを中心にしたMicrosoftのこれまでの戦略を浸食はしないというわけだ。ゲイツ氏も、Exchangeの発表会でHydraは、Windowsアプリケーションを走らせるもうひとつの方法というに過ぎないと語り、これによってWindows戦略自体が大きく変わるわけではないと主張した。
ただし、これがNCに対する対抗策のひとつなのは確かだ。じつは、今回WBTを発表したターミナルメーカーは、少し前までNC陣営とみなされていた。それどころか、現在もNCを製造販売しているメーカーがほとんどだ。MicrosoftのHydra戦略は、とりあえずこれらのターミナルメーカーを、自陣営にある程度引き込むことにも成功したと言えるだろう。ただ、もちろん各社はHydraをひとつのチョイスとして自社の戦略に取り入れただけで、完全にMicrosoft陣営となったわけでも、NCの開発や製造などをやめたわけでもない。
●HydraとWBTはTCO引き下げの決定打となるか
さて、Hydraの次のステップだが、COMDEXの会場で聞く限り、ほとんどのメーカーはT.Shareの提供を待ち、その段階でWindows CEを移植、本格的な製品の発表に向かうらしい。ただし、Hydra用のWBTとして、ICAベースのものとT.Shareベースのものは併存させるというメーカーがほとんどだ。それはなぜかというとICAの方がT.Shareよりも必要とするネットワーク帯域がずっと狭いからだという。「T.Shareはもともとマルチメディア用途に開発されたもの。リアルタイムビデオのサポートなど機能は豊かだが、その分帯域が必要になる。しかし、顧客のなかにはそれよりもネットワークに負担をかけない方がいいというユーザーも多い。だから今後も両方のソリューションを提供する」(Boundless)「ICAならWANでも使える。T.Shareではそれは無理。となるとICAがいいというユーザーも多いだろう」(NCD)と見ている。
ただし、CitrixによるとICAも今後はどんどん機能を豊かにするという。現在はストリーミングオーディオしかサポートしていないが、ビデオのサポートも近く取り入れるという。また、「ICAはOS/2やMacintoshも含めて多彩なクライアントに対応、またIPX/SPXやNetBIOSもサポートするなど多機能なので、将来もT.Shareと併存するだろう」(Citrix)という。
各社ともターミナルの価格はMicrosoftのリリースにあるとおり500ドル前後に押さえている。395ドルから699ドルというあたりがおおよその価格だ。しかし、Boundlessによると「端末自体のコストは小さな要素。PCのような管理コストがいらないというところがもっとも重要」だという。MicrosoftがTCO引き下げの決定打として登場させたHydraとWBT。ほんとうに企業ユーザーに受け入れられるのだろうか?
□Microsoft社のHydra Beta 1プレスリリース(英文)
http://www.microsoft.com/ntserver/guide/hydra.asp
□Citrix社ホームページ(英文)
http://www.citrix.com/
□参考記事
【6/26】「Microsoftの放つ9頭の蛇HydraとWindows端末」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970626/kaigai01.htm
[Reported by 後藤 弘茂]