Power ZAURUS

Watch突撃取材隊が行く!!

「ユーザーの声に、メーカーはどう答える?」

第1回:シャープ「パワーザウルス」


 新企画「Watch突撃取材隊が行く!!」では、毎月ひとつの製品に対するユーザーの声をアンケート方式で集め、ユーザーのみなさんに代わって、ライターの本田氏と編集部スタッフがメーカーに取材を行ないます。第1回目となる今回は、シャープのパワーザウルスを取り上げました。なお、アンケートの結果およびいただいたご意見は、メールアドレスなどの個人情報を除去した後、すべてシャープにお渡ししました。(編集部)
□アンケート結果
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971117/totu01rt.htm
□アンケートページ(10月14日~16日実施)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/totugeki/totu01/totu01.htm
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取材・文:本田雅一
 自分の生活に密着した道具であればあるほど、その道具に対しては妥協ができないものだ。人によってそれは、ライターであったりペンであったり、または手帳だったりする。コンピュータの世界で、しばしばかな漢字変換やテキストエディタの宗教的論争が行われることがあるが、そこに何らかの道具があれば「こだわりのぶつかり合い」は必ず存在するものだろう。

 同様に携帯情報端末に対する要求も、ユーザーごとに大きな違いがある。単純に“情報”と言ったところで、人によって欲しい情報、管理したい情報の性質も違えば、利用する環境も異なる。そうしたユーザーに対して、ただひとつだけの回答などあり得ない。

 しかしシャープのザウルスシリーズの評判は、そうしたそれぞれの嗜好を超えて、さまざまなユーザーに愛されているように思う。もちろん、“ザウルスはボクには合わない”という人もいるが、受け入れられる層の幅が実に広いことに驚く。電子手帳が欲しいと思って購入したユーザーがいれば、外出先でのモバイルコンピューティングを目的としたユーザーまで、ザウルスひとつでカバーしてしまう。

 ユーザー層が広いと、それだけ不満も幅広く出てくる。評判の高いザウルスシリーズの商品企画に携わっているシャープ株式会社 携帯システム事業部 商品企画部 部長の藤原齋光氏に、PC Watch読者の意見をぶつけてみた。

■読者からの主な要望

 パワーザウルスに内蔵されるスケジューラ、アドレス帳、ブラウザ、電子メールといったアプリケーションに関する要望をまとめて藤原氏にうかがってみた。なお、取材にあたっては、ユーザーから多く聞かれた項目を拾い出し、ひとつひとつ確認する形で取材を行なった。少々長くなるが、表に取材メモの内容を挙げる。

アプリケーションに対して
スケジューラ 月間スケジュールで予定の内容が見たい
アドレス帳 写真の表示/非表示の設定ができるように
プライベート用は分けてほしい、シークレット設定は面倒
ブラウザ プロバイダ接続用IDが16文字まででは少ない
フレーム対応なのに、サイトによってはアクセスできない
256KB制限はきつい
メール 受信99通の制限が不便
「サーバーに残す」設定のとき、既読メールを再度読み込む
既読受信メールの削除で、未読メールまで削除する
80桁表示にしてほしい
その他 Wizにある手書きメモを付箋感覚で貼れる機能がほしい
ハードウェアに対して
デジタルカメラ ピントが合いにくい
レンズ周辺部の歪みが気になる
大きさ・重さ さほど強い不満はなさそう。
ただ大きさに関しては、「薄く」という声が非常に多い。
大きさは、これ以上小さくなると使いにくい、という声も。
電池の持ち 乾電池が使えると良いのにとの声が多い。
価格 機能を考えると仕方がないが、せめて10万は切ってほしい
処理速度 強い不満はなさそうだが、ソフトによって不満あり。
とくに表計算は遅いとの声がかなり多い。
液晶 「きれい」「さすがにシャープ」との声が多い
直射日光の下ではほとんど見えない
反射型液晶の搭載を望む声が多い
横480ドットほしい
PCカード DDIポケットのカードが使えない
使えるカードがかなり制限される
LANカードが使えないのが不便
パソコンとの連携 MacやNTに対応してほしい



■内蔵ソフトウェアの機能アップは不可能?


シャープ株式会社
情報システム事業本部
携帯システム事業部
商品企画部 部長

藤原齋光 氏
 以下では分量の関係から、以上の取材事項に対する答えを、一問一答の形ではなく、ポイントを絞ってまとめることにした。

 長い歴史を持つ製品だけに、アプリケーションの仕様に関しては、比較的細かな使い勝手に関する意見が多く、"不満をどうしてくれるの?"といった質問内容になってしまった。全般に細かな仕様改善に関しては「今後の参考にしたい」とのことだ。

 しかし、アドレス帳に個人用と仕事用の2種類から1種類に統合されたことについては、「アプリケーションの機能アップによる変更である」とのことだ。カラーザウルス以降のアドレス帳は、データの分類を入力するフィールドが設けられており、分類項目別にデータをリストアップすることができる。

 つまり、完全にアドレス帳を分割するのではなく、同じアドレス帳をさまざまなビューで眺めることで、1データに統合しながら使い勝手を向上させているわけだ。これはPI-3000から続いたアドレス帳機能とは趣の異なる機能であり、ユーザーにもわかりにくかったようだ。

 また、内蔵WWWブラウザでフレーム機能を使えないホームページがある件は、ブラウザ判別をスクリプトなどで行っていることが原因で、アプリケーション側では対策することが難しい。

 実使用時の障害となりえ、また利用頻度も高いアプリケーションだからだろうか。電子メールには多くの不満点が聞こえてきた。とくに99通までしかメール受信を行なえない点と、メールをサーバに残した場合に同じメールを何度でもダウンロードする点は、仕様のツメの甘さを感じる。いずれも普通にPOP3のプロトコル、あるいはNIFTY-Serveの機能を使えば、容易に実現できることだ。

 藤原氏からは「モバイルツールとして最低限の電子メール機能を与えた。現状はこれでいっぱい。いろいろなメールシステムを見て、今後さまざまな意見を採り入れていく方向で動きたい」とのコメントを得たが、バグに近いのではないか? と厳しい言葉を浴びせても「現状の仕様として受け止めて欲しい」として、有効な意見を引き出すことはできなかった。

 電子メール部分のファームウェアアップグレードに関しても、藤原氏は「現在のところ何もお話しできることはありません」という。こうしたスタンスは、インタビューを通じて一貫したものだった。後に詳細を述べるが、これはザウルスがあくまでもアプリケーションを最初から組み込んだ道具であり、汎用コンピュータとしては販売されていないことの起因しているようだ。



■汎用コンピュータか? 専用機か?

 また、同社の電子手帳WiZからの乗り換え組からは、WiZで評価の高いスケジューラやメモの張り付け機能などを、ザウルスにも導入して欲しいという声もある。筆者はWiZ(PA-Z800)ユーザーでもあるのだが、やはり同様の印象を持っている。両者の操作感やアプリケーションの機能に関して、ある程度の互換性を持てないものなのだろうか。

「シャープの中でのアイデンティティを統一する必要性は感じている、しかし、異なった場所から出発した製品であり、システム的に統合することは難しい。両者を統一したとき、どちらかの顧客が満足できなくなる状況もあるだろう。WiZがある面で使いやすいとしても、それをザウルスに導入することが顧客の満足度アップにつながらない」(藤原氏)

 このあたりの考え方も、ザウルスがザウルス世界の中のツールであることが原因だろう。我々は簡単に機能変更というが、変更するとそれまでのザウルスとは別の世界に踏み出すことになる。既存のザウルスユーザーを優先して考えるならば、従来の手法を継承しなければならない。

 同様の理由から、SDKに関しても一般への配布が行われていないようだ。ザウルスに簡単に自作ソフトウェアが載り、さらにはそれがネットワークで流通するとなると、それはすでに汎用コンピュータだ。ちゃんとしたメモリ保護を行わなければ、アプリケーションがファームウェアの動作に影響を与えることもあるだろう。そうなると、ザウルスをコンピュータではなく、ひとつの道具としてしか捉えていない一般ユーザーに機能を保証することができない。

 僕らはパソコンという汎用コンピュータを使っている。また、パワーザウルスと同時期に登場したWindows CE搭載のH/PCは、汎用OS上でアプリケーションが動作する汎用コンピュータだ。そうしたことから見落としがちだが、ザウルスは最初の機種PI-3000が登場した頃から、ずっと専用機だったのだ。

 PC Watchの読者は、ある程度はPCを使いこなしている人が多い。ユーザーの意見とメーカーの意見の間にある微妙な温度差は、今後ザウルスの購入を考えているPCユーザーが考慮しなければならない点だろう。


■制限の中でバランスさせたハードウェア仕様

 一方、ハードウェアに関してはおおむね満足した意見が多い。とくに処理速度に関しては、表計算以外ならば"重い"と感じることはほとんどない。しかし、重量と大きさ、バッテリーという相関関係にある3つの要素に関してはユーザーの意見が割れた。

 軽く、小さく、バッテリー容量は大きくというのが、ユーザーの共通した願いだが、もちろん、何らかの妥協は必要である。何について妥協するかはユーザーによって異なる。それは使い方次第で優先される要素が異なってくるからだ。たとえば内蔵モデムを頻繁に利用する人ならば、バッテリー持続時間には不満が出る。もちろん、なるべく価格を下げるためにも、製造工程がある程度以上は複雑にならないことも前提だ。

「私だってパワーザウルスのユーザーです。小さく、軽く、電池が永遠に持続するならばそれが理想です。この点については、シャープが設計段階で持っている技術のすべてをつぎ込んで、その中でバランスさせた結果だと考えてください。電卓だってAC電源を使ったデスクトップタイプから乾電池駆動、光電池駆動と進化してきました。ですから、来年になればきっともっと良くなる。でも現在のベストがこれなんですよ」(藤原氏)

 バッテリーとサイズに関しては、物理的な制限もあるため、現状のパッケージの中では難しい面も多い。また、シャープの持つ反射型カラー液晶パネルについて藤原氏は「まだ評価段階だが、採用できる時期になれば採用します」と述べた。

 乾電池駆動についても要望は多い。モデムなどで充電池を使い切ってしまうと、スケジュールやアドレス帳も参照できないというのでは困る、というのがその理由だ。これについて藤原氏は、乾電池のピーク電流がパワーザウルスの駆動に不十分であるという理由を挙げたが、さらに「乾電池をサポートすることで筐体サイズが大きくなる」ことも大きな理由になっているという。

 ただ藤原氏も「ユーザーの方が、現状で満足しているとは全く思っていません。将来の姿がどうなるかは言えないが、必要と思われる技術を持っていないのでは話になりません。ですから、ユーザーの声にはいつも耳を傾けて、将来に備えるための動きは常にしていますよ」という。ハードウェアのさまざまな要望に関しては、時の過ぎるのを待つしかなさそうだ。


■ザウルスへのWindows CE採用は将来もない?

 インタビューを行なったのはちょうどWindows CE 2.0発表からしばらく、シャープの米国法人がWindows CE 2.0搭載H/PCであるMobilonを発表した直後だった。いきおい、以前から囁かれていたザウルスのCE化も現実味を帯びてくる(余談だが、以前からあったザウルスCE化の噂の元はシャープがCE 2.0のライセンスを受けることになったというリーク情報から発したものだった)。

 しかし藤原氏はこうした噂を真っ向から否定する。「Mobilonの日本語版を国内で販売する予定も、ザウルスのOSとしてCE 2.0を採用する予定も全くありません。また、その必要性もないと思っています」と述べ、「モバイル端末と言っても、いろいろな種類があります。デスクトップPCにいろいろな種類があるのと同じです。モバイル端末という分野の中にザウルスがある。しかしこれは、H/PCとは全く別物なのです。そういう意味では、ユーザーの選択の幅が広がっただけでザウルスへの影響はない」という理由を挙げた。

 ただしつこいようだが、OSが何であっても使い勝手やアプリケーションがザウルスであればいいはず。CEの上にザウルスのアプリケーションを構築すればいい。そうすれば、CEのTCP/IPやPCカードサポート、ブラウザ、Java VMなどを利用しながら、その上のアプリケーションの完成度を高めればいい。

 しかしそれでも「いろいろな製品があります。CE搭載機という選択肢もある。用途に合わせて目的を達成できる製品があればいいわけです。ザウルスにはザウルスの目的を達成すればいい」と、核心からは距離を置きながら、藤原氏は否定の姿勢を貫いていた。

 これはソフトウェアの部分でも述べた「専用機(この言い方が正確でないのならば、家庭用電化製品)」として育ってきたザウルスだから、ユーザーの望む機能をインプリメントしてあれば、コアの部分に汎用性は必要ないということだろう。

 CEが2.0でモジュール化され、必要な機能だけを組み合わせることでスリム化できるとはいえ、特定機能に限定してチューニングしたOSの方が軽量で高速になるはずだ。バッテリーとCPUパワーのバランスを考えれば、この分野の製品にはまだまだプロセッサパワーが不足している。専用OSにすることで、目に見える違いが出るのかもしれない。


■新製品を出すときには足が震える

 要望だらけのインタビューだったが、話を通して印象的だったのは「新製品を出すときには足が震える思いだ」という藤原氏の言葉だ。

 道具として使われる製品は、ユーザー自身がいろいろな使い方を見つけ、開発者が思ってもみなかった用途に利用することもある。それと同時に良かれと思って決めた仕様が、逆にユーザーに不満点として挙げられるというケースも多いものだ。

 冒頭の書き出しにも通ずるが、100人いれば100通りの使い方、操作性への感じ方がある。そうした性格を持つ製品のリリース時に足が震えるというのは、それだけさまざまな用途があることを認識し、それらをかみ合わせながら商品を企画しているからだろう。

 たとえばLANカードを利用できないことを不満に思うユーザーも少なくないようだが、藤原氏は「LANカードをサポートすることに意味はありません。LANカードで何をしたいか、それを提供するために最適な仕組みは何かを考えることが大切なんです」という。LANカードを採用するためには、LANをサポートするためのプロトコルレイヤが必要になる。限られたハードウェアの中でそれをサポートするよりも、別の何か良い方法を見つけだすことの方が重要というわけだ。

 また、デジタルカメラとしては決して安くないザウルスのデジカメもユーザーの不満の対象だ。ピントを合わせにくい、画質が悪い、暗いところでの撮影が苦手といった部分である。しかし、カメラと言うよりは、入力ツールのひとつとして実装したのだという。

 もちろん、画質や機能が向上することは悪いことではない。しかしその前に解決することとして「ザウルスに自然なコミュニケーション手段を与えるのがデジカメです。画像が情報として加わることで、これまで文字だけでは伝わらなかったことが伝わるようになる。まずはその部分が重要だと考えました。撮影して写真を撮影する、ということを目的とした機能ではなくて伝える手段なんですよ」(藤原氏)と説明。カメラとしてではなく、新しい表現手段をまず最初に目指した機能であることを強調した。

 また「商品企画という立場で考えると、さまざまなご意見に対してすべて“その通りです”としか答えられません。しかし、商品として万人に販売する商品にまとめなければならない。ザウルスが、これまで寄せられたさまざまな意見から作られた作品であることを知っておいて欲しい」という藤原氏の言葉も嘘ではないだろう。  実際、これまでザウルスはユーザーの意見を取り上げた細かなバージョンアップを新製品ごとに実装してきている。カラーモデルとしては2世代目にあたるパワーザウルスも、カラーザウルスからの意見を吸い上げた結果に出た商品だ。そして第3世代。いつになるかはわからないが、シャープに引き渡されたPC Watch読者の声が届いた製品が出荷されることを期待したい。

[Text by 本田雅一]


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