Weekend Watch【'97/7/25版】

 現在、「たまごっち」などに代表される、デジタルペットといわれるジャンルの作品のリリースが相次いでいます。「TEO」は、'95年にWindows版が発売され、日本を始めとするアジア各国を中心に、高い評価を得ています。
 今回のWeekend Watchでは、TEOの開発に携わったテクニカルディレクターの村上氏に、「TEO」の現状と今後、ヒューマンインターフェイスの展望などを伺いました。

 今回のインタビューに対する感想や、記事に関するご意見・ご感想、とりあげて欲しいゲームソフトや企画などは、サブジェクトに[weekend]と記入のうえ、pc-watch-info@impress.co.jpまでお寄せください。抽選で5名の方に、フィンフィンのキーホルダーを差し上げます。


フィンフィンの好物、エルモの実を食べさせているところフィンフィンは、その時の感情やユーザーの呼びかけに対して、さまざまな反応を返すPCのゲームポートに、視覚センサーと音声センサーを内蔵した「TEOアンテナ」を接続して、フィンフィンとのコミュニケーションを図る
(C) 1995-1997 FUJITSU LIMITED.

 富士通「TEO -もうひとつの地球-」(14,800円)は、地球に良く似た惑星「TEO」に住む生物「フィンフィン」とのコミュニケーションを行なうためのソフトだ。

 「TEO -もうひとつの地球-」には、ソフトのほか、PCのゲームポートに接続する「TEOアンテナ」、フィンフィンを呼ぶための「フィンフィンホイッスル」などが同梱されている。TEOアンテナには視覚、音声センサーが内蔵されており、ホイッスルでフィンフィンを呼んだり、アンテナに向かって話し掛けることで、さまざまなコミュニケーションが行なえる。

 惑星「TEO」は地球と同じ時間の流れを持っており、1日24時間、1年365日、春夏秋冬の季節もリアルタイムに変化している。フィンフィンと会える場所は、基本キットでは「アミルの森」と「ツブの林」の2ヵ所となっており、追加キットである「ひみつの入江」(5,800円)や「レム川のほとり」(5,800円)などを別途購入することで、さまざまな基本キットだけでは見られないフィンフィンの生態や、TEOに住むほかの生物たちを見ることができる。


■インタビュー■

富士通に聞く:
人工生物「TEO」とヒューマンインターフェイスの展望など

追加キット「レム川のほとり」では、基本キットだけでは見られないフィンフィンの生態などが観察できるレム川で泳ぐフィンフィンなどを見ることができる
(C) 1995-1997 FUJITSU LIMITED.

●TEOのカテゴリーについて

 大きなカテゴリーとすれば、TEOのジャンルは人工生物だと思います。たとえば「たまごっち」は価格が安くて、手軽で、でも制限がある。TEOはPCでしか動きませんけど、ある部分では高く評価されている。そうであれば別にいいと思いますね。
 だから、人々がなんとなく人工生物という方向に集中してくれれば、それはひとつの成果と言えると思いますよ。

 日本でもそうだと思うんですが、アジア圏では人工生物が盛り上がっています。特に台湾が今すごくアクティブで、月当たりの売れ行きもかなり上がっています。
 台湾で受けている理由としては、やっぱり、TEOはたまごっちなどと比べて複雑な部分があることだと思います。時間による変化があり、さらにフィンフィンがリアルでかわいいと。さらに、フィンフィンの行動もだんだん変わってくる。そういう、僕らが当初から突き詰めてきたコンセプトが受け入れられたのだと思います。
 たまごっちは、けっこう死んだりするじゃないですか。寿命も短い。だから、たまごっちの本質は、ある意味でいかに殺さないか、あるいは殺してしまうか、というところが目標だと思うんです。でも、フィンフィンはそうじゃなくて、人間とどうやって付き合うか。その変化がおもしろいところでもある。そういう意味でグレードが違うかなと思います。

 また、たまごっちや、プレイステーションの「がんばれ!森川君2号」などは育成部分を重要視していますが、僕はこのTEOに関して、育成というよりもコミュニケーションを重要視しているんです。だから、フィンフィンにエサをあげていると次第に慣れてきて、センサーから音を感知してこっちへ近づいてくる。音を聞くことで、だんだんコミュニケーションのループが深まってくるという具合です。

●TEOのヒューマンインターフェイスの特徴

 TEOのヒューマンインターフェイスの特徴としては、まず、時間の概念があります。フィンフィンは、夜は寝ています。寝ているのを起こしてしまうと、フィンフィンはだんだん体調が悪くなるので、コミュニケーションできる時間というのがだいたい決まっているわけです。いつも同じパターンだと飽きてしまうので、時間の概念、春夏秋冬といったシステムや、感情を組み込んでいます。

 デジタルペットにもいろいろありますけど、ほかのソフトは変化しないから、普通のゲームと同じように、1度プレイしたら終わってしまう。でもTEOの場合は、常に変化しているんです。継続的に使うものには、日常的な部分が必要だと思うんです。
 だからフィンフィンのユーザーは、いったいどうやって電源を切ったらいいんだ、と言うんですね。フィンフィンが画面内にいると、電源が切れない。そういう意見がくることが、普通のPCのソフトとは違うと思っています。だから、そういう意味でTEOは新しいカテゴリを作りつつあると思うんですよ。

●「TEOアンテナ」の機能について

 「TEOアンテナ」のセンサーがどんなことをするかというと、まず話し掛けているのが男性か女性か、あるいは、女性か子供かを聞き分けるんです。結果的には、男性よりも、女性に対する方が、非常にフィンフィンの反応がよくなるんです。本当は、TEOは女性向けというよりもお子様向けに作ったんですが、声の質を考えると、子供と女性は似ていますから。ある意味で女性向けという部分もあるんです。
 それから、このセンサーの役割は怒鳴っている声なのか、あるいは優しく話し掛けているのかを判別するんです。

 また、センサーには目の部分もあって、人が前へ行くとコミュニケーションしたいのだと思って、フィンフィンが寄ってきます。こういうものがあるとユーザーというのは、PCではなく、センサーに向かって話しかけるじゃないですか。もしこれがなければ、いったい自分は何に向かって話し掛けているのか疑問に思うでしょう。そういう演出的効果もあるような気がします。

 そのときフィンフィンがいるから、フィンフィンに対して話かける。フィンフィンに対して通信してる。その概念がとても大事なんです。PCが進歩して、高度な音声認識機能があって、ワープロも打てるようになるかもしれない。でも、そのときにいったい誰に対して話してるんだろう、と思うはずです。

●TEOの未来像について

 今のTEOは、人間が怒鳴っているのか、優しく言っているのかくらいしか認識できないですが、今年の暮れか来年くらいに、もうちょっと単語の認識をさせようと思ってるんです。フィンフィンおいで、というとこっちへくるというような。
 ただ、これをやるにあたって、総合プロデューサーの手塚さんと今議論しているのは、日本語や英語を基準とするのかという点ですね。TEOは世界中に広がっています。それでいま考えているんですけど、フィンフィン語にしようと。
 フィンフィンが言葉をしゃべる。人間がフィンフィンと親交を深めれば、フィンフィンが何をしゃべっているのかわかるようになる。これを実現しようと思っています。

●ヒューマンインターフェイスの今後の展開について

 実は、TEOを開発するにあたって、PCの新しいヒューマンインターフェイスの開発も目指しています。
 僕が思うに、PCを道具として見るか、あるいは付き合う対象として見るのか、というふたつの見方ができると思うんです。でも、付き合う対象として見るのであれば、やっぱり相手が自分の言うことに対して敏感に反応して、動くことがとても大切だと思うんです。

 僕らは付き合う相手としてのPCを開発したいんですよ。そのときに、単なる画面に向かって話し掛けるのはおかしいわけです。
 だから、そこでフィンフィンのようなエージェントが出てきて、まともな対応をする。そうすると、PCに対して色々な命令をするときに、PCじゃなくて、フィンフィンに対して話し掛ける。「これから通信しましょ」とか、「これからワープロしましょ」とか。インターネットでも、フィンフィンと遊びながら世界を探検する。
 たとえば、オズの魔法使いなんかを見ると、主人公のまわりに人間じゃない友達がたくさんいるじゃないですか。で、そういった友達に話し掛けながら世界を探検する。世界というのは、PCでもいいし、インターネットでもいい。そうすると、遊ぶという要素がとても大事なわけですよ。それで、フィンフィンのような、人工生物の性格の部分をちゃんと作ろうと思ったワケです。

●村上氏の夢は

 Macintoshはデスクトップのメタファーとして、新しいヒューマンインターフェイスを作ったと思うんです。でも、それはツールだと思います。

 たとえば、付き合う対象として、お供を連れて歩くとします。そのお供が仮に5人としましょう。ある1人のお供はインターネットに強い。でも、ほかのことは弱い。賢くないお供だけど、人間より最低ひとつはすごいことができる。「お供型のエージェント」と僕はいってるんですけど、そういうものをたくさん作っていけば、新しいヒューマンインターフェイスができると思うんです。
 単純に通信だけをする、インターネットをつないでみる。そういうユーザーに対する新しいヒューマンインターフェイスを作る。そうすれば、初心者がPCを勉強をしなくても使えるようになると思うんですよ。

 そういうことをするにはたぶん、能力と、人間と付き合う部分、このふたつを同時に持たなければならない。僕らは付き合う方の分野ですけど、富士通のいろんなところでベースとなる能力を開発し、それをうまく組み合わせて、新しいカテゴリのヒューマンインターフェイスを作りたいなと思います。

[Text by 尾道晃 / seino@impress.co.jp]


Weekend Summary
●システムソフト、育成シミュレーション「ハイブリッドエンジェル」 ほか

Weekend Watchバックナンバー


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp