後藤弘茂のWeekly海外ニュース


Intel対AMD=スロット1対ソケット7

秒読みが始まったAMDの次世代MPU「AMD-K6」

●Pentium II対K6が次のバトル

 米Intel社が、i386でセカンドソースを認めないという戦略に転換して以来、同社と米AMD社は各MPU世代ごとにx86市場で戦いを繰り広げてきた。386時代の後半にAMDが迫ってきた時はIntelは486へと逃げ切り、486の時はAMDが法廷闘争などで足止めを食っている間にIntelはPentiumプロセッサへと無事シフトした、そしてPentiumの時はAMD-K5がWindows 3.1/95で性能を出せないという自ら招いたつまづきのために、Intelはまたも振り切ることに成功した。だが、Pentium II対AMD-K6では、ちょっとこれまでとは様子が違うようだ。

 AMDは来週4月3日(米国時間4月2日)に、次世代のx86互換MPU「AMD-K6」の発表を計画している。すでにAMDはK6のためのWebページを作り、発表の予告を始めている。AMDがやる気まんまんなのは、K6が性能面でIntelの次世代Pentium IIにひけを取らないという自信があるからだ。Pentium IIの出荷は翌月と見られているため、AMDは1ヶ月以上先行できる計算だ。

 ただし、この時間差が市場でそれほど重要な意味を持つわけではない。というのは、Intelの場合は発表と同時に複数のメーカーから搭載システムが発表されるのが通例だが、市場での基盤が薄いAMDでは、そうした立ち上がりが期待できないからだ。おそらく、K6が大手PCメーカーに受け入れられるとしても、マシンが出そろうには一呼吸が必要だろう。それでも、K6登場の象徴的な意味は大きい。それは、AMDがIntelの最高速MPUについに追いついたことを示すことになるだろうからだ。

●AMDはソケット7互換戦略を推進

 自社Fabを持つAMDは、競争力のあるMPUを開発できれば、Intelにとってかなりやっかいな相手となりうる。K6がPentium IIと競って200MHz以上、つまり266MHzや300MHzといった動作周波数の製品を順次投入できれば、採用メーカーがかなり登場してもおかしくない。特に、メーカーにとって魅力があるのは、AMDがPentium(MMXテクノロジPentiumプロセッサを含む)互換のソケット戦略を取ったことだ。

 K6の大きなポイントは、現行のPentiumマザーボードのソケット7互換だという点だ。これは、メーカーにとってPentium用と兼用のマザーボードを開発できるため、比較的容易に低コストなK6搭載PCを開発できることを意味する。それに対して、Pentium IIではスロット1と呼ばれる新しいスロットに対応したマザーボードを開発しなければならない。もちろん、大手台湾メーカーを始め、各社すでにスロット1マザーボードは開発しているので、OEMを受ければ簡単なのだが、それでもフルラインナップを揃えるメーカーは、PentiumとPentium Proそれぞれのマザーボードに加えて、Pentium II用という3タイプのマザーボードでラインナップを構成しなければならなくなる。この複雑性が今回のAMDの付け入るスキになるわけだ。

 Intelとしては、ソケット7は役目を終えつつあると考えているようだ。これまでと同じように、次世代のPentium IIの製造プロセスが1世代上(0.25ミクロン)に移行して生産量が増えれば、Pentiumとともにソケット7も消えて行く運命にあるだろう。交代時期はおそらく98年のどこかに設定されていると思われる。

 それに対して、AMDはK6でソケット7を存続させる戦略に出る。AMDによると、Intelの新しいスロット/ソケット規格だと、スペックが積極的に公開されているわけではないので追従すると不利な立場になるという。つまり、AMDとしてはK6ではPentiumと互換のバスインターフェイスを備えるほかなかったわけで、そのために、ソケット7プラットフォームを積極的に推進することになる。一方、Intelはソケット7でAMDに対抗できるMPUがなくなる可能性が高い。構図としては、ソケット7ベースのAMD対スロット1のIntelというカタチになったわけだ。

 AMDのソケット7戦略は、とりあえずイージーに次世代MPUクラスの性能を得たいというメーカーには福音となる。ただ、問題はその後もソケット7プラットフォームが支持されるかどうかだ。

●両社ともチップセットでプラットフォームを進化させる

 Intelのチップセット戦略では、ACPI対応などPC 97のベーシックな要求を満たした「Intel 430TX PCIset」がおそらくソケット7用チップセットの最後尾となる。AGPやIEEE 1394のインターフェイスのチップセットへのインテグレートや高い周波数のCPUバスといった次世代の要素は、次のPentium II用チップセットやその後継チップセットだけがサポートする可能性が高い。つまり、ソケット7プラットフォームの進化は、98年用パソコンであるPC 97の基本ラインをクリアするところまでで、その先はスロット1に移行して欲しいというアプローチだろうと想像される。

 IEEE 1394は、まだMicrosoftは今のところエンターテイメントPCで、98年1月1日までの期限でしか要求していないが、将来的には標準搭載インターフェイスにしようとしているようだ。そうなると、IEEE 1394インターフェイスはチップセットに統合しなければならなくなる。IEEE 1394の場合は、チップセットのノースブリッジ(CPU-PCI側)にインテグレートしないと、PCIバスに対する負担が大きくなる可能性が高いからだ。また、MPUの高クロック化にともない発生するメモリやチップセットなどとのギャップを埋めるには、CPUバスの高クロック化もほぼ必ず必要になる。  となると、問題はAMDが載ったソケット7プラットフォームが存続できるかどうかだ。そこでAMDが打った手が、CeBITで発表したチップセット戦略だったわけだ。この動きはAMDがチップセットビジネスに参入したというスタンスではない。AMDとしてはチップセットメーカーと競合して、他メーカーにK6対応をしてもらえないのはマイナスになる。積極的にチップセットをセールスするというより、むしろソケット7プラットフォームに対する(1)保証や(2)底上げだと思われる。

 (1)は、もし他のメーカーが降りても自社がこれから先もソケット7用チップセットを出し続ける姿勢を示すことでソケット7の存続の保証をしたことだ。(2)はソケット7用のチップセットの機能を向上させることでソケット7プラットフォームの競争力を維持しようとしているということだ。AMDとしてはAGPやIEEE 1394のインテグレートとか高CPUバスクロックといったIntelがスロット1で取るだろうチップセット高機能化戦略を自社もソケット7で取ることで、Pentium IIに対抗することになる。これは、ソケット7をIntelではなく自社がドライブすると宣言したと言ってもいい。AMDはAGPなどの機能のセルは、他のチップセットメーカーにも提供して行くと言っている。AMDとしては、チップセット開発は、Intelに対抗するグループ作りというニュアンスでもあるようだ。

 さて、この戦略ではたしてAMDはIntelに対抗できるだろうか。Intelの思惑通りスロット1への移行がすんなり行って、98年のある時点からPCメーカーがソケット7マシンをラインナップから外し始めたら、この回はAMDの負けとなる。逆に、AMDがうまくソケット7を存続させることができれば、市場にがっしり食い込めることになる。マザーボードという地味な戦場での話だが、これはウォッチしていると面白そうだ。

('97/3/25)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp