【周辺】

MPEGカメラ本体

動画も撮れ、静止画がきれい

プロカメラマン山田久美夫が見た


日立MPEGカメラ「MP-EG1」ファーストインプレッション



 日立から話題のMPEGカメラがいよいよ正式発表された。当日に入手できたので、早速その実力をレポートしよう! もちろん、世界初のMPEGカメラだけに、その技術やスペックへの興味は尽きない。しかし、その部分は別ページに任せて、ここでは使い勝手と画質面のファーストインプレッションをお送りしよう。

●動画も静止画も撮影できる
部品構成:解像度  本機は普通の静止画専用デジタルカメラと違い、MPEG形式での動画記録ができる点が最大のポイントだ。もちろん、JPEGフォーマットでの静止画記録もでき、さらに音声記録もできるなど、かなり多目的に利用できるカメラといえる。そのため、これまでのデジタルカメラと同じスケールではその実力を図れない部分もあるが、今回はとりあえず使ってみた。MPEGは技術としての注目度も高いし、今回は本機と同時にフレーム単位での編集を可能にしたソフトも発表しているため、検索や編集の容易さといった面では、テープメディアを使うデジタルビデオに対して明らかな優位性を誇っている。しかし、現時点では、実際にどんな人がどんな用途で使うのかを想定できない部分もあるわけだ。そのため、今回は通常のスタンスでの印象を中心にレポートしよう
ビル:湾曲  まず、手にすると、それなりに厚みがあり、なかなか強い存在感を感じる。まあ、デザイン的には、ちょっと電気カミソリを連想させる部分もあるが、外観が金属であり、適度な重量感があることもあって(さほど重いわけじゃない)、機能以前に“モノ”としての魅力を感じさせる。これは各分野での初物が共通して備えている、独特な雰囲気といえる(カッコイイわけじゃないけど、意欲を感じさせるんですね)。

 しかし、カメラとして考えると、動画用として見ても、静止画用として見ても、さほど洗練されておらず、持ちやすいデザインではない。とくに、動画記録の場合に不可欠なボディーホールド時の安定感という点では、やはりもう一工夫ほしい感じだ。


●液晶画面は、標準的な仕様だが見やすい
 操作部は背面の液晶下に集中して配置されている。ボタンの数は多いが、機能が日本語表示になっていることと、液晶上に操作ガイドが表示されることもあって、基本機能は少し使っているだけで慣れてしまう。しかし、シャッターボタンがやや押しにくい点は気になるところ。もっとも、シャッターを押してから実際に写るまでの時間(タイムラグ)が短いので、意外にシャッターチャンスがつかめる。もちろん、動画撮影時には、普通のビデオのようにメインスイッチONでポーズ状態になり、撮影開始時に一度押すだけなので、さほど気にはならない。

 感心したのは液晶画面の見やすさで、1.8インチTFT型と、デジタルスチルカメラとしては標準的なもの。ビデオとしては小さめだが、液晶表示がなかなかクリアで、しかもかなり斜め方向から見ても翳ることがないのには感心する。とくに本機の場合には、レンズ部が回転するものの、どういうわけか、斜め方向に回るため、撮影時にはボディーとレンズの方向がズレる。そのため、液晶を斜め方向から見ることがかなり多くなるのだが、液晶のよさが、この欠点をなんとかカバーしている感じだ。確かに、横位置しかない動画カメラとして、デザインや携帯性を考えれば、これも一つの方向性なのかもしれないが、縦位置という独自の世界がある静止画カメラとしては、はなはだ使いにくい。これは静止画カメラとしての使い勝手をあまり重視していない証拠なのか、それとも静止画カメラに慣れていないせいなのか分からないが、残念な点だ。


●編集の容易さは、デジタルデータならではのメリット

影:コントラスト  記録メディアは今回、静音対策が施された日立の、PCMCIA TYPE3の260MBハードディスクが推奨品となっており、今回もそれで撮影した。なにしろ、MPEG記録がいくら高圧縮率とはいえ、動画1秒間あたりのデータ量は150KBにもなる。そのため、この260MBのHDDをフルに使っても記録時間は20分にしかならない。もちろん、一日に撮影する時間は一般的にそれくらいだろうし、メディアを交換すれば記録時間を延長できるわけだが、デジタルビデオ(DV)のような、長時間記録が可能で、安価で、保存が容易なテープメディアに慣れていると、ちょっと物足りなさを感じる部分もある。もちろん、260MBものデータを最終的に保存しておくためのメディア(MOやPD、Zip、CD-ROMなどいろいろあるが・・・)をどうするかという点も考慮に入れて利用する必要がある。また、電源も専用の充電式バッテリーとなっており、稼働時間が40分という点もやや物足りない(それでも動画を記録しながら、HDDを40分間回しっぱなしにできるのだから、結構立派ともいえるけれど)。

 しかし、MPEGには、デジタルビデオにはない、検索や編集の容易さという大きなメリットがある。しかも、パソコン上で動画を利用する場合には、従来のようにいちいちデジタイズ(キャプチャー)する必要がないという点も注目される。とくに、今回の付属ソフトのなかには、MPEGデータをフレーム単位で、容易に編集できるソフトまでも含まれている点が大いに注目される。このあたりは、MPEGカメラに何を求めるかで、その価値判断が大きく変わってくるところなので、単純にテープメディアと比較するわけにはゆかないが、明らかにデジタルデータならではのメリットが感じられるシーンがあるのは確実だ。とくに高画質で緻密な編集を前提に撮影する場合のメリットはかなり大きなものといえる。


●静止画像なら、撮影可能枚数は3,000枚

喫茶店:ラティチュード  そして、個人的に大いに気になるのが、静止画記録。つまり、デジタルスチルカメラとしての実力だ。短時間だが、実写した印象はデジタルカメラとして見ても、なかなか魅力的な存在といえる。

 そのメリットはいくつもあるが、大きなものとしては、最大5コマまでの連写機能と、瞬時といえるほどの素早い記録速度、3,000枚という膨大な画像記録枚数、光学式3倍ズームの採用などがあげられる。

 今回の実写でとくに感心したのは、やはり記録速度の速さだ。本機はMPEG圧縮も超高速におこなう実力を備えていることもあって、JPEG時の処理速度の早さも相当なものがある。ほとんどメディアへの書き込み時間だけという感じだ。しかも、連写ができる点はきわめて便利だ。

 また、3,000枚という途方もない記録枚数による安心感は大きく、日頃枚数を気にしながら細々と撮影しているデジタルカメラユーザーにとって夢のような世界だ。
ホーム:ズーム  そして、光学式の3倍ズームレンズも、一般撮影ではとても便利だ。まあ、これとは別に2倍のデジタルズーム機能があるので、いちおう6倍ズーム相当にはなるが、画質低下が著しく、デジタルズームの併用はあまりおすすめできない。できれば、光学ズームの範囲だけでしかズーミングしないモードを追加してほしいところだ。

 また、本機は固定焦点式のため、ワイド側なら至近距離以外はほとんどピントを気にする必要がない。しかし、望遠側では3~5m付近にピントのピークがあり、日中ならば遠景でも実用レベルのピントが得られるが、屋内や近接撮影は無理なため、用途が限られる。また、マクロ機能もないので、ワイド側でも近接撮影が苦手なことには変わりない。これは本機の大きなデメリットといえるが、いまからフォーカス機能を付加することなど不可能なので、諦めるしかない。動画の場合には比較的ピントがラフでもなんとか見られるが、静止画の場合にはごまかしが利かないので、これは大きな欠点となる。もちろん、本格的な撮影には不可欠な機能だけに、次機種では当然改良されるだろうし、MPEGという新技術に力点がおかれた第一号機という事で仕方のないと思うが、返す返すも残念だ。


●画質は、取材に十分使えるクォリティー

花1:色

 気になる画質だが、世界初のMPEGカメラであり、明確に比較できる対象がないので、動画としての画像について、とにかく本ページにあるMPEGデータを実際に見ていただくのが一番の早道だろう。個人的には取材ならば十分に使えるクォリティーだと思っている。しかし、望遠側ではやや画質が低下する傾向が見られた。

 一方、静止画の画質だが、これは先に一つ断っておきたいことがある。まず、本機は基本的に動画用カメラであり、CCDには39万画素の、長方画素のビデオ用CCDが採用されている。そして、記録される画像フォーマットはもちろんJPEG準拠のものとなっている。しかし、画像ファイルのピクセル数はVGAではなく、704×480ピクセルという変則的なものとなっている。これは画素が長方形のためで、この画像ファイルを普通のソフトで開くと、縦横比が実際とは異なり、横位置の写真では、やや横長に変形したものとなる。

 もちろん、このままでは困るので、付属の専用アプリケーションには、縦横比を修正できる機能が備わっていいる。また、付属ソフト以外でも、Photoshopのように縦横のピクセル数を独立して変更できるソフトなら、長辺だけを640ピクセルに変更すれば、縦横比が正常になるわけだ。
花2:接写  しかし、静止画カメラとして使うことを考えると、これはけっこう不便で、一般的なJPEG準拠フォーマットで記録されているメリットがあまりない。カメラの記録時に縦横比のリサイズをした状態で書き込むのが理想的だが、とりあえずソフト的に複数ファイルの縦横比を一括変換できるアプリケーションを配布してほしいところだ。

 注目の静止画記録時の画質だが、動画メインのMPEGカメラにも関わらず、これがかなり良質なもの。現行のVGAタイプの静止画専用カメラとして見ても、明らかに上位にランクされるほどの実力といえる。解像度も高く、色の再現性も素直。階調性もこれだけ出ていれば上等だ。また、明暗のコントラストが高いシーンでも、露出が正確で、ハイライトからシャドーまで、きれいに再現されているのには感心する。もっとも、レンズ性能はワイド側は必要十分なレベル(やや周辺部に甘さはあるが)だが、望遠側ではやや解像度が不足しがちだ。また、前記の通り、ピントが固定式のため、至近距離のピントが甘くなるという点や、マクロ撮影ができない点など、気になる部分も多いが、こと一般撮影に限っていえば、そうとうに魅力的なモデルであることは疑う余地がない。そのため、今後、レンズ性能やフォーカス機構、画像記録時の縦横比などの諸問題が解決されたおりには、かなり魅力的な機種になる可能性を秘めている。できれば、この技術をフルに生かした、静止画専用カメラの開発も大いに期待したい。



●総評:MPEGのメリットを生かした製品。ビデオ編集まで考えればお買い得!?

格子:湾曲  なにぶん未知数なMPEGカメラ。その第一弾として登場した本機だが、いくつかの欠点はあるものの、MPEGという技術のメリットを十分に感じさせるモデルに仕上がっている。ネックとなるのは、やはり価格。カメラ+キットで約15万円、推奨の260MBハードディスクまで含めると約22万円と、やはり気軽に購入できるようなレベルではない。

 ただし、静止画専用デジタルカメラとしては高価だが、デジタルビデオとして考えれば、さほど高価なわけではない。しかも、高価なビデオ編集機器などまで考慮したときのシステム価格となると、十分すぎるほど、お買い得といえるレベルとなる。ようは、自分がこのMPEGカメラを何に使うのかによって、本機に対する評価も、価値観も大きく変わってくるわけだ。

 個人的には、いろいろな欠点はあるものの、静止画の画質がよく、必要に応じて動画も撮影できるため、取材用機材としては大いに魅力的なモデルだと感じた。もっとも、最近のノートパソコンはTYPE3のHDDが直接読めない機種もあり、HDDの容量やMPEG再生時の処理速度なども気にはなるが、なにか、これまでの静止画専用機とは違った使い方ができそうな予感がある。

 とくに、PC WatchのようなWebマガジンでは、レポートの一部として動画を利用したいケースも希にあるので、そのような用途に便利そうだ。また、現在同社が開発中という、撮影後のMPEGファイルをリサイズや間引きすることでファイルサイズを大幅に軽減するアプリケーションが登場すれば、MPEGデータのWebでの公開も現実のものとなる予感がする。いずれにしても、まだ第一号機のため未完成な部分は多いが、これからの飛躍的な進化に大いに期待したい、なかなか意欲的な注目モデルといえそうだ。


【MPEGサンプル画像】

発表会場(約1.6MB)

ホームに入る電車(約1MB)

【編集部注】

□日立製作所のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/index-j.html
□ニュースリリース
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/0127.html
□MPEG PLANET(MPEG関連商品紹介)
http://mpeg.hitachi.co.jp/planet/

□参考記事
【1/27】日立、世界初のMPEGカメラを2月22日発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970127/hitachi.htm
【11/20】山田久美夫のCOMDEXデジタルフォトレポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/961120/mpegcy.htm

■注意■

('96/1/7)

[Reported by 山田久美夫]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp