さて、今回のネタは、ソフトウェアジャパン業務停止で大放出された「Tsu-Na-Gu TA」です。TAランキングの「目先の価格に振り回されないように」という記事と、矛盾するんじゃないの? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、家元の本文にもあるように、こういうものはしゃれで買うモノ。「1台目にはおすすめしない」と言っておられたので、はじめての方は、ここで読むだけにされたほうがよろしいかと思います。(編集部)
●パソコン業界は活況と言われるけど……大仕事がようやく一段落したはずなのに、息をつくヒマもなく、年末進行に突入。こんな調子じゃ、物欲道の修行もままならないよね。思い返せば、'96年は随分と忙しい一年でした。一年前、
'96年を振り返ってみると、パソコン業界は今までにない活況を見せた半面、倒産や業務停止なんて暗い話もいくつかありました。こうした事件が起きると、市場にはそのメーカーの製品が処分価格で流れてくるというのはご存じの通り。我が家にもアイシーエムのハードディスクがあるんだけど、壊れたら最後という覚悟で使っている。もちろん、テスト用としてだけどね。 さて、今回はそんな処分品の中で、ちょっと使えそうなものがあったので紹介しよう。モノはソフトウェアジャパンのTsu-Na-Gu TA1 ZyXELだ。
●4社が販売するZyXEL製TAPC Watchでも'96年11月15日のニュースでお伝えしたとおり、11月7日、ソフトウェアジャパンが業務を停止した。'96年夏頃からカテナとの合併話が進行していたが、最後の最後に来て、合併の話が流れてしまったためだ。その後、'96年11月23日発行の秋葉原HotLineで、「秋葉原でソフトウェアジャパン扱いの製品が投げ売りされている」とニュースが報じられていたが、ボクはその中に同社が販売していたTsu-Na-Gu TA1 ZyXELが9,800円!という情報を見逃さなかった。ところが、当時、『できるNetscape Navigator3.0』の執筆が佳境中の佳境だったため、ボクは秋葉原に行くどころか、ほぼインプレスに缶詰めに近い状態にあった。そこで、秋葉原HotLine担当の石橋氏に頼み込み、なんとかTsu-Na-Gu TA1 ZyXELをゲットしてきてもらったというわけだ。翌週の秋葉原HotLineで「人に頼まれて買ってきちゃった」と石橋氏が書いているのは、ボクがお願いしたものだったというわけ。(その節はお世話になりました > 石橋さん) なぜ、いきなり業務停止した会社のTAを狙ったかというと、実は中身がどんなものかをわかっていたからだ。国内で台湾のZyXELの製品を扱う代理店やOEM供給先は、ソフトウェアジャパンを含め、ボクが確認している範囲で4社存在する(実は5社目もあるんだけど)。最も古くから同社製品を扱っていたのはエミックス・エンジニアリングで、'95年からダイナラブ・ジャパン、'96年春からネスクトコムがそれぞれ販売していた。そして、'96年夏にソフトウェアジャパンがZyXELからOmni TA128のOEM供給を受け、Tsu-Na-Gu TA1 ZyXELとして販売し始めたわけだ。 ここでもう少しOmni TA128について説明しておこう。Omni TA128はアナログ、デジタルともに2つずつのポートを備えたISDN TAだ。アナログ回りの機能はダイヤルイン、グローバル着信識別などの機能しかないが、デジタル回りは64/128kbps同期通信(128kbpsはMP対応)、V.110/57.6kbps非同期通信(国内ではNEC Atermシリーズなどが対応)、圧縮プロトコル併用のV.120非同期通信、通信状態を記録できるプロトコルアナライザーなど、かなり高機能だ。ボクがテストした範囲では、ファイル転送のパフォーマンスもまったく問題ない。その上、'96年12月13日にリリースされた最新版ファームウェア(Ver.2.00)では、帯域制御などの新しい機能が搭載され、さらに高機能なTAへと進化している。 ただ、細かい面での使い勝手が今ひとつで、各機能を使いこなすのも難しいため、どちらかというとマニア向け、2台目、ヘビーユーザー向けという印象が強い。
●中身が同じということは?この4つの代理店が販売するOmni TA128は製品名こそ違え、中身はまったく同じものだ。違いはマニュアルと添付ソフトに限られている。Tsu-Na-Gu TA1 ZyXELもボディが黒いだけで、中身は他社製品とまったく同じなのだ。マニュアルに至ってはエミックス・エンジニアリングが制作したものを流用している。中身が同じということはどういうことか? 簡単に言ってしまえば、他の代理店が販売するOmni TA128と同じように使うことができるわけだ。再確認のため、ボクの手元にあるネクストコム版Omni TA128(商品名はNetDolphin)と比べてみたが、ACアダプタも含め、まったく同じものだった。もちろん、Windows95のモデム設定ファイルや設定ユーティリティのZyXEL ISDN Managerも共通だ。 では、ファームウェアはどうだろうか。特に、Omni TA128のように、次々と機能が追加されるTAで、最新版ファームウェアの提供が受けられないのはかなり厳しい。ソフトウェアジャパンの業務停止により、サポートが受けられないため、ファームウェアの提供も受けられないと考えるのがスジだ。 しかし、国内で販売されている4種類のOmni TA128のファームウェアは、出荷時期の違いによってバージョンの差があるものの、内容的にはまったく同じものを採用している。つまり、ファームウェアのファイルさえ入手できれば、基本的にそのまま流用できるというわけだ。 ZyXELがOmni TA128用として提供しているファームウェアはアメリカ版、ドイツ版、ヨーロッパ版の3種類があるようで、それぞれにファイル名や内容が異なる。この内、日本向けファームウェアはヨーロッパ版に含まれている。ヨーロッパ版には日本だけでなく、台湾向け、韓国向けなどが含まれており、それぞれはATコマンドを使ってカントリーコードを切り替えている。カントリーコードの切り替えにはATコマンドのAT#Gxxxを使う。xxxの部分に割り当てる数字でカントリーコードが切り替わる。詳しいことは紹介しないが、ファームウェアといっしょに提供されているドキュメント(ただし、英文)を読めば、理解できるはずだ。
●どこで最新版ファームウェアを入手するか?ただ、そこで問題となるのがファームウェアの入手方法だ。他の代理店のページから失敬してくる方法もあるが、基本的にイリーガルであることには変わりない。もっとまともな方法はないのだろうか。ZyXELは同社のホームページやFTPサイトで最新版ファームウェアなどを配布しているが、ここで入手できるのは前述のアメリカ向けのものだけに限られている。そこで、ヨーロッパ向けのファームウェアを配布しているサイトを探したところ、ZyXEL Austriaのページを見つけることができた。このサイト内のファームウェアダウンロードのページにあるFlash-EPROM data for "DSS1"(Europe)が目的のファイルだ。同じページで配布されているrelease notesにも日本版が含まれていることがしっかり書かれている。 ファイルをダウンロードし、早速、付属のFirmware Upload Toolを使ってTsu-Na-Gu TA1 ZyXELにVer.2.00のファームウェアを書き込んでみた。左の画面を見てもわかるように、何の問題もなく書き込むことができ、いとも簡単に最新版になってしまった(Serial Numberは消してあります)。カントリーコードも標準で書き込まれているファームウェアが日本向けだったため、何も変更することなく、ZyXEL Omni TA128 JAPAN: V 2.00と表示された。ファイル転送テストのパフォーマンスも他のOmni TA128と同様の結果が出ており、何ら問題はない。わずか9,800円でこのレベルのTAが手に入るのは、ハッキリ言っておいしい(笑)。 なお、このZyXEL Austriaのページには、同社のISDN製品に関する情報や世界各国のミラーサイト(FTP)へのリンクなども用意されている。ちなみに、日本はエミックスエンジニアのホームページと同じサイトにリンクされていた。
●まだまだ市場には残されているかも……さて、このTsu-Na-Gu TA1 ZyXELは、まだ購入することができるのだろうか。すでにソフトウェアジャパン扱い商品の処分販売は終了したとしているショップもあるようだが、Tsu-Na-Gu TA1 ZyXELだけはまだまだ市場に在庫が流れ込んでくるだろうという説もある。というのも、ソフトウェアジャパンへのOEM供給が決まり、初期出荷が始まった直後に業務停止となったため、初期出荷分がほぼ丸ごと残っているかもしれないからだ。つい先週も知人が秋葉原で入手したとの情報もあり、まだ探せば出てくる可能性は高い。ところで、この製品をそのまま使い続けてもいいのかという不安もあるだろう。まず、回線に接続すること自体は、すでにソフトウェアジャパンがJATEの認定を受けているため、何ら問題はない。今まで認定を受けた企業が倒産したり、業務停止した例はいくつもあるはずだ(だいたい、この制度自体が……その話はいずれね)。 一方、サポート面については何度も書いたように、あきらめるしかない。将来的にZyXELの日本法人でもできて、「今まで販売してきた製品もサポートします」なんてことでも言い出さない限り、望みはないだろう。もちろん、他の代理店がサポートを引き継ぐという情報もまったくない。だから、他の代理店に問い合わせるようなことは絶対にしないで欲しい。迷惑も掛かるしね。もちろん、最新版ファームウェアが動作することは編集部やボクが保証するわけじゃないし、トラブルが起きても一切関知しません。At Your Own Riskで使うしかないことを忘れないでいただきたい。 こうしたリスクさえ理解できれば、Tsu-Na-Gu TA1 ZyXELはなかなか面白いオモチャと言えるかもしれない。ISDN回線をはじめて導入する人には絶対にお勧めしないが、すでに64kbps同期通信対応TAなどを買ってしまった人やTAをバラしてみたい人、ISDN接続の新しいプロトコルを試してみたい人、128kbps同期通信のパフォーマンスを体験したい人、バックアップ用が欲しい人なら、ちょっと検討してみる価値はありそうだ。でも、壊れたら最後だってことを忘れずに(笑)。
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