【その他】


PCウォッチラジオ 第15回放送より

「IBM ThinkPad 535開発者インタビュー」テキスト編

 今回のPCウォッチラジオでは先日PC Watchで行なわれた、「読者が選ぶ“イチオシPC”-高性能スリムノート編-」で、みごと1位に輝いた「IBM ThinkPad 535」の開発者である濱博志氏と小野清氏の両氏をゲストにお招きしました。
 RealAudioプラグイン対応のブラウザをお使いの方は、ぜひPCウォッチラジオで生の声をお楽しみください。

【出席者】
 小野 清  日本アイ・ビー・エム(株)マーケティング・ThinkPad製品企画担当
 濱 博志  日本アイ・ビー・エム(株)ウルトラポータブルシリーズ開発企画担当
 川野 良子 ニッポン放送アナウンサー
 山下 憲治 Watch編集部 編集長
 石橋 文健 Watch編集部 PC Watch担当


●「イチオシPC」高性能スリムノート編の結果を見て

小野:日本IBMマーケティングの小野です。ThinkPadの製品企画をしています。

 濱:大和研究所の濱です。ThinkPadのウルトラポータブルシリーズの開発企画を担当しています。

山下:この「イチオシPC」のスリムノートの結果は、ご存知でしたか?

小野:多分翌日には、部内をプリントされた回覧がまわっていました。

山下:アメリカにもこの結果を送ったそうですが?

小野:2つの製品を出すにあたって検討していたことが、ほぼ正しい形となって見えたので、すぐにアメリカに報告しました。

山下:濱さんが設計された535が圧勝だった結果についてはどうですか。

小野:1位、2位と両方、弊社のウルトラポータブルシリーズで占めたというのは非常に嬉しいことですね。薄型と小型の両方を出すことは社内的にもいろいろな議論があったんですが、出してみたら、思うツボという結果が出まして……。

山下:米国市場には、560しか投入してないですよね。

小野:そうなんですね。コンパクトサイズというのは、潜在需要は必ずあると思うんですが、日本以外ではなかなかマーケット的に受け入れられないようで……。

山下:他社さんも同じような傾向があるようですね。

 濱:そうですね、確かに。小さいノートパソコンは、他社さんも海外には出されていないようですね。

石橋:開発者としても、ぜひ世界の方に使っていただきたいですよね。

小野:ええ。開発当初から、それを念頭においてやっています。


●560の開発で苦労した点は、薄くてなおかつ丈夫に作ること

山下:濱さんは、560の方の設計にも若干はたずさわっていらっしゃるんですか。

 濱:企画の段階では、薄型、小型ともにバランスよく提供しなければならないので、1一緒に企画していましたね。

山下:535は、220、230、530という流れで進化を遂げてきた製品なわけですが、560は一から開発された製品ですよね。そういった意味で、560を薄くするにあたって苦労された点は。

 濱:そうですね。いろいろ難しいところがあって、他社さんも同じ苦しみを味わっていると思うんですが、やはり一番気を遣ったのは、丈夫さです。丈夫で丈夫そうに見えるということです。

アナ:丈夫そうに見えるだけなんですか。

 濱:いえいえ、本当に丈夫で丈夫そうに見える。丈夫そうに見えるだけだと危ないですから。

山下:やっぱり外見も丈夫そうに見えないと、消費者にアピールできないということですよね。

 濱:軽くなって持ち運べるようになればなるほど、満員電車のなかで圧力を受けたりとか投げられたりということが増えますので、薄ければ薄いほど丈夫にしなければならないですね。しかし、薄くすればするほど、丈夫に作るのは難しい。そこが、一番苦労したところですね。

山下:確かに、相反する課題を課せられているという感じですね。


●560の奥行きがA4ジャストサイズよりちょっと長いのは

山下:IBMのノートはA4ジャストサイズが多かったと思うんですが、560は、幅は確かにA4だと思うんですが、ちょっと奥行きが長いですよね。このあたりは、そうした苦肉の策が隠されているんですか。

 濱:よくお気づきになりましたね(笑)。このシリーズ、ThinkPad、PS-55ノートというのは、A4ジャストというのに非常にこだわっていました。収納性や携帯性で、本と一緒に持ち運び、収納できるという良さがあったんです。これを破るというのには、社内的にも個人的にも、開発者それぞれに非常に大きな抵抗があったんですが。

山下:大きくなるのは抵抗ありますよね。でも、あえて踏み切った。その一番大きい要因は、なんだったんでしょう。

 濱:単純に言ってしまうと、厚さを決めているのは、サイズの決まったものが重なっている場所なんですね。一番大きいものと大きいものが重なっているところが厚さを決めると。それで、大きいものと大きいものを横にずらして設計するわけです。しかし、横にずらすと今度は面積を犠牲にしなくてはならない。

石橋:具体的には、どの部品が一番薄くするのが難しいでしょう。

 濱:キーボードと、それから一番融通がきかないのがバッテリーですね。これらの位置関係が非常に苦労したところですね。

山下:そうですね。バッテリー薄くすると持ちが短いですからね。

 濱:そうなんですよね。持って歩くには薄くしたい、だけど、持って歩くにはバッテリーの持ち時間が長くなくちゃいけない。

山下:なるほどね。そのバランスが難しいところですね。


●使いやすさと携帯性を両立しているのがThinkPad

アナ:この薄さが成功して、これだけの得票率を集めたと思うんですが、そのほかに他社製品と違っている部分はなんでしょう。

小野:難しい質問ですね。シンクパット全体にいえることなんですけど、使いやすさという点。キーボードの使いやすさとか、画面の見やすさ、もう一つは持ち運び……それをどこでバランスさせるかということなんですね。結局はそのバランスだと思います。

石橋:そうですね。

山下:要するに、使いやすさと持ち運びを両立していないものはThinkPadにあらず、ということでしょうか。

小野:コンセプトとしてそういうのはあります。

山下:110(ParmTop PC 110)とThinkPadシリーズが分けられているのは……。

小野:110は、ある部分にこだわった製品ということですね。やはり、あのキーボードでは、普通の事務処理とか企業用に普通にパソコンとして使っていただくには無理がありますけど、持ち運ぶには非常に便利です。ThinkPadでは、それをバランスさせなければいけないんで、110はThinkPadシリーズには位置づけていないんです。

山下:ThinkPadは普通に使えて、なおかつ小型ということですね。


●ThinkPad 535はひとつのゴール

山下:535はずっと進化してきたモデルなわけですが、今言われたバランスに関して自信のほどは。

濱:ThinkPad 220から始まって、お客様の声をいろいろ聞きながら進化してきたひとつのゴールが535だと思っています。どういうところかというと、10.4インチというのは、本格的な使用に耐えうるサイズの液晶ですね。これは、絶対必要だと。これより大きくなると、もうフルサイズのノートになっちゃいますから、コンパクトではなくなる。それと、キーボード。日本に限っていうと標準サイズの83%以上のキーボードがあれば作業性を落とさないという調査結果がありまして、535は、88%で充分本格使用に耐える。
 10.4インチのパネルをつけて、88%のキーボードをつけて、Pentium 120MHz――最近130が出ましたけど――を載せて、しかも先行機種の530よりも軽くしなくてはいけない。これが、メーカーとして535を企画する上での課題だったわけです。530よりもサイズは少し大きくなっていますけれども、実は重さは軽くなっているということですね。

山下:カタログ的には、1.7kgで同じのようなんですけども。

 濱:それはメーカーの良心でして、実際よりも軽くは絶対言えないんですね。

山下:1.7kgよりも下の桁で「かなり」軽くなっているということですか。

 濱:両方お持ちの方いらっしゃると思うので、ぜひ天秤にかけて比べていただきたいんですが、535は見た目は530よりちょっと大きくなっていますけども、実は軽いんです。

山下:560は、対抗機種であるところのDECのHiNote Ultraと1ポイント差しかないわけですが、この535は8ポイントの差をつけて圧倒的という感じがしますね。


●たくさん買えば安くなる?

山下:535は価格もかなりお手ごろな価格帯に落ち着いていますね。私は率直にいうと、535に比べると560はちょっと高いと思うんですが。これは、マーケティングの小野さんの方に聞きたいんですが、535のあたりの製品はやっぱり激戦区ということでしょうか。

小野:535の競争相手っていうのはたくさんいますから、激戦であることは確かです。もう一つ、560の方は、我々が初めて作った薄型のノートということで、非常に研究開発をしました。そのぶんお値段の方が上がっているというのはあると思います。

石橋:では、これからどんどん出てくると安くなる。

小野:皆さんの声が……いっぱい買っていただければそれだけ……ね。

山下:なるほど。安くするにはいっぱい買えと(笑)。

小野:競争が激化して下がっていくことは予想できますね。

山下:DECのHiNote Ultra IIは、このアンケートを実施した時点では標準価格648,000円なんですが、現在は実売価格に近い価格改定が行われていますが、IBMでもそういう予定はあるんでしょうか。

小野:そういうことも市場を見ていますから。

山下:両機種の売れ行きと、その傾向を教えていただきたいんですが。

小野:両方同じようにみなさんに受け入れられました。特徴があるのが、535は店頭で個人のお客様に多く売れています。560の方は、企業のお客様と個人のお客様がちょうど半々です。

山下:従来シリーズと比較して、完成度が高いんだという意気込みが濱さんから伝わってきますが、店頭の方での反応はどうなんですか。

小野:530と535で比較して、535はほぼ倍のスピードで入っています。


●ユーザーの声が今後の製品を決める

アナ:これだけ完成度の高いものを作られたということなんですが、気になるのはこれからどうなるのかということですね。現在作られているものなどは。

 濱:もちろんあります(笑)。

山下:ちょっとでも言えることがあれば言っていただけるとありがたいんですが。

 濱:お客様に喜んでいただける姿を念頭に置いて日夜がんばっています。

アナ:たとえば、具体的な改善点とかはいかがでしょう。どういうところが、課題として残っているとか。

小野:それは、皆様方がどう思われるかなんですね。230、530、535と開発していますが、すべて皆さんの声です。例えば、530を開発したときには、もう少し画面が見やすければなぁ……とかそういうことですね。そういう声を皆様方が出すということが大切だと思います。私どもはできるだけ聞くようにはしています。

山下:聞いていただけるということなので、読者のみなさん、ぜひメールをお送りください。小野さんの方にお渡ししていいですよね。

小野:はい。もちろん結構です。

石橋:なにしろユーザーの声が決めるということですから。

 濱:PC Watchの読者の方なら、実現性のないムチャなことはあんまりおっしゃらないでしょう(笑)。


●ThinkPadシリーズの黒いデザインは専門のデザイナーが担当

山下:編集部のほうでも、535や560を購入しているユーザーがいるんですが。この黒いデザインっていうのは、濱さんの方で、決められているんですか。

 濱:開発や企画の方でレビューはしますけど、基本的には専門のデザイナーがきっちり専門にやっています。だから、デザインもかなりこだわりがあって苦労している点がたくさんありますね。

山下:トータルのシェイプっていうのは全然かわってないですもんね。最初のころから。PS-55Noteが、最初ですか? あれはいつぐらいでしたっけ。

 濱:たしか91年か92年ですよね。

山下:あのころって386でしたよね。

 濱:そうですね。16MHzぐらいかな。

山下:いまは、Pentium 120MHz、133MHzが載る時代ですからね。


●噂の“ThinkMac”は?

アナ:最後にお聞きしたいんですが、実はMacintoshユーザーの中で噂になっているのですが、“ThinkMac”とかそういう製品はどうなっているんでしょう。

山下:アップルCEOアメリオ氏が日本で記者会見した際、IBMと作っていると言ったということなんですが。お返事はともかくお伺いしたいんですが。

小野:“ThinkMac”っていうんですね(笑)。皆様方が命名されて……。来年、もう一度アンケートをやっていただければ、非常に楽しみだと申し上げておきます。“ThinkPad”としては、負けません。

山下:なるほど(笑)。

小野:来年面白くしたいですね。市場そのものをね。

山下:そうですね。なんで、“ThinkMac”という名前までついているかというと、あのThinkPadというのがMacユーザーにとっても憧れのマシンというか、すごくいい機械だという認識があるからこそ、それがMacになってほしいという願いだと思うんです。1ユーザーとしてみると、できれば、小野さんや濱さんのところで作ってくれると非常にいいものができるんじゃないかと思うんですが。

 濱:それもみなさんの声で決まることですから(笑)。

山下:期待しています。またこういうアンケートを繰り返していきますので機会があれば、ぜひまたいらしていただきたいなと思います。またきつい質問を用意しておきますんでよろしくお願いします。きょうはありがとうございました。

[Reported by ken@imprss.co.jp]


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