Windowsアプリが使えるNCが続々登場?

●XターミナルメーカーがNC(Network Computer)で逆襲


 Xターミナルっておぼえてる?
 よく知っている人にとってはくどいかも知れないが、XターミナルはUNIXのウィンドウシステムの業界標準であるX Windowの専用ターミナルだ。X Windowの特徴は、ディスプレイへの表示やマウス操作などの入出力機能と、アプリケーション本体が区別されている点。これを利用して、Xターミナルではアプリケーションの実行をサーバーにまかせて、ターミナル自体は入出力の役割だけに特化している。
 つまり、Xターミナルのディスプレイには、サーバー側で実行されているアプリケーションのウィンドウがそのまま表示され、Xターミナルで発生したマウスやキーボードによるイベントはサーバーに送られる。これによって、実際にはサーバー上でアプリケーションが動いているのに、Xターミナルを使っているユーザーはそれを意識せずに操作ができるというわけだ。

 Xターミナルの利点は低価格でありながら、UNIXワークステーションの代わりになること。Xターミナルにはハードディスクなどのドライブ類が不要で、CPUも低パワーなものですむ。それなのに、UNIXアプリケーションがワークステーションと同じように使えるわけだ。そのため、Xターミナルは一時期かなり注目された。ところが、パソコンの成功とともに、ビジネス市場への進出も狙ったXターミナルの夢はしぼみ、最近では、話題に上ることも少なくなってしまっていた。

 ところが、NCブームでこのXターミナルが復活してきている。Xターミナルメーカーが相次いでNC市場に参入しているのだ。
 6月11日には米HDS Network Systems社が、750ドルの「HDS @workStation」を発売。米SunRiver Data Systems社も、JavaOneで公開したNCを675ドルで開発者の評価用に出荷し始めた。また、米NCD Systems社もNCライクのターミナルを発表しており、このほかにも参入がウワサされているメーカーは数多い。ちなみに、iBOXを日米で展開する日本電算機も、もとはXターミナルのメーカーだ。

 XターミナルメーカーがNCに参入し始めたのは、それが簡単だからだ。ディスクレスのローパワーデバイスで、OSをサーバーからダウンロードするといったNCの仕組みは、Xターミナルにそっくり。Xターミナルメーカーにとって、NCというのはXターミナルにインターネット標準のサポートとWebブラウザを加えて、ラベルを貼り替えただけに過ぎないとも言えるわけだ。メーカーによれば、米Oracle社などが策定するNCのガイドライン「NC Reference Profile 1」への対応も難しくないという。
 しかも、Xターミナルメーカーには普通のNCにはない強力な武器もある。それは、既存のアプリケーションの実行だ。それも、多くのメーカーが、UNIXアプリケーションだけでなく、Windows 95/NT/3.1アプリケーションを実行できる機能を提供しようとしている。
 たとえば、HDSの@workStationでは、専用のWindowsアプリケーションサーバー上でアプリケーションを動作させ、そのインタフェースだけをXターミナルの場合と同じようにディスプレイ上に持ってくることができる。つまり、EXCELだってWORDだって、何でもNC上で利用することができるわけだ。NCの本来の構想は、Javaなどのアプリケーションをダウンロードしてきて実行するというもので、当然Windowsアプリケーションは実行できない。ところが、この方式なら、アプリケーションそのものをNCにダウンロードするわけではないので、低パワーのNCであっても十分Windowsアプリケーションを使えるわけだ。

 じつは、以前からXターミナルメーカーやサーバーソフトメーカーはWindows版Xターミナルと呼ぶべき機能を開発していた。そこへ、NCブームが来たために、にわかに脚光を浴びているわけだ。それどころか、Windows専用ターミナルを商品化したメーカーさえある。米Wyse Technology社などだ。WyseのWintermは500ドルの端末で、WindowsアプリケーションをX Windows方式で利用できる。Webブラウザをサーバー上で実行すればインターネットターミナルにもなるということで、昨秋のCOMDEXではNCの先駆けとして話題になった。WyseはNC Reference Profile 1のサポートも表明していて、6月21日には新製品も発売している。

 さて、NCでは先陣を切って、Xターミナルメーカーが飛び出したわけだ。しかし、Windowsアプリケーションを使いたいのなら、わざわざこんなことをしなくても低価格になったWindowsパソコンを買えばいいのではという見方もある。はたしてWindowsターミナルNCは市場を見いだすことができるのだろうか。今は、NCという名前で騒がれているが、定着するかどうかはまだ見えない。

 というわけで、最後は、Xターミナルで失敗したあるメーカーの開発者のぼやきで締めくくろう。
 「Xターミナルという名前だと誰も見向きもしないのに、NCと名前をつけた途端、騒がれるというのはちょっとないですよね...」

Wyse Technology“Winterm”
SunRiver Data Systems“Network Computer for Java ”
HDS Network Systems
Network Computing Devices, Inc.(NCD)

('96/7/1)


[Reported by 後藤 弘茂]

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