ADSLは、ISDNの息の根を止めるか
●普通の電話で最大6Mbpsのデータ通信が可能に
「ISDNなんてもういらない!!」最近、米国のニュースサイトでは、こんな記事をよく見かける。というのは、ISDNをわざわざ引かなくても、通常の電話網で1.5~6Mbpsの高速伝送が可能になる「ADSL (Asymmetric Digital Subscriber Line)モデム」が見えてきたからだ。
ADSLなんて、聞いたことがない? もしそうなら、これからはマークしておいた方がいい。というのは、今後、ADSLはISDNと同じくらい重要なキーワードとなるかも知れないからだ。
ADSLは、デジタル信号の符号化と特殊な変調によって、電話網に使われているごく一般的なより対線で、高速伝送を実現する。いくつかの伝送速度があるが、標準では電話網からユーザーへの下りが1.5Mbps、上りが64Kbpsで通信できる。下りに限るなら、28,800bpsモデムのざっと50倍も高速となるわけだ。ネットサーフィンなんかの場合は、下りが問題なのだから、インターネットのバックボーンが将来太くなれば効果は抜群だろう。ADSLには、このほかHDAL、SDAL、RADSLなどの似たような技術があり、DSL技術と総称されている。
さて、魅力的なADSL技術だが、いったいどうして急にこんな技術が登場してきたのだろう。
そもそも、ADSLというのは、92~94年のビデオオンデマンド(VOD)期待盛り上がり期に、ビデオ伝送のインフラ技術として姿を現した。筆者は、92年の終わりに、ある大手コンピュータ企業のマルチメディア部門の幹部から「電話でVODができるようになる」と聞いたのがADSLについて知った最初だった。
はじめは半信半疑だったが、93年に入り米国の大手地域電話会社Bell Atlanticが、ADSLを使ったVOD実験を始めると打ち上げたので、ようやく信じる気になった。ところが、その後、94年の半ばあたりから話題はパタっと途切れてしまう。それは、もっと伝送速度が速いケーブルモデムに話題をさらわれてしまったためだ。
いったん盛り下がったADSLが息を吹き返したのは、今年2月に入ってからだ。通信法の改正で、さまざまな規制から解き放たれた電話会社が、こぞってADSLの採用や実験を発表したのだ。
電話会社にとってみれば、ADSLはうってつけの技術だ。なんと言っても、今の電話網をそのまま使えるというのは魅力が大きい。局側に多少の設備を加えて、あとはユーザーにADSLモデムをレンタルすれば、それだけで電話会社は高速インターネットアクセス、VOD、映像を含めた医療や教育などの情報サービスといった、広帯域を活かした新サービスを提供できるようになる。
電話会社が本腰を入れたことで、ハードウェアメーカーも動きが活発化してきた。今のところ中心になっているのは米Westell社で、ADSLモデムを発表したり、MicrosoftとADSLソリューションに関して提携を結んだりしている。
さて、ADSLがもし額面通りの性能を発揮できて、普通のモデムと同じように手に入るようになったらどうなるだろう。まず、米国ではISDNはしぼんでしまう可能性が高い。たんに広い帯域が欲しいだけのユーザーは、ADSLへ流れてしまうからだ。また、ケーブルTVプロバイダのケーブルモデムサービスも、出だしから足もとをさらわれてしまうだろう。実際に、調査会社の米Dataquest社が最近発表したケーブルモデムの市場予測でも、ADSLがケーブルモデムの市場を侵食してしまう可能性が指摘されている。
ADSLは,日本でも一応検討されていると聞く。もしADSLが米国で一気に花開き、これから数年で,どの米国家庭からも1.5Mbpsでサイバースペースにアクセスできるようになってしまったら,さて,日本の電話会社はどうするのだろう。
ADSL Forumのホームページ
WestellのADSL情報ページ
Dataquestのレポート
Bell AtlanticのVOD関連情報
('96/6/24)
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